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第五依頼 結成 古目探偵団 3話

「それで?これからどうするつもりなのかしら?」


 意気揚々と事務所を飛び出した古目探偵団だったが、今は公園のベンチに並んで座り、ゆっくりとアイスを食べていた。


 返事をしない桔梗に、水音は再度「考えはあるの?」と問いかける。

 桔梗は焦る様子もなく、アイスを一口食べてから答えた。


「そう慌てなくても大丈夫です。とある筋から情報をもらい、ツツキ様をやったことがある人に連絡をとりました。もう直ぐ来ると思いますよ」


 その言葉通り、少し待つと入り口から誰かが近付いて来た。小学生くらいの少女だ。

 少女は桔梗達の前で止まる。そして元気な声で挨拶をしてきた。


「初めまして!貴方が古目さん?」

「はい、そうですよ。立野さん、今日は来てくれてありがとうございます」


 桔梗は立ち上がり、挨拶を返す。


「さて、早速なのですが──」

「あ!アイス!いいな〜、私も食べたい」

「へ?えっと……」


 立野は桔梗の言葉を遮るように、どんどん話し続ける。喋るタイミングを失った桔梗はただ慌てることしかできない。


「奢ってよ〜。私、呼ばれて来たんだよ?ね、お願い!」

「あ、あの……えっと」


 見兼ねた水音が会話に割り込む。


「はあ……待っていなさい。アタシが買って来てあげるわよ」


         ♢♢♢


「それで、何だっけ?私が前にやったツツキ様の話だっけ?」


 買ってもらったアイスを食べ終わった後、ようやく立野は本題に入った。その時のことを思い出すように目を瞑る。


「ん〜、でも私もそこまで詳しくないよ?」

「構いません。ツツキ様のことを何でもいいので教えてください」

「オッケー。じゃあまず、ツツキ様のやり方について話そうか」


 立野が言うにはこうだ。


 まずは準備する物。『1枚の紙』』『十円玉』『1体の人形』『人数分の食べ物』の4つ。

 用意した紙には五十音、数字、“はい”、“いいえ”……そして鳥居ではなく四角を書く。この四角の中には、参加する人数を書く必要があるそうだ。


 次にやり方。最初に人形を自分達の近くに置く。これは、人形を自分達の身代わりにする為だ。もし何かあっても、人形が被害を肩代わりしてくれるらしい。

 そして、食べ物も人形の周りに置く。この食べ物はツツキ様への捧げ物らしく、絶対に用意しないと駄目なようだ。


 後は紙を広げ、通常のコックリさんと同じ流れで進める。もちろん、途中で十円玉から手を離すのは禁止だ。


 そして最後。ここも変わっており、「お帰りください」と言ったらツツキ様の返事を聞かずに席を立っていいらしい。

 ただしその後、一人一人順番に人形に息を吹き込む必要があるようだ。見守ってくれていたことに感謝を込めて、ゆっくり、ゆっくり──


「これが私の知っているツツキ様のやり方だよ」


 長話で疲れたのだろう、立野はグッと伸びをした。桔梗達はしばらく黙っていたが、マミが手を上げ、質問をする


「ねえ、このやり方で実際に何か起きた?」

「う〜ん、十円玉は動いたかな。後、部屋のカーテンが揺れたり、ドアの方からノックの音がした!ウケるよね」

「ウケるって……アンタ怖くなかったの?」

「全然」


 立野はケラケラと笑いながら続ける。


「流行ってるからやったけど、私も友達もお化けとか都市伝説とか信じてないんだよね〜。十円玉が動いたのは誰かが力を入れただけだろうし、ノックの音も何かが当たったんでしょ」

