2.逃げ場なんてない感じの策
私は今、よくわからない部屋(物置部屋みたいな場所、なんかの空き教室)で、見知らぬ人達に囲まれています。
え? 何故こんなことになったかって? 夢じゃないかって? 私が聞きたいです。
確かあれは何の変哲もない放課後
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無事に寝ぐせなしの姿でクラス写真を撮り終えた私は、初日という事もあって学校が午前中で終わった後、剣道部の午後練習に出ていた。ちなみに凜とは同じクラスだった。
放課後の剣道場は、竹刀の音が規則正しく響いていた。
私はステージのようになっている見学席で、床に足を投げ出しながら古い兵法書を広げている。
ページの文字をなぞりつつ、頭の中で武将になりきって戦略を組み立てる。
「めぇん!」
凜の竹刀が綺麗に面を突き抜ける。
全国制覇をしている凜の姿を横目で見つつ、私はページをめくりながら没頭する。
「戦場の———ふむふむ、あの配置なら騎兵の展開があーなって」
いつもと変わらない剣道場に乱入者が現れたのは、唐突なことだった。
「たのもーーー!」
え? と皆が動きを止めて、乱入者の方を見ると、制服を着た3人が立っていた。
「たのもー? え? 道場破り?」
と皆が思ったことであろう。乱入者はそのまま道場中央まで歩いていき、凜の目の前に立った。
「私たちは歴史戦バトル部!———通称、レキバト部! ここに学校最強の兵力をスカウトしてきた!」
と言ったのは、長身で黒髪ショートカットの人だった。決め台詞が決まったのか、仁王立ちで眼鏡をくいッと上にあげた。
私たちは突然のことで皆が絶句している。
「君が水城凛くんだな。是非我がレキバト部へ!」
「ごめんなさい。私、剣道一筋なので」
「あ、そうですか。それはざんね、、、え?!」
いや、今ので受けてくれると思ったのだろうか。作戦のさの字もないな~。
「ど、どうしましょぉ~。大将~」
とメガネの人が分かりやすくおろおろしだして少し後ろにいた人に泣きつく。大将? と呼ばれた人はメガネの人に比べると背が小さく、茶色い髪をツインテールにしている。背は小さいけれど、なんだか堂々としていて大きく見える気がする。
「ん~どうしようねぇ~。ん?」
と大将と呼ばれる人が私と目があった気がした。
「あの子は?」と私を指差して聞く。
「あ、小鈴さんです。剣道部のマネージャーで、、、」
「ふーん」
と私じゃないマネージャーと大将が言葉を交わすと、何かを思いついたかのようににやりと笑った。
「武田、真村、標的変更だ。あの子にしよう」
「「はい!」」
大将と呼ばれた人の号令で、他二人が素早い動きで私に飛びついてくる。
「えっ?」
「すまないけど。ちょっと付き合ってくれる?♡」
「いや、私にはマネージャーの仕事が!」
「いやきみ、どう見てもサボってるよね」
私は文字通りがんじがらめになって、両腕を掴まれるとそのまま引きづるように拉致られる。
「ちょっ! 凛~助けてぇ~」
「それじゃあ! お邪魔しましたー」
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ここで冒頭に戻ってくる。
私は引きずられるようにして、古びたプレハブ棟の一角に連れ込まれた。
そして私は見知らぬ三人に囲まれています。
「あの、、、これはいったい何なんですか!」
「まあ落ち着いてくださいぃ~。まずはお茶をどうぞぉ~」
とおっとりした声で言ったのは、多分、真村と呼ばれてた人だ。栗色の髪の毛をポニーテールで束ねている。
「あ、ありがとうございます」と言って、自分を落ち着かせるためにお礼を言って湯呑に手を伸ばす。
「はい、貴方もどうぞぉ~」ともう一つ隣に湯呑を置く真村さん。ん? もう一つ?
