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第九依頼 理想を求めて 1話

 人々が寝静まった深夜のこと。とある廃病院の屋上で話し込む者達がいた。夜闇の中でも目立つ白い髪に白い服の少女達……リアエルとキフシだ。


「ほ、報告は以上です」

「ふ〜ん……ねえ、キフシ。お前やる気ないのですか?」

「いえ!決してそのようなことは!私は誠心誠意、リアエル様のために──」

「食べてばっかりじゃないですか」

「うっ」


 キフシは下を向いて黙ってしまった。やる気はある……が、陸と一緒にいると仕事を忘れて楽しんでしまうのだ。この結果では何も否定できない。

 数秒おいてリアエルが溜息をついた。


「はあ……まあいいです。お前が星檻の少年と仲を深めれば、いずれこちらに少年を引き抜ける可能性があるです。お前は引き続き少年を騙しなさい」

「騙し……」


 キフシの声はどこか暗く、表情も辛そうだ。リアエルはキフシに近付き、頬に手を添えた。そして、しっかりと目を合わせる。


「不満ですか?もしかして情でも湧いたですか?」

「い、いえ!そんなことはありません!」

「ですよね。いくら人間に似せて作ったとはいえ、化物のお前にそんな心があるはずないです。お前は何も考えず、ただ僕の言うことに従っていればいい。分かるですね?」

「はい、リアエル様」

「よろしい。では行きなさい」


 キフシは一礼し、屋上から出て行った。残ったリアエルは疲れたようにグッと腕を伸ばす。

 そんな彼女の背後から声がした。


「随分とお疲れの様子だな、リアエル」

「ん……ああ、ロキ。いつから見ていたのですか?話しかけてくればよかったのに」

「そんなに前からじゃないよ。ついさっきさ」


 そんな言葉とともに現れたのは、翠色の髪に、物語の王子が着るような白い服を着た男性。その隣には、同じ色の髪をした美しい女性が立っていた。

 ロキと呼ばれた男性は続ける。


「しかし、珍しいね。お前が眷属に名を付けるなんて初めてじゃないか?」

「僕だって必要があれば名付けますよ。皆……というより、貴方みたいに無駄な名付けはしないだけです」

「なっ、リアエル様!お言葉ですが──」

「落ち着いて、リキ」

「……はい。申し訳ありません、ローキス様、リアエル様」

「はいはい、いいですよ別に。それで?僕に何のようですか?」


 リアエルはリキのことを気にも留めていないようだ。ロキ……いや、ローキスはニコリと笑い、リアエルの前まで移動する。そして恭しく手を差し出した。


「リーダーからの“お願い”だよ。寂しいからそろそろ顔を見せてほしいそうだ」

「え゛〜」

「はは、そんなに嫌か?お前はしばらく船に戻っていないのだし、これを機に一旦帰ってもいいだろう?」

「嫌です。僕はこれからまた遊びに行くつもりなので、ロキの方で適当に誤魔化しておいてほしいです」

「やっぱりそうなるか、仕方ない」


 ローキスは肩をすくめ、わざとらしく残念そうな素振りをする。そんな姿を見て、リアエルは数秒考えた後、ローキスの手を取った。そして何かを握らせる。

 それは、1人の人間が写った写真だった。


「迷惑をかけるお詫びに、ロキにだけ特別な情報をあげるです」

「それは嬉しいな。この写真に写っている人間がどうしたんだ?」

「その人間は星檻を自在に使うことができるのです」

「星檻を?へ〜それは凄い」


 驚いてはいるが興味はないようだ。写真も直ぐにリアエルに返そうとする。しかし、リアエルは断固として受け取らなかった。


「もちろん分かっているです。ロキは人間に興味がなかったですよね」

「そうだな。人間は自己愛が強く、自分の利益の為なら他者を使い潰せる存在だ。それを悪とは思わないが……まあ、俺の“理想”とは程遠い存在かな」

「僕はそういう醜いところが好きなのですが……まあ、それは置いておくとして。その少年ならロキの“理想”に近い……いや、むしろ新しい“理想”になり得る存在だと思うですよ。一度見に行ってみるといいです」


 リアエルはパチンッとウインクをした後、呪文を唱えて消えて行った。

 ローキスは写真を見つめる。リアエルの言葉で少し興味が出たのだろう。

 その隣でリキが騒ぎ始める。


「もう!リアエル様はやっぱり自分勝手ですね!私はローキス様の眷属でよかったですよ。リアエル様の眷属になると絶対苦労しますもの!」

「ははっ、リアエルは昔からああだからな。全く、困った奴だ」

「むう……ローキス様はリアエル様に甘過ぎます」

「そう拗ねないでくれ、美しい子。確かにリアエルは俺にとって大切な友だが、お前も大切な存在だと思っている」

「もう、ローキス様ったらまたそんなことを仰って……」


 リキは恋する乙女のような目でローキスを見つめる。そして、ローキスの片手をそっと掴み、自身の胸に当てた。


「ローキス様。貴方様の悲願……“理想の存在に会いたい”という望みを、必ずや私が、私の体で叶えて見せます」

「ああ、ありがとう。俺の可愛いキリ。お前なら俺の理想そのものになれると信じているよ」


 ローキスは写真をポケットに入れ、リキの頭を撫でる。甘い言葉に慈しむような目。しかし、ローキスの心中にはリアエルの言葉が深く刺さって抜けなくなっていた。


(俺のことを一番理解しているリアエルがあそこまで言う人間……。何か刺激になるかもしれないな。最近迷走してばかりだったし丁度いい。俺の眷属をよりよい存在にする為にも一応会っておくか。……ああ、そうだ。どうせならリアエルの真似でもしようか)


