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4.模擬戦も終盤です!の策です。

私の初陣は、密かな号令と共に始まった。

森を駆け抜けている途中、私はもう一方のチームに連絡をする。


「囮さんチーム、準備はいいですか?」

「大丈夫」

「万端も万端。凜ちゃんが敵と睨みあってるよ~」


通信越しに二人が返事をする。

藤原先輩の声は軽いけれど、凜の声には緊張の色が滲んでいた。

彼女は剣道部の全国覇者。高校生にして伝説になっている彼女が、いま二十人を前に剣を抜く。


「それでは、囮さんチーム開始してください。私たちも、もうすぐ到着予定です」

「はいはーい」


一本の橋の上。

敵と橋の両側で相対している場所で凜は、自分のいつもの構えを取ると、足元に力を入れて走り出す。同時に、待ちわびたかのように20人が凜一人に向かって走り出す。


両チームが交差する橋の中央、その瞬間、斬撃の閃光が走る。

光の残像が数本の線を描き、橋の上の敵が次々と崩れ落ちていく。

急所に当たった敵はホログラムのような結晶となって消えて行く。


レキバトは痛覚軽減こそされているけれど、剣筋や衝撃はすべて本物だ。しかし凜はまるで舞うように戦っていた。本物の刀は当然、重いはずであり、いつもの竹刀とは全く別物であるはずなのにだ。

刀と刀が当たる金属音、敵の掛け声、吹き上げる風と流れる川。すべてに耳を傾ければ、私の心臓までもが跳ねるようだった。


「あはは~。やるね~凜ちゃん。いやー彼女何者?」


藤原先輩が背後の高台から弓を引く。矢が光の矢となって飛び、橋に殺到する敵を的確に吹き飛ばす。それでも、敵は止まらない。波のように押し寄せてくる。


その間に、私たち奇襲組は丘の裏手を回り、敵本陣へと向かっていた。


「敵陣営、視認しました」


草むらの中から顔を出すと、敵の拠点が見えた。簡易的な砦、旗が立ち、中央の椅子には、一人だけ?


