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第三依頼 消えた美女達 2話

 女装組が着替えに行ってから早10分。残されたマミとフェリは暇を持て余し、ホワイトボードに落書きをしていた。蛇や犬など、様々な生き物が沢山描かれている。しかし、それすらも飽きたのだろう。今は協力して謎の生物を描いているようだ。

 そんな時、「できたぜ!」という大きな声が聞こえてきた。


「待たせたな!」


 扉が勢いよく開き、陸が部屋に入って来た。そして、その姿は何とも目を引くものだった。


 肩まである美しい金髪。清楚な印象を受ける白いワンピース。鮮やかな黄色のカーディガン。胸元で美しく輝くネックレス。……そして、それらを全て台無しにするような厚化粧。カーディガンを着ていても分かる男の肩幅。裾から覗く足は男子高校生らしく逞しい。

 こんな人間が外に出たら、子供は泣き叫び、大人が通報し、野良猫が全力で威嚇する地獄絵図になることは間違いない。


 陸はそんな格好のまま、また大きい声を出す。


「エントリーナンバー1番!八崎陸美です!アピールポイントはこの足!魅惑の生足でターゲットを誘惑しちゃ〜うぞ♡審査お願いします!」


 どう見てもやけになっている。だが、マミもフェリもツッコミを入れない。静かにホワイトボードに点数を書いていく。

 書かれた点数はマミ『10点』、フェリ『10点』。これは高得点なのか、それとも低いのか……。


「陸君はいつもカッコいいですが、可愛らしい服装も似合いますね。花のように……いえ、花よりも可憐で素敵だと思います」

「私、人間の美醜の感覚はよく分からないんだけど、今の格好なら注目を集めていいと思う!」


 どうやら高得点だったらしい。正気か?こんな、目撃した人間を全員発狂させそうな姿で堂々と外に出るなんて、そんなこと許させると──


「あ〜りがと!じゃあ、オレの得点はマミ10点、フェリさん10点、自己評価−100点の計−80点!失格だな!」


 許されなかった。いや、許さなかった。マミ達は文句を言っているが、これで悲惨な事件が起きることはない。

 陸は扉に向かって声をかける。


「灯さーん!入っていいよ!」

「ふふ、ボクの番だね」


 扉が開き、灯がこちらに来る。露出のない落ち着いた服装。一つ結びにしていた髪は解かれており、歩くたびにサラサラと揺れている。化粧は陸と違いあまりしていないが、中性的で美しい顔立ちのため違和感は全くない。

 灯は陸達の前で止まり、ニッコリと微笑む。作り物ように美しく、まるで美術館に飾られた絵画のようだ。


「こんにちは」


 普段より高く女性らしい声。一言しか喋っていないのに、その美しい声が耳に残って離れない。


「エントリーナンバー2番、黒井灯子です。アピールポイントは存在全て。お化粧は苦手なので少ししかしていませんが、私の顔は美の完成形なので問題ないでしょう?」


 傲慢な台詞だが、その言葉を否定できない。美しさの基準はそれぞれで違うが、きっと見た人間の大多数は灯を美しいと思うだろう。

 マミとフェリはホワイトボードに点数を書いていく。その点数はマミが『7点』、フェリが『10点』だ。


「やはり灯君は美しいですね。高嶺の花のように孤高さもありながら、寄り添ってあげたくなるような儚さを持ち合わせている。素晴らしいです」

「髪を解いただけのいつもの先生だな〜と思いました」

「成程成程」


 灯は腕を組み、うんうんと頷く。そして自信満々に続ける。


「マミが7点、フェリが10点、自己評価10000点で余裕の合格だね。流石ボク」


 そう言ってバチンッとウィンクをした。その声はもういつも通り男のものだ。

 そんな灯に誰も文句を言わない。もちろん陸も賛成だ。賛成だが……。


「どうしたんだい、陸。何とも言えない顔をしているよ」

「え!?そ、そんなことないぜ!綺麗だと思ってる!でもちょっと未亡じ……いや、マミと並んだ時に身長差凄いからさ、親子に見えるかもなって」


 陸は慌てて言い換えたが、確かに今の灯には『未亡人』という言葉が似合う。普段以上に大人びており、影がある薄幸そうな雰囲気。それに加え、灯は男性の中でも背が高い。女性という設定ならマミと親子に間違われそうだ。


「おや、そうかな?少し身長差があるのは認めるが、ボクは25歳の設定で活動しているんだよ?高校生くらいの娘がいるようには見えないと思うけれどね」

「灯さんとマミの身長って何センチ?」

「185」

「私は152センチ!」

「33センチ差は少しじゃねぇよ……」


 心配している陸を安心させるように、灯はマミを引き寄せながら口を開く。


「考え過ぎさ。ボク達は可愛くて美しい。例え親子に見えたとしてもナンパされるよ」

「そ、そうかな?」

「そうさ」

「……分かった。じゃあ、灯さんはマミと囮役として、オレはどうしたらいい?」


 灯は椅子に座り足を組む。先程までとは違い真剣な表情だ。


「陸とフェリは別働隊として動いてほしい。ボク達が小型マイクを付けて犯人に接触するから、キミ達はその音声を聴きながら後を付けてくれ。そして、呪文が分かったらタイミングを見て魔術を行使。ボク達が囮になっている間に被害者を救出するんだ」

