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8.手当てとお世話

 僕はメェとムゥの方を振り返って、声をかける。


「今から消毒するものを持ってくるからね。メェ、ムゥ。僕が戻るまで彼の毛を少しおさえていて」

「わかった!」

「まかせて!」


 患部が見えなくなってしまうと大変だ。僕は急いでお城の人を呼び止めると、化膿止めの薬はないか尋ねてみた。

 お城の人は僕の頼みを快く引き受けてくれて一旦その場を離れてから、戻ってすぐに魔物用の塗り薬を僕へ手渡してくれる。


「ありがとうございます」

「魔王様のお客人の頼みに答えるのは当然のことです。お気になさらずに」


 お城の人たちは親切な人たちが多い。給仕担当の人は魔王様から伝令がでているのか分からないけど、僕のことを丁重に扱ってくれる。

 おかげですぐに薬を手に入れることができた。僕はそれを持ってケルベロスの側へ戻る。


「ごしゅじんさま! ここだよー」

「ここ!」

「ありがとう、二人とも」


 僕はメェとムゥをなでてから、ケルベロスに分けてもらった薬をゆっくり塗り込んだ。

 ケルベロスはその間も大人しくじっとしてくれていた。


「君はとても頭がいいんだね。これでどう? 気にならなくなった?」

「ガウッ」


 ケルベロスは三つの頭で元気よく返事をしてくれた。

 魔物にも不眠症はあるのかもしれないな。これで寝不足が解消されるといいんだけど……。


「ごしゅじんさま、このこもおひるねするって」

「やっとねむれそうだって」

「そうか。じゃあ、よく眠れるようにブラッシングしてあげよう」


 僕はメェに頼んで僕の愛用しているブラシを部屋から持ってきてもらった。

 このブラシは羊用だけど、みんなをブラッシングしている時は僕も幸せな気持ちになれる。


「ケルベロス、ブラッシングさせてね」


 僕はケルベロスに断ってから改めてケルベロスの身体の側へ座り込み、硬めの毛を優しくブラッシングしていく。

 ブラッシングをすると、少しずつ毛が解けて表面に艶が出てくるのが分かる。

 僕はブラッシングをしながら、いつも歌っていた歌を口ずさむ。

 すると、ケルベロスはゆっくりとくつろぐように身体を丸めて地面にうつぶせた。


「ふわぁ……ボクたちもおひるね……」

「ねむねむ……」


 メェとムゥもケルベロスの尻尾の上にちょこんとお邪魔して昼寝し始める。

 僕は微笑ましくなって、暫くブラッシングをし続けた。


 +++


 ぽかぽかとした陽が当たる中庭だったせいか、気づくと僕までケルベロスの毛に埋もれて寝てしまっていたらしい。

 誰かに肩を揺り動かされて、意識が覚醒してきた。


「パストルカ、眠るのは構わぬがこのような場所でなく寛げる場所で眠ったらどうだ?」

「ん……あっ、魔王様! すみません、ケルベロスのブラッシングをしていたのですが毛並みが心地よくて僕まで眠ってしまいました」


 慌てて顔を上げて謝ると、魔王様はスッと手を前に出す。謝らなくてよいということだろうか?

 そして、ケルベロスに視線を落とした。


「確かに。我が見たときよりも艶が増している。しかも、コレは随分と心地よさそうに眠っているではないか」

「はい。ケルベロスの身体に植物の棘が刺さっていて、どうやらこの棘が気になって眠れなかったみたいです。ぐっすり眠れば元気になるかと」

「ほう、そんな些細なものが作用して怠惰になるとはな。まあ良い。コレはお前に気を許したようだ。いくら我の言うことを聞くとはいえ、魔物は魔物。本能的に敵ではないと理解したのであろうな」

「そうなのでしょうか? それならばよかったです。魔王様の課してくださった仕事をこなせたのならば僕も嬉しいです」


 僕は喜びのあまり魔王様に向かって微笑みかけてしまった。

 魔王様は一度瞬きをしたけれど、僕を見下ろす視線は冷たいだけではなくほんのりと慈愛が込められているように感じた。

 もしかしたら、少し認めてもらえたのかもしれない。

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