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魔獣美容師の日常  作者: 星咲 美夜
四匹目:狐
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狐と狼

今日はペットサロンの定休日。(ゆたか)は喫茶店の休憩時間に、遙の自宅を訪れた。

そして、閉められていた寝室のドアを開けて苦笑する。


「うわぁ・・・相変わらず、遙の寝室は物が多いというか・・・」

「で、優はわざわざそれを確認しに来たのか?」

「リズちゃんがこの惨状を見たら、なんて言うかな」

「リズは関係ないだろ」


優は時々、遙の自宅を掃除をしに訪れている。今回も来た理由はそれだ。


「どうしてこの部屋は僕が掃除しても、こうなるのかなー?」

「いつの間にか、そうなるんだから仕方ないだろ」

「少しは自分で片付けようよ」


ベッドの上には脱ぎ捨てられた服や洗濯後の服がごっちゃで山になり、壁際は雑誌などが散乱している。それが崩れたのか、床は足の踏み場がない。


「遙、この服って洗濯してる?」

「してる」

「じゃあ、これは?」

「それも含めて、そこら辺はしてる」


優は遙に確認を取りながら、一つ一つ片付けていく。洗濯済みのは畳んで箪笥の中に、そうでない服は洗濯機の中に。


「遙は最近、いつベッドで寝たの?」

「・・・忘れた」

「一体、何のためのベッドなのさ」


こんな状態でも、優は苦笑するだけである。


「ふぅ、ある程度はすっきりしたかな?」

「本当だな」

「まだ結構残っているけど、明日は僕の方が休みだから明日やるよ」

「明日も来るのか」

「そうでもしないと終わらないんだって」


遙自身は迷惑そうにしているが、優や他の友人達が時々こういうことをしないと、遙の寝室はさらに酷いことになりそうで怖い。『なりそう』っていうか、絶対に『なる』のだが。


物自体はそんなにないのだが、ただ単に出したら出しっぱなしなだけ。というのは遙本人の弁。片付けが面倒なだけではないか。そして迷惑だと思うなら自分で片付けろよ。


「優、そういえば出雲はどうした」

「今は店でお留守番してもらってるよ」

「体調とかは?」

「この間、病院に連れていって診てもらったよ、もちろん異常なし」

「そうか」


そして優の休憩時間が終わるというので、優は遙の家を出ていった。



  ○o。. ○o。.



翌日の午後。遙が休憩中に優は出雲と一緒に自宅に来た。本当に昨日の掃除の続きをするらしい。遙は迷惑そうに優を見る。


「本当に来るとは思わなかった」

「来ないと遙のことだから、またあの惨状に戻るだろ?」

「その間、出雲はどうするつもりだ」

「んー・・・フェンリルと遊んでてもらおうかなって思うんだけど」


優の言葉に、遙の表情がさらに迷惑そうになる。フェンリルを出すのが嫌なのか、ただ単に面倒なだけなのか。


「下にリズがいるんだが」

「そうそうリズちゃんだって上には来ないでしょ、それにフェンリルを見られても、僕が連れてきたって事にしとけばいいだろ?」

「それはそうだが」

「それに出雲はいい子だから、そんな暴れたりしないって、ねー」

「キュウ」


優の言葉に遙はもう何も言えない。渋々だったが、フェンリルを喚ぶ。


「いやぁ、久しぶりだな」

「久しぶりだね、フェンリル」

「いつも掃除をしてもらって、すまないな」

「あはは、別にいいけどさ、もういっそのこと、フェンリルに遙の寝室の掃除をしてもらえばいいのに」


フェンリルはただ笑っている。なんというか、こうなってしまうのは諦めているようにも見える。


「それで、その狐の嬢ちゃんが出雲ちゃんか」

「キュウン」


優の足元にいた出雲を見るフェンリルは、まるで孫を見るお爺ちゃんのよう。出雲はまだ身体も小さいので、そういう風に見えるのだろうけど。


家に上がると、そのまま優は遙の寝室の掃除を始めた。


「こうやってると遙は、本当に彼女とかいた方がいいと僕は思う」

「余計なお世話だ」

「・・・遙?」

「仕事に戻る」

「そうか、行ってらっしゃい」


リビングから下に降りていく遙を、優はいつも通りの笑顔で見送った。



  ○o。. ○o。.



