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第四依頼 理性なき怪物 4話

 天から怪物に遭遇した者達の情報をもらい、二手に分かれて話を聞きに行くことになった。


 陸とマミは温泉街から離れ、とある一軒家の前まで来た。インターホンを鳴らすと、女性の声で『はい』という返事が聞こえる。


「黒井探偵事務所の高川マミと申します。山野天さんの紹介で参りました」

「あ、は、はい!話は聞いています!今開けますね」


 バタバタと足音が聞こえた後、扉が勢いよく開く。そこには落ち着いた雰囲気の女性が立っていた。

 女性は「どうぞ」と陸達を家に招き入れる。


 居間に案内され、陸達は女性と対面に座った。

 女性はそわそわと落ち着かない様子でマミを見ている。


「はわ……あの星望声のウィクシー様の眷属、マミ様……本物……」

「はい、本物ですよ〜。でも、今は探偵事務所の一員として来ているので、主人とは関係ないことだけはご理解くださいね」

「も、もちろんです!で、でもあの、後で握手してください」


 女性はそれだけ伝えると本題に入る。


         ……………


 1週間くらい前のことです。私は仕事で遅くなってしまい、23時くらいに家へ帰っていました。遅い時間だからでしょうか、道には誰もいません。1人で暗い道をしばらく歩き続けました。


 “あれ”には、そんな帰り道の途中、公園で遭遇しました。誰もいない公園、その中央に大きいオブジェのような物が置いてあったのです。

 じっと見てみると、どうやらそれは物ではありません。巨大なカマキリです。ブランコより大きく、鎌の部分が人間の手になっている、どうみても普通ではないカマキリ。


 私が恐怖で動けなくなっていると、カマキリの方も私に気付きました。ゆっくりとこちらを向きます。その目は人間の目玉になっていて、言いようのない気味の悪さを感じました。


(あ、逃げないと死ぬ)


 そう思った瞬間、さっきまで動かなった体が、足が動くようになりました。私は全力で横に跳びます。地面を転がりながら痛みを我慢していると──


ガンッ!


 カマキリが伸ばした鎌が、さっきまで私が立っていた場所の後ろにあるガードレールにぶつかりました。

 外したことに怒ったのか、カマキリは「ギィィ」と、黒板を引っ掻くような耳障りな声を上げます。

 私は急いで立ち上がり、走りました。後ろなんて見ている暇はありません。とにかく誰かがいるところへ行きたい。そんな思いで走り続けていると、コンビニに着きました。


 中へ入り、安心感で泣いている私に、店員さんが声をかけきたんです。そこで私があのカマキリのことを伝えると、


「またか」


店員さんはそう言いました。


「何日か前にもあったんだよ。カマキリじゃないが、『公園で変な物を見た』っておっさんが来たんだ。ただの酔っ払いの幻覚だと思っていたが……誰か質の悪い悪戯でもしてんのかねぇ」


 そんな話を聞いたらもう店外に出る気にはなれません。翌日は会社が休みだったので、店員さんの好意に甘え、夜が明けるまでコンビニで過ごしました。


         ……………


 女性は震えている。相当な恐怖だったのだろう。マミは考え込みながら、独り言のように「何か」と呟いた。


「思っていたよりも被害が多い?」

「オレも思った!これだけ騒ぎになってんのに、治安維持部は本当に動かないのか?」


 女性は目を伏せ、辛そうに頷く。


「はい、残念ながら。『何かと見間違えたのだろう』『こんなことで怖がって恥ずかしくないのか』なんて言われて……。しかも、天さんに対しては嘘つき呼ばわりですよ?」

「酷いですね……もう大丈夫ですよ。私達が必ずこの事件を解決しますから。ね、りっくん」

「おう!直ぐにまた安心して暮らせるようになるから、ちょっと待っててください!」


 女性は涙ぐみながらお礼を言う。

 そこからは公園の場所や細かい話を聞き、陸とマミは家を出た。

 噂について話をしながら道なりに歩く。


「どうする?今から公園に行ってみる?」

「だな。公園の場所は灯さん達が行った方向にも近いし、向こうで合流しようぜ」

「オッケー。じゃあ、先生達にメッセージで伝えておくよ。ちょっと待ってね」


 マミは道の端に寄り、スマホを操作する。陸は怪物の正体を考えつつ、それが終わるのを待った。すると──


ドスンッ!


