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鬼が嫁。

作者: 梅海苔塩





夏の日差しが強いこの真夏日にそいつはやって来た。


トラ柄ビキニを履いて奴は変態よろしく天下の往来のど真ん中で仁王立ちしていた。


そいつの傍を通り過ぎる一般人は皆そいつに振り返る。


当然だ、こんな炎天下の中とはいえまるで羞恥と言う物を全力でどこかに置き去りにした格好で立っているのだから。


しかし腹立たしい事にそいつの容姿は一際目を惹く物がある。勿論良い意味で。


大きい紅玉を詰め込んだような紅い瞳に綺麗に切り揃えられた長く、腰まで届くほどの艶のある黒髪。


瑞々しい少し薄めの赤い唇に白磁のような素肌。目鼻が整っており、卵形の小さい顔。


張りのあるきめ細かい肌に少し細めの腰が大き目の胸をやや強調する。


くびれた腰に小さなお尻が美麗な曲線を描く。


有態に言えば…とてつもない美人さんである。それも可愛い系の。


しかし、だがしかしである。


「せめて外では胸元隠せやこの変態痴女がぁっ!!」


「何を申すか!このうつけがっ!鬼の里ではこれが夏の格好じゃ!!」


「そんな変態ばっかな里があって堪るか!俺の世間体も気にしろやぁっ!!」


なんとパンツ一丁で外に出てくる女鬼。そんな女鬼などどこのエロゲにもないわっ!と突っ込みたくなるのは仕方ないことではなかろうか?


