第四依頼 理性なき怪物 6話
旅館に戻った陸達は女将の好意で温泉に入らせてもらい、遅めの夕食も用意してもらった。
(この好待遇、やっぱりオレ達がウィクシーさんの関係者だからかな〜)
陸はウィクシーと旅館の従業員達に感謝しつつ、食事を済ませる。
その後、やっと話し合いが始まった。早々に灯が話を切り出す。
「黒幕なんだが、ボクは陸とマミが会った佐藤
という青年が怪しいと思う」
「え!?」
それは予想外の言葉だった。陸は色々と質問したい気持ちを抑え、灯の次の言葉を待つ。
「1番大きな理由は盗聴器だね。ボク達が話を聞いた相手は、『怪物が灰になった後は何も落ちていなかった』と言っていた。つまり、普段は盗聴器なんて仕掛けられていないんだ。なのに何故、今日に限って仕掛けられていたのか……キミ達はどう思う?」
灯以外の全員が考えるように頭を捻る。少しして、マミが何かかを思い付いたのか「はい!」と手を挙げた。
「あれじゃないですか?すっごく強くて特別な怪物が作れたから、今回はデータを取りたい!みたいな」
「ですが、それならあんな風に即座に自爆はさせない気がします」
「んあ〜そっか、そうだよね。……何なら、夜に出歩く子なんて今はいないのに、そんな特別な怪物は出さないか」
誰に言うわけでもなくマミが言った台詞。その言葉の何かが陸には引っかかった。
違和感の正体に気付くべく、陸はマミの言葉を繰り返す。
「夜に出歩く奴がいない……あれ?なのに今日、ピンポイントに盗聴器が仕掛けられていた?何か、まるで公園に誰かが来ることを分かっていたような──」
そこまで口にして、やっと灯の言いたいことを理解する。公園内に陸達以外がいなかったことは確認済みだ。つまり、黒幕は『陸達が公園にいることを知っている存在』。陸とマミが話を聞いた女性の線もあるが、確実に知っているというのなら佐藤の可能性が高いだろう。
だが、それでも疑うのが嫌で、陸は考えを否定するように首を振る。
「で、でもよ!こんなことして、佐藤に何の得があるんだよ?」
「それはボクも分からないが……正直、どうでもいいんじゃないかな。得とか理由とか」
「ど、どうでもって……」
何とも適当な言葉だ。だが、どうやら灯は灯なりに考えがあって言ったらしい。
「ほら、怪物に文字が書かれていただろう?言うなればあれは、『自然死に見せかけた殺人を行いたいのに、わざと部屋を荒らす行為』だ。絶対に叶えたい目的があればこんなことはしない。つまり、いかにその瞬間楽しいかが黒幕にとっては大事なんだよ」
「楽しさ……これの何が楽しいんだ」
疑問を投げかけるというよりは、独り言のつもりで陸は呟く。
それに対し、灯は「経験則だが」と前置きして言葉を続けた。
「例えば、魔法や魔術の存在を知った人間。彼らは倫理観のない行動を取る者が多い。特に思春期の人間が魔術書を手に入れた場合は、自分を特別な存在だと勘違いして暴走するきらいがある」
フェリとマミも苦笑しながら頷く。
「そ、そんなによくあることなのか?」
「ええ……車を操って歩道に突っ込ませる、気に入らない相手の家を燃やす、学校でデスゲーム、他にも色々……」
「私、忘れられない事件があってね……夜の学校で人質をとった人間が、『俺には感情がない』って言ってて、でも『馬鹿は嫌いだ』って言うんだ。だから、『嫌いって感情はあるんだね!』って言ったら、キレて攻撃してきたんだよね……人間って不思議な生物だよ」
陸は驚きのあまり言葉がでない。
陸自身、急に魔法が使えるようになった人間だ。しかし、自分を特別だと思ったことも、意味もなく誰かを傷付けたいと思ったこともない。
だからこそ、陸にはそんな人間達の感情が理解できないのだ。
「陸のような善人には信じられないかもしれないが、残念ながらそういう人間もいるんだ」
「……いや、皆が言うんだから信じるよ。ごめん、話を逸らして」
