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第4話 回り始めた歯車



遅れて申し訳ありません!!



乾いた破裂音が耳をつんざく。


銃口から放たれた弾丸が、なぜかゆっくりと伶の瞳には映っていた。


もう銃弾は発射されている。

このタイミングでは身体強化を発動する時間もない。


黒い鉛の塊は伶の頭へとゆっくりと、だが確実と迫ってきている。

この感覚のうちならギリギリで避けられるんじゃないか?という考えが浮かんだが即座に否定した。


(今よけたら絶対明に当たるッ!!)


伶の後ろには明が居る。

例え避けられたとしてもそのときは伶では無く、明が当たることになるのだ。

そして明と一緒に避ける、という選択肢も身体強化を行使していない伶には無理な話。


着実に近付いてくる死神の鎌を感じながら、目を瞑った。



それは生きることを諦めたためではない。



“殺さなくてはならなくなった”ことへの少しの懺悔だ。



そして、伶は心の中でイメージする。

何者にも染めることのできない純白の白を。





★☆★☆★





――カランカラン


銃声の後に聞こえたのは伶が倒れる音でも鮮血が飛び散る音でも無かった。

コロコロと介の足下に転がってきたのは一発の銃弾。

だが、それは銃弾と呼ぶには余りにも――――美しかった。


人の命を刈る鉛色は抜け落ちたように、白い。




――純白の弾丸。

それが音の根源だった。


そして、その現象を引き起こした張本人が直ぐに思い浮かび、驚愕の表情でその方向へと視線を向けた。

そこには「やってしまった……」と顔を手で押さえている伶の姿。


「使った……のか?」


九割確定しているのだが、それでも確認せずには居られなかった。

だが、そんな介の問いには応えず、伶は銃弾を放った本人へと目を向けた。


――その顔は一切の感情が抜け落ちたように冷たいもので。


視線を向けられた本人である井ノ原はびくりと身体を震わせ、怯えたようにガタガタと歯を鳴らしている。


「……なぁ、おっさん」


「な、なんだ?」


声を投げかけられても気丈に振る舞おうとしたところはさすがだろう。

しかし、この場面では意味をなさないが。


「俺らはさ、本職は『喰人(くらいびと)』の殲滅なわけ。わかる?」


伶の問いに井ノ原は応えない。いや、応えられない。

伶から放たれる威圧感が増したからだ。


「俺もな、できれば隠しときたいものがあるわけよ。それがさ、こんな本職でもなんでもないところでバレるのは不味いんだわ」


無表情。

それが井ノ原の心にはどう映ったのか。顔色が青を通り越して白まで変化したところで伶は最後の言葉を投げ放つ。

それは井ノ原が予想した、いやできればそうならないでほしいと思っていた言葉を。


「だからさ――――もう生かせなくなった」


突如井ノ原の周りの影が蠢きだした。いや、井ノ原の周りだけではない。『黒龍の爪』のメンバーの全員の周りで同じ現象が起こっている。


こんな現象、井ノ原は知らない。


「ま、まさかッ!お前もレベル4ッ!?」


もはや確実とばかり叫んだセリフを、しかし伶は首を横に振った。


「違う違う。俺はただの――――」




「――レベル2だよ」



そう応えたとき、伶は表情は笑顔だった。しかし、その表情に若干の寂しさを浮かべて。


呟くと同時に影が井ノ原たちの身体を這いずり始めた。

まるでエモノを飲み込もうとする蛇のように。


「や、やめろッ!!投降でもなんでもする!!だから殺さないでくれぇ!!」


今更自分でも遅いと解っている。しかし、幾ら覚悟さていたとしても、死に際になれば人間は生に醜くしがみつこうとするもの。


今の彼のように。


「ば、化け物ォッ!!」


とうとう人間では無くなったか、などと内心苦笑しながらそんな彼を伶は一瞥し、そして呟いた。


「塗り潰せ――――――」


瞬間、井ノ原の身体が漆黒の黒で塗り潰された。





★☆★☆★





「はあ……」


場所は変わって、学園への帰り道。徒歩で来ていた三人は、自然と歩いて帰らなければならない。

そんな中、伶が今日何度目かの重苦しい溜め息を吐いた。


「大丈夫?」


「ああ……ありがとう、明」


心配そうに尋ねた明に、伶は苦笑いを浮かべながら答えた。

そんな伶を見ながら介は深々と頷く。


「ふむ、使えばいいぐらいには思っていたが、本当に使うとは思わなかったな」


「……まあな。明がいなければ最後まで使わなかったかもしれない」


「ご、ごめんなさい……」


「いいって。気にすんなよ」


そうして沈黙が落ちた。

だが、重苦しい空気を打ち破るように伶が口を開いた。


「そういえばさ、伶。さっき“選抜メンバー”が来るって言ってなかったか?まだ到着してないのか?」


ピシリと介が固まる。

そんな介の態度に訝しく想い、首を傾げた。


「お前……まさか信じてたのか?」


「「えっ!?嘘!?」」


いきなりのぶっちゃけ話に目を見開く。だが、それはなにも伶だけではなかったらしい。


「…………明、お前までもか」


「う、うぅ……」


介に言われて顔を赤くする明。

そんな微笑ましい光景に少しだけ和んでいると、不意に介が口を開いた。


「しかし、さすがにあれはやりすぎじゃないか?」


「へ?」


“あれ”とはなんなのか。いきなりのことに伶の頭は追いつかなかった。


(あれ?――――ああ、あれか)


ようやく想い至る節を見つけ出し、その出来事に苦い顔をする。


「……仕方ないだろ。バレたら学園に居られなくなるって学園長に言われてるんだ。いや、この国に居るのもやばいかもな」


「それは承知している。ただ――――」


「ああ、わかってる。俺もやりすぎたかもぐらいは思ってるよ」


そして一度言葉を区切り、伶は苦笑を浮かべながら言葉を投げ放った。



「――――何も、全員“消す”必要はなかったかな……」





★☆★☆★





都内、慧神能力者育成学園理事長室にて。


綺麗に整頓され、部屋の隅には観葉植物が置かれている。清潔感溢れるその部屋では、1人の女性が電話口の人物と応対していた。


「――――はい、わかりました。こちらでフォローしておきます。……はい、ご苦労様でした」


通話を終えるた瞬間「はぁ……」と溜め息を吐き、思わず独り言が漏れる。


「まったく、やるなら“死体は残して”欲しかったですよ……」


もう一度長いため息を吐き、デスクに置かれたパソコンに目を向けた。

そこに映し出されていたのは1人の少年のプロフィール。


「今のあなたは慧神高校2―Bクラスに在籍する、“普通”の高校生なんですから。ね、白崎伶君?」


しかし、それには誰も答えない。

映し出された少年――伶のプロフィールをもう一度確認してから電源を切った。

そして、先程見たプロフィールを再び思い出す。



――――――――


《レベル1 能力名“身体強化”》


《レベル2 能力名“エネルギー付加(バースト)”》

《レベル3 なし》


《レベル4 なし》


――――――――


そこに書かれた項目を思い出し、思わず女性は笑ってしまった。




彼の能力はそんなちっぽけな能力ではない、と。



絡み合った運命の歯車が今、ゆっくりと回り始る。

それはまるで壊れた人形のように、物語は始まりを迎えた。


次回予告!


「違う……ッ!」


「に、兄さん?」


「どんなのって言われてもな……」


「――うん、これでよし!」




次回、第5話【夢と現実】



「おいおい、あんまり急いで転けるなよ?」

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