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魔獣美容師の日常  作者: 星咲 美夜
三匹目:妖精
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内緒話

リズがトリミング中、遙はいつも店のカウンターで予約の状況を見て、リズのシフトを考えていたりしている。

ふと、気になることを思い出し、遙はケット・シーに視線を向ける。


「・・・少しいいか?」

「んー?にゃにか我輩に聞きたいことがあるのかにゃ?」

「リズに俺の狼のことを言ってないよな?」

「狼のこと?言ってにゃいにゃ、それは言っちゃいけにゃいのかにゃ?」

「・・・ああ」


カウンターの上で遙の仕事を見ていたケット・シーは、遙の言葉に不思議そうに首をかしげる。


「んー・・・今の時代は別に、狼憑きにゃのを隠す必要はにゃいと思うんだけどにゃあ?」

「たかが妖精に何が解る」

「ま、我輩もここに居させてもらっているしにゃ(今日だけだけど)、狼憑きにゃのを言わにゃいでいてやるにゃ」


なぜケット・シーが上から目線なのか、遙には理解し難いが、リズにフェンリルのことをばらされることはなさそうだ。まぁ、言おうものなら裏でフェンリルに喰ってもらうつもりでいるのだが。


「でも、見る人間によっては狼憑きにゃのは判るぞ?特に高位の魔術師にゃんかは、恐らくにゃ・・・もし知り合いに、そういうのがいるのにゃらば注意しとくのにゃ」

「多分、そういう奴等は大体、俺が知る限りでは『相談所』の連中だ、事情は知っているからそれは問題はない」

「ふーん、そうにゃのか」


遙の言葉にケット・シーは愉しそうにしている。呑気でいいなと、遙はまた予約帳に視線を戻す。


「さて、来週のシフトどうするか」


トリミング室のドアが開き、リズが顔を出す。カットが終わったようだ。


「オーナー、カット終わりましたー」

「今行く」


予約帳を閉じ、遙はトリミング室へ向かった。



  ○o。. ○o。.



閉店後、リズは休憩室のソファーに座り込む。その隣で遙がお茶を入れていた。


「ふえぇ・・・疲れたぁー・・・」

「今日は久しぶりにトリミングが三件も入ってたからな、お疲れ」


リズの目の前のテーブルにマグカップを置く。中身はやっぱり緑茶。


「俺もカットとかやれば、もう少し予約は入れられそうだな」

「そんなことしたら、オーナー倒れちゃいますよー?他にも仕事してるっていうのに」

「少しぐらいなら問題はないだろう」


自分の分のマグカップを持って、遙は休憩室を出る。今日の売り上げ分の精算だろう。遙と入れ替わるようにケット・シーが休憩室に入ってくる。普通に二足歩行で。


「人間っていうのは大変そうにゃね?」

「猫は気楽でいいわね」

「これはきっと今だけにゃ、我輩も魔術師のところに行けば、のんびりはしてられにゃいにゃ」

「ふーん、魔術師って忙しいの?」

「うーん、それは人によるけどにゃあ?魔術師の仕事と別の仕事をしてる奴もいるしにゃあ、昨日会った『相談所』のお嬢さんは後者にゃ」

「え、兼業なの?魔術師って」

「そもそも、魔術師っていうのは『魔術を使う人間』を指すのにゃよ?だから別に仕事をしていてもおかしくはにゃいのにゃ、それに新たにゃ魔術の開発の研究にゃんてのも基本的には個人でやってるのにゃ」