「え〜じゃあ、カーテンが揺れたり理由は?」

「揺れる時もあるでしょ。知らないけど」


 立野という少女は、驚く程オカルトへの恐怖心がないようだ。ツツキ様も遊びの延長としか思っていない。

 桔梗は呆れながらも別の質問をする。


「それでもルールは最後まで守ったのですか?」

「当然!どんな遊びでもルールは守んないと!そうじゃないと面白くないじゃん」

「そ、それはそうですが……その状況下でそう思えるあなたは凄いですね……」

「えへへ、ありがとう」


 何故か照れている。褒めたわけではないのだが……。


 それからもマミと桔梗が立野を囲み、質問を続ける。そんな中、水音は少し距離を取っていた。頭の中でツツキ様の情報を整理する。


(わざわざ『何かいるアピール』をした?人間が狙いかしら。恐怖からルールを破り、逃げ出す子を待っている?……なら、やはり都市伝説を利用している奴がいるわね。だって──)


「だって、噂から生まれた子には意思がないし、もっと機械的な動きをするもんね」


 いつの間にか、マミが桔梗の近くまで来ていた。


「……アタシ、声に出していた?」

「いや〜。多分そう考えているんだろうなって思っただけ。合ってる?」

「合っているわ。まあ、敵がどうだろうとアタシ達が負けるわけないわね。……それで、あの2人は?」

「きーちゃんは電話中。あの子はきーちゃんの周りで遊んでいるよ」


 マミが指差す方向を見ると、真剣な顔で電話をしている桔梗と、その周りを走り回っている立野がいた。立野は時々止まって変顔をしているが、桔梗が笑うことはない。


 直ぐに電話は終わった。桔梗が焦った顔でマミと水音の方を向く。


「あの、田中さ……クラスメイトから電話があって、その子の妹がツツキ様に……呪われた、らしいです」


         ♢♢♢


 立野と別れ、桔梗達は田中に教えられた家に来た。インターホンを鳴らすと、直ぐに田中が出て来る。


「古目ちゃん!……と、あれ?探偵事務所の人?」

「こんにちは〜。ここは貴方の家?」

「い、いえ妹の友達の家です」

「大人は?」


 田中は首を左右に振る。


「その子の親は今いないし、アタシの親は……あれだから……」

「そっか〜。なら、ひとまず中に入ってもいいかな?」

「あ、も、もちろん。どうぞ」


 田中に招かれ、家の中に入って行く。辺りを見渡し、玄関や廊下などを観察するが異常はない。“呪われた”と言っていたが、騒がしさもなく、むしろ静か過ぎるくらいだ。


「こっちです」


 田中は階段を上って行く。どうやら問題は2階で起きているらしい。桔梗達も後に続く。

 2階には1人の少女がいた。とある部屋の前で体育座りをし、声を押し殺しながら泣いている。

 田中は少女に駆け寄り、優しく肩抱く。


「大丈夫?」

「ぐすっ、うん。ごめ、なさい。迷惑、かけて」

「謝るのは全部終わってからだよ」

「この部屋の中で何かあったのですか?」

「うん。この子以外の2人でツツキ様をやったらしいの。それで──」


 田中は立ち上がると、喋りながら扉を開ける。

 中は何の変哲もない普通の部屋だった。物が散乱していることもなければ、化物もいない。


「何もいないね」

「はい、ツツキ様はいません……ですが、ベッドを見てください」


 そう言われ、部屋の入り口からベッドを見る。ベッドの上には2人の少女が寝ていた。


「片方がアタシの妹です。電話をもらって急いだんですけど……アタシが来た頃にはもう妹達の意識はありませんでした」

「立野さんは無事だったのに……何故でしょう」

「何でもツツキ様のルールを破ったらしいの。人形が動いたり変な音がしたりして、怖くなって手を離したみたい」


 桔梗は成程と納得し、注意しながら部屋に足を踏み入れる。

 それまで気付かなかったが、ローテーブルの上には紙と十円玉が置かれていた。そして床には2つのお菓子。先程教えてもらったツツキ様に使う道具に間違いない。


(あれ?でも何か足りないような──)


