ログ002 | 騒いでたら、場のルールがどっか行った。
「先生!」
俺は椅子を蹴っ飛ばして立ち上がった。
「宇宙が膨張してるってことは――」
「バン!」
タケルが教科書を扇風機にぶん投げた。
「じゃあ俺の人生はなんで縮んでんだよ、クソが!」
扇風機の羽根が教科書を細切れにして、
紙吹雪が教室に舞った。
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「お小遣いもだよ!」
サキがテスト用紙を破って天井に撒いた。
「エネルギー保存則、完全に破綻してんじゃん!」
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後ろの席から消しゴムが飛んできて、黒板にヒット。
「違うよ!お前の親父の金は、俺のママの化粧品に変換されただけ!」
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「はあ!?ふざけんな!」
ジュンが机に乗っかって、
手で宇宙ビッグバンのジェスチャー。
「それは俺のママのヒアルロン酸が教頭のハゲ頭に移動しただけだ!」
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女教師が講義を続けようとする。
「みんな……まだ授業中よ……」
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「何が授業だよ!」
タクミがチキンカツを天井に投げつけた。
ジュッと油が冷房の吹き出し口に張り付いて、
黄色い星雲みたいなシミができた。
「チキンカツの値上げ、宇宙膨張より速ぇぞ!」
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誰かが机をひっくり返した。
誰かが筆箱を投げた。
誰かは床に転がって笑いすぎて痙攣してる。
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「彼氏が浮気したのはどう説明すんだよ!」
ミサキがモップを持って俺に突っ込んできた。
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「簡単だろ!」
俺は講壇の後ろにひょいっと隠れた。
「離心率がデカすぎるから、太陽系のゴミ箱に捨てとけ!」
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「じゃあ、このニキビは!?」
ユイが髪をかきあげる。
額のニキビが宇宙みたいに光ってた。
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「それは宇宙背景放射だよ!」
ショウが椅子を盾にして叫ぶ。
「そのニキビ一個一個が、ミクロの宇宙だ!」
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後ろから「ボンッ!」という爆発音。
コウヘイがコーラを振って爆発させた。
「見ろよ!これが本物のビッグバンだ!」
炭酸が教科書をびしょ濡れにした。
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誰かがゴミ箱を頭から被った。
「俺はブラックホールだ!宿題よこせ!」
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「ふざけんな!」
サキが問題集を折って紙飛行機にして、扇風機に投げた。
風に巻き上げられた紙飛行機がカーテンに当たって戻ってきた。
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タクミが講壇の上に立った。
油でテカテカのチキンの骨を高く掲げる。
「みんな!気付いたぞ!
これが宇宙の最終解答だ!」
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「違うわ!」
俺はペットボトルを踏み潰して「パキッ」と音を鳴らした。
「宇宙の答えはな――」
全員が0.5秒だけ静かになった。
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「教頭のハゲが反射することだ!」
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全員、爆笑。
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タケルは窓際でバスケボールを回して軌道力学の実演を始めた。
ボールは手から滑って、天井にぶつかって、壁に跳ね返って、誰かの頭にヒット。
「軌道変更だ!重力干渉だ!」
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ミサキは口紅を顕微鏡に塗りながら、「クォーク見えるかな?」とか言ってる。
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コウヘイは自分をガムテで壁に貼り付けた。
「表面張力の検証中!」
そのままズルズルずり落ちて、途中でまた貼り直した。
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タクミはマヨネーズで黒板に「チキン銀河系」を描いてる。
「スパイラル銀河…じゃなくて、スパイシー銀河!」
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ショウはスマホを構えて、
「宇宙副本実況中!」と配信を始めた。
コメント欄に「いいね!」が飛んでくる。
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ジュンはストローで牛乳を噴射して、「ホワイトホール!」と叫んだ。
床に牛乳銀河が広がる。
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ユイは消しゴムカスを手の平に集めて、
「このカスの一つ一つが、
私たちの人生だよ……」
と意味不明なことを言ってた。
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先生は教室の隅でスマホを握りしめてた。
「校長……ええ、消防隊……いや、本当に、ガチで……」
でも、さっきよりちょっと笑ってた。
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教頭が教室に飛び込んできた。
俺は机と椅子でロケットの形を作ってる最中だった。
ジュンは試験用紙に火をつけて、
「大気圏突破中ーーー!」
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サキは扇風機に向かって叫んでた。
「宇宙背景放射キャッチ中!」
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「お前ら……」
教頭のハゲが赤く光ってた。
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全員:「ホーキング輻射を検証してまーす!」
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窓の外、鳩の群れが通り過ぎ、
ちょうど廊下にフンを落としていった。
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その瞬間、誰も笑わなかった。
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教室が一瞬、無音になった。
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タケルはボールを抱えたまま、窓の外を見てる。
ミサキは口紅を持ったまま、じっとしてる。
コウヘイはまだ壁に貼られたまま、ガムテがまた少しずつずり落ちてる。
チキンの骨が床に転がったけど、誰も拾わなかった。
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俺は講壇にもたれて、
ポケットに手を突っ込みながらボソッと言った。
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「なあ。」
「今の全部さ――」
「宇宙が暇つぶししてるだけかもな。」
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誰も返事しなかった。
扇風機の音だけが回ってて、
空中を漂う紙屑がくるくる回った。
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窓の外で、また鳩がフンを落とした。
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俺は笑った。
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「たぶん宇宙って、こんなもんなんだよ。」
「笑って、暴れて、
で、また膨張するだけ。」
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教頭は口を開けたまま、言葉が詰まってた。
先生はスマホをしまって、
壁にもたれたまま笑ってた。
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俺は肩をすくめて、天井を見上げた。
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「まあいいや。」
「次の授業も、俺たち同じメンバーだしな。」
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俺は講壇に座って、机を一回叩いた。
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「ログアウトなんてねーよ、
この宇宙副本にはさ。」