「ローキス様?ローキス様〜?」

「おっと、ごめんよ。考え事をしていた。そろそろ帰ろうか」

「はい!」


 ローキスはリキを抱きかかえ、屋上から飛び降りる。……優しい見た目に似合わぬ邪悪な笑みを浮かべながら。


         ♢♢♢


 その日は古目探偵団の活動日だった。


「きーちゃ〜ん!ただいま〜!」

「今回の依頼も無事終了ね」

「お疲れ様です、マミ、水音」


 暖かい日差しの中、マミ達は楽しく喋りながら街中を歩いて行く。この後はどこに行こうか、ケルベロスにお土産でも、そんな話をしている途中……桔梗が立ち止まった。


「……え?」

「きーちゃん?どうしたの〜?」

「急に止まったら危ないわよ」

「だ、だ、だっ、あ、あ」


 桔梗はプルプルと震えながら一点を指差す。マミと水音は不思議がりながらそちらを見た。そして固まる。主に水音が。

 桔梗が指差す先には陸がいた。だが1人ではない。高校生くらいの可愛らしい少女と共にいるのだ。


「な、なな、だ」

「わ〜誰だろうあの子!私も友達になりたい!」

「何を冷静に言っているのですかマミ!陸が知らない女子といるのですよ!?先約があるとは聞いていましたが、まさか女子とは……しかも凄い美少女!」

「お、おお落ち着きなさい桔梗。陸よ?あの陸よ?鈍感で恋愛のれの字も知らない男よ?あの子だってただの友達としか思ってないわよ。ね?ね?マミ?」

「ん〜聞いてみたらいいんじゃないかな?おーい!りっくーん!」

「あっ、ちょ、待って!」

「まだ心の準備ができていません!」


 手を振りながら、陸の元へ軽快に駆けて行くマミ。桔梗と水音はそれを止めるように慌てて追いかけるのだった。


         ♢♢♢


 天除キフシは焦っていた。リアエルの期待に応えなければと。このままでは自分の存在意味がなくなると。


(今日の陸さんとの食べ歩き……ここで何か情報を得なければ!でないとリアエル様に合わせる顔がありません。陸さんには申し訳ないですが、今日こそは仕事を──ん?)


「キフシ?立ち止まってどうした?何かあったか?」

「どなたか陸さんを呼んでいませんでしたか?」

「オレを?う〜ん、聞き間違いじゃ──」


 次の瞬間、横から誰かが飛び出して来た。


「へい!りっくん!」

「うお!?マミ!?びっくりした〜。バタークッキーと水音は?一緒に遊んでるんだろ?」

「うん!そこにいるよ〜」

「もう、マミは……」


 マミが飛び出して来た方向から水音と、遅れて桔梗もやって来た。走って来たのだろう、桔梗は息を切らしており、呼吸も荒い。

 とても会話ができる状態ではない桔梗の代わりに、水音が自信に満ちた態度で挨拶を……


「こ、ここここんにちは陸。奇遇ね」


できなかった。動揺が表に出過ぎている。


「どうしたどうした」

「な、ななは?へい、へへ平常へい」


 陸の前でガタガタと震え続ける水音。そんな彼女を陸とマミが落ち着けている間、キフシも心の中で動揺していた。


(た、高川マミと氷裏水音!星望声の地神が創った眷属……ど、どうしましょう。いえ、落ち着くのよ私。リアエル様が認識阻害の魔法をかけてくださっているのだから、正体がバレることなんてない……はず)


 キフシがそう自身に言い聞かせていると、桔梗が近寄って来た。もう息切れは治ったらしい。

 桔梗はじっと、穴が開きそうな程キフシの顔を見つける。その顔は怒っているような、けれど見惚れてもいるような複雑なものだった。


「やっぱり可愛い……あの!陸とはどういったご関係で?」

「へ?えっと、お友達、ですね」

「友達……」


 その言葉に水音は安心したようだが、桔梗は違う。疑いの目を向け続けている。

 キフシが居心地の悪さを感じていると、マミがぎゅっと手を握ってきた。マミは桔梗とは違い、親愛のこもった表情でキフシに笑いかける。


「なら、私とも友達になろう!私、高川マミ!貴方は?」

「て、天除キフシです」

「キフちゃん!よろしくね!ところで私達、どこかで会ったことがあるかな?貴方のこと、何故か知っている気がするんだ」

「気のせいじゃないですか。ええ」

「ん〜そっか。まあ、そうだよね」


 キフシは冷や汗を浮かべながら、マミからそっと離れる。そして、早く逃げたいという一心で陸の腕を掴んだ。

 作り笑いを浮かべ、必死に陸の腕を引っ張る。


「あの、皆さんともお話をしたいのですが、今日は陸さんと行きたい場所があるんです。申し訳ありませんが、今回はこれで……」

「ちょっ、キフシ。引っ張らなくても行くから。じゃあ、またな!」

「あっ、待ってください陸!」


 桔梗の呼び止める声をキフシは無視し、急いで進もうとする。そのせいで正面が見えていなかった。


ドンッ


「おっと」

「わっ」


 近くにいた男性に顔面からぶつかってしまう。キフシは赤くなった鼻を押さえ、謝罪しようと顔を上げ──口を開けたまま止まった。

 カジュアルな服装をした、美しい翠色の髪の男性。キフシは彼を知っている。


「あ、貴方は──」


『『ようこそ!私の世界へ!/ようこそ。俺の世界へ』』


「っ!」


 その場にいた全員が光に包まれ、瞬く間に消えていった。陸やマミ達はもちろん、キフシがぶつかってしまった男性までも──

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