吉村翔太という男
外国人で埋め尽くされた京都駅を何とか切り分けて言われて喫茶店の扉を開けると、窓側の角の席で想像どおりの見た目をした人が紅茶を飲んでいるのが見えました。絶対にあの人に違いない、そう思うと頬が上がってにやけてしまいそうになります。第一印象で、そんな醜態をさらせばその後など成就するわけがありませんので、頬を内側から軽く噛んで顔を整えて席に向かいました。ですが近づくにつれその西洋人顔の人がこちらをきびしい目つきで睨んできます。そこでおかしいなと思い考え始めるとそこでようやく、電話でお互いに本人だと確かめ合う特徴などを共有していないことに気づいたのです。しまった、そう思った時にはもう彼女の前で立っていました。しかし
「もしかして電話くれたかたですか?」
「そうです。求人の件で」
「大変申し訳ないのですが、依頼人の方が今席を外してまして、座って少々を待ちください」
運が良いことに、彼女は本当に彼女だったのです。近くでみた肌の白さに、自分の頬が赤くなってしまうのを必死で抑え、席に座ると女性は「お好きなものを注文してください」とメニュー表を渡してくれました
いつもの私ならメロンソーダを頼んでいたと思います。いや、こういう場合お会計は相手持ちになるので、欲張ってメロンソーダフロートにしていたはずでしょう。ですが目の前には名前も知らない愛しの女神。
呼び鈴を押し店員が来てくれるとキメた顔で「コーヒーを一杯お願いします。ブラックで」無意識なが「ブラックで」は強調されていました。
「お電話ありがとうございます。私の名前は岡田静香と申しまして、以前まで本日の依頼人様の秘書をしていまいた」
「へ?」
恥ずかしいことに、静香さんの前で素っ頓狂な声が出てしまいました⋯
「どうかされましたか?」
静香さんは首を傾げる。
「てっきり静香さんが依頼人だと思ってましたんで」
「そうでしたか。依頼人は私ではありません。吉村翔太さんという方で今トイレに行っていますので、もうじき来られると思います」
そういえば最初にそんなことを言っていた気がしました⋯。静香さんに見とれていてほとんど内容を聞いてまったく耳に入っていなかったのです
「仕事は秘書って書いてあったんですけど、資格とかもっていないんですけど大丈夫ですか?」
「大丈夫です。吉村さんは社会経験が少し少ない方ですので、基本的には吉村さんが行きたい場所に一緒に同行したり、荷物を持ったりがメインになります。時々デリカシーが無い時もありますが、よく言えばフレンドリーな方ですので、友人と遊びに行くような心持で挑んでいただけたらと思います」
「そうですか。一つ質問があって嫌なら答えなくて大丈夫でなんですが、なんで静香さんはこの仕事を辞めることにしたんです?」
話だけ聞けば悪いものではない。給料を考えればむしろ良いこの仕事をなんで静香さんがなんでやめたのか気になりました。もし依頼人の吉村って人がやばい人でそれが原因だやめるとしたら聞いておかなければならないと思ったのです
「一番最初は私は「秘書を雇うための秘書」として雇われたんです」
「へ??」私の口からさっきより激しい素っ頓狂が出ました
「驚かれるのも無理はないと思います。今回の募集も吉村さんが書いたんですが前回の募集の時はもっとひどくて「秘書を雇いたい。雇い方を教えてくれる秘書募集1万円」とだけ書かれていたんですよ」
静香さんは口元に手を当てて上品に笑みを浮かべています
「それに応募して私が雇われたんですけど、秘書を雇うのが面倒になったらしくてそのまま私が秘書になったんです。それで1か月ほど秘書をさせてもらっていたんですけど、数日前吉村さんが「静香さんといると楽しいんですけど、やっぱり女と一緒にいると少しソワソワしてしまうんで男の秘書雇いたです」とおっしゃられて今に至るというわけです」
そこまで言うと、店員さんがコーヒーをもってきました。そしてその後ろに、見知らぬ男の人もたっていました




