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黒い探偵事務所 3話

「どうしたんだい?」

「空がおかしいんだよ……何か大きい目?が浮かんでて……」


 陸が外の様子を答えると、灯は真剣な顔になる。


「キミは“アレ”をおかしいと思うのかい?」

「当たり前じゃん。あんなの普通じゃねぇよ!」

「……ねえ、キミは地球って知っているかな?」

「何だよその質問。オレ達の星だろ」

「住んでいた国は?西暦何年だった?」

「に、日本。西暦2025年」


 質問の真意は全く分からないがそれでも答えていく。灯は頭を押さえ、息を吐いた。


「キミに気付いたのがボクだったのは偶然じゃないのかもしれないな」

「?」

「まずは約束を守れないことを謝るよ。キミを直ぐに元の生活に戻すことはできない」

「待って、灯さん何言ってんの?」

「陸、落ち着いて聞いてほしい。ここは地球ではない」


 灯は陸の肩に手を置く。灯を見上げる陸の瞳は不安で揺れていた。


「この星の名前はアーティマ。この世界はキミからしたら──異世界だよ」

「い、異世界……」

「移動しようか。ボク達は地上で探偵をしていてね、事務所で説明をするから付いておいで」


         ♢♢♢


 灯に連れられて来たのは、とある街の隅にあるボロい4階建ての雑居ビル。その2階、『黒井探偵事務所』の紙が貼られた部屋だ。


 来客用のソファに腰掛けていると、フェリが紅茶を持って来てくれた。甘く良い香りに少しだけ心が落ち着く。

 灯は陸の対面に座るが、マミとフェリは座るつもりがないのだろう、ソファ脇に立っている。


「まずはこの世界の説明からしようか」

「……お願いします」

「ふふ、そう畏まらないでおくれ。長話になるからリラックスして聞いてほしいな」


 灯はコホンとわざとらしく咳をして話を始めた。


         ……………


 大昔、この宇宙に1体の生命が産まれた。その生命は自身をアーティマと名付け、他に2体の生命を創り出す。そして、「沢山の生命で溢れる星を創りなさい」という言葉を残し、大地へ海へ……“星”へと姿を変えたんだ。


 その後、アーティマの上に降り立った2体……いや2柱は、自身達を“地神”と呼称し、他の地神や生物を創り続けた。その結果、アーティマはとても豊かで美しい星になる。

 しかし、だからこそ目を付けられた。今から何億年も昔、宇宙から侵略者達が現れたんだ。


 地神と侵略者達の戦争は約300年間続いたよ。けれど決着は着かず、この星も悲惨な状況でね。このままでは生命が住めなくなると、休戦の協定を結ぶことになった。


 そんな話し合いの最中、何の前触れもなく、星となったはずのアーティマが人間の姿をして現れた。そして、こう告げたという。「協定に私の名を記します。さすればこれは星との契約。破れば星檻の中で永遠の闇に封じ込められることでしょう」と。


         ……………


「星檻って……」

「うん、キミが使ったものだ」


 陸は頭の中で話を整理しつつ、少し前に聞いた6階層の説明を思い出した。扱える者がいない最強のアイテム、それが星檻だったはず。

 必死に記憶を辿っている陸の正面で、灯は優雅に紅茶を一口飲む。そして説明を続ける。


「星檻はね、この協定の内容を破った者を無力化し、永遠に閉じ込めることができるんだ。この力に逆らえる者はいないよ」

「やっぱり強いな……それ、最初から使ってたら侵略者も倒せたんじゃね?」

「そうだね。だが、本来星檻はこの星で産まれた存在にしか効果はないらしい。それを、侵略者側に自分の意思で合意させることで対象に含めることができたんだ。だから、協定を破らない限り星檻は出て来ないし、地神側も協定を守らないと星檻による罰を受けるようになった」


 どうやら星檻は敵でも味方でもないようだ。これでは地下世界側も自由に動けないだろう。

 星檻について大まかに理解した陸だが、また別の疑問が頭に浮かぶ。


「星檻のことは分かったけど、アーティマだっけ?ソイツは何でもっと早く来てくれたかったんだ?星檻以外にも色々やれそうじゃん」

「それはね……」


 陸の質問に灯はふっと笑うと、勿体ぶりながら次の言葉を口に出す。


「分からない」

「は?」

「分からないんだよ。そもそもアーティマは眠っているんだ。もし目を覚ますなら、それは星ではなく生物になるということ。つまり、この星の滅亡を意味している。なのに何故姿を現せたのか、それができるなら何故もっと早く出て来なかったのか……何も分かっていないんだ」

「えー、マジ?灯さん何でも知ってますって顔してたじゃん!」


 灯は少しムッとした顔になる。大人びた見た目とは裏腹に、拗ねた子供のような態度で反論をしてきた。


「仕方がないじゃないか。その場にいたのは星の代表者達だけ。ボク達は後から話を聞かされたに過ぎない。詳しいことなんて教えてもらえる訳がないだろう」

「ごめん、そっか。それはどうしようもないな」


 思っていたよりも灯は子供じみた性格なのかもしれない。お菓子を食べて心を落ち着けている灯の姿を見て、陸はそう思うのだった。


「まあ、ここまでで覚えておくべきは、侵略者が攻めて来たこと、今は休戦中だということ、協定と星檻によって表立って戦えないことくらいだよ。大事なのはこれからだ」


 灯の真剣な表情に、陸は背筋を正す。


「現在、侵略者共は『天神』と名乗り、空の上に居座っている。あの空に浮かぶ目、あれは天神が地上を見張る為のものだ。停戦中の今は使っていないが、いつでも監視を再開できるように残している。分かるね?アイツらはこの星を諦めていない。協定の抜け道を探しては色々と攻撃してくるだろう」

