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第四依頼 理性なき怪物 3話

「は〜旅館凄かったな…」


 ウィクシーが来た翌日。早速依頼に取りかかった陸達は、問題なく旅館に着いていた。荷物を置き、現在は依頼の店へ向かっている最中である。

 店の場所はマミが知っているようで、先導して歩く彼女の後ろを他のメンバーが付いて行く。 


「デカくて高級感がある老舗旅館って感じでさ〜。しかも、好きなだけ泊まっていいんだろ?何かもう逆に怖くなってきたぜ……」

「気にし過ぎさ。こういう時は楽しんだ方がいいよ。……しかし、あの規模の旅館にしては客が少なかったな」

「私が前に来た時はもっと人間がいましたよ」

「それでは、やはり例の噂が関係しているのでしょうか?」

「そうかも〜」


 そんな話をしながら進んでいると、木造の建物が並ぶ温泉街に差し掛かった。様々な店があり、歩くだけでも楽しい場所だ。本来なら沢山の観光客で溢れていることだろう。しかし、今はまばらにしか人がおらず、店の者達にも活気がない。


(店の人達、寂しそうだな。けど、変な噂が流れてるだけでここまでなるか?)


 陸は疑問に思いつつも歩みを進める。


 そこから数分歩き続け、小さく古い店の前に着いた。店には『申し訳ございません。しばらくの間休業させていただきます』という紙が貼ってある。


 どうしようかと陸が思っていると、マミは「こんにちは〜」と扉を開け、中に入ってしまった。仕方なく陸達も店に足を踏み入れる。


 中に入ると直ぐに、ふわりと抹茶のいい香りが鼻をくすぐった。


「おっ、マミちゃん。いらっしゃい」


 店の奥から声が聞こてくる。待っていると50代くらいの男性が現れた。


「天さん久しぶり〜!ね、外の紙見たよ。今お店閉めてるの?」

「あ〜……そうそう。ちょっとだけ腰を痛めてね」

「え!?大丈夫?」

「大丈夫大丈夫。直ぐに元気に──」

「あー!!」


 陸達の背後、店の外から大きな声が聞こえてきた。声の主はドタドタと慌しく走って来ると、天の腕を強く掴んだ。

 それは20代くらいの男性だった。天の面影を感じる顔つきをしている。きっと、親子か親戚だろう。

 男性は怒っているというより、心配したように天を見ている。


「何やってんだよ親父!商品は俺が渡すって言っただろ!背中の傷がまだ治ってないんだから動くなよ!」

「いや、だってお前いなかったし」

「そっ、れは……薬を……」


 目の前で言い合いが始まってしまった。このままでは依頼を達成できない。しかし、灯はそんなことよりも気になることがあった。


「すみません、少しよろしいでしょうか?」

「あっ、す、すみません。お客様の前でこんな……」

「気にしないでください。それより、背中の傷とは?」

「あっ、えっと……」


 その質問に天が慌て始める。恐らく客に心配をかけたくないのだろう。


「いやいや気にしないでください!湖広が……息子が大袈裟に──」

「親父は黙ってて」


 だが、息子の圧には勝てなかった。簡単に黙ってしまう。

 湖広と呼ばれた男性は深呼吸をし、心を落ち着かせてから灯の問いに答える。


「父は怪物に襲われたのです」

「ふむ……それはこの辺りで噂になっているという、夜に現れるという怪物のことですか?」

「ご存知でしたか!親父は3日前の夜、血だらけで帰って来たんです。病院に連れて行くと、背中に3本の爪痕が残っていました。深く、抉るような傷で、医師からは『死んでいてもおかしくない』と言われる程です」


 その時の光景を思い出したのか、湖広は辛そうに顔を歪めた。


 陸は改めて天を見て気付いた。

 天は夏なのに厚着をしている。『血だらけで帰って来た』ということは、背中以外も怪我をしたに違いない。だからこそ、それを隠すためにこの格好をしているのだろう。


 灯もそのことに気付いているようで、天の体を上から下まで見ながら、「この話は大袈裟に言っているだけですか?」と、わざとらしく聞く。


「いえ……事実です」

「そうですか。でしたら1つ確認を。治安維持部には怪我のことを言いましたか?」

「もちろん言いました。ですが、『別の理由で負った怪我を噂のせいにしている』と言われて、全く取り合ってもらえませんでした」

「成程……」

「ですので、お客様達は早くここから出た方がいいですよ」


 実害がでているのに信じないとは……ウィクシーが言っていた通り、今回の件では治安維持部は頼りにならないようだ。

 であれば陸達で解決するしかない。陸は「じゃあさ」と、灯と天の会話に入る。


「オレ達に依頼してみないか?」

「依頼?」

「オレ達、探偵事務所をやっているんだ。荒事にも慣れてるし、今回の件も絶対解決してみせるぜ!」

「陸〜?依頼されても受ける可能性は低いよ」

「え!?」


 思いがけない言葉に、陸は驚いて灯を見る。


「仮にもリィローアの担当だからね。正直ボクも関わりたくない」

「そ、そうですよね……」

「いや、諦めるのは早いよ天さん!先生は『可能性が低い』って言っただけで、断るとは言っていないもん。まずは依頼するだけしてみよう!」

「ええ、マミちゃんの言う通りです。それに、駄目元でも行動をしなければ、いい未来を得ることはできませんよ」


 天は悩み始める。助けてもらいたいが、相手は客……しかもウィクシーから頼まれて来た者達だ。迷惑をかけたくない気持ちが強いのだろう。中々決断をすることができないようだ。

 そんな彼の背中を押したのは湖広だった。


「親父、お願いしよう。困っているのは、怪物を何とかしたいのは俺達だけじゃないんだぜ?」

「そ、それは……」

「皆さんがこのタイミングで来たのは奇跡なんだ。このチャンスを逃したら俺達は一生苦しみ続けることになると思う」

「……そうだな」


 天は決心したようだ。灯達に向かって頭を下げる。


「ウィクシー様の遣いの方々にこんなことをお願いするのは失礼だと分かっています。ですが、このままでは被害が広がり、取り返しがつかなくなってしまう。……どうか、この怪物事件を解決してくれませんか?」


 天の横で、湖広も同じように頭を下げた。これだけでも中々断りづらい空気だが、追い打ちをかけるように陸達も灯にお願いをする。


「灯さ〜ん」

「せんせぇ〜」

「灯君」


「「「お願い/お願いします」」」


 うるうると目を潤ませ、甘えるような声をだしながら灯を囲む。絶対に無視はさせないという強い意志だ。

 灯は溜息をつくと、「も〜、仕方がないねぇ」と呟いた。


「天さん、湖広さん、頭を上げてください。今回の依頼、お受けします」

「っ……ありがとうございます!」


 天も湖広もせっかく頭を上げたのに、また何度も頭を下げる。だが、それだけ感謝する程までに追い詰められていたのだろう。


 こうして陸達の怪物退治が始まった。

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