黒井探偵事務所 4話
「そう言えばオレが寝る場所ってあるの?」
話し合いが終わり、食事を済ませた後のこと。全員で雑談をしていた中、陸はふと気になったことを口に出す。この探偵事務所があるのはボロいビル。とても狭く、陸が寝る場所があるようには見えない。
「気になるかい?気になるよね?」
「お、おう……まあ、そりゃな」
「よし、教えてあげようじゃないか。おいで」
灯は立ち上がり、嬉しそうに歩き出す。まるで親に褒めてもらおうと張り切る子供のようだ。
案内された場所にあったのはクローゼットだった。陸がチラリと灯を見ると、自信満々にここを開けろと目で訴えてくる。意味は分からないが、質問しても答えてくれないだろう。諦めてゆっくりとクローゼットを開ける。
中は誰かの私室になっていた。
「お〜凄ぇ!」
薄い赤の壁紙に、赤と黒で統一された家具。生活感のある部屋だ。案内されて来たのだから灯の自室だろうが、意外と可愛い物が多い。女子の好みそうな家具だったり、白い蛇と黒い蛇のぬいぐるみが置いてあったり……想像していた部屋とは随分違っていた。
「も〜説明するなら私の部屋じゃなくて先生の部屋でやってくださいよ」
「ってことは……ここマミの部屋!?灯さんが可愛い系好きなんだと思ったのに」
「嫌いじゃないよ。好きでもないけれど。そして、ボクの部屋は今は見せられない状態だから無理だね」
「また散らかっているんですか?片付けはちゃんとしてくださいね……」
追い付いて来たマミは呆れているが、悲しいことに灯の心には響いていないようだ。「今度やるよ」と直ぐに流されてしまう。
「そんなことより!クローゼットの中が部屋になっている秘密、知りたくないかい?」
「そ、そうだな!知りたい!」
「秘密はこれさ。とある地神が趣味で作った本、魔術書!これがあれば本来使うことができない力だって使えるようになる」
「魔術書!漫画やゲームでよく見るやつだ!」
得意気に灯が取り出した物は藍色の本。少し禍々しさを感じるが、普通の本に見える。
「まあでも、本物は入手困難でね。これは不完全な模写本だよ」
「不完全なの?」
「うん。まず魔術書とは、儀式をして本の中の魔力を使用できる物でね。内容だけ分かっていても、魔術書がなければ意味がないんだ……しかし!様々な者達が努力した結果!」
灯はグッと陸に近付く。
「一部だけだが、力を使える状態で模写することに成功したんだ。本物と全く同じではないし、力も劣る不完全な物だが、十分使える本だよ」
ドヤ顔をする灯の横で、マミがパチパチと拍手をしている。きっと何時もこうなのだろう、慣れを感じさせる姿だ。
「おお……凄いかも!」
「ふふふ、そうだろう?ボクは模写本を2冊持っていてね。これはその内の1冊。異空間を作ることができる魔術師だ。この魔術書の力を使って陸の部屋も作るよ」
「めっちゃ便利じゃん!ありがとう!地下世界の皆はこういうの使って生活してるんだな」
「使っていませんよ。犯罪ですから」
「……は?」
フェリが顔を出しながら返事をする。いつから聞いていたのか分からないが、話は理解しているようだ。
「な、何……犯罪?」
「悪用できますからね〜。魔術書が地神のうっかりで地上中に散らばってから、地下世界は大変だったみたいですよ。今は本物も模写本も関係なく、持っているだけで捕まります」
「捕まるって……法とかあるの?警察っているの?」
「ありますし、地下世界にも警察に近い存在がいます。1階層で化け物に殺されかかっていた方々がいたでしょう?あれがそうです」
絶句する。もしかして、応援が来ると聞いた灯が早く移動したがっていた理由は……
「陸、聞いてくれ。キミはボク達の仲間、つまり一心同体だ。キミの秘密はボク達の秘密、そしてボク達の秘密はキミの秘密ということ」
「いやいやいや、こんな話──」
「改めて言わせてほしい。陸、この探偵事務所に入ってくれてありがとう。……じゃ、ボクはこれで。おやすみ〜」
「おやすみじゃなくて!」
灯は一方的に話すと逃げ出す……が、直ぐに戻って来た。
「あ、ちなみにこの魔術書、言った通り不完全だから不便でね。陸の部屋を作るのに3日はかかるんだ。申し訳ないがそれまではソファーを使っておくれ」
そう言って今度こそ本当に出て行く。残ったのは立ち尽くすしかない陸と、ただただ申し訳なさそうにしているマミとフェリだけだ。
何も分からない異世界、けれど帰る方法を共に探してくれる仲間ができた。喜んでいいはずなのだが……。
「何か……何か……思ってたのと違うんだけどー!」
陸は初日から大絶叫をするのだった。