「もしかして、さっきの白い化物も?」

「うん。地下世界まで入られたのは初めてだけれどね」


 あんな危険な生物を送り込んでくるとは……陸が思っている以上にこの星は危険な状態なのかもしれない。

 灯は続ける。


「この状況はあまりよくない。……そんな中、キミが現れた。星檻を自由に扱えるキミならこの星を救えるかもしれない、皆がそう期待するだろう。だから──」

「は、ちょっとまっ……」


 確かに、ここまでの話を聞くと陸はまるで救世主だ。だが、急にそんなことを言われても困る。自分で力になれるなら助けたいが……そう悩む陸に、灯が告げた言葉は意外なものだった。


「陸の力は隠す必要があるね」

「え?」


 思ってもいない言葉に思わず気の抜けた声を出す陸。この世界の住人である灯達なら、何が何でも助けてほしいはずだ。


「侵略者……天神?と戦えってことじゃないの?」

「それはこちらの都合だ。異世界から来た君が背負わされることではない。星檻のこともよく分かっていないのだろう?」

「うっ……はい」

「なら尚更無理をする必要はないよ。あのね、陸。押し付けられたことを無理して頑張る者より、やりたいことを頑張る者の方がボクは好きなんだ」


 優しく、まるで悪魔が人間を堕落さようとしているかのような声音だ。灯は陸を指差し、続ける。


「キミの人生だろう?誰かの願いを叶える為に生きるくらいなら、自分の願いを叶える為に生きた方がいいに決まっている。平凡でも、側から見れば馬鹿みたいでも……最後に『楽しかった』と言える生き方をした方が正しいのさ」


 この言葉の全てが正解とは限らない。だが、そう話す灯の姿はとても楽しそうだ。陸は少し考えた後、真っ直ぐに灯を見る。


「灯さん。オレは……帰りたい」


 満足そうに頷く灯。自身の胸に手を当てながら力強い声で返答する。


「ならばその依頼、この『黒井探偵事務所』が受けよう」

「何とかなるの?」

「何とかするさ。それに、他の者に頼むよりも早いと思うよ。何と言ってもボクはキミの世界に行ったことがあるからね」

「え!?」


 色々と知っていることは理解していたが、この理由は予想していなかった。驚く陸に構わず灯は話を続ける。


「ボクが行ったのは50年後の君の世界。つまり西暦2075年だ」

「お〜!未来だ!凄ぇ!」

「ふふ、凄いだろう。まあ、もう行き方は分からないのだけれどね」

「あ、そうなんだ……」

「そう落胆しないでほしいな。ボクはキミの世界について調べる為にこの事務所を作ったんだよ?世界を渡る方法だって見つけてみせるさ。キミは安心して事務所にいてくれればいい」


 どこからその自信が湧いてくるのか……しかし、他に頼れる存在はいない。ここまで一緒にいて灯が悪い者ではないことも知っている。それらを踏まえたうえで陸がした決断は……


「ごめん、でも依頼はしない」

「……何故か聞いても?」

「助けてもらうだけは嫌なんだ」

「何だそんなことか。別に気にする必要はないよ、ボクもキミに色々と聞きたいからね。キミの安全を保証する代わりに、キミは情報を──」

「いや助けてもらうんだからさ、オレの知っていることを話すのは当然だろ?そうじゃなくて」


 灯は少し不安そうな顔をしている。情報がほしい以上に、陸を心配し、助けたいと思っているのだろう。


「オレを探偵事務所に入れてくれ。依頼者じゃなくて、仲間として助け合う関係になりたいんだ」


 陸の言葉に灯だけでなく、黙って聞いていたマミとフェリも驚く。灯は数秒考え込むが、陸の目を見て決意が固いことを理解すると諦めたように微笑んだ。ゆっくりと手を差し出す。


「キミさえよければ是非。黒井探偵事務所は陸を歓迎するよ」

「ありがとう灯さん!これからよろしく!」


 そう言って手を握る陸。灯は満足そうに頷くと一呼吸置いて立ち上がる。


「では改めて、ボク達の自己紹介をしようか。ボクは灯。種族は精霊、地上では黒井灯と名乗っている。よろしく」

「はい!私、マミ!種族は眷属で、高川マミって名乗っています。これからよろしくね」

「フェリです。フェリ・タリーク。僕は混ざり者でして……人間に変身できずこの姿なのですが、仲良くしてくれると嬉しいです」


 全員の自己紹介を聞き終えてから、陸も自分の名前を名乗る。これからの不安や緊張、そして少しのワクワクを胸に秘めながら。


「八崎陸です!人間です!まだこの世界のことも帰る方法も全然分かんないけど……よろしくお願いします!」

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