1.はじまりの朝?みたな策です!
怒号と歓声。戦場の中央、私は迫りくる敵将と相対し、互いに睨みあう。両者が不敵な笑みを浮かべた瞬間、敵将が馬上で刀を抜き、一気に迫りくる。私はその場で動かぬままだ。
敵将が刀を振りかぶり、私に向けてそのまま振り下ろす。それに合わせるように、軍配を構える。互いの武器が相対する、その瞬間——
「小鈴! 凜ちゃん来てるわよ!」
お母さんの声が、カーテンの隙間から射す朝日よりも先に部屋に響き渡る。
ドアが軋みをあげて開かれると、そこには完璧な寝ぐせの私と完璧に整えられた幼馴染がいた。
「...おーい、今日から学校でしょ? いいかげん起きなさいよ」
「ん...りん、あと五分だけ...」
「五分っていっていつも三十分でしょ。そろそろ行かないと遅れるわよ」
名前の通り凛とした声。そこには剣道部全国連覇中の女子剣道部所属、エース・水城凛が私を見下ろしながら言う。青みがかった黒髪が綺麗に伸びて、学校の制服を着こなしていた。
毎朝のように、彼女はこうしてわたし———結城小鈴———の部屋にやってくるのだ。
私は布団から這いずりながら出ると、近くに積み上げていた本に頭をぶつけ、そのまま崩れると私は大量の本の下敷きとなってしまった。
「あうぅ」
と唸りをあげている私と部屋を見渡して、凜はあきれたように溜息をつく。
「また散らかってる...この前せっかく片づけたのに」
「あははー、本棚買わないとだね」
「合っても片付けないでしょ」
と核心の付くことを言われる。そう、だから本棚を買うのが先送りになってるのだ。
「なにこれ、兵法三十六計?」と凜が近くに落ちていた本を拾って読み上げる。
「寝る前に読んでたら面白くって。結局寝落ちしちゃったけど」
昨日も本を読みながら寝落ちした。その前の日も。またその前の日も。つまり毎日であるが、そのせいで部屋の中には本が散らばり、片付かないのだ。正直これについては私自身困っているのだ。床一面に広がる戦国史や戦術論、古地図や軍記物。まるで歴史おたくの部屋だが、まあ実際に私は歴史オタクである。凜はこんな散らかった部屋を子供の頃から見慣れてるからいいけど、初対面の人とかは引くレベルだと思う。まあ見せる相手なんていないけど。。。
「まったく...ほんと昔から変わらないわね」
そう言いながら凜はくすりと笑う。私もそれにつられて笑ってしまう。昔から変わらない光景だ。
「え、まだ六時じゃん!」
これまた床に落ちていた目覚まし時計を見て凜に文句を言う。まだ眠いはずだよ。どうしよう、もうひと眠りしようかな。凜には先に行ってもらって、なんて思案していると凜の後ろに人影が現れた。
「凜ちゃんごめんなさいねぇ~。毎日毎日」
同じ紅桜の髪の毛を持つ母が、朝の6時だというのに、淡い青色の着物を着こなして登場した。私はまだ寝巻で、本能寺と書かれたTシャツと短パンを着ているというのに。なんだこの格差は!
「いえ、私は好きでやってるので」
「そうそう、凜は好きでやってるんだって~。ん? おぉ」
着替えようと思い姿見で自分を見ると、ショートカットで紅桜色の私の髪が全て逆立っていた。これは、これは
「まるで燃えているようだ。つまり、本能寺の変!」
と振り返り、凜とお母さんに決め台詞をかます。
凜はまたくすりと笑い、お母さんは青筋を立てている。あ、これはやばい。
「小鈴! ふざけてないで早く着替えなさい! 人を待たせない!」
「は、はひぃっ!」
いつの時代も母親は最強である。
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風が降ると桜が舞い散る通学路を、二人並んで歩く。いつもの朝、いつもの距離だ。
「なんで学校初日から朝練があるんだぁー」
私たちがこんなに朝早く登校する理由は剣道部の朝練の為だった。
「りん。わざわざ起こしに来なくてもいいのに。私マネージャーだし。することないし」
「だって、ほっといたら本当に遅刻するじゃない。去年のクラス写真だって、小鈴だけ寝ぐせで写ってたじゃない」
「う...それは記憶から削除したい」
頭を抱えていると、隣で凜が楽しそうに笑う。
「ねえ、小鈴。今年はどんなことがしたい?」
「んー...ない!」
考えてみたいけど特にない。基本無気力な私である。正直やりたいことだけやっていたい。
「剣道はやらないの? 小鈴も昔やってたでしょ?」
「んーそれはいいかな~。才能ないし」
「そう? 強かったと思うけど」
と凜は首を傾けながらフォローしてくれるが、いやいや、貴方様に言われてもねぇ~。
「そうだなぁ~...部活止めて、歴史書に埋もれる生活でもしようかなぁ~」
と言うと、凜は一瞬目つきが鋭くなった。
「それは駄目」
「えぇー...別に今もやってること変わらないしいいんじゃない?」
「だいたい、校則で決まってるでしょ? 必ず部活には所属しなくちゃいけないって」
「それはそうだね。じゃあ、現状維持で!」
しばらくして学校に着き、そのまま体育館へと向かう。
扉を開けると体育館にはすでに何人かの部員が集まっており、私たちに気づくと部員が集まってくる。
といっても、私達ではなく、主に凜の周りだ。
「じゃあ、りん部活がんばって!」
「うん」
手を振ると、凜も返してくれた。
これから朝の時間までみんなは部活をこなす。マネージャーはそのサポートだ。
私は体育館内の倉庫に入ると、積み上げられた体操マットの上に飛びこむ。
「ん~、もうひと眠りしよぉ~」
え? 準備? サポート? 大丈夫。私より優秀なマネージャー諸君がやってくれるからね。




