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第四依頼 理性なき怪物 5話

 通話を切ったマミは陸と青年の元へ近付く。2人は大きな石を椅子代わりにして座っていた。


「灯さんは何て言ってた?」

「このまま神社を調べて欲しいって」

「お〜じゃあこの辺探索するか」

「うわ、マジか……」


 青年は目に見えて嫌そうだ。はっきりと口には出さないが、睨み付けながら『帰れ』とアピールをしている。


 しかし、空気を読めない読まない陸&マミには効かない。


「なあ、お前名前は?」

「は、え……佐藤」

「オレは八崎陸!よろしくな佐藤」

「私はマミっていうんだ。ねえ、佐藤君はこの辺りの子?この神社は詳しいの?」

「ぐ、ぐいぐい来るなコイツら……」


 佐藤は若干引き気味に陸達を見る。そして少し黙った後、「何で」と疑問を口にした。


「何でこんな神社を調べるんだよ」

「オレら探偵でさ、佐藤は怪物の噂って聞いたことある?」


 “怪物”という言葉に佐藤は反応する。その顔は何故か嬉しそうだ。足をゆらゆらと揺らしながら頷く。


「知ってる。この神社で怪物が出たのも」

「マジ!?オレ達、その怪物事件を解決しようと思ってるんだ。よかったら、この神社を調べるの手伝ってくれよ」

「別にいいけど……多分時間の無駄。調べたところで何も残ってない」

「そうなのか!?」

「ん〜……やっぱり、夜になるのを待って怪物を探すしかないかなぁ」


 情報が得られると期待しただけに、調査の意味がないと言われ肩を落とす。

 その姿を哀れに思ったのか、佐藤は陸とマミを交互に見た後、石から降りた。


「ちょっと待ってろ。この俺が、特別にいいもん見せてやるよ」


 それだけ言うと佐藤は歩き出した。

 陸とマミは顔を見合わせ、首を傾げる。佐藤が何をしたいのか分からない。だが、ひとまず言われた通りに待つことにした。


 佐藤は参道を真っ直ぐ歩き、古い社殿の裏手に回り込んで行く。そして大きいダンボールを持って出てきた。

 ダンボールを抱えたまま早足で陸達の元に戻ってくると、そのダンボールの中を見せてきた。そこには犬が入っていた。ロングコートのチワワで、黒と白のふわふわの毛が特徴的だ。


「うお〜!犬だ!可愛い!」

「わあ、小さいね〜」


 陸が手の甲を鼻元へ近付けると、犬は匂いを嗅ぎ、ペロペロと舐め始めた。人懐っこいようだ。


「わ〜名前は?」

「ない。捨てられていたのを昨日見つけたばかりだから。家で飼えないからここに置いてるんだ」

「捨てられていた?」


 よく見るとダンボールはボロボロで、中に入っている毛布も汚い。犬の毛ももつれており、いい状態とはいえない。

 しかし、犬はそれでも人間が好きなようで、尻尾を振りながら陸達を見ている。


「オレ、この犬のために何かしたい」

「気持ちは分かるけど、依頼優先だよりっくん。佐藤君、この子は噂とどんな関係があるの?」

「ないよ。せっかく来たのに何もないのは可哀想だから見せてやっただけ」

「ええ〜……まあでも、この子がここにいても襲われないくらい今この神社は平和ってことか〜」


 マミはうんうんと頷くと、佐藤にお礼を言う。そして、犬と戯れている陸に移動しようと声をかけた。


「もう!?後ちょっとだけ駄目?ケルベロスももっと遊びたいって言ってるぜ?」

「勝手に名前付けんな」

「駄目です。ほら、抱き上げている犬を降ろして」


 陸は名残惜しそうにしつつも犬を戻す。だが、頑なに手を離そうとしない。仕方なくマミが陸の手を引っ張り、無理矢理引き剥がした。

 そのまま陸を引きずって鳥居まで戻る。そこで佐藤が話しかけてきた。


「なあ、お前らはこの後も怪物を探すのか?」

「うん。どこに現れるか分からないけど、あちこち行ってみるつもり」

「……えん」


 佐藤はポツリと呟く。小さい声で聞き取れず、陸は立ち上がりながら聞き返す。


「え?ごめん、もう一回言ってくれ」

「だから、公園!公園に行ったらいいよ。たかやま公園。今日、怪物はそこに出る……気がする。勘だけど」


 佐藤の声は段々と小さくなる。目も泳いでおり怪しい。


「勘か……オレ達より怪物に詳しい佐藤が言うんだ、当たってる気がする!」

「そうだね。元々公園には行くつもりだったし、そこで待ってみるのもありかも」

「だな!ありがとう佐藤!」

「別に……というかお前ら素直過ぎ。騙されて壺とか買うタイプ」

「壺?」

「何でもない」


 そう言うと、佐藤は陸の背中を押す。まるで、帰れと急かすように。下りの階段前では危ないので止めてほしい。


「言いたいことはそれだけだ!早く行け!」

「佐藤君ってば一方的〜」

「でも話せてよかったわ。また会おうぜ。もちろんお前もな、ケルベロス」


 別れの言葉を告げ、陸とマミは階段を降りて行く。神社には佐藤と、ダンボールに入った犬だけが残った。


「『また会おう』か……」


         ♢♢♢


 時刻は午後11時過ぎ。事務所メンバーは例の公園にいた。そこは予想よりも広い場所だったが、一ヶ所から全体を見渡すことができ、誰かが入って来たら問題なく気付くことができるだろう。