ケット・シーはソファーに飛び乗って、リズの隣にちょこんと座る。ケット・シーは猫のようにではなく、人と同じように座っている。


「ふーん・・・で、魔術師のところに行ったら、やっぱり名前を貰うの?」

「そうにゃるにゃあ、じゃにゃいと我輩も困るしにゃ?」

「そうなると扱いってどうなるわけ?」

「『仕え魔』の方ににゃるかにゃあ?『使い魔』だと色々な制限に縛られるにゃ」


緑茶を飲みながら、リズはケット・シーの話を聞くが、正直『使い魔』と『仕え魔』の違いがわからない。


「うーん、その二つの違いは?」

「うにゃあー、我輩に聞かれても、我輩がそれを説明するのは難しいにゃあ」


しばらくケット・シーは腕を組み、考え込む。


「うーむ、あまり簡単に説明は出来にゃいと思うのにゃ・・・人それぞれ解釈は違うしにゃあ」

「あんまり難しいことは言わないでね?」

「善処するにゃ、じゃ説明するにゃ『使い魔』は主人の命令がにゃくては行動が出来にゃいにゃ、でも『仕え魔』は主人の為にゃらば自発的に考え、行動が出来るのにゃ」

「うん?」


ケット・シーの言葉にリズは首をかしげる。ケット・シーとしては出来る限り、リズに簡単に説明したつもりなのだが。


「さらに言うと、前者は主人に召喚されて使われるモノ、後者は主人に仕えるモノにゃ」

「よくわからないけど、そういうモノなんだね」


リズは考えるのを諦めたようだ。そもそも興味も無さそうだ。そこにちょうど精算を終えた遙が、休憩室に入ってきた。


「リズ、『仕え魔』っていうのは会社の上司と部下の関係、『使い魔』っていうのは人間と動物(ペット)の関係と言えば解るか?」

「なるほど、そういうことですか」

「にゃんでそれで、このお嬢さんは理解するのかにゃー?」


リズの納得した表情に、ケット・シーは呆れてため息をついた。



  ○o。. ○o。.



帰宅したリズは悩んでいた。とりあえず、荷物を部屋の床に放り投げ(もちろんハサミは入ってない)、冷蔵庫と食器棚を開ける。とりあえず、飲み物とコップ、コンビニで買った弁当を持ってテーブルに置く。


「うーん、食器は使ってないお皿があるから、それでもいいとして・・・あと、あの子の寝るところとか、どうしよう?」


部屋は(若干)雑誌が床に散らかっていたりはするが、少し片付ければ猫が一匹は寝られるスペースは出来そうだ。家がペット可の部屋で良かったとリズはつくづく思う。


「そういえば、妖精って何食べるんだろう?やっぱり猫だし、猫と同じなのかしら?食べちゃいけないモノはあるのかな?」


片付けをしながら、リズは本棚から本を一冊取った。リズは飼養管理士の資格は持っているものの、あまり今は仕事上では役に立っていない。一応、試験の時に使った資料集は残しておいたけど、まさかここで使うことになるとは思わなかった。


「ふーん、大体は食べちゃいけないモノは猫も犬も同じなのね・・・妖精だけど、やっぱりご飯は猫用のご飯がいいのかしら?犬用だと猫に必要な栄養が入ってないから、普通の猫にはあげちゃダメってあるし」


本のページを捲り、リズはメモ帳に色々と猫にあげてはいけないモノを書いていく。


「うーん、こればかりは本人に聞いた方が良いわね、聞いてみて足りないモノは明日、仕事が終わってから買うとして・・・さて、ご飯食べよっと」



  ○o。. ○o。.



時を同じくして。ケット・シーは目の前の状況に困惑していた。なんとなく、ただの興味で遙の寝室のドアを開けたのがいけなかった。


「・・・にゃあ、にゃんでこの部屋は床が見えにゃいんだにゃ?」

「知らん、いつの間にかこうなってた」

「・・・そうにゃのか」


遙の家のリビングは、それなりに人の出入りがあるからなのか、多少は綺麗に片付けられていたのだが。首を横に少し振って、ケット・シーは黙って部屋のドアを閉めた。目の前の惨状は見なかったことにしよう、そんな感じだった。


「・・・これでは狼の奴の気苦労が絶えにゃさそうにゃね」

「何か言ったか?」

「にゃんでもにゃいにゃ、(にゃに)も言ってにゃいにゃ」


遙の言葉にケット・シーは、慌てて首を横に振った。


「あと、なんて呼べばいいにゃあ?」

「『遙』でいいが、別にどうお前が俺を呼ぼうと構わない」

「わかったにゃあ、それじゃ、遙はいつもどこで寝てるのにゃ?」

「そこのソファー」


チラリとソファーの方を見ると、若干だが寝室と同じ惨状になりつつあるようだ。


「・・・よくこれで遙は体調崩さにゃいにゃあ」

「文句があるなら出てけ」

「文句じゃにゃいのにゃ、ただ遙を心配しただけだにゃ」

「お前に心配されても嬉しくない」


キッチンにいる遙からの言葉に、ケット・シーは遙にばれないようにため息をついた。

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