3.聞くより慣れろ!の策です。
「——で、つまり「レキバト」ってのは、戦国時代とかあらゆる歴史の戦いを融合して、それを模したチームバトルなんだよ」
部室のホワイトボードにマジックペンの音が走る。藤原部長が説明をして、それを真村先輩がメモを取るようにまとめてくれる。
ホワイトボードの一番上には、「レキバト! 初心者講座!」と書かれている。入部(仮)が決まった私たちは次の日、約束の試合当日までレキバトについてレクチャーを受けることになった。
私たちは学校の体育ジャージに着替えて、それを聞いている。見るからに体育会系なのだけど、別に体を動かすわけではない。
「チームはおおまかに、”将軍””軍師””兵士”の三役に分かれて、相手の”将軍”を打ち取るか、戦意喪失にさせれば勝ち。しかし、我がレキバト部には見ての通り三人しかいなくて、三役ぴったしになって困ってたってことなんだ」
「あの、因みに軍師は誰が」
「私だ!」
と言ったのは、説明役には参加していない武田先輩だ。まだ自作の案山子の足軽君~女子高校生Ver~を持っている。武田先輩は高笑いしているが、他二人の先輩はまた苦笑いしている。説明役に参加しない軍師ってどうなんだろう。
「ま、まあ、武田は正義感強いから、軍師がいない役を買って出てくれたわけだが、今回は小鈴ちゃんも居るしね。もとより武田は兵士の方が性に合ってる」
「うむ! 戦線はまかせろ!」
武田先輩は軍師を降りることについては何も思っていないらしい。それは良かった。
「そ、そうですか。あの、私が軍師ってことですよね」
「そうのとおり!」
「でも、私ほんとに歴史が好きなだけで、ゲームとかもあんまりやったことなくて、想像もできてないっていうか、あまり自信がないんですけど」
「それもそうだねぇ」
藤原先輩は顎に手をのせて、少し考える。
「よし! まあ聞くより慣れろだ! あそこにいこう!」
「あそこ?」
夕暮れの商店街。
通学路を少し外れたその場所はネオンがちらちらとともり始めて、少しいかがわしさをも感じさせる場所にあった。
「Battlefield『零』~レキバト専門ショップ~」
店内に足を踏み入れると、ひんやりした空気と電子音。
壁際にはずらりと並ぶ電子機器や黒のVRスーツ、歴史書、レキバトに関連するモノならなんでもござれだ。
「いらっしゃい。・・・お! 藤原ちゃんたちじゃない」
カウンターの奥から顔を出してきたのはとても綺麗な女性店員さんだった。栗色の長い髪をラフにまとめて、なんだか大人な女性だ。
「やっほー。みずほさん! 今日は新しい子を連れてきました!」
「へー、新しい子?」
店長は私と凜を上から下まで見てにやりと笑った。
「眼がいいね。軍師向きの子に戦闘兵、良い素材を拾ったじゃない」
「さっすがみずほさん。やっぱりお目が高いね」
「あ、あの」
「あーごめんね。私はここBattlefield『零』の店長をやってます。川原みずほです。レキバトについて困ったり、なにか聞きたいことがあればいつでも来てね!」
「あ、結城小鈴です。お願いします」
「水城凛です」
私達はそれって頭を下げる。
「うんうん。可愛い子とレキバト好きはいつでも大歓迎よ!」
と言いながら抱き着かれる。みずほさんは”かなり”距離感が近い人らしい。
「で、今日は何をしに来たの?」
「そうそう、この子たちに模擬戦をやらせたいからちょっと設備を貸してほしいんだよね」
「なるほどね、丁度部屋も空いてるし! 準備してくるわ!」
そういうとみずほさんは奥の部屋に歩いて行った。
「先輩たちはいつもここで練習をしてるんですか?」
凜が藤原先輩に質問をする。
「そうだね。実は前の三年生が引退してから部員と部費もぎりぎりで、もともと設備が古いってのもあるけど、オンライン対戦だとまともに戦えないんだよ」
「昨日なんて、接続が五回も切れたものねぇ~」
「ハッハッハッハー。どんなことがあろうと関係ないがな!」
「武田ちゃん。接続が切れたら戦えないよぉ~」
「それもそうだ!」
ほんわかした声で真村先輩が武田先輩に突っ込むが、武田先輩わかっているのか分かっていないのか、いやあまり何も考えていないのだろう。
「準備できたよ~」
奥からみずほさんが現れて、私たちはショップの奥にある部屋に案内された。部屋の中は無機質な空間と五つの円形ポッドが並び、それぞれにケーブルと透明なヘルメットが接続されている。見るからに近未来感のある部屋だった。おそらくあれが専用の機械なんだろう。なんか漫画とかで見たことある。。。あれだ、なんか惑星からくる、猿の、なんだっけ、カカ〇ットとかいう。。。
「やっぱ一体型はいいねぇ~」
「一体型?」
「そうそう。これは一体型っていって、超高級なんだよ。うちにあるのはゴーグル型でめちゃめちゃ安価なやつんだ。ちなみにレキバトに使う装置はレキシンクって名前があるけど、まあそこら辺はどうでもいいか」
と藤原先輩はいうが、どうやらゴーグルがたでもそれなりのねだんはするらしく、簡単に買い替えれるものでもないらしい。
