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魔獣美容師の日常  作者: 星咲 美夜
四匹目:狐
16/48

出雲の一日

朝。出雲はカーテンから洩れる朝日に目を細める。


「キュウー・・・」


出雲はカゴから出て、大きく伸び、自分の主人である(ゆたか)の寝ている寝室へと向かう。

寝室のドアはしっかりと閉められているが、出雲は妖狐である。少しなら神通力は使える。


「・・・キュウ?」


開かない。


「・・・!!」


まさかと思っていたらカチャッと鍵が開く音。どうやら、今日は鍵をかけていたようだ。ドアを開け、勢いをつけてベッドで寝ている優の上に飛び乗る。


「キュウゥーッ♪」

「うぐぅっ!?」


着地は見事、優の鳩尾だった。なんにせよ、優が起きたので出雲はそれでいいらしい。


「キュウン♪」

「おはよう、出雲・・・また手荒い起こし方をするねぇ」


頭を掻きながら、優が起き上がる。出雲は優の隣にちょこんと座り、優を見る。


「・・・あ、もしかしてご飯?」

「キュウ」


優の言葉に、出雲は頷く。出雲は優の言葉は解るけど、優は出雲の言葉が解らないので、出雲は行動で色々と要求をしなくてはならない。


早く変化する方法を会得したいとは思うけど、狐の知り合いがいる訳ではないので、悩んでいたりする。


「着替えてからでいいかい?」

「キュウ」


優が着替えている間に、出雲はぐしゃぐしゃになったベッドを出来る限り整える。


正直、なんで優が出雲を拾って世話をしようと思ったのかは、出雲自身も解らない。ただ出雲は食べ物を探して段ボールの中に入ったはいいが、出られなくなってどうしようかと思っていただけだったのだが。


まあ、今は食べ物に困らないし、優に飼われるのもいいかと思う。せっかく『出雲』という名前ももらったし、普通の人間だけど優が主人で良かった。ただ、ネーミングセンスだけが残念だけど。


「出雲、ご飯にしようか」

「キュウン♪」


優の着替えが終わったので、出雲はベッドから飛び降りた。



  ○o。. ○o。.



朝食を終え、軽く出雲をブラッシングして優が出勤の支度をする。出雲も一緒に喫茶店についていく。


「さて、行こうか」

「キュウ」


優の職場である喫茶店は、出雲でも歩いて行ける距離だ。それでもまだ出雲は小さいからと、優の肩に乗って移動している。


「にゃあん」

「やぁ、リリちゃん、おはよう」

「キュウン」


ちょうど道路を渡って、白い猫又がやってくる。この辺りに住んでる(飼われてる)リリだ。

優の肩から飛び降りて、リリと挨拶をする。リリは人の言葉は話せるが、普通の猫を演じている為、ほとんど人前では話すことはない。


「にゃあぁーん」

「キュウ」

「なぁあーん?」

「キュウーン?」

「にゃあん・・・」

「キュウン」


しばらく話していると、優は困ったようにこちらを見ている。優はリリが人の言葉を理解しているのを知らないので、仕方ない。


「にゃあん」

「キュウン」


リリと別れて、出雲は再び優の肩に乗る。


「なかなか楽しそうだね、出雲」

「キュウ」


まあ大したことは話してないが。ただ、出雲は変身の方法を教えてもらえそうな、魔物の知り合いがいないか聞いただけだ。リリ自身は心当たりはないようだった。



  ○o。. ○o。.



優が仕事をしている間、出雲はドア近くにあるカゴの中で大人しくしている。ただ出雲にはやることがなくて暇。

時々、客が撫でてくれるけど。


「キュウー・・・」


本当に暇。少し、散歩してこようか。のそのそとカゴから出て、優のズボンの裾をくわえる。


「出雲、外に行くのかい?」

「キュウ?」

「ほとんど人もいないし、行っておいで」


優がドアを開けてくれたので、出雲は少し外で遊ぶことにした。だって暇なんだもん。


道路を渡るとペットサロンがある。ここで出雲は泥だらけだったのを綺麗にしてもらった。ガラス越しに見ると、今日はリズがカットしている。出雲に気付いたリズが笑顔で手を振ってくれた。


