表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/8

7.親善試合(後編)


「これやばあああああああい」

拝啓、お母さま、私たちは今、丸太に乗って敵軍に突撃しています。


———

「丸太で突撃~?!」


武田先輩が私の作戦を聞いて目を開く。


「はい。ただ突撃しても囲まれるだけで、敵将に辿り着けないでしょう。それにこの崖です。何か滑り下らなければ、奇襲突撃と言うより、のこのこ敵軍に顔を出しに行くみたいで何の意味もありません」

「そ、それはそうだが」

「ま、面白いんじゃない?」


藤原先輩が了承してくれた。


「で、でも~私、自信ないです~」

「大丈夫です! 私もです! 正直、丸太に乗りながら攻撃しようなんて考えてません」


私はもう一度崖下に広がる敵陣を見る。


「敵将は陣の奥深い場所に居ます。崖からの推進力で、そこまで滑っていけるはずです。また、丸太によって敵陣を分断し、敵将と一対多の構図を作ります」

「また卑怯なことを~」

「これも立派な作戦です。ですが、分断も長くは持ちません。下に着いたら一気に攻めましょう」

「ま、やるだけやってみますか~。武田、真村、先輩の意地見せるよー!」

「みなさん! 開戦です!」

「「おおー!」」


———


風が唸る。そして五人の叫び声が響き渡る。

滑る泥と、濡れた草が飛び散り顔に飛んでくる。

それでも、誰も止まらなかった。

崖の斜面を駆け下りながら、私は何度も息を呑んだ。

世界が傾いて見える。

いや、違う——私たちが傾きを制している。


「止まるなぁっ! 一気に行けぇぇ!」

武田先輩の怒号が雷鳴と混ざる。

その後ろで、凜と藤原先輩が器用に丸太の上に立ち、弓を構えている。私は丸太にしがみつくので精一杯だ。

真村先輩の端末が背後で音を立て、上空から全体図を更新していく。


《敵軍、反応あり! 全員、崖方向を向きましたぁ~!》

「皆さん!このまま突撃ですうううう!」

私が叫んだ瞬間、雨が止んだ。

音が、世界から消えた。


そして——光。


雲の切れ間から太陽が差し込み、崖下の谷が黄金色に染まる。

逆光。

敵の視界が白く焼け、混乱が走った。


「なっ……なんだ、光が——!」

「敵襲!? 上だ、上から来るぞ!!!」


千堂——敵将——の怒号が響く。

次の瞬間、武田先輩の大太刀が地を裂いた。

衝撃波のように泥水が弾け、数人の敵が吹き飛ぶ。


「おぉぉらぁぁぁっ!! 突破ぁぁぁっ!!!」

その声と同時に、私たちは崖下に到達した。

凜が滑るように地面を蹴り、刀を抜く。

光を背負ったその姿は、まるで閃光そのものだった。


---


「包囲しろ! 包囲——ッ!」

千堂が指揮棒を振る。

だが、遅い。

敵兵たちは突撃してきた丸太によって敵陣がぐちゃぐちゃになり、起き上がろうにも雨上がりの泥に足を取られ、崖下で混乱している。

私の端末に、味方の位置情報が次々と重なっていく。

この混乱を、一瞬で決める。


「藤原先輩、援護を! 武田先輩、前方制圧! 凜、敵将の位置は——」

「中央、あの白い旗の下!」

凜が叫ぶ。

その声が、戦場の雑音を貫いた。


---


中央で、千堂渉が剣を抜く。

表情は乱れず、冷静そのもの。

だがその眼だけが、戦意で燃えていた。


「なるほど。これが“桶狭間”か」

「そうです。油断は、命取りですよ」

私は言い返す。

千堂はわずかに笑みを浮かべた。

「……なら、次は私の番だ」


千堂が地面を蹴る。

剣閃。速い。

武田先輩が真正面から受け止め、土煙が舞う。


「ぐっ……! こいつ、重いっ!」

「武田先輩、下がって!」

私が叫ぶより早く、凜が割り込んだ。

その動きは音もなく、ただ風が通り抜けたようだった。


——キィンッ!


二本の刃がぶつかる。

千堂の剣が、凜の刀を押し込む。

火花が散り、二人の足が泥を滑らせる。


「君が……このチームの剣士か」

「うん」

凜の声は静かで、どこか淡い。

次の瞬間、彼女の眼が細められた。


「心眼」


世界が、止まったように見えた。

凜の身体がぶれる。

千堂の攻撃を紙一重でかわし、反撃の軌道を描く。


一閃。


雨をはじくような音がして、千堂の剣が宙に弾かれた。

刃先が彼の肩口をかすめ、光の粒が散る。


《敵将撃破。試合終了》


無機質なアナウンスが響いた。

太陽の光が、完全に霧を晴らしていた。

崖上から吹き降ろす風が、戦場を駆け抜ける。


---


私はその場に膝をついた。

心臓の鼓動がまだ耳に残っている。

凜が刀を納め、静かにこちらを振り返った。


「勝ったね、小鈴」

「……うん。みんなのおかげで」


武田先輩が泥だらけで笑い、藤原部長が弓を肩に担ぐ。

真村先輩は上空からの映像を保存していた。

「いやぁ~、見事な映え映像ですよぉ~! “駆ける勇者たち”って感じですぅ~!」

「いいですね。タイトルにしたいですね……」

私もつい笑ってしまう。


上空モニターに「勝者:信濃山高校」と表示された。

観客席がどよめき、ヒストリカル・ナビの音声が響く。


《試合終了!! わずか五人で二十を討つ——奇跡の逆転勝利です!》


---


試合後。

千堂が静かに歩み寄り、手を差し出した。

「……参った。見事だったよ、小鈴軍師」

「いえ。味方のおかげです。私は丸太につかまってただけですから」

「ふふ、次は油断しないよ」


その笑顔は、悔しさよりも、楽しそうだった。

握手を交わした瞬間、背後で誰かの拍手が響く。


「やるじゃない、小鈴ちゃん」


振り返ると、観客席の上段に店長——川原みずほさんがいた。

腕を組み、満足げに笑っている。


「まさか丸太で崖を下るなんて。練習の成果が出たかな?」

「……おかげさまで」

「うんうん。やっぱり私、小鈴ちゃんの戦い方好きだよ! これからも頑張ってね!」


そう言って、彼女はひらりと手を振った。

光が反射し、ステージの天井が開く。


雨上がりの空が広がっていた。

その青の下で、私たちはようやく息をついた。


「これからも、か」

---


初めての親善試合。

初めての公式勝利。

そして、初めて自分の策で掴んだ“歴史”。


この瞬間、私は思った。


「藤原部長」

「ん?」

「レキバト、楽しいです!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