第一依頼 楽しい遊園地 2話
ひとまず話を聞くことになり、灯が依頼者の正面に座った。相手は30代くらいの女性。髪は少し乱れ、顔には疲れが見える。灯と目が合った女性は慌てて頭を下げた。
「あ、あの、すみませんでした」
「構いませんよ」
「で、でも私、非常識なことをしてしまって。扉を叩いて、大声を出して……」
灯が(そうなの?)という目でマミとフェリを見る。マミは苦笑しつつ頷く。どうやら快く招き入れた訳ではなかったらしい。
灯は依頼者に視線を戻し、この探偵事務所について簡単に説明をする。そんな中、陸が小声でマミに話しかけた。
「なあ、何であの人はフェリさんを怖がってねぇの?」
「あれも魔術書の力だよ。事務所が持っているもう1冊の模写本で、幻覚を見せられるんだ。この本の力でフェリさんが人間に見えているんだよ」
「え、でもオレは人間に見えてないぜ?」
不思議そうな陸に、マミが続けて説明をする。
「元の姿を知っている相手には効果がないんだ〜。後、見せる幻覚の内容は細かく決めれなくて、フェリさんがどんな風に見えているかは私達も分からないの」
「へ〜。だとしても色々使えそうだな、その本」
陸のその言葉に、頷くどころかサッと顔を逸らすマミ。陸は察する。昨日の魔術書があれだけ不便だったのだ。この本もまだ使いづらい要素があるに違いない。
あまり言いたくないのだろう。マミは先程以上の小声でボソッと呟く。
「他のページには力が込められてなくてぇ……この『人間の姿に見せる魔術』しか使えません」
「……犯罪を犯す程のメリットあるか?」
そんな話をしている間に灯の説明が終わったようだ。いよいよ依頼の内容を聞き出そうとしている。
灯に促され、女性は目を伏せながらここに来た理由を語り出した。
「失踪した娘を探してほしくて来ました」
そう言って1枚の写真を机に置く。そこには小学生くらいの子供が写っていた。女性とは違い活発な印象を受ける子供だが、目元が似ている。
「名前は田中真。10歳です。昨日学校が終わって直ぐ、友達と遊びに行くと言って出て行きました。そしてそのまま……」
「帰って来なかったのですね。一緒にいた友達は?」
女性は首を横に振る。そして嫌なことを思い出したのだろう、苦々しい顔で口を開いた。
「娘の他に3人いたみたいですが、全員帰っていません。どう考えても事件に巻き込まれているでしょう?なのに、他の親の中には家出と決め付けている人もいて……本当にあり得ないわ」
「……確かにそれは酷いですね。貴方のように子供を大事に思っていれば心配するのが普通です」
灯の言葉に女性はぴくりと反応する。先程と違い、とても嬉しそうな表情だ。机を勢いよく叩き、身を乗り出す。
「ですよね!ああ、黒井さんがちゃんとした方でよかった。実は私、子供達が失踪した理由に心当たりがあって……警察は頼りなかったけど、黒井さんなら真剣に聞いてくれますよね?」
「もちろんですよ。心当たりとは何ですか?」
「娘達が通う小学校で流行っている都市伝説です。小学校から少し離れた所に空き地があるのですが、その土地の所有者が少し変わった人で……四方を木で囲み、中を見えないようにしているのです」
そう言いつつ、鞄からメモ帳とペンを出す。そして簡単に絵を描き見せてきた。
そこには、沢山の木が空き地を囲んでいる絵が描いてあった。あまりにも不自然で、意図的に隠そうとしていることが伝わってくる。
「何でも、この空き地の前で呪文?を唱えて中に入ると、不思議な遊園地に繋がるとか」
「遊園地……この都市伝説が娘さん達の失踪と関係していると?」
「はい。これを見てください。娘の部屋にあったメモです。きっとこの噂を試したに違いありません」
女性はメモを捲り、折り畳まれた1枚の紙を取り出す。そして紙を開き、机に置いた。
紙には『テレイ ラカダ ルイニココ ンエイエ』という謎の文章が書かれていた。
「こんなものを信じて試すのは騙されやすい子だけでしょう?誰かがこの噂を流し、信じて来た子供を誘拐したに決まっています!」
「そうですね。その可能性が高いとボクも思います」
(灯さんの笑顔、嘘くせぇな〜)
愛想笑いだと察している陸とは違い、女性は気付いていないようだ。灯の言葉に機嫌を良くし、いかに警察が無能だったかをペラペラと語っている。
灯はしばらく相槌を打っていたが、話が途切れた瞬間に口を挟む。
「大変な思いをされたのですね……ですがご安心ください。ボク達『黒井探偵事務所』がこの依頼をお受けします。必ず娘さんを助けて出してみせましょう」
♢♢♢
「よ〜し、行こうか。遊園地」
時刻は深夜0時。灯の指示の下、探偵事務所の全員で例の空き地に向かっていた。道を女性から教えてもらい、現在は畦道を歩いている。
陸の前を歩いているのは灯だ。彼は懐中電灯を付けて堂々と歩いている。
「灯さん、あんまり目立たない方がよくね?大人もいるけどさ、オレとかマミとかどう見ても未成年じゃん?警察に見つかったらやばいと思う」
