転生者でした
初投稿になります…。
拙い部分も多々あるかと思われますが、これからよろしくお願い申し上げます!
気づいた時にはもう手遅れだった。
私、馬渡唯香は、明日から桜高こと桜ヶ丘高等学校の一年生となってしまう。
幼い頃から特に夢の無かった「私」は、母の友人で桜高の教師である柿谷さんによるごり押しで、桜ヶ丘高校への受験を決めてしまったのだ。
柿谷さんは、今では私のお父さんのような存在である。だから余計に断れなかった。
今思えば、これが間違いだった。
それは進学先を決めなければならなくなった頃。
桜高は私立だが普通科のみの進学校。奨学金を貰えるにしてもシングルマザーの母の給料でこの学費が払えるのかなんて聞かなくても分かる。
できることなら公立に志望校を変えたかったのだが、柿谷さんに相談すると「成績優秀者は学費を免除されるんだよ?それに"お父さん"の事も頼って?」と笑顔で言われた。怖い!
受験勉強かー…嫌だけどまあ頑張ろう!
今日はお母さんのパートの日だから、家には誰もいない。
娘の高校進学のため、お母さんは文句も言わず朝から晩まで仕事に明け暮れている。
私がまだ幼かった頃、お父さんとお母さんは離婚してしまった。その理由を聞いてもお母さんは何も教えてくれなかったが、柿谷さんがいたから淋しくはなかった。
再婚でもするのかと聞けば、大爆笑された。…どういうこと。
ふと思い立った私は窓を開けて、空に浮かぶ望月を見上げた。
しばらくぼーっとしていると、どこからか21時を知らす音楽が流れ始める。
どこかで聴いたような懐かしいそのメロディに耳を傾けていたら、ふと誰かの顔が頭に浮かんだ。
「……真奈美。」
思わずそう呟けば、頭のメモリを一気に埋め尽くすくらいの記憶が一気に流れてきた。
あまりの頭痛に吐きそうになるのをなんとか抑え、混乱する心を落ち着かせた。
そして、懐かしいメロディが鳴り止んだ頃に痛みは消えて行った。
そう、あの日。
確かあの日は真奈美の18歳の誕生日で、私は彼女と二人で寂しくパーティをしていた。
ケーキを食べ終わり、お腹を抱えながらゴロゴロしていた私に真奈美が突然尋ねた。
「もし乙女ゲーム世界に行けるとしたら、どうする?」
その馬鹿げた質問に飲んでいたジュースを吹き出しかけたが、むせつつ答えた。
「まあ、モブくらいなら楽しいかもねー。げふぉっ。」
それをどう勘違いしたのか、真奈美はジュースの入っていたコップとはまた違うコップを差し出しながらおかしなことを言い出した。
「それじゃあ、ごめん。これ飲んで頑張って!」
どういうこと?と告げる前に、私は謎の液体を口に含まされた。ちょい待て!真奈美!何を!
ゴボゴボ言いながら私が叫ぶと同時に、意識は強制的にシャットダウンされた。
今思えば、あれは何だったんだ。
「結花」は死んでしまったのだろうか。だとしたら今の「唯香」は転生者なのだろうか。なら私親友に殺されたってこと!?
あまりにも現実離れした話に驚きすらもあまり感じなかった。
私は、そんな自分の冷静さに苦笑しながらカーテンを閉め、参考書との睨み合いを始めた。
勉強は順調すぎるくらいに捗りました。だって、前世の記憶あるんだもーん。
……転生パネェ。
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次の朝、事件は起こった。
いつものようにキッチンへ向かうと、朝ごはんを作っていた母が振り向いてこう言った。
「おはよう、唯香。あんた彼氏でもできたの?」
いきなりの展開に口をあんぐり開けて突っ立っていると、いい年した母が頬を赤らめてぶつぶつ言い始めた。
「私が高校生だったころは、ラブレターなんてくれる男子いなかったわ…。みんなシャイボーイでママ困ってたのよねぇ…」
それただ単にモテなかっただけじゃ…と心の中で呟けば、笑顔で「あ?」と言われた。
怖い!あなたは柿谷さんですか!
ブルブル震える私をよそに、お母さんはテーブルの上を指差して親指を立てた。
いや、マジで恋文なんかじゃないから!
テーブルの上には、達筆な字で「親愛なる結花様」と書かれた真っ白な封筒があった。
「彼氏に名前間違えられるなんて可哀想にねぇ。」
絶対に可哀想だなんて思ってないだろお母さん。
肩がプルプルしてるからっ!