「む? やけに少なくないか?」

「まさか~、全員橋にぃ~?」

「いや、それにしても少なすぎる気がします」


奇襲チームである武田、真田、小鈴は、敵陣営を見てそれぞれの感想を言う。

武田先輩が眉をひそめる。

椅子に腰かけていたその人は、こちらに背を向けていた。

長い髪を束ね、細身の甲冑を身につけている。背中越しでも分かる。只者じゃない。


「結城、あやつは只者じゃないぞ」

「はい」

「どうしますぅ~? 一旦引きますかぁ~?」

「いえ、今も囮さんチームは戦っています。それにこの状況であれば3対1で数的有利は作れています」

「あぁ、だが気は引き締めろ」

「はい」

「はぁ~い」


互いに刀を握る手に力を入れ、小鈴は息をのんで合図を出す。


「奇襲、開始します」


武田先輩が先陣を切り、真村先輩がフォローに回る。

私も後方から支援の指示を出す——その瞬間。


「ふふ……」


かすかな笑い声が、風に乗って届いた。

その人物が椅子から立ち上がり、こちらに振り向く。


「こんにちは。あなたが新人の軍師さん?」


川原みずほさんだった。

あのショップの店長。にこやかで、お姉さんみたいな人。だけど今、目の前の彼女は、別人のようだった。


「え、みずほさん!? な、なんでここに——」

「だって、あなたたちが練習相手を欲しがっていたんでしょ?」

にこりと笑うと、彼女は腰の刀を抜いた。

刃が光を反射して、一瞬、時間が止まったように見えた。


「さて、レキバト! 楽しみましょっか!」


言葉と同時に、彼女の姿が掻き消えた。


「う、うそ……」


目の前で、武田先輩が吹き飛ばされた。

見えなかった。動きが。

ただ、残像のような閃光が走って、気づいたときには武田先輩が地面を転がっている。


「なに、今の……!」

「真村先輩、下がって!」


真村先輩が慌てて後退するが、その背後にもう彼女がいた。

斬撃。衝撃。光。一太刀、終わり。


私は焦り、急いで通信を飛ばす。


「藤原先輩! 敵チームの将軍! みずほさんです!」

「え?! みずほさん?!」


私は目の前を見ると、みずほさんは優しく微笑んでいた。


「さて! 小鈴ちゃん。一気に形勢は逆転。1対1だけど。どうする?」

「どうするも何も」

「ここは軍師の見せ所よ? さあ、貴方の戦い方をって、え?」


みずほさんが再度戦いの意志を見せる途中、私は防具と刀、全てをその場に捨てる。


「何してるのかな?」


みずほさんが問いかける。私はそれに丁寧に答える。


「逃げます!」


その言葉と同時に全力で走ることにした私である。


「ふふっ、そうきたか」


みずほさんはそのまま刀を鞘に納めると、小鈴を追って走り始める。


「小鈴ちゃーん。まってぇー!」

「まちませーーん!」

「きゃははー鬼ごっこみたいで楽しいー!」

「私は楽しくありませーん!」


正直、ここで1対1をしても配線は目に見えている。それならば丘を降りて凜と藤原先輩に助けを求めることが最善だ。それに私、意外に足だけには自信がある。


「囮さんチーム、敵将、連れてきます!」


~~~

場面が切り替わる。

橋上、凜の身体が揺れていた。

すでにそこにいるほとんどを斬り倒し、息も絶え絶えで、その隙に斬りかかろうとする敵を高台から藤原先輩が打ちぬ抜いた時だった。


「まだ……まだ戦える!」

「いやぁ~。凜ちゃんは十分戦ったよ。あとは軍師ちゃんに任せよう」


そういった矢先、二人に通信が入る。


「囮さんチーム、敵将、連れてきます!」


私達の軍師から、叫ぶような声だった。


「小鈴ちゃーん? どゆこと?」

「目の前です! 目の前!」

「ん?」


藤原先輩と凜は声の通りに、橋の先に視線を送った。

すると坂から全力で疾走する、何故か武器も何も持たずに軽装な小鈴と何故かとても楽しそうに、なのに手には危ない刀を持って追いかけるみずほ店長が居た。


「あとは! 頼みます!」


小鈴はその言葉を最後に、追いついたみずほ店長に背中から斬られると、ホログラムの結晶となって消えて行く。


「小鈴!」と結晶化されていく小鈴を見て声を上げる。


凜が踏み込み、切る小鈴の方向に全力で走ろうとする。

だが次の瞬間、風が吹いた。

視界が揺らぎ、彼女の前に、黒い影が現れる。


「お疲れさま、剣道少女さん」


みずほさんがそこに立っていた。

刃が光り、凜の身体が浮く。

そのまま、白い光となって消えていった。


最後に残った藤原先輩が弓を構える。

けれど、みずほさんはその射線を読むように一瞬で距離を詰め、剣を軽く振るった。


 ——ゲーム終了。


視界が白く弾け、ポッドの蓋がゆっくりと開く。

現実の空気が戻る。

汗で濡れた髪を払いながら、私は呆然と天井を見上げた。


「はぁ~、やっぱり体は動くけど心はクタクタだねぇ」

藤原先輩が笑ってポッドから出てくる。

凜も無言でタオルを握っていた。


「はいっ、小鈴ちゃんもタオル」


みずほさんがタオルを持ってきてくれる。


「あっありがとうございます。みずほさん……なんでそんな強いんですか……」


私が聞くと、彼女は少し照れくさそうに笑った。


「昔ね、ちょっとだけプロやってたの」

「え? プロ。。ですか」

「いやー、さすがに勝てなかったか~」

「せ、先輩は知ってたんですか?」

「ん? レキバトで有名だしねぇー」

「それに、今回は藤原ちゃんが頼んできたんだよ?」


私は最初から騙されていたらしい。


「因みに今回は模擬戦だったから、みずほさん以外もNPCだよ」

「でも結局、私一人になっちゃったしねぇ~。なかなかいい相手だったよ!」

「は、ははは。そうなんですか」

「それにしても小鈴ちゃんの逃げ作戦! 面白かったな~」


とみずほさんに褒められているんだろうけど、褒められている気がしない。そもそもみずほさん一人でも勝てたんじゃないだろうか。


「で、どうだった小鈴ちゃん。初のレキバトは!」


藤原部長が私に問いかける。


もう一度、さっきやったばかりの戦いを想像する。

兵法書の中でしか知らなかった世界。そして、自分の作戦で、自分で動かした感覚と高揚感が残っているのが自分でも気づいていた。


「おもしろかったです。。」

「小鈴ちゃんも初めてなのにすらすら喋ってて様になってたしね」

「かっこよかったよぉ~」

「よかったぞ! 結城軍師!」


先輩がそれぞれ褒めてくれる。確かに、なんだかんだあの線上に溶け込んでる自分が居ることにびっくりしていた。


「次の日曜、勝ちたいです」

「うんうん! それじゃ! みんなで練習しようか!」

とみずほさんが声をかける。


そのまま私たちは、次の休みまでみずほさんとの対戦を繰り返したのだった。

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