遙が休憩室から出た時、リズが代わりに店にいた。来客は特になかったようだが。


「オーナー、今、誰か来てるんですか?」

「優が来てる」

「え、いいんですか?オーナーこっちに来ちゃって」

「俺が仕事あるのを、わかってて優は来てるんだよ」


遙の反応に、それもそうかとリズはどこか納得する。優達はお互いのことをよくわかっているだろうから、特に気にすることはないのだろう。


「もしかして、オーナーって片付けって苦手なんですか?」

「突然どうした」

「いえ、あたしの家にケット・シーが来た時に『遙の部屋より綺麗だにゃ』って言ってたので」


あのケット・シーは裏でリズにそんな事を言ってたのかと、遙は言いたそうな表情だった。

リズとしては、遙の道具を取りに何回かリビングに入った記憶しかないものの、そんなに散らかってないような印象だったが。


「後であのケット・シーは(しつけ)ておくか」

「やめてあげてください、オーナー」


本気なのかはわからないが真顔で言う遙に、リズはかなり焦った。絶対に『躾』というよりかは『調教』の方が合っているような気がした。



  ○o。. ○o。.



優は一人で黙々と遙の寝室の掃除をしている。その間、出雲が退屈だろうと優は遙に頼んでフェンリルを出してもらっていたのだが。遙は嫌そうだったけど。


「ふむ、まだお前さんは変化が出来ないのか」

「キュウゥン」

「ま、焦らなくてもそのうち出来るようになるさ」

「キュウーン」


フェンリルと出雲は何かしら話しているが、優には出雲の言葉が解らない。フェンリルは人語を話すのでいいとして。優から見ると、フェンリルが一方的に話している感じだ。


「フェンリルは出雲の言葉が解るのかい?」

「ちゃんと解るぞ、儂達は魔力を持っていて、人の言葉が解るっていうだけで、普通の動物とほとんど変わらないからな」

「ふーん、いいなあ・・・僕は出雲の言葉が解らないからさ」

「キュウー・・・」


困ったように笑う優に、出雲はしょんぼりしている。そんな出雲を優は優しく撫でる。


「まあ、僕が出雲の言葉が解らなくても、出雲は行動で示してくれてるし」

「キュウ」

「心配ないぞ、もう少し成長すれば、この子だって人の姿をとれるようになるし、話せるさ」

「それは楽しみだな」

「キュウーン♪」


フェンリルの言葉に、優と出雲は嬉しそうだった。



  ○o。. ○o。.



「で、まだ優は居たのか」

「まあ、たまにはいいじゃないか」


遙は今日の売り上げが入っているらしい封筒などを持って、部屋に戻ってきた。そして、まだ優が居たことに、意外そうな反応をする。


「でも、そろそろ帰るよ」

「なら、どこかで何か食うか?奢る」

「遙がそう言うなら行く」

「出雲も入れるところがいいよな」

「むしろ、ここでは出雲が入れない店を探す方が難しいよ」

「確かにな」


遙はフェンリルを影の中に戻し、笑って家を出る。出雲はまだ小さいので、人混みを歩かせる訳にはいかない。そう優が言うと、出雲は優の肩に飛び乗った。


「そういえば・・・遙って結構な量を食べるよね」

「今日は俺が自分で払うから、優が心配することじゃないだろ?」

「うん、でもさ、遙」

「・・・なんだ?」

「給料日前だろ?」


優の問いかけに遙は答えない。どうやら図星だったようだ。


「大丈夫だ、多分」

「遙の『多分』は、すっごい不安なんだけど」

「まあ、足りなかった時はスマン」

「・・・はいはい」


遙の言葉に、珍しく優は小さくため息をついた。

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