「ん?! 凛?!」
何故か私の隣に座っていた凜に驚き、舌を少しやけどしてしまった。
「ど、どうしてここに?!」
「助けてっていったじゃない」
なんて格好いいんでしょう、我が幼馴染。
「で、小鈴を拉致して、一体どういう事なんですか?」
「まあ、そりゃそうなるよね」
目の前の椅子に座った対象と呼ばれてた人がクルっと回転してこちらを見て言う。
「いったん、自己紹介をしようか。私は藤原志保。こっちが武田巴。で、最後にこっちが真村ほのか(さなむら・ほのか)。まあ私たちは君たちの先輩で、レキバト部でここが部室。悪かったねぇ~、急に拉致みたいなことしちゃって」
「あ、あの、レキバト部の先輩方は私に何用ですか?」私は恐る恐る聞いてみる。
「まあここまで来たらわかるよね! 君たちにレキバト部に入部してほしいんだよ!」
「頼むぞ! 人数不足なのだ!」
「お願いしますぅ~」
と先輩方に頼まれる。まあ、わかってましたけど。
「あの、私、レキバト部って聞いたことあるくらいでよくわからないんですけど。そもそも私、何か役に立てるとも思えないですし」
「ま、そこも説明しようか。急に連れてきちゃったわけだしね。武田、ボード用意して」
「承知したぞ!」
といって武田先輩はボードを私たちの前に持ってきて、ペンで「レキバト初心者講座」と書く。
「じゃあ説明するね。まず、レキバトっていうのはね、簡単に言えば、リアル将棋バトルみたいな感じ。チームの中で王様を一人決めて、その他が兵士になるの。相手の王様を倒せば勝ち。戦略も舞台も何でも自由できちゃうわけさ。それを実現するための装置があるんだけど、その仕組みについてはよくわからないけど、VRゲームみたいなものだって考えてもらえばいいかな。専用のスーツと装置に入り込んだら戦地にひとッ飛び! ね? 簡単でしょ?」
「簡単すぎます。それに、部員はいるみたいじゃないですか」
「それがね~。最低人数が5人なわけさ」
「なるほど。あと二人必要で私たちをと」
「そうゆうこと~」
「あ、あの。凜はわかります。剣道全国制覇してるし。でも私、正直運動もそんなに得意じゃなくて、、、役に立つとは、思えません、、、」
凜はまだしも、私がこの部活に入るメリットが分からなかった。正直、ゲームなんかも生まれてから触ったこともないからよくわからない。
「ちっちっち、小鈴ちゃん。私は君の適任なポジションを見出してるよ?」
「え、適任ですか?」
「そう、これだよこれ」
「あっ」
と藤原先輩が手に持ってたのは私のカバンに入ってたはずの兵法三十六計だ。
「いつのまに! 返してください」
「ほい。ねぇ小鈴ちゃん。軍師やってみない?」
「軍師、ですか?」
「そう! ちょうど軍師も居なくて困ってたし。そんな本読んでるってことは小鈴ちゃん、そうゆうの好きなんじゃない? 私たちを駒に見立てて、自由に動かして、相手を欺いて、合戦に勝利する。私は君には適任だと思っているよ」
「でも、私、弱いですし...」
私は弱い。これは私が私にした評価だ。頭をどんなに使っても、勝てない戦はあるんだ。
「小鈴、やるべきだと思う」と言ったのは凜だった。
「そうだぞ、小鈴殿! 弱くてもいいじゃないか! 私が守ってやるぞ!」
「小鈴ちゃんに軍師やってもらぁ~。嬉しいなぁ~」
武田先輩と真村先輩が続けて言う。
「私、小鈴がまた戦ってるとこ見たい」
「え、えぇ~」
凜にそんな眼差しで見られると非情に断りづらい。
「よし! じゃあ次の日曜日に他校との練習試合があるんだよ。小鈴ちゃん。その日だけ付き合ってくれないか。それで答えを出してもらおう! あ、凜ちゃんもね? 人数足りないし」
「小鈴が出るなら行きます」
「わ、わかりました」
「よし!」
半ば強引だったが、会長の案に乗ってみることにした。まあ、歴史オタクではあるから、ちょっと興味はあるし。
「やっとぞ大将! これでメンバーがそろった! 足軽人形を使わなくて済んだぞぉ~」
「足軽人形?」
「あぁ、それはだな」
武田先輩がそう言いながら出来の悪い二頭身人形を持ってくる。顔にはへのへのもへじと書いてあるし。なんか、ひどいな、何だこれ。案山子?
「いやぁー人数が揃わない可能性があったからな。私が本番用に作っておいたのだ! これがあれば不戦勝にならないだろ?」
ハッハッハッハーと武田さんが胸を張るが、他メンバーは苦笑いだ。
このメンバーで本当に大丈夫なのだろうか。