「まずは体験モードね」
と言ってみずほさんがスーツを差し出す。
身体にぴったりと吸いつくような黒のスーツ。
「あの、これ着るんですか?」
「小鈴ちゃん。恥じらいは最初だけだよ☆」
先輩に促されるまま着こんだけどやっぱり結構際どいこのスーツ。胸部や腰、全てが丸わかりのこのスーツはかなり抵抗がある。着替えてきた凜を見ると、それは高校生とは思えない完璧なスタイルで、私は勝手に比べて落ち込んでしまう。
「みんな準備できたね。ちなみに、スーツは神経接続式と言って、ゲームの世界では感覚とか体の動き、全てが現実世界と同じで何不自由ないと思う。痛みは軽減モードで設定してるから何も心配しなくていいよ」
「はい。。。」
そのまま私たちは各自用意された一体型のポッドに入り込む。ポッドの扉が閉まると、背中側になにかが接続される感覚と共に、視界が白く弾かれた。
———
気づけば私は草原の上に立っていた。
空は青く、遠くには小高い丘と古びた砦。気温も程よく風が頬を撫で、気持ちがよかった。
「ほんとに現実世界といっしょだ」
体をなんとなく動かしてみたけど、現実何も変わらないことに驚く。だが周りにあるのは野ばらのみで、現実世界にあるようなビルも車もない。本当に戦国時代にタイムスリップしたかのような感じだ。
《対戦相手が見つかりました》
すると無機質なアナウンスが響く。
視界に半透明なウィンドウが浮かび、現在の位置・味方数・敵数が表示された。
「小鈴ちゃん聞こえるー?」
「ひゃっ!」
藤原先輩の声が不意に耳に届く。
「いやぁー今回はランダムリスポーンだからみんなバラバラになっちゃったね。とりあえずみんなで集合しようか」
通信越しに皆が返事する。
「小鈴ちゃん、君が軍師だよ。どこに集まる?」
藤原先輩に軍師だと言われてハッとする。
「えと。じゃあ。。北方向に大きな丘があります。とりあえず見渡せるあそこで」
「おっけー」
丘上から全体を見渡すと、目の前にもう一つの大きな丘、そこには敵陣営が設置され、丘と丘との間には大きな一本の川が流れていた。対岸に渡るように一つの橋が掛けられていた。
「対岸に渡るにはあの橋しかないですけど。中央突破は危険です」
「そうだね。じゃあどうする?」
私の言葉に藤原先輩が答え、さらに質問をしてくる。
「今回、私たちは五人、敵陣営は三十人いました。かなり不利です。やはり、奇襲作戦がいいでしょう」
「なるほど! しかし結城! 正面突破も悪くないぞ!」
「武田は少し黙っててねー」
「うぅ。。」
藤原先輩が武田先輩をなだめる。
私はもう一度周囲を見渡した。敵陣の数十名近くは丘を降りて橋付近まで進軍を開始していた。
「いえ、武田先輩の案も悪くないかもしれません」
「おぉ! わかるか結城! やはりここは正々堂々、正面突破で!」
「いえそういうことではなく」
「お、おぉ、ではなんだ」
「あ、えと。敵陣は兵士の半分以上が橋の手前まで移動しています。つまり将軍の居る敵陣営は手薄という事です。そこを狙いたいと思います。まず二手に分かれます。囮チームさんと奇襲チームさんです。奇襲チームは右翼から回り込んで敵陣の真後ろに移動してもらいます。囮チームさんは奇襲チームさんが回り込んでることをばれないように橋上で迎撃したいと思います」
「なるほどなるほど。しかし小鈴ちゃん。二十人近くを引き付けるには相当な腕がいるよ?」
「はい。なのでここは、将軍である藤原先輩に囮をやってもらおうと思います」
「おいおい! 正気か? 結城!」
武田先輩が声を荒げるのも無理はない。正直リスクはかなり高い。しかし、数的不利を覆すには、時にはギャンブルに出なければならない。それに、私には秘策があった。
「小鈴ちゃん。良いと思うけど。さすがに20対1は私でもきついかなぁー」
「はい。さすがに藤原先輩ひとりとはいいません。凜、橋の上で20人。勝たなくてもいいから、足止めできる?」
私はこれまで黙って話を聞いていた凜に声をかける。凜の表情は変わらない。まっすぐ私の眼を見たままだ。
「うん。小鈴は出来るって思ったんでしょ?」
「凜ならできると思う」
「わかった。任せて」
凜は私の眼を言った。これなら大丈夫だろう。
「青春だね~」
藤原先輩が私たちを茶化す。
「基本的には橋の上で藤原先輩は遠距離からの支援をおお願いします。やられてしまっては負けしまいますから」
「おっけー。凜ちゃんが前で戦ってるときはテキトーに弓でもうっとくよ」
「その間に私、武田先輩、真村先輩は敵陣営の真後ろに回ろうと思います」
「わかったぞ!」
「わかりましたぁ~」
武田先輩の熱い返事と真村先輩のほんわかした返事が混ざる。
「では、いざ開戦です!」
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「敵陣営チーム」
敵陣営の中央には一つ椅子に座り、戦況を見守りながら将軍が佇んでいた。
「ふふふ、さあ、どんな風に戦うのかな~」




