出会いイベント:チャラ男
本日二話目です。
校舎の裏。
私は一人スマホを片手に突っ立っていた。
今ここで体育館に入れば、私は悪目立ちしてしまう。
そうなれば、私の穏やかな高校生ライフは粉々に破壊されてしまうのだ。
できれば、目立たず波風立てず卒業したい。
だけど、欲を言えば姫奈ちゃんとお近づきになりたい!
スチルを生でみたい!
攻略されたい!
…あれ?
とにかく、私は入学式が終わるまでここで時間を潰すことにした。
我ながら賢明な判断だと思う。
そこでふと思い立った私は、真奈美にメールを送ることにした。
「えっと…フラグ、ぶち壊しちゃいましたっと。」
いざ文字にすると居た堪れなくなってくる。
書いては消してを繰り返していると、スマホからいきなりムード歌謡が流れ出した。
…この着メロ変えよう。
「もしもし、真奈…」
「ゆいかああ!佑二の出会いイベントは?」
うわ…言いづらい。
フラグ壊したなんて言いづらい…。
「ちゃんと近くで見られたの?」
「それが…あの…フラグ壊しちゃった…」
ふと、さっきまで聞こえていた真奈美の荒々しい鼻息が聞こえなくなった。
ごめん、と私が口を開こうとすると、画面の向こうから絶叫が聞こえた。
「ウオオオオアアアアア!ゆいかあああよくやったあああ!」
三十路?の叫びと意外な言葉にびっくりしていると、ゲヘヘと不気味な声が聞こえた。
じょ、情緒不安定なの?
「佑二は唯香に攻略して欲しいって思ってたから安心したよ〜。まあ、この調子で他のキャラのフラグも宜しくね!」
…はい?
私と柿谷さん?
ないないないないないないない(略)
私が否定しても、真奈美はゲヘゲヘと笑うだけで何も言わない。
柿谷さんはお父さんと呼ぶには若いけど、今ではもうお兄ちゃんのような立ち位置にいるのだ。
それを攻略?おかしいよ!
その後、真奈美は「焼肉」という言葉を残して電話を切った。
え?焼肉?
私の大好物が何よ!
もしかして次のお助けアイテム(笑)なのかと期待しながら、私はスマホの電源を落とした。
振り返ると、柿谷さんが満面の笑みで仁王立ちしていたが、大丈夫。
私、足だけは速いんです。
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ひたすら走って我に返ると、目の前には満開の桜があった。
桜の木のあるその場所には覚えがある。
ここは確か…
「初めまして。新入生の子かな?」
チャラ男との出会いイベントの起こる場所だー!
なんで私がイベント起こしてるのよ!
それにこのイベントが起きるのは入学式の帰りだったような…?
「何を慌ててるの?答えてくれないと…食べちゃうよ?」
うわ、チャラ男が狼のポーズしてる。
似合いすぎて笑えてくる。
「……ぶっ。」
思わず噴き出すと、更に可笑しく思えてきた。
なんだよ、食べるって!
物理的に?無理だよ!ははっ!
そろそろ式も終わった頃かなと思い、私は体育館へ向かうことにした。
面倒臭いチャラ男は適当にあしらおう、面白いし。
…ついでに嘘もついておく。
「同級生のわたくしの顔を忘れるなんて失礼ね、柳沢君。ではごきげんよう!」
私は会長のルートでのライバルキャラのご令嬢の真似をして、振り返りもせず走り出した。
我ながら上手かったと思う。
「…あんなに足の速い令嬢、いたかなぁ…」
後ろでそう聞こえた気もするけど気にしない!
チャラ男と関わると怪我するからね!
唯香ちゃん!
正しくは「チャラ男と関わる姫奈ちゃんと関わると」だよ!
9/6
内容を変更致しました。