出雲はしばらく、リズの仕事を眺めていた。迎えにきた客達はガラスの向こうを眺めている出雲を「カワイイ」とか言ってくれる。ついでに撫でてもくれる。


「出雲、優のところから出てきたのか」

「キュウン」


店から遙が出てくる。出雲がいるのが、迷惑だったのだろうか。


「中入るか?」

「キュゥウン」

「今日はリズのことを観察してたいのか」

「キュウ」

「そうか」


どうも、出雲がずっと外にいるのが、遙には気になったようだ。今日のリズは仕事が忙しいらしい。見ているだけだが、何もないよりはいい。リズは暇だと店の掃除をしているから、その時は邪魔にならない程度に構ってもらっているが。


さて、ずっと見ているのもリズには迷惑だろう。出雲はそろそろ喫茶店に戻ろうか考える。戻ったところで暇なのだが。

あまり出雲は遠くへ行くことはしない。ここは来たばかりで、帰り道がわからないし。迷子になっても別に出雲は構わないのだが、優が心配する。


「出雲ちゃん」


リズはお昼休憩するらしく、出雲がまだ店先にいた為に、外に出てきたらしい。


「喫茶店に戻らなくていいの?」

「キュウー・・・」

「一緒に喫茶店に行く?」

「キュウ」


リズが行くと言うならと、出雲は戻ることにした。


「いらっしゃい、リズちゃん」

「こんにちは、マスター」

「出雲もおかえり」

「キュウン」


リズは向かいが見える席に座る。ここがリズのお気に入りの場所なのだと優が言っていた。リズの休日に遙がトリミングをしていると、よくここで遙のことを見ているのだとか。リズはストーカーかと出雲は言いたくなった。今は言えないけども。


「リズちゃん、今日はどうしたんだい?」

「いやぁー、お昼ご飯忘れちゃって」

「そうなのか、てっきり僕は給料日前でお昼を抜いてるのかと」

「マスターも穏やかに笑いながら、結構キツいこと言いますね」

「あはは、ごめんごめん」


稀に、優の言葉には棘がある。まあ、優は周り(特に遙)に苦労をかけられているし、たまにはいいと思う。


「実際、給料日前なのは否定が出来ないんですけどねー」

「まあ、それなりに生活出来てるんだろう?」

「少しですけど、貯金もありますし」

「遙と違って、食費はかかってないだろうしね」


優の言葉にリズは「確かに、そうですね」と苦笑する。そして、ついでに注文をした。



  ○o。. ○o。.



リズも戻り、出雲は再び暇になる。


「出雲、果物だけど何か食べる?」

「キュウ♪」


小さな器に優が苺やバナナを切って入れる。少し余ったのだろう。だが、出雲はそれを気にすることなく食べる。ごちそうさまです。


そんな様子を優は笑って見ている。どこか嬉しそうだ。こっちはおこぼれでも、食べられる物なら何でも嬉しいです。



  ○o。. ○o。.



この喫茶店は22:00まで営業している。人がいれば少し愛想を振り撒いていれば、多少は構ってもらえるのだが。閉店間際ともなると、来客は少なくなってくる。


アルバイトの子もちらほらと掃除を始めている。出雲は掃除の邪魔にならないように、カゴの中で大人しくしている。暇なので手伝いたいのだけど、多分「ごめんね」とか「大人しくしてて」とか言われる。


「キュウー・・・」


人が完全にいなくなり、そろそろ閉店時間かと、出雲は大きく伸びをする。アルバイトの子達も帰り支度をしているのが見えた。


行きと同じように優の肩に乗って帰宅する。足を優に拭いてもらって家に上がる。


「今日もお疲れ様、出雲」

「キュウー」


お疲れ様は優の方だと思うのだが。だって、出雲は何もしていない。ただ暇なので、客に構ってもらっているだけなのだから。いつか話せるようになったら、言ってやろうかな。


夕食は人がいない時に優は店で食べている。出雲の夕食は人がいてもいなくても優がくれるけど。

だから優が帰っても家でするのは洗濯物を取り込んだりとか、そういうの。

出雲に関しては寝るだけ。


一人でいるのも少し寂しいので、出雲は家事をする優について歩く。特に優の邪魔をしたい訳ではないのだが。


「出雲、何も家の中でついてくる必要はないんだよ?」

「キュウウ・・・」

「あはは、そんなにしょんぼりしなくても」


家事を終えた優と離れ、出雲は自分の寝床にしているカゴに入る。クッションに頭を乗せていると、だんだん眠くなってくる。野生では絶対にこんなことは出来ないな。


「クスッ、熟睡じゃないか」


カゴの中で寝る出雲に、優は小さく笑う。


「おやすみ、出雲」


リビングの明かりを消して、優も静かに寝室へと入っていった。

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