第一依頼 楽しい遊園地 3話
全員が入り口に立っていると、1体の着ぐるみが近付いて来た。黄色いクマの着ぐるみだ。赤の派手な帽子を被り、白い靴を履いている。
「ようこそ!楽しい遊園地へ!いっぱいいっぱい楽しんでいってね!」
急な着ぐるみの登場に、陸とマミは困惑しながら目を合わせた。しかし、灯に動揺した様子はない。着ぐるみに近付き話しかける。
「こんにちは。ボク達は初めてここに来たのだが──」
「ようこそ!楽しい遊園地へ!」
「話を」
「いっぱいいっぱい楽しんでいってね!」
「……うんうん。成程ね」
陸達の方へ振り返る灯。真剣な顔だ。
「どうやら会話は不可能なようだ。先を急ごう」
「先生……大丈夫ですか?無視されたからって落ち込まないでくださいね……」
「自信満々に話しかけたのにな……」
「別に!落ち込んで!いないけれど!」
灯は子供みたいに地団駄を踏む。それをフェリが宥め、ひとまず遊園地へ入ることになった。
中は少し寂れた遊園地といった様子で、入り口からでもコーヒーカップやジェットコースターなどが見える。
「おお〜!」
フェリが歓声を上げた。顔は無いがワクワクしていることが分かる。灯の腕を引き、目に見える物全てを質問していく。
こんな怪しさしかない遊園地でも楽しそうにできるとは……と陸は少し驚きつつフェリを見つめ、気付いた。
(あれ?フェリさんの瓶の中の液、色が変わってる?)
フェリの頭の中の液体は、黒色から橙色に変化していた。不思議に思い、横に立つマミに聞いてみる。
「なあ、フェリさんの液の色変わってね?」
「ん〜?ああ、あれはね、感情が大きく動くと色が変わるの。今はオレンジ色だから、凄く楽しいって感じだね。他にも嬉しい時は黄色、悲しい時は青色、照れている時はピンク色っていうのもあるかな」
「へ〜、思っていたよりフェリさんの感情って分かりやすいかも」
「でしょ?ちなみに、フェリさんの頭の液は香水だよ」
「あんな真っ黒なのに!?」
そんな会話をしていると「おーい」と呼ばれる。見ると、灯とフェリが少し進んだ所にいた。近くには案内板と、簡易な時計塔が立っている。時計の針は16時59分を指していた。
「外部には電話がかからなかったけれど、フェリとは繋がったよ。遊園地内にいる者同士なら通話できると思う」
「分かった!それで、これは地図?」
近付きながら問いかける陸。灯は頷きながら「そのようだ」と答え、案内板に向き直った。
「遊園地というだけはあるね……コーヒーカップ、ジェットコースター、お化け屋敷……ジャングルアドベンチャー?というアトラクションもある。噴水にレストランに……おや、レストランから真っ直ぐ進んだ所に事務所がある。この遊園地について何か分かるかもしれない、調べておきたいな」
「これが遊園地!とても楽しそうです!……ただ、僕がテレビで見た物とはだいぶ違いますね」
そう喋るフェリの頭の中の液体は、既に黒色に戻っていた。だが、まだワクワクしているようで声は弾んでいる。マミはその言葉に苦笑しながら返す。
「フェリさんが前に見ていたのは大人気な遊園地でしたもん。あれと比べたら小さいですよ」
「そうなのですか?少し残念です……陸君の世界はどうでした?」
「ん〜オレの世界でも同じかな。もっと大きい遊園地は沢山あったよ。でも、大きいからいいわけじゃないしな。ここはここで楽しそうで十分1日遊べると思うぜ」
逆に言うと、この遊園地は何日も遊べる程楽しい場所ではないということだ。時間を忘れてずっと遊べる程大きなく、珍しいアトラクションもそんなにない。だからこそ、子供達が自分の意思でここに残っている可能性は低いだろう。
