第五依頼 結成 古目探偵団 1話
とある田舎街の隅にある4階建ての雑居ビル。そこはとても古く、不気味な雰囲気を纏っていた。その為、前を通る人間はいても中に入ろうとする者はいない。
だが、そんなビルに足を踏み入れる少女がいた。
「ふんふんふふ〜ん」
少女の名前は古目桔梗。夏休みを絶賛満喫中の小学生だ。
桔梗は足取りも軽やかに階段を上って行き、2階へ向かう。そして、『黒井探偵事務所』の紙が貼られた部屋の前で止まった。
軽く身だしなみを整えた後、深呼吸をする。
「す〜は〜……よし!こんにちは〜陸!遊びに来ましたよ〜!」
明るく大きな声を意識しながら挨拶をする。……しかし、残念ながらそこに想い人はいなかった。
「きーちゃんだ!いらっしゃ〜い」
部屋の中にいたのは探偵事務所の一員である高川マミ。そして──
「あら、知り合い?」
紫の髪をした美人だった。
桔梗は一瞬固まった後、マミに手招きをしてら呼び寄せる。
「……マミ、こっちに来てください」
「ん〜?どうしたの?」
トコトコと歩いて来たマミの腕を引っ張る。そして小声で話しかけた。
「だ、誰ですか?あの人」
「私の友達。名前は氷裏水音」
「友達……その、氷裏さんは──」
「アタシがどうかしたのかしら?」
気付くと水音が近くまで来ていた。桔梗は猫のようにビクッと跳ねると、サッとマミの後ろに隠れてしまう。
そんな様子を水音は不思議そうに見る。
「マミ、この子は?」
「古目桔梗ちゃん!人間のお友達!」
「……もう少し言い方を考えなさいな」
「あ、あの」
桔梗はおずおずと顔だけを出す。
「氷裏さんは、その、探偵事務所の方達と仲が良いのですか?」
「え?いえ、別に全員と親しいわけではないけれど……」
「水音は私以外ならりっくんと仲が良いよね。今日もりっくんに会いに来たんでしょ?」
水音の顔が一気に赤くなる。その変化を桔梗は見逃さなかった。
「ち、違っ、別にそんなことないわ!ア、アタシは──」
「恋敵」
「え?」
桔梗はスッと前に出る。恥ずかしそうにしていた先程までとは違う。鋭い目で水音を見つめている。
ビシッと勢いよく水音を指差した。
「その反応……あなたも陸のことが好きなのですね!」
「はぁ!?す、好き!?」
水音は熱くなった頬を両手で押さえながら、首を左右にブンブンと振る。
「す、すすす好きではない……と思う」
「思うぅ?何を誤魔化しているのですか!はっきりしやがれです!」
「う、うるさい!本当に分からないのよ!だって……だって!誰かを好きになったことなんてないの!」
「え、水音は私のこと好きじゃないの?」
「おバカ!そういう話ではないでしょう!アンタに対する好きは親ゆ……い、いや何でもないわ」
そう言われても意味が分からないようで、マミは不満気に「え〜何で?」と騒いでいる。
マミのせいで問い詰めるような空気でもなくなってしまった。桔梗は溜息をつくと、呆れながら説明をする。
「もう、何を言っているのですかマミ。例えば、美味しいご飯を食べて“好き”と思うのと、事務所の人達に対して“好き”と思うのは違うでしょう?それと同じです」
「違わないよ」
「え?」
マミは当たり前のことのように言う。
「もちろん好きの大きさは違うよ?でも“10”好きって思うか、“100”好きって思うかの差でしょ?それ以外にあるの?」
流石の桔梗も開いた口が塞がらない。助けを求めるように水音を見るが、水音は『諦めなさい』と言わんばかりに首を左右に振るだけだ。
「な、何で無言なの?きーちゃん?水音?」
「この子は昔からこうなのよね……」
「マミ、“好き”には種類があるのですよ」
「え〜感情って難しい」
「中学生時代のわたしの姉みたいな発言をしないでください……今度、少女漫画を持ってきてあげます。一緒に勉強しましょう」
完全に話が逸れてしまった。桔梗は気持ちを切り替えるようにコホンと咳をする。
そして、改めて事務所内を見渡した。
「それで、陸はどこです?というか灯の野郎とフェリのおじ様もいませんね」
「先生達は出かけているよ。ババ抜きの罰ゲームでね、並ばないと買えない高級プリンを買いに行ってもらっているの。だから今日は私と──」
「ワン!」
「ケル君しかいないんだ」
嬉しそうに走って来るのは探偵事務所の看板犬、ケルベロスだ。
「あら、犬なんていつ飼った── 何よその犬!?」
ケルベロスを見た瞬間、水音が驚きの声を上げた。後退り、ケルベロスから距離を取る。
「どうしました?犬は嫌いですか?」
「いや、嫌いじゃないけれど……」
(何故かこの犬からウィクシー様の魔力を感じるのよね……)
黙ってしまった水音に首を傾げつつ、桔梗はケルベロスを抱き上げる。そして頭を撫でていると、ふと事務所に入る前のことを思い出した。
「あ〜……そういえば『休業日』って書いてある紙が扉に貼ってあったような……気も……」
「……ごめんなさい。アタシも気付かずに来てしまったわ」
「気にしないで!来てくれて嬉しかったよ。せっかくだし、皆が帰ってくるまで遊ばない?」
「そうですね。何かゲームでも……あ!違います!ちゃんと用事があったのを忘れていました」
桔梗は慌ててケルベロスを下ろすと、ソファに移動してマミ達を手招きする。座れと言いたいのだろう。
マミと水音は不思議がりながらも、ひとまず質問はせずソファに並んで座った。それを満足そうに見た後、桔梗も対面に座る。
「昨日、とある噂を聞いたのです。お二人は知っていますか?──『ツツキ様』を」




