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7.礼服と仕事服

 次の日、世話をしてくれる魔族の女の人がやってきて僕の服を着替えさせたり何故か化粧をさせられたりした。

 見目を整えることは、魔界では常識らしい。

 服は上質のシルクの真っ白なシャツ、下は黒を基調としたパンツなんだけど……丈が少し短めだ。

 足を出す方が可愛らしいと言われたけれど、僕は子どもという年齢でもないので気恥ずかしい。

 輝く黒の革靴も履き慣れないから新鮮だ。


「パストルカ様は今まで見た人間の中でも見目が整っていらっしゃいます。魔王様が連れてきた方だけあって、少しお手入れをするだけで美しさが増しますね」

「そんな風に思ったことはなかったですけど……ありがとうございます」

「金色の柔らかな髪も、煌めく宝石のような空色の瞳と可愛らしい小さな桃色のお口も……少しお手を加えるだけで見違えるほどに輝いてらっしゃいます」


 僕の見た目をすごく褒めてくれているせいか、聞いていてくすぐったい。

 可愛いと言われたことは確かにあったのだけど、男としてはどうかとずっと思っていた。

 だけど、こんな見た目で喜んでもらえるのは素直に嬉しい。


「たくさん褒めていただきありがとうございます。人間の僕にも親切にしてくださって嬉しいです」

「いえ、魔王様から仰せつかった大役を果たすことは我らの喜び。どうぞ気兼ねなくお申し付けください。準備も整いましたし、お食事の間へご案内いたします」


 僕は案内された食事の間で、魔王様の向かい側に座らされた。

 そして、魔王様の号令とともに周りの人たちに紹介される。

 燃えるような赤い肌と髪を持った強そうな魔族や、白い陶器のような肌をした見た目はか弱そうな美しい魔族。

 緑色の肌の小さい身体の魔族……見た目は色々だったけど、値踏みするように見られたせいもあって食事は喉を通らなかった。


 +++


 ケルベロスのお世話をするときまで服がシルクでは気になってしまうので、頼みこんで動きやすい布の服に着替えさせてもらった。

 こっちは足もでていないし、白を基調としたシンプルな作りだから着ていても落ち着く。

 僕は内心緊張しながら、昨日訪れた城の中庭へ進む。


「ごしゅじんさま、ケルちゃんがなにかしてきたらボクたちにまかせて!」

「うん! まかせて!」

「メェ、ムゥ……ありがとう。ケルちゃんかぁ……」


 僕が近づくと、ケルベロスは鬱陶(うっとう)しそうにこちらを振り返り欠伸した。

 昨日から気になっていたけど、どうしてこんなに欠伸ばかりするんだろう?


「こんにちは、ケルベロス。僕はパストルカ。もしかして……眠れないの?」


 ケルベロスの頭の辺りに手を伸ばそうとすると、ケルベロスの一つの頭が警戒してグルルルとうなり声をあげる。

 知らない人間がいきなり触れようとすれば、襲われてもおかしくないか。

 でも、魔王様が飼っているだけあって僕の手を嚙みちぎろうという勢いまでは感じられなかった。

 この子は魔物と言っても、頭が良い子なのかもしれない。


「いきなり触れようとしてごめんなさい。でも、君に触れないと原因が突き止められないんだ。危害を加えるつもりじゃないから少しだけいいかな?」


 ケルベロスに話しかけると相変わらず警戒はしているみたいだけど、殺気みたいなものは抑えてくれているように感じた。

 メェとムゥもケルベロスをけん制してくれているせいか、ケルベロスの方が譲ってくれたらしい。


「ありがとう。痛いことはしないけど、嫌だったら教えてね」


 僕は話しかけながら、ケルベロスの身体に優しく触れていく。

 毛並みは悪くなさそうだけど、腰の辺りに触れるとケルベロスがグゥッと低い声を出した。


「どうしたの? あ、何か刺さってるね。毛並みに隠れて見えないくらいの小さなものだけど……君が届かない位置だから気になってたんだね。少し痛むかもしれないけど、取ってあげる」


 僕は毛並みの中に手を差し入れ、ケルベロスの身体に刺さっていた小さなものを抜き取る。

 ケルベロスはぶるりと身体を震わせたけれど、我慢してくれたらしい。

 抜いたものを改めてみると、小さいけれど植物の棘みたいだ。

 この棘が気になっていたけど抜けなかったせいで落ち着かず、十分な睡眠もとれないまま怠い日々を送っていたのだろう。

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