5.魔界と種族
魔王様の後に続いて魔界へ足を踏み出すと、景色が一変する。
夕暮れ時のような赤い色で辺り一面が照らされていて、地面も赤茶のゴツゴツとした地面だ。
生えている植物も深緑の見たことないようなトゲトゲしい植物が生えている。
「この辺りは戦いが多くてな。土地も荒れているのだ。魔界でも美しい場所はあるのだが、一応人間界とは違う景色を見せておいたほうがより魔界だと理解しやすいだろうと思ってな」
「わざわざお気遣いいただき、ありがとうございます。こちらが魔界なのですね」
「そうだ。お前にはやってもらいたいことがある」
魔王様は振り返りもせず僕へ言い放つ。その声色は怖いだけじゃなくて涼やかだ。
僕はただその後をついていくだけだ。でも、速さは僕の歩幅に合わせてくれている気がする。
「まおうさまってなんかえらそうー」
「だよねだよね」
「しーっ!」
メェとムゥは魔王様にも強気だ。でも、魔王様は二人の言葉を無視して歩いていく。
魔王様はまた立ち止まり、空中に扉のような形を描いた。
今度の扉の向こう側は、辺りが夜のように暗いけれど二つの月のようなものが浮かんでいる場所だ。
ここの道は石で舗装されていて、周りも地上では見たことはないけれど先ほどとは違う木が両脇に何本も生えていた。
「わが領内に入った。本来はこのような手順を踏まずとも居城にいくことは可能なのだが、お前たちは少しでも魔界を知っておいた方がいいだろう」
「魔界に慣れていない僕たちの為に……ありがとうございます」
魔王様の後に続いて歩いていくと、そのうちに大きな黒塗りの門が見えてくる。
その前には二人の門番らしき人が立っていた。
槍のような武器を持っていて、肌の色は緑色だ。分厚そうなよろいも着込んでいるし白の髪の頭に角も生えている。
「魔王様! お帰りなさいませ。そちらの人間と使い魔は?」
「今日から我が城で働いてもらう。人間だと馬鹿にせず対応するように。弱き者にも仕事は必要だ」
「はっ!」
二人の門番は魔王様と僕たちを通してくれた。大きな門がギギギという音を立てながら開かれる。
魔王様は僕の存在を知らしめるように、ゆっくりと道を進んでいく。
中は黒い建物が両脇に並んでいて、どうやらお店が並んでいるらしい。
いわゆる町なのかな? 僕は物珍しくてつい辺りを見回してしまう。
「ここは第一の町と呼ばれている区画だ。我らも人間と同じようなものだ。自然を好んで各地に暮らす種族もいれば、人間のように町を作り集団で住む種族もいる。我らは魔族。人のような姿になることができ、人語を解する種族だ」
「つまり、魔物は言葉を話さず姿も変化しないということですか?」
「魔物の中にも人語を解するものはいるが、魔族は人型で必ず人語を解することができる者だと思えばよい」
魔王様は説明を加えながら、街に通っている真っすぐな道を歩き立派なお城の前までやってくる。
お城は美しい黒色の石が積まれてできているみたいで、魔王様が言うにはお城は結界で守られているので安全だという。
お城の門の前にも同じ姿の門番が立っていて、魔王様が近づいていくと頭を下げて魔王様を向かい入れた。
「パストルカ、お前には城の一室を与える。部屋は後ほど案内させるが、まずはお前に仕事を課す」
「かしこまりました。最善を尽くします」
僕が一礼すると、メェとムゥは僕の身体の周りをくるくると飛び回る。
魔王様は城の廊下を進むと、中庭へ一歩踏み出した。
中庭には黒い毛に覆われた大きな魔物らしきものが気だるそうに寝転んでいる。
魔王様が近づくと、三角の耳をピクリと動かしゆっくりと身体を起こす。
「お前はまた寝ていたのか」
「……」
振り返った魔物は顔が三つくっついていて、それぞれ違う表情だけど答えるのも面倒だ眠いと表情で訴えていた。
金色の目は鋭くて見た目は怖い感じだけど、雰囲気は大きな犬みたいに見える。