「オッケー!」

「分かりました」

「マミもそれでいいかい?」

「はい!任せてください!」

「よし。じゃあ色々と細かいことを決めていこうか」


 その後、作戦会議は数時間かかり、終わる頃にはすっかり夜だった。陸は夕食やお風呂などを済ませ、自室に戻りながら明日のことを考える。


(明日成功させないと手がかりが無くなっちまう)


 この機会を逃せば依頼の達成は絶望的だ。絶対に失敗はできない。


(やるぞ!)


 心の中で気合いを入れ、明日に備え早く布団に入るのだった。


         ♢♢♢


 翌日。女装をした灯と、いつもより華やかな服装のマミは犯人である男性を待っていた。もちろん、昨日のように隠れたりはせず堂々と立っている。これなら直ぐに気付いてもらえるだろう。


 そして、フェリはそこから少し離れた位置で様子を見ていた。チラリと腕時計を確認する。約束の時間からもう1時間が過ぎていた。いつでも動けるように気を張ってはいるが、未だに男性の姿はない。


(遅いな……もしかして来ないつもりか?)


「ごめん、フェリさん!お待たせ!」

「おや、お帰りなさい」


 考え込んでいるフェリに陸が近付く。隠れながら男性が来ていないことを確かめ、胸を撫で下ろした。


「よかった。間に合った」

「どこに行っていたのですか?『直ぐ戻る』と言って急にいなくなってしまったから驚きましたよ」

「ご、ごめん。後ろで騒ぎ声が聞こえたじゃん?見たら、女の人がガラの悪い男に絡まれててさ。どうしても放っておけなくて……でも分かったこともあったぜ!その女の人、昨日犯人に呼び出されてた人だった」

「おや、それは凄い偶然ですね」


 フェリは驚く。確かに女性の姿を見ていなかった。しかし、先程確認した通り約束からは1時間が過ぎている。こんな時間までその女性は待っていたのたろうか?そんな疑問に答えるように陸は話を続けた。


「その人、人混みが苦手で30分待ったら帰るつもりだったらしい。でも体調が悪くなって少し休んでいたんだって」

「それは可哀想に」

「な。けど、もう動けるから帰るって。そんで、その時にちょっとだけ聞いたんだけど、その人は友達から何度もここに来るよう言われたらしい。『今日の朝までしつこく連絡がきた』って言ってたんだ」

「……そこまで念を押すのなら、犯人の男は来るつもりなのでしょうね。まだ待ってみましょうか」


 再度、フェリが腕時計を確認していると、『あれ〜?』という男の声が聞こえてきた。直接話しかけられたわけではない、灯達の方の音声だ。

 顔を上げて様子を見る。灯達に1人の男性が近付いていた。よく見るまでもない。間違いなく昨日の男性だ。


         ♢♢♢


「ちょ〜美人さんと、ちょ〜可愛い子ちゃん発見。親子……いや、美人さんも若いし姉妹か」


 灯達は声が聞こえた方を向く。そこにはあの男性が笑いながら立っていた。

 値踏みをするようにこちらをジロジロと見てくる。不躾な視線だ。しかし、マミはそれよりも男性の声が気になった。


(ありゃ、この人間、魔法か魔術を使っているな〜。声がノイズが混じりに聞こえる……この感じは精神汚染系だね。先生は昨日何も言ってなかったから対象は女。効果は……魅了か精神混濁かな。弱過ぎて私には効かないけど、人間相手には十分だね)


「約束の子はもう帰ってるだろうし、代わりの子がいてよかった。君達、よかったら俺と一緒に来てくれない?」


 そう言うと下心を隠さず笑う。あまりにも怪しいが、こちらからしたら待ちに待った誘いだ。灯が「喜んで」と伝える。

 返事を聞き、男性は歩き出した。灯達はその後ろを付いて行く。道は昨日と同じ。迷いそうな細々とした道を、目の前の男性は慣れた足取りで歩いている。

 やっとあの行き止まりに着いた。男性は壁に触れる。


『ちうお いしらたあ のみき はここ でいお』


 唱え終わると同時に手が壁に埋まっていく。やはり、男性に驚いた様子はない。灯達の方を振り返り、もう片方の手をこちらに差し出してきた。


「手でも腕でもいいから俺に掴まってて」


 それならと、灯が腕を、マミが手を掴む。そしてそのまま男性と共に壁へ向かう。後1歩で壁にぶつかる距離だ。マミは思わず目を瞑る。……数秒後、ゆっくりと目を開けた。


 そこは廃工場だった。少しでも何かあれば崩れてしまいそうな程、小さく古い。扉はもう意味を成しておらず、入って来る人間を受け入れるかのようにように開いている。


「さあ、行こうか。君達の新しい家へ」

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