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ログ001|観測の流れを変えた記録
俺はただ、眉をひとつ動かした。
子供が笑った。
それだけで、流れが変わった。
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「人生は苦だ。」
ショーペンハウアーは言った。
その言葉が届く前に、「苦」の札だけが床に落ちた。
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「人間失格だ。」
ダザイは呟いた。
壁には「失格」の貼り紙が、剥がれかけたままだ。
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「世界は不条理だ。」
カミュは言った。
足元には「不条理」と書かれた石が転がっている。
誰も拾わない。
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「孤独は素敵だ。」
ムラカミは言った。
ラベルが剥がれて、隅に積まれている。
もう誰も使わない。
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「超人になれ。」
ニーチェは叫んだ。
超える対象はもうなかった。
看板だけが立てかけられている。
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「我思う、故に我あり。」
デカルトは言った。
剥がれたステッカーが、誰にも触れられずに貼られている。
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「無常だ。」
ブッダが呟いた。
「無常」の札は、静かに地面に落ちている。
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俺は湯をすする。
眉を動かす。
言葉は物体になった。
意味は残らなかった。
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ここに何も残らない。
ただ、
これが俺の場だ。