 公園内の調査は既には終わっており、怪物はおろか人間や精霊達もいないことは既に確かめている。現在は、灯とフェリが目立つ像の前に立ち、陸とマミが離れた茂みの中に隠れている状態だ。

 30分は過ぎただろうか。未だに怪物の姿は見えない。陸はマミに小声で話しかける。


「もういつ出てもおかしくない時間だよな」

「だね。もし現れたら私が不意打ち、予想外の出来事が起きたらりっくんが対処、だよね?」「だな。お互い頑張ろうぜ!」


 そんな会話をした直後──


「キャハハ」


笑い声が聞こえてきた。


 それは抑揚のない、AIのような声だった。姿は見えないのに不気味さを感じる。


「おや、来たみたいだね」


 笑い声とともに聞こえてくるのは、ドンッ、ドンッと重い物を地面に叩き付ける音。その音は段々と近付いて来る。

 音が聞こえるのは公園の入り口付近。灯とフェリは警戒するようにそちらを向く。


 暗闇の中、月明かりに照らされて姿を見せた“それ”の正体は──


「蛙……でしょうか?」


 フェリの言葉通り、それは蛙の形をしていた。だが、当然普通の蛙ではない。2m以上ある巨体なうえ、人間の目や鼻、口が体中に付いている。

 蛙は灯達に気付くと大きい声で鳴き出す。……あの無機質な声で。


「キャハハ!キャハハ!」

「……ふむ」


 一直線に灯とフェリに向かって来る蛙。早く避けなれば危ない。しかし、灯は冷静……というよりも、興味を失った様子で怪物を見ており、動こうとしない。


「なんだこの程度か。思っていたよりも弱いね。マミ、殺すのはなしだ。致命傷は避けてくれ」


 灯が指示を出した次の瞬間、蛙が地面に倒れた。

 何が起きたのか分かっていないのか、蛙は不思議そうにする。だが、直ぐに気付いた。両足がないと。

 蛙は背後を見る。先程までいた位置に落ちているのは、間違いなく自身の足だ。


「キィィ!!」

「おっとと、静かにね〜!」


 騒ぎ続ける蛙。そのずっと頭上にマミがいた。手には赤い槍を持っている。

 マミは落下しつつ、槍の穂先を蛙の顔へ向ける。そして、勢いのまま突き刺した。


 槍から手を離し、地面に着地すると、蛙の方に振り返る。蛙の口は槍が刺さって塞がっており、まるで串団子のようだった。叫ぶことすらできないようで、無事な両手を使って必死に槍を取ろうとしている。


「どうします〜?腕も落としておきます?」


 そう言いながら右手を蛙へ向ける。掌の上には魔法でできた赤い花が浮いていた。

 花はゆっくりと形を変化させ、大鎌になる。指示さえあればいつでも腕を落とせるだろう。


「必要ない気もするが……まあ、やっておこうか。フェリも一緒に頼むよ」

「はい」

「陸、キミももう出て来ていいよ」


 灯が大きい声で呼ぶと、少しして陸が走って寄って来た。


「結構早かったな」

「うん、無駄な時間にならなくてよかったよ」

「先生〜!りっく〜ん!終わったよ〜!」

「おや、丁度いいね。行こうか」


 陸達は蛙の前まで移動する。蛙は完全に無力化されており、芋虫のようにもぞもぞと動いていた。


「大したことなかったね」

「でも、夜にコイツが現れたら普通に怖いよな」

「人間だったら対処もできないでしょうしね」


 思い思いに話しているメンバーを横目に、灯は蛙の体をじっと見ていた。


「体にあるこれ、模様じゃないね……手書きの文字かな」

「本当だ!漢字の『実』か?」

「ふむ、他にも書かれていますね……ですが、体に付いている目や口が邪魔でよく読めない……」

「あ、この文字読めそうじゃね?これは多分『験』──」


 陸が目を凝らして蛙の背中を見た瞬間、蛙の体が光り出した。

 急な事態に全員急いで距離を取る。蛙の光はどんどん強くなり、やがて爆発した。肉片が辺りに散らばり、蒸発するように消えていく。


 ものの数秒で、蛙の怪物がいた形跡は何も無くなってしまった。


「おや、驚きましたね」

「いや本当に驚いてる!?やば過ぎだろ!?」

「も、もしかして私のせいかな?これくらいなら死なないと思ったけど、やり過ぎちゃってた?」


 珍しくマミが本気で慌てている。そんな彼女を落ち着かせるように、灯は「そんなことはないさ」と声をかけた。


「待っていてくれ」


 それだけ言うと、灯は蛙が爆発した場所に歩いて行く。そして何かを拾った。

 灯はそれを握ったまま陸達の元へ戻って来る。


「この爆発はマミのせいではない。この事件の黒幕がやったのだろう」

「く、黒幕ですか?」

「ああ。突然現れるようになった怪物に、『実験』の文字。そしてこれ。」


 灯の手には、小さく黒い壊れた機械があった。陸には何か分からないが、灯は知っているようだ。


「盗聴器だよ」

「え!?」

「あの爆発は文字を誤魔化す為か、もしくはこの盗聴器が見つかる前に消す為かな。残っていてよかったよ。おかけで、この事件は自然現象ではなく、意図的に起こしている者がいることが確定した」


 灯は盗聴器をポイっと捨てると、踏み潰して完全に壊した。そのまま陸達に笑いかける。


「宿に戻ろう。黒幕のこと、明日の行動、色々と話し合いたいからね」

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