「謝る必要はないさ。思ったことを言い合わないと話し合いの意味がないからね」
灯は仕切り直すようにコホンと咳払いをする。
「では本題に戻ろう。現時点で1番怪しいのは佐藤という青年」
喋りながら紙を取り出し、ペンを走らせる。
「反撃されるという考えをもたず、怪物に文字を書いて襲わせる浅慮さ。加えて、返り討ちにあうと慌てて自爆させ、誤魔化そうとすることから、『よく考えず調子に乗って行動をするが、予想外の出来事への対処能力はない』、後先を考えない性格だと思う。そして、陸とマミから聞いた印象ではプライドが高い」
言い終わると同時に灯はペンを置く。紙には今日の出来事と、佐藤の情報が簡単にまとめられていた。
灯はトントンと指で机を叩く。
「こういう性格なら、大人しくなるどころか直ぐにまた行動を起こすよ。早かったら明日だね」
「なら、ひとまず私が佐藤君を探しに行って来ますね!」
「うん、頼んだよ」
「僕も行きましょうか?」
「いや、フェリはボクと一緒に街の探索をしてほしい。佐藤のことはマミと……陸、いいかな?」
陸は頷く。だが、その顔からは納得していないという気持ちが漏れていた。やはり、この状況でも一方的に佐藤を疑いたくないのだろう。
そんな陸を否定することなく、灯は気遣うように喋りかける。
「陸。前にも言った通り、ボクはやりたいことを頑張る者が好きだ。キミが少しでも嫌なら、佐藤を追う役はフェリに頼むよ。……けれどね、よく考えてほしい。これは佐藤の無実を証明するチャンスだ、と」
「!」
「ボクだって、自分の推理を絶対に正しいと思っているわけではない。佐藤が今一番怪しいから追うだけなんだ。本当は疑いたくない……分かってくれるかい?」
「お、おう!分かるぜ!」
陸は首が取れそうな程、何度も何度も頷く。
佐藤を黒幕だと決めるためでなく、疑いを晴らすために追う。そう思うと、陸の中にもやる気が溢れていく。
「灯さん、オレやるよ!任せておいてくれ!」
「うん。頼りにしているよ」
こうして、各々の翌日の行動が決まったのだった。
♢♢♢
早朝。まだ寝ている者が多い時間だが、灯とフェリは既に宿を出ていた。
灯は欠伸をしながら、隣を歩くフェリに話しかける。
「陸とマミがいなかったけれど、あの子達はもう出て行ったのかい?」
「はい。何でも『神社を自分達の目で調べておきたい』とのことで」
「ふむふむ、成程〜」
自分から質問しておきながら、ちゃんと聞いていない様子で灯は返事をする。
そうして灯達がゆっくり歩いていると、着信音が聞こえてきた。どうやら灯のスマホに電話がかかってきたようだ。
「こんな時間に?名前の表示もない。……はい、黒井あか──」
「た、探偵さん……助けてください」
灯は電話を取り、名乗ろうとしたが、男の声で遮られてしまう。
相手は名乗らない。そのうえ焦っている様子で、話しかけてくるもののうまく言語化できていない。
だが、灯は直ぐに声の主に気が付いた。
「キミは昨日の不良君かい?」
「は、はい」
返事の声は小さく、そして震えている。
灯は不良が安心できるよう冷静に、はっきりとした口調で会話を続けていく。
「落ち着いて。今はどこに?」
「昨日話した神社の、建物の裏?に隠れてます。仲間にメールで呼ばれて……」
「その子も今は一緒?」
「いや、いなかった、です。誰も……違う、誰かいた、何かいた。後ろから殴られて、足、も痛くて、何とか逃げてここに」
不良の息が段々と荒くなっていく。襲われた恐怖に加え、怪物のトラウマも蘇っているのだろう。
「不良君、大丈夫だ。今からそっちに行くから」
「あ」
ガンッ!
電話越しでもはっきりと聞こえる程の強い衝撃音。続いて、何かが倒れ引き摺られていく音が聞こえてくる。
灯は何度も呼びかける。だが、もう返事が返ってくることはない。
「……フェリ、行き先変更だ。急いで神社に向かうよ」