「うお!?なんだ?」


 どこからか大きな音が聞こえてきた。何かが地面に落ちた音だ。

 陸は辺りをキョロキョロと見渡す。すると、背後に坂があることに気が付いた。坂は上へと続いており、石段で上れるようになっている。また、頂上には鳥居が見え、上に神社があることが分かった。


「なあ、マミ。さっきの音この上からかな」

「ん〜他には何もないし、多分そうだね。行ってみる?」

「え、でも……」

「少し覗くだけなら時間はかからないよ。大丈夫」

「……それもそっか!なら行こうぜ」


 陸達は早足で石段を上っていく。段数は少なく、上り終えるのにそう時間はかからなかった。

 頂上に着いて直ぐ、尻餅をついている人間が目に入る。ジャージを着た高校生くらいの青年だ。


「痛……木に登るんじゃなかった……」


 青年は腰をさすりながら立ち上がろうとして、陸達の存在に気付いた。恥ずかしいところを見られたからか、顔が段々赤くなる。


「あ〜……大丈夫だ!オレ達は何も見てないぜ!早く立ち上がれよ!」

「そうそう!独り言も聞いてない!」

「見てんじゃねぇか!聞いてんじゃねぇか!っ……どっか行けー!」


         ♢♢♢


 時は遡り、陸とマミが女性の家に入った頃。灯とフェリは天の店から離れた場所にある橋下の河川敷に来ていた。


「見つけた」


 灯がそう呟く。その視線の先には、大学生くらいの男性が1人で地面に座っていた。ガラが悪く、不良のような見た目をしており、煙草を吸っている。


 フェリは天の言葉を思い出す。


『とある河川敷が、人間の不良達の溜まり場になっているのです。そして、そこで彼らが怪物と遭遇した話をしていました。誰も信じてくれないと不満そうだったので、上手くいけば話をしてくれるかもしれません』


「1人だけですね」

「話さえ聞ければ問題はないさ」


 灯達は不良の元へ歩いて行く。不良がこちらの存在に気付き、立ち上がった。

 フェリは煙草の匂いを内心嫌がりつつ話しかける。


「すみません、少々お時間よろしいでしょうか?」

「あ?何だよテメェら」

「ボク達は探偵をやっていてね。噂の怪物事件を解決する為に情報を集めているんだ」

「あっそ。俺は知らねぇから他当たれよ」


 不良は冷たく返す。しかし、はいそうですかと帰ることはできない。灯はわざとらしく残念そうな素振りをする。


「おや、そうなのかい?『怪物を見た』と騒ぐ不良がいると聞いたんだが、人違いだったか」

「……」

「まあでも、そうだよね。随分と情け無い声で喚いていたらしいし、恥ずかしくて外になんて出れないか」

「チッ、うるせぇな。テメェらに何が分か──」


 不良はそう言いながら灯に掴みかかる。だが、逆にその腕をフェリが掴んで止めた。


「彼に触れないでもらえますか?」


 フェリは少しだけ力を入れる。それでも男には十分痛かったようだ。離れようと暴れだす。

 灯が「もういいよ」と告げると、フェリはやっと手を離した。


「くっそ……ふざけんなよ、警察呼ぶぞ」

「正当防衛だと思うけれど。それに、警察を呼ばれて困るのはキミの方だろう?」

「は?」

「だってキミ、高校生じゃないか。煙草を吸っていることがバレたら面倒くさいよ?」


 不良は驚く。そして厄介そうに頭を掻く。


「何だよ、大体の奴は俺を大学生って間違えんのに……はあ、だりぃ。おい、話を聞いたらどっか行けよ」

「ありがとうございます。助かります」

「ひっ……お、おう」


 フェリのことは怖いようだ。不良はフェリから距離を取りつつ話し始める。


         ……………


 俺はあの日、仲間と深夜から早朝まで駄弁ってたんだ。場所は神社。ボロくて人が寄り付かない、いい溜まり場だった。


「もう朝か。は〜、家に帰りたくねぇ〜。親が色々聞いてきてマジうるせぇんだよな」

「うっわ、可哀想〜。俺ん家なんて文句言う奴いねぇぜ?」

「俺んところも」

「羨ましいわ〜」


 まだ暗かったが、もう少ししたら日が出るくらいの時間だったことは覚えている。俺達は辺りが明るくなってから動くことにして、その時は話を続けていた。


 そうしたら、コツ、コツって変な音が聞こえてきたんだ。その音は段々大きくなる。何かが石段を上って、こっちに近付いて来ているんだ。


 とにかく嫌な気配がして逃げたかった。でもダセェじゃん、そんなの。だから強がって、仲間達と「サツか?」「来たらボコってやろうぜ」なんて笑ってたんだ。……本当、馬鹿だったよ。