そう、俺こと草間くさま 鬼継おにつぐは年がら年中トラ柄ビキニを纏う女鬼に憑けられた平凡な高校生である。









夏、そう夏である。


茹だる様な炎天下の中、俺は隣を歩く女鬼を睨み付ける様に見る。


先程と違い少し大きめのTシャツを着ているのでマシだがきっと恐らく俺の世間体はかなり底辺を彷徨う事になるだろう。


というかさっきから周りの視線が痛い。


そんな視線も感じてないのか隣の女鬼は先程入ったコンビニで買ったアイスをおいしそうに舐めては手に垂れるアイスも垂れた先から舌で舐め上げる。


夏の熱気でその白い肌も熱を帯びて赤みが差し、何処か色気があった。


気にならないのかそれとも狙っているのか健全な男子には結構きついものがある。


それを少し遠目で見ていた一部の男達は少し前屈みで歩いているのに対し、周りのその男たちを見る女性の視線は絶対零度に近いものがある。


ちなみに隣の女鬼、名前は呉葉くれはという。


昔々の盗賊の親分格とは本人談。


俺からしたらただの痴女である。


さて、そんな俺が何故この様な状況になったのかは理由がある。


夏休みに入る前のゴールデンウィークに実家に帰省する両親に着いて行き、爺ちゃんの家の裏にある山奥にあった洞窟で見つけた物が原因だ。


御札が貼られたいかにもな箱。


当時の俺が目の前に居たらぶん殴ってでも止めたであろう暴挙を当時の俺はした。してしまった。








~以下、回想~




「爺ちゃん!爺ちゃん!」


「なんじゃ?鬼継?熊でも獲って来たか?」


「爺ちゃん、いくらなんでも子供に熊は獲れねぇよ…それよりも…」


「ワシの若い頃はなぁ…熊なんぞ拳一発で…ん?なんじゃその箱…。」


「裏山で見つけた。」


爺ちゃんは昔語りを止めて俺の差し出した手に載る箱に視線を向ける。


そして差し出した箱をなんの躊躇いも無く開ける爺ちゃん。


中はからっぽである。


「ほう…いかにもな箱じゃのう。」


「うん、で、見つけたから先に開けといた。」


「ほう、中に何が入っておったのじゃ?」


後ろから半透明の美女が現れる。


それを指差し当時の俺は爺ちゃんに楽しそうに告げる。


「これ。」


「ふむ、えらい別嬪さんを捕まえよって…鬼継、やりおるのぅ。」


~回想、終わり~








ちなみにそれ以来この呉葉という女鬼は俺に取り憑いて今暮らしている街までやってきたのである。


初めは凄くお淑やかだったのに最近では慣れてきたのか…


「のぅ、鬼継。あれはなんじゃ?」


と言ってあれこれと問題を起こすようになってきた。


半透明だった身体は時間と共にくっきりはっきりと見えてきて…


そんな物だから両親に隠し通せるはずも無く、素直に白状すると…


「なんだ、綺麗な人じゃないか。鬼継、大事にするんだよ?」


「あらあら、鬼継も男の子ねぇ…。」


ふふふ、と意味深に笑って同居を許している状態である。


それに今も…


「のぅ、鬼継…これはなんじゃっ!?」


そう言って自動販売機を担いで俺に振り返るのだ。








あれから自販機を元に戻させ、当初の目的であった文庫本を購入した俺は真っ直ぐに家に帰る。


両親は両親共に仕事に出ており、広いリビングに置いてある机には二人分の昼食が置かれていた。


何時もの事なので慣れた手つきでレンジで暖めて呉葉と昼食を摂る。


マナーは悪いがテレビを付けると呉葉はテレビを見ながら黙々とご飯を食べる。


俺は静かになった呉葉を横目にふと思い返す。


(そういやぁ…。何時もこんなんだったなぁ…。)


呉葉が来るまで俺は一人だった。


両親は共働きで夜遅くまで帰ってこない。


帰ってきても学校の途中や昼前だけなのかご飯を作って置いてくれてはいる。


時折近所に住む幼馴染が遊びに来るくらいで家に帰っても誰も居ないのが当たり前だった。


正直寂しいなんて事も子供ながら考えたことはあったがそれも慣れていく内に気にならなくなっていた。


そしてゴールデンウィークから帰ってきて…


(こいつが来てから騒がしくなったよなぁ…)


呉葉を見る。


お昼のドラマを見ながら黙々と机を見ずに的確にオカズとご飯を交互に食べ、時折汁物で唇を湿らせつつご飯が無くなった茶碗を無言で俺に突き出すその姿に思わず苦笑が浮かぶ。


見る物総てに興味を示し、子供の様にキラキラと輝く瞳であれはなんじゃ?あれはなんじゃ?と問われる度に何処か優しい気持ちになれた。


鬱陶しい。と思うこともあれど純粋に質問してくる呉葉に悪感情が沸いてくるはずも無く…。


じっと見詰めているのに気付いた呉葉が突き出した腕をそのままにちらりと俺に視線だけ向けてくる。


「…はよう米を注がんか、鈍間。」


「てめ…言うに事欠いて…ったく。」


米の催促をするのだった。




夜、布団に入る。


電気を消して掛け布団を頭まで被る。


すると数分後…ひた、ひた、と足音を出来るだけ殺して何者かが俺の布団まで近付いてくる。


言うまでもない、呉葉だ。


呉葉は俺の布団に潜り込むと何処か満足気な息を漏らして俺を背中越しに抱き締めてくる。


「不思議じゃな…鬼継とおると何処か安心する…。」


不意に呟かれた呉葉の言葉。


独り言の様に、いや、実際に独り言だろう。


抱き締める腕が僅かに震えている。


「しかし、ダメなのじゃ…これ以上は…」


不意に呉葉の力が強まる。


寝ている振りをしている俺は反応するかどうか迷い…そのままにさせておく。


呉葉は俺の背中に顔を埋める。


そして数秒ほどそうした後、熱っぽい声で耳元に囁かれた。


「…お主を愛してしまう。いや…愛してしもうた。」


ぐいっ、と首を無理矢理向けさせられる。


そしてあっという間もなく口を塞がれた。


数秒か、数十秒か…或いは数分か…。


塞がれた唇が離され、呉葉は満足気に息を漏らす。


「…これでも起きぬか…全く寝坊助な事よ…。」


その声は何処か弾んでいて、優しく俺の頭を撫でる手付きに自然と俺は眠りに落ちていた。







朝。朝である。


目を覚ますと目の前が真っ暗だった。


別に意識が無くなったとかそんなのじゃない。


若干の息苦しさがある。が息ができない程ではない。


何か柔らかいものに挟まれてる手を動かす。


すべすべの肌触りで少し手が汗ばんでるのがわかる。抜き取ろうと指や掌をもぞもぞ動かす。


「…あっ、んんっ…」


次いで聞こえる頭上からの甘い吐息。


一気に意識が覚醒した。がばっ、と顔を後ろに引くと目の前でぷるんと揺れるメロン、いや、脂肪の塊。


右手は太ももと太ももの付け根の間に深く挟まれており、抜き出すことが困難である事が伺える。因みに俺の右手は別生物の如くその触り心地のよい太ももを触り続けている。


触る度にピクン、と身体を揺らすパンツ一丁の女鬼の寝姿に俺は…


「ぎゃああああぁぁぁぁぁぁぁっ!?」


朝から近所に響き渡るほどの絶叫を上げたのだった。


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