「まあ、探索する分には小さい方が助かるよ。ひとまず二手に分かれて近くのアトラクションに行こうか。陸とマミがお化け屋敷、ボクとフェリがコーヒーカップ、終わったら噴水前に待ち合わせでどうかな?」
誰も反論はないようだ。灯とフェリは直ぐに移動し、残されたのは陸とマミだけけになった。
「私達も行こっか!よろしくね、りっくん」
「おう。絶対子供を見つけるぞー!」
「おー!」
空に拳をかざし気合を入れると、お化け屋敷に向かって走り出した。
♢♢♢
「な〜んにもなかったや」
「な〜」
現在、陸とマミは噴水の前に並んで立っている。意気込んでお化け屋敷に入ったものの子供はおらず、また、手掛かりもなかった。
「お化け屋敷自体も怖くないというか……強がりじゃなく、本当に子供向けだったな」
「そうだね〜。何ならさ、お化け屋敷を出た瞬間に大きい音が聞こえたよね?あれが1番驚いたよ」
マミはグッと伸びをした後、溜息をつく。何も結果が出なかったことがショックだったのだろう。
「思っていたより平和だね、ここ。アトラクションに危険はないし、着ぐるみも何もしてこない。戦わずに終わりそうだな〜」
「戦う……そう言えば昨日の鎌持ってないよな。置いてきたのか?」
「あれ、言ってなかったっけ?あの鎌は私の魔法なんだ〜。魔法については詳しく聞いてる?」
陸と向かい合うように移動するマミ。昨日もしていた赤い手袋をゆっくりと外す。
その仕草を不思議に思いつつも、陸はひとまず質問に答えた。
「いや、全然。でも何となく予想できるぜ。人間に変身するやつは魔法だろ?」
「正解!魔法はね、呪文を唱えて魔力を消費することで使える力だよ。何の魔法が使えるかは、基本的に生まれ瞬間に決まっているの」
「へ〜ゲームみたい。魔力を使い切るとどうなんの?」
「気絶する!凄ーく危険!でも魔力が空になることはそうそうないし、普通に暮らしていたら回復するから安心して」
そこまで話すと、マミは両方の掌を陸に向けてくる。そこには黒い紋章が刻まれていた。ゲームや漫画であるような魔法陣を彷彿とさせる紋章だ。
マミはニコッと笑い、自身の顔の前で手を振る。
「この紋章は眷属だけにあるものでね、特別な魔法が使えるんだ。折角だから使っているところを見せましょう!」
「いいの!?見たい!」
「ふふ、いいよ〜。手袋してても使えるけど、無い方が見やすいからこの状態でやるね!目を逸らしちゃ駄目だよ〜」
言い終わると同時に目を閉じ、陸の前に右手を差し出した。
『血の雫 紅い華』
掌の紋章が中央から段々と赤くなっていく。その手を軽く握り込みながら続ける。
『この身に流るるは神の血なり 今咲かせるは神の華なり 黒蛇の呪いは形を変えて』
ゆっくりと手を開く。掌の上には赤く小さな花が浮いていた。その花はドロドロと溶けていく。マミは閉じていた目を開け、真っ直ぐに華を見つめる。
『全ては我が主、ウィクシーの御心のままに』
呪文を唱え終わった瞬間、花は完全に形を変える。それは、間違いなく昨日持っていた大鎌だった。
後退りながら大鎌を振り、キメ顔でポーズを決めるマミ。しかし、直ぐに恥ずかしそうな表情に変わり、頬を掻く。
「あ、あはは……ちょっとカッコつけちゃった。どうかな?これが私の魔法だよ」
「うおー!凄い!凄ぇ!すっげぇ!」
目を輝かせ拍手を送る陸。その姿に安心したのか、まだ恥ずかしがりつつもマミは胸を張る。
「そうかな?ありがとう〜。この魔法は鎌以外にも好きな形に変えられてね、人間の姿でも使いやすいんだ」
その言葉の通り、大鎌は次々と形を変化させていく。大剣からナイフや槍、はたまた武器だけではなく縄にも。
確かに凄いことだが、陸はそれよりもマミの発言が気になった。