でも、その名前は私の記憶が正しいのなら間違いではない。
真っ白ってなんか怖いな、と思いつつも中身を出せば三枚程の手紙が出てきた。
まだほんの少し中身に甘い期待をしている自分がいたが、前世の名前を知っているとすれば恐らく真奈美だろう。
怒りがこみ上げてきた。
手紙を開けば案の定彼女からであった。
「……やっぱりか」
なになに?と駆けて来るお母さんだが、ラブレターだなんてそんな甘いものじゃない。
「ちょっとトイレ!」
唯香にも春が…なんてにやけ出す母は見なかったことにしておこう。
部屋を出て改めて手紙を読む。
この達筆すぎる字は全く変わっていない。
少し懐かしくなった。
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拝啓
結花、十五年ぶりー!
今は唯香か!ごめーん(泣)
そっちでは元気でやってる?
私に会えなくて淋しい?
私も淋しー!(しくしく)
あんた、心臓が弱かったの覚えてる…?
そっちに転生させたのは死なせたく無かったからなの!
私の優しさに泣けー!
…なんてね。無事みたいで嬉しいよ。
ま。まずは何も言わず聞いて。
唯香のいるその世界はなんと…乙女ゲーム世界でーす!
大丈夫、唯香はもちろんモブだから安心してね。
私はそっちにはいけないけど、手伝いくらいはするよーん!
え?何のって?
ヒロイン潰しに決まってるでしょ!
相変わらず鈍いんd...
(略)
P.S.
早速お助けアイテム送ったよーん♪
あ、敬具!
真奈美より
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せっかくの達筆な字を口調が邪魔している気がするけど多分気の所為じゃないよね。
それにしても、お助けアイテムって何さ。
思わず噴いてしまったよ。
よく考えてみると、十五年ぶりなら真奈美は今何歳なのだろうか。
み、三十路!?四十路!?
家庭を持っていて子供もいるのだろうか。
私も生きていればそうだったのかと思うとちょっと悲しかった。
でも、言われてやっと思い出した。
真奈美は心臓が弱くて病弱だった私を助けてくれたらしい。
やりきれなくて涙が溢れた。
ありがとう、真奈美。
しっかし!
手紙読んでて気になったけど…
本当にここ、乙女ゲーム世界なの?
というか今思えば、私のこの緑の髪も瞳も日本じゃあり得ないわ!
私は、さっきからこそこそと手紙を覗こうとしているお母さんに尋ねた。
「ここ、日本だよね!?」
「わーっ!日本に決まってるじゃない!これ!届け物!」
本当にびっくりした様子のお母さんは、ブツブツ言いながらキッチンへ戻って行った。
…なんかごめん。
真奈美の言ってたお助けアイテム(笑)はこのことだろうか。
後で開けよー。
なるほど。
ここが乙女ゲーム世界ならこの髪色も納得?
でも、お母さんは茶髪なのできっとお父さんに似たんだろうな。
乙女ゲーム世界で思い出したけど、真奈美は大の乙女ゲーム好きだった。
その中でも「夢恋〜The world for you〜」は真奈美が最もハマったゲームだった。
真奈美はヒロインに口出しばっかりしていたけど、一番楽しそうだった。
夢恋の攻略キャラは皆よくあるパターンのイケメンだ。
私も真奈美から借りてプレイしていた。
でも、隠しキャラ出現はおろか、お気に入りのキャラしか攻略できていなかった。
くっそー!せめてプレイしてからがよかった!
「でもまさか、ここが夢恋の世界ってことはないよね…?」
一人でうんうん頷いていると、お助け(略)から着信音と思われる渋めのムード歌謡が流れてきた。
ちょ、ナニコレ。
急いで箱を開ければ、中身は黄緑色のスマホだった。
スマホ二個も要らないな。なんて思いながら電話に出ると、電話の主は真奈美だった。
電話できるなら手紙を送る必要なんてあったのか?とちょっと思った。
「もしもし久しぶりー!元気ー?
あ。そういえばそこ、夢恋の世界なんだけど、それより聞いてー!」
…え。まじか。
今夢恋って言ったよね!?
お、オーマイガー?
唯でさえ混乱しているのに、真奈美は要件を早口で次々と話し始めた。
向こうでの私の存在が無かったことにされていること。
そして、この世界には誰か分からないが私以外にも転生者がいること。
色々びっくりしていると「フラグをぶっ壊してね」と謎の言葉を残し電話を切られた。
ちょ、おま。
真奈美。
申し訳ないけど、フラグ破壊には関わりたくない。
前世の記憶を殆ど思い出して思ったけど、今度こそ私は楽しく過ごしたいのよ!
そう心の中で呟きながら、私は黄緑色のスマホをそっと机の奥にしまった。
お気に入りどうもありがとうございます!
9/6
内容を変更致しました。