 桔梗がそう思った瞬間、部屋の外から悲鳴が聞こえてきた。


「いやぁぁ!!何で!何で!」

「お、落ち着いて」


 慌てて部屋から出る。叫ぶ少女の見つめる先には、1体の人形があった。

 それは日本人形だった。長い髪も、赤い和服もよく手入れされており、大事にされていたことが分かる。……だが、そんな人形でもこの状況で現れたら不気味に見える。


「机の上に置いていたのに何で!?私はツツキ様をやっていないのに!」

「もしかして、この人形をツツキ様に使ったのかしら?」


 水音の質問に少女はコクコクと何度も頷く。水音は「そう」とだけ言うと、人形に近付いて行った。そして手を伸ばし、人形の髪を掴む。そのまま人形を持ち上げると、顔の近くまで人形を持っていき、じっと観察をした。


「この子、貰ってもいいかしら」

「え、は、はい」

「ありがとう。ツツキ様のことはアタシ達が解決するから安心して。ほら、行くわよマミ」

「あっ、も〜!行動が早いな〜」


 さっさと階段を下りて行く水音を、マミが急いで追う。水音の強気な言動に、怯えていた少女も落ち着いたようだ。


 静寂に包まれる家の中。誰も動けずにいると、「って、ちょっと!」と桔梗が叫んだ。


「何を自然にわたしを置いて行っているのですか!待ちなさい!わたしが隊長ですよー!」


         ♢♢♢


「全く、隊長を置いて行くなんて酷い隊員です」

「あら、あの家にいたらよかったのに」

「何を言っているのですか!」

「こーら、喧嘩しない。きーちゃんがツツキ様セットを貰ってきてくれて助かったじゃん」

「いや、マミもわたしを置い行きましたよね?」


 桔梗達は住宅街から離れた場所にある、古い空き家にいた。もちろん入る許可はもらっていない。完全に不法侵入である。


 埃を被った古い机の上に、マミはツツキ様に必要な物を置いて行く。


「これからツツキ様をやるのですか?」

「ええ。人形から微かに気配を感じたわ。この人形、憑いているわね。ツツキ様なんて大層な物じゃない“何か”が」


 机の端に置いた人形を見ながら水音は答える。

 桔梗も同様に人形を見てみるが、残念ながら何も分からない。諦めて水音に視線を戻す。


「人形に憑いているのがツツキ様でないのなら、ルールなんて関係なく襲ってくるのではないですか?」

「それはないわ。ルールとは契約なのよ。『質問に答える』代わりに、向こうは『約束事を守る』という契約。これが一方的に破られたとなれば、破った側が弱くなり、逆に破られた側は強くなる」

「成程。それが狙いだと」


 そうしている間に準備が終わったようだ。マミが声をかけてくる。


「いつでもできるよ〜。ケル君もやると思って四角の中には4って書いておいたから」

「ワン!」

「え、この子もやるの……」

「ええ、隊員ですから。……ちなみに、ツツキ様をやってどうするのですか?」

「途中でわざと指を離すのよ」


 当然のように言う水音に、桔梗は思わず「は?」という声がでてしまう。意味がわからない。マミも同じ気持ちだろうと、チラリと目を向ける。だが、無駄だった。マミはやる気に満ちた目をしている。


「人形を壊しても意味はないわ。別の何かに乗り移るだけ。やるなら本体を叩かないと」

「で、でもルールは契約って……破ったら駄目なのでしょう?」

「基本はそうね。でも契約の仕方や力の差で、契約を破った時の罰は変わる。つまり──」


 言い終わる前に、マミが水音に抱き付いた。そして自信満々に告げる。


「私達は強いから、弱い子との弱い契約を破ったところで痛くも痒くもないんだよ」

「邪魔」

「うぇ〜照れ屋さん」


 鬱陶しそうにマミを引き剥がす水音。緊張感なんてなく、格好もつかないふざけた様子だ。……しかし、何故か信じられる気がした。


「分かりました。わたしもこの探偵団の隊長として腹を括りましょう」


 桔梗が十円玉に人差し指を置く。それを見て水音とマミも指を、そしてケルベロスは前足を置いた。


 桔梗は深呼吸をして、ゆっくり口を開く。


「ツツキ様、おいでください」

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