「人間の姿……そっか、すっかり忘れてたけど、マミも灯さんも人間じゃないんだよな。元の姿ってどんな感じ?」
「ん〜先生は分からないけど、私は大きくて黒い蛇を想像してくれたらいいかな」
「おお!蛇!カッコいいじゃん!」
そう言われると思っていなかったのだろう、マミは一瞬きょとんとした顔になる。だが、直ぐに嬉しそうに目を輝かせた。
「本当〜!?よかったぁ、人間は蛇を嫌う子もいるからね。気になるなら今度、地下世界に戻った時に見せてあげるね」
「え、何で地下世界?今じゃ駄目なの?」
「駄目なんだ〜。休戦協定のせいでね、私達も天神側も人間の姿じゃないと地上に出れないの。だから私みたいに地上で活動することが多い子は、むしろ人間の姿の方が動きやすいんだよ」
「えっ、そうなの!?」
マミはコクコクと頷きながら続ける。
「今日先生と出かけた時に、地下世界にいたような子達はいなかったでしょ?」
「いなかった……」
その言葉に驚きながらも納得する。この世界の地上は陸の世界と似ていたので疑問に思っていなかった。
もし地上を化物達が跋扈し、地下世界の存在が広く知られていれば、依頼者もこの遊園地を都市伝説扱いしないだろう。人でない者達が人間に合わせ、隠れて暮らしているからこそ、地上で人間達が自由に暮らしていられるのだ。
「でも、例外もあるよ。協定以降に地上で産まれた精霊や混ざり者達や、人間は関係がないの。それに人間に造られた生物も問題ないね。何なら人間が自分の意思で異形化するのも全然OK!」
「へ〜……何かこれ、人間に都合がいい気がするな。地下世界の奴らも天神側も人間を基準にしているというか、優しいというか」
「んっとね、天神側の考えは分からないけど、こっち側が人間を守ろうとしている理由は分かるよ。現在の地下世界で1番発言力がある方が人間好きなんだ」
「マジ?誰──」
「お〜い。待たせたね」
大きい声が言葉を遮る。見ると、灯が手を振っていた。フェリと共に歩いてこちらに向かって来る。
「遅かったですね。何かありました?」
「すみません、その、僕がはしゃいでしまって……アトラクションを壊したのです」
「ま、マジ?」
「まったく、フェリは気にし過ぎだよ。謝罪はしたしボク達も無事なのだからもういいじゃないか」
フェリは見るからに落ち込んでいるが、その言葉の通り灯もフェリも元気そうだ。灯はこれ以上慰める気はないらしく、こちらの状況を聞いてくる。
マミが正直に何も情報を得られなかったことを伝えると、灯は考え込む仕草をする。
「そうか。残念ながらボク達も子供の情報は得られなかった。けれど、1つだけ知れたこともある。コーヒーカップを破壊した件で謝罪をした時、着ぐるみと普通に会話ができたんだ」
「え!入口の奴は同じ言葉を繰り返すだけだったのに!?」
「うん。もしかしたらアイツだけ特別だったのかもしれないね。ひとまず、この情報を頭に入れて再度別れて探索しようか。そうだな……次はレストラン、ジャングルアドベンチャーの2箇所はどうだろう?」
灯は陸達を見渡しながら質問する。全員賛成し、この案で動くことが決まった。再度、集合する場所やこれからの動きを話し合う。
ここまで、子供達がどうなっているかは分からない。それでも──
(絶対助けるぞ!)
陸は両頬を叩いて気合いを入れるのだった。
♢♢♢
(何で……何で……)
話し合いの結果、レストランを探索することになった陸は、現在レストランから少し離れた所に立っていた。もちろん、隣にはペアの事務所メンバーがいる。だが、それはマミではない。
「よろしくお願いしますね、陸さん」
(何でフェリさんー!?)




