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4.希望と旅立ち

 魔王様の整った美しい顔は僕の答え方では不満だと訴えかけてくる。

 でも、僕はどうしたらいいのか全く分からない。ただ、魔王様の言葉を待つのみだ。


「先ほど言ったであろう? 弱き者は淘汰(とうた)される。しかし、無秩序に命を奪うことは間違いだ。我は無差別に命を奪うような愚か者ではない」

「そうなのですか……? すみません、僕は学がないので魔王様の言葉の意味を汲み取ることもできません。では、魔王様が僕に何をすべきか示してくださいませんか? その通りにいたします」


 僕が深々と頭を下げると、魔王様は仕方ないと呟いてからパチンと指を鳴らした。

 すると抱きしめていたメェとムゥの身体がすぅっと消えていく。


「メェとムゥが……」

「お前は我と共に魔界へ来てもらう。そして、この羊たちをお前の使い魔として側に付けてやろう。魔界の者も気性の荒い者たちがいるのでな。この者らの気性であれば魔界の者たちとも十分渡り合えそうだ」

 

 魔王様が何かを集めるように両手で光を収束させる。

 すると、ぱぁっと輝きが増して何かが形作られていく。


「弱き者の魂よ、お前たちは新たな身体を持って主人に仕えるが良い」


 魔王様の言葉と共に光は弾け、僕の目の前にはふわふわの白い毛をまとった可愛い羊のような子が二人現れた。

 二人とも身体は丸く、大きさは僕の両腕で包み込めるくらいだろうか?

 可愛らしいくるっとした角には片方の子には赤のリボン、もう片方は角に青のリボンが結ばれていた。

 見た目は小さな羊みたいだけど、唯一違う点と言えば背中にはふわふわの白い可愛い羽が生えていることだ。


「あ、あれ?」

「ボクたち……」


 しかも、二人ともふわふわと僕の目の前に浮かびながら会話しているみたいだ。

 使い魔と言っていたけど、この子たちは本当にメェとムゥ……?

 僕は必死に手を伸ばして声をかけてみた。


「君たちは……メェとムゥなの?」

「わぁ! ごしゅじんさまー!」

「いつもありがとうなのー」


 ふわふわの可愛い子たちが、僕の胸に飛び込んできてくれた。

 今度は嬉しさで涙が溢れてくる。


「お前は良く泣くのだな。まあいい。人間よ、名は何という?」

「はい、僕はパストルカ。パストルカ・シルヴァーウッドです。魔王様、本当にありがとうございます」


 僕がお礼を言うと、魔王様は大したことはないと一言だけ返してくれる。

 その間もメェとムゥは僕の側から離れずにじっと魔王様をにらみつけているようだった。

 

「では、パストルカよ。我と一緒に来てもらおうか。使い魔たちよ、そんな顔をしなくともお前たちの主人に危害を加えたりせぬ。しかし、その血だらけの服と顔は何とかした方がよいだろうな。この辺りに何か残っておらぬのか?」

「そうですね、少し辺りを探してみます。それと……羊たちを(とむら)ってやりたいのですが、お時間をいただけますか?」

「仕方ない。魔界へ来る前に心残りのないようにするがいい」

「ありがとうございます、魔王様」


 魔王様は冷たい雰囲気だし近づきにくいけれど、とても心の広い方なのかもしれない。

 僕のワガママにも耳を傾けてくれるし、魔王と言う名だけで悪人と判断する人間は間違っているのだろう。

 魔王様の寛大なお心に感謝し、メェとムゥと一緒に辺りの様子を改めて見てみることにした。


 +++


 僕はまず、かわいそうな羊たちを弔うことにした。

 魔王様もそっと力を貸してくれたので、みんなのお墓を無事に作ることができた。


 次は僕の身支度を整えようと元々住んでいた建物まで移動する。

 幸い、僕の家はそのままになっていて中の荷物は被害を受けていなかった。

 きっと僕が家の場所まで戻るかもしれないと残していってくれたのだろう

 被害の酷かった場所から少し離れていたのも運がよかった。


 僕は身体を水で清め、予備の服へ着替えると簡単な荷物だけ持っていく。

 僕らは身軽に移動しているのもあり、家財道具を持たないのなら身の回りの物は布の肩下げバッグ一つで事足りてしまう。


「魔王様、お待たせしました」

「では行くぞ。パストルカ、こちらへ」


 魔王様の側へ寄ると、魔王様は空に指で扉のような形を描く。

 すると、本当に空間が引き裂かれて中にはこことは違う場所が現れる。

 見ているのは魔法が何かなのだろうか?

 僕は魔王様に連れられて、見たことのない魔界へ一歩踏み出した。

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