 足音は直ぐに止んで、石段を上って来た奴の頭が見えた。人間の頭だった。普通のおっさんの顔で、ニタニタと笑ってこっちを見てるんだ。

 不気味ではあった。だが、正直拍子抜けしてな、俺はおっさんを追い返そうとしたんだ。


「テメェ何笑ってんだ?どっか行かねぇと──」


 次の瞬間、おっさんの全身が見えた。蜘蛛だ。デカい蜘蛛の背中に、人間の頭だけがくっ付いていたんだ。

 蜘蛛はゆっくりとこっちに向かってくる。歩く度にコツコツと音が鳴る。どう考えても普通の足じゃない。


 もちろん俺達は逃げた。段々と朝日も昇ってきていたし、辺りもよく見える。逃げれると思った。

 だが、蜘蛛に入り口を塞がれていたし、神社もそこまで広いわけじゃねぇ。おまけにこの神社は住宅街から離れた場所にあるから、騒いでも誰も気付かない。

 間違いなく死んだと思ったわ。でも、以外なことに悲鳴を上げて死んだのは蜘蛛の方だった。


「ぐギュがッ」


 人間の声で、言葉にならない悲鳴を上げ続ける蜘蛛。よく見るとその体は燃えていた。

 しばらくすると蜘蛛は完全に灰になり、風に飛ばされて消えていった。


         ……………


「その後、一応辺りを探してみたけど、何も落ちてなかったわ。だから、この話の証拠は無ぇ。信じるも信じないも好きにしろ」

「……ふむ」


 話を聞き終わった灯は頷いている。


「何故、怪物は夜にしか現れないのか。そして

、そんなに怪物がいるのなら、何故もっと騒ぎにならないのか。理由が分かったよ」

「え、今の話で?」

「うん、仮説だけれどね。いいかい?物事には必ず、それが起きた原因があるものだ。だからこそ、蜘蛛が燃えたことにも必ず原因がある」


 不良は灯の言葉に頭を捻る。しかし、改めてその時のことを思い出しても、不良にはその原因なんて分からなかった。


「あ〜……神様が助けてくれたとか?神社だったし」

「うん、その可能性も0ではない。だが、もっと可能性の高い説がある。キミはそれを自分の口で言っていたよ」

「え〜」


 更に考えるが何も閃かない。不良は黙ってしまった。

 見兼ねたフェリが助け舟を出す。


「最初に怪物が現れた時は暗かったのですよね?では怪物が燃えている時は?」

「朝日が昇っていた……あ、じゃあ蜘蛛は太陽の光で燃えたのか!」

「ボクもそう思うよ。怪物は夜の間に活動し、朝日と共に死ぬ……もしくはどこかに隠れている。だから大きな騒ぎにならず、噂程度に収まっているんだ」

「絶対それだわ!アンタら凄ぇな!」

「いや、キミが詳しく話をしてくれたおかげさ」


 キラキラとした目で灯達を見つめる不良。最初とは大違いだ。灯が神社の場所や蜘蛛のことを聞いても、不良は全て快く答えてくれる。おかげでおおよそ理解できた。これ以上長居する必要もないだろう。

 不良はそわそわと、まだ話をしたそうにしているが、灯は気付かないフリをして背を向ける。


「では、ボク達はこれで」

「貴重なお話をありがとうございました」

「あっ、もう行くのか」


 不良は残念そうな顔をするが、即座に切り替え、力強く「待ってくれ!」と呼び止める。

 灯が不思議そうに振り返ると、不良は勢いよく頭を下げた。


「俺の話、信じてくれてありがとう。大人共は嘘だって決め付けるから、アンタらもそうだと思ってた。だから、その……真面目に聞いてくれて嬉しかった!……です!」


 予期せぬ不良の行動に、灯はポカンと固まる。だが直ぐに笑いだし、不良に近付いて行った。

 灯の手が不良の肩に触れる。不良は驚き、恐る恐る頭を上げた。


「えっと」

「ねえ、不良君。案外、人間は悪い奴ばかりじゃないよ。困ったらもっと周りを頼るんだ。そしてもし、それでも解決できないことがあれば……」


 灯は上着のポケットから何かを取り出す。それは革製でできた名刺入れだ。中から1枚名刺を取り出し、不良に差し出す。


「ここに電話をかけておいで。キミに悩みがあるのなら、ボク達、黒井探偵事務所は力を貸すよ」


 不良に名刺を渡し、灯は改めて背を向け歩き出した。フェリも不良に会釈だけして灯を追う。

 河川敷を出てから、フェリが灯に話しかける。


「いい情報が得られましたね」

「うん、有意義な時間だった。後は情報共有をして、陸達の方が神社に近いから行ってもら──ん?マミからメッセージだ」

「おや、マミちゃんは何と?」

「今ボク達がいる場所の近くに、『たかやま公園』という公園があるらしい。そこで怪物の目撃情報があるから、合流して調べたいとあるね」


 メッセージを読み終え、灯はマミに電話をかける。


『先生お疲れ様です〜』

「お疲れ様。もうこっちには来ているのかい?」

『まだです。今、明郷神社っていう古い神社にいて、もう少ししたら出るつもりです』

「おや、それはいい。丁度そこに行ってもらいたかったんだ。その神社でも怪物の目撃情報があってね。調べてもらってもいいかな?」

『はい!任せてください!』

「頼んだよ。では、ボク達は公園を調べようか。調査が終わったら再度連絡を取り合おう」

『了解です!では〜』


 そこで会話は終わり、通話が切られる。

 時刻は18時過ぎ。夕日も沈みかけている。夜になる前に調べたいと、灯達は急いで公園に向かった。

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