「大丈夫。警察内にも地下世界と関わりのある人間がいるからね。見つかっても大事にはならないよ。更に、今日は見回りに来ないようにお願いもしてある。心配することはないさ」
ならばと陸も懐中電灯を付ける。そしてもう一つ気になっていたことを聞く。
「今って都市伝説を試しに行ってるんだよな?依頼者が言ってた誘拐犯は探さねぇの?」
「探すつもりだとも。けれどあの呪文、天神が使う呪文に似ていてね。都市伝説の確認も一応しておくべきだろう」
「げっ、マジで!?地球侵略と全く関係なさそうなのに……」
「理由を考えるだけ無駄だよ。アイツらの行動の意味なんて理解できないし、する必要もない。アイツらが関わっていると厄介、確かなことはそれだけさ。……だからこれを念のために渡しておくね」
そう言われ、スマホを渡される。新品なのだろう。古さは感じず綺麗な状態だ。
陸は暗闇でも分かるくらい目を輝かせる。この世界に来る時に鞄と共に消えたため、ずっと欲しいと思っていたのだ。
「陸の物だよ。中で使えるかは分からないけれど、あった方が良いだろう?」
「マジ〜!?ありがとう灯さん!」
ぴょんぴょんと跳ねて喜ぶ陸。先程まで補導を恐れていたのが嘘のように騒がしい。
そんな中、先頭を歩いていたマミが灯に話しかけてきた。進む道の確認を取りたいようだ。陸が黙ってその様子を見ていると、肩を叩かれた。フェリだ。
「今、構いませんか?」
「ふ、フェリさん?大丈夫だけど……」
陸は裏返った声で返事をしてしまう。それもそのはず、何故なら──
(悪い奴じゃないのは分かるけど……瓶頭のせいで何を考えているか分からないから、ちょっと怖いんだよなぁ)
そんな陸の考えに気付いているのかいないのか、フェリは構わず話を続ける。
「こんな状況で申し訳ないのですが……これ、今日作ったのでよければどうぞ」
紫のリボンでラッピングされた袋を渡される。中には様々な形のクッキーが入っていた。どれも出来がよく、言われなければ売り物と勘違いしてしまうだろう。
「へ?いいの?ありがとう。戻ったら食べるよ」
陸は貰ったクッキーを上着のポケットに入れる。そして顔を上げると、フェリがまだこちらを見ていることに気付く。ただでさえ表情が読めないのに、黙られると余計に怖い。
「あの、フェリさん?何かあった?」
「いえ、そういうわけではなく……そう!陸さんは遊園地って行ったことがありますか?」
「おう、あるぜ」
「それは羨ましい。僕は行ったことがなくて……依頼者の方には言えませんが、本当にこの先に遊園地があったらいいなと思っているのです」
フェリは前を向くと、「行きましょう」と言って歩き出す。話をしていて気付かなかったが、灯達が少し先に進んでいたようだ。陸も隣を歩きながら会話を続ける。
「遊園地か〜。こういう都市伝説って誰が言い出したのか気になるよな。場所とか呪文とか」
「そうですね……過去の依頼では、都市伝説自体が意思を持って広めていたことがありました。ほら、怖い話にあるでしょう?1人増えているけれどそれが誰か分からない、というものが。自然に人間の輪に入り、噂を流して消える。結果、発生源が分からない都市伝説が生まれるということです」
「そんなことあるの!?うわ〜でも何か納得」
陸の大きいリアクションに、フェリはクスクスと笑う。人間が口元を隠すように、手を瓶の下辺りに当てている。紳士らしい服装をしているだけあって、仕草の一つ一つが上品だ。
「他にも夢で広めるパターンもありましたよ。夢の中で『おいで〜こうやったら来れるよ〜』って教えると、実際に試す人間がいるのです」
「オレ、試す側の人間かも。簡単にできるなら絶対軽い気持ちでやるわ」
そこでふと今日の夢を思い出す。雑談の延長で夢のことを話そうとした時、灯に呼ばれた。どうやら空き地前に着いたようだ。
沢山植えれた木と背が高い雑草。暗いこともあり奥は見えず、不気味な雰囲気だ。
「それではやろうか」
全員で声を揃えて呪文を唱える。
『『『『テレイ ラカダ ルイニココ ンエイエ』』』』
呪文を唱え終わった瞬間、生暖かい風が頬を撫でた。そして音楽が聴こえ始める。遊園地で流れているような明るい音楽。本来なら心が躍るのだろうが、その音楽はこの場所とは合わず逆に不気味さを感じる。
「本当にあるのかよ……入る?」
「うん、入る。あそこなら入りやすそうだね」
灯が指差した場所は比較的他より木が少ない。全員でそこから中に入って行く。
不思議なことに空き地までの道が長い。だが、幸い奥に光が見える為迷うことはなさそうだ。陸達はその光を目指して歩き続ける。
光が近付くにつれ、音楽も段々と大きくなっていった。そして、やっと木々を抜け出し── 辿り着いた先の光景に陸は思わず声を漏らす。
「わっ……」
まず目に入ったのは大きいアーチ。沢山の花で飾られており、とても鮮やかだ。アーチの真ん中には看板が付いている。文字が掠れて一部は読めないが“◯◯◯遊園地”と書いてあった。間違いない、ここが──
「遊園地だ」




