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吉村翔太という男  作者: 椎名 園学


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吉村翔太という男

「静香さん。この人が応募してくれた方?」

男は私のことをちらりと見ただけで、すぐ顔を静香さんの方に向け尋ねました。静香さんは、体を席の奥へやりながら「そうです」と頷きます。男は静香さんの隣に当たり前のように座ると、私に目を合わせて

「初めまして、吉村翔太です」

男は軽く頭を下げながら挨拶をしました。ほんの少しだけ早口だったと思います。

私もコーヒーから手を離し軽く頭を下げながら「相沢博人です」と返しました

「それでは改めて仕事内容の確認なのですが」

互いの挨拶が済むと静香さんが会話と取り仕切り

「相沢博人さんには吉村さんの秘書をお願いしたいです。勤務時間は吉村さんが相沢さんを必要として呼び出してからになり、日当は2万円で、二万円を勤務時間で割って最低賃金を下回った場合は給与が上がるといった形になっています。勤務日程はあらかじめ決まっておりませんので。遅くても働いてほしい日の2日前には連絡するという形になっています。相沢さんの都合も図りたいので、月終わりには来月の予定をあらかじめ送って頂きたいです。よろしいですか?」

掲載にあった時よりは細かくなったけれども、仕事自体があいまいでありました。

それでも日当二万円というのは高額であり、吉村という男もそこまで変わった人ではないだろうということで「わかりました」と快く返事をしました

「仕事の日は吉村さんの家に行くか指定した場所に集合になるので、後ほど住所は送っておきます。何か質問はありますか?」

「いえ、大丈夫です。よろしくお願いします」

吉村さんと静香さんの両方を視界に入れて頭を下げました。


「ってことがあったんやけど、どう思う?」

面接というより仕事内容の確認を終えると吉村さんから交通費ということでもらった三千円をもらい、それに浮かれた私はにこにことコンビニでお酒とおつまみをきっちり三千円分購入し、やや速足で歩いて帰りました。そしてお酒を飲んでいるとやっぱりどこか不安を感じてしまい、2、3人の友人に電話で聞いていたものの

「んー別にいいんじゃない?その静香さんって人も不満があって自分から辞めたってわけじゃないなら、そこまで待遇が良いってわけじゃないやろうし」

と友人達は口をそろえて言います。別に否定されたかったわけではありませんが、さすがに誰か一人くらいは懐疑の念を抱いてくれないと、私の懐疑の念が消えません。

その時、ラインからメッセージが届きました


「お疲れ様です。吉村です。本日はお越しいただきありがとうございました。早速ですが明後日の昼12時に私の家に来てもらいたいです。それとお話しした一か月の予定をもらいたいです」


「ちょうど今その仕事にやつ着た」

「秘書?」

「そう」

「最高やんけ。かましてこいよ!!」

友達は他人事だからと愉快そうに笑っています。吉村さんへのメッセージは明日書くことにします。

檸檬サワーがなみなみに注がれた、グラスを飲み干して友達との電話を切りました。

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