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『剣聖』と『賢者』の息子、正体不明のハズレスキル『整理士』で、歪んだ世界を平和に導く。  作者: 可燃物


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大陸で最も大きく、最も栄えた王都を訪れることは、地方から出てくる者たちからしてみれば、ある種誉れ高いことである。

他の街とは違い、入国審査は厳しく、調査を終えた後に城郭の内側へ入るために納めなければならない金額は、決して少なくない。


それでも毎日、長蛇の列が朝早くからつく。



凱旋のように、華々しい出迎えはない。


その他大勢の来訪者と同様、検問を受けるために、大きく堅牢な門へと続く長い列に、その人は並んだ。



ようやく順番が回ってくると、従者に教わった秘密の言葉を門兵に告げ、また限られた者しか持つことの許されない文様が刻まれた剣の柄を示した。


途端に慌ただしくなった検問所は、伝令を飛ばすと同時に、貴き御方らしい()()を貴族用の別室へと案内した。


当然のように、最上級の茶葉でもてなし、茶菓子まで用意して、粗相のないよう教育されていない雑兵は全て退出。

その部屋には決して近付かないようにと伝えられた。



暫くの後に、広く煌びやかな部屋へと飛んで入ってきたのは、従者の格好には不似合いな程、身のこなしが軽やかな女だ。

蹴り飛ばされた床も、勢い良く開けられた扉も、不思議と物音が立たない。


それが常だからか、部屋で待たされていた()()は、不自然なその現象を特に気にとめることなく、待ち侘びた姿を確認して、顔を綻ばせた。


「蜜……お久しぶりです」


「お嬢、さま……?」


蜜と呼ばれたメイドは、混乱していた。


『魔王』の討伐と、魔物の脅威を減らすことを国王から命じられた、自分が仕える主は「お嬢様」と口にした通り、()()である。


毎日丹念に櫛った黄金に輝く自慢の髪は、別れた時に切られた時のまま、痛々しくも、短いままだ。

それはいい。


魔物との戦いに身を投じれば、長い髪は弱点になり得る。

こうして戻ってこられた理由のひとつに、それが挙がるのならば、なんの問題もない。


また伸ばせばいいし、その時には以前よりも主に似合う香油で、以前にも増して丹念に櫛ればいいのだから。



成長期なのだから、背格好が変わるのは当然だろう。

それもいい。


しかし目の前にいるのは、主人の面影こそあるが、どう見ても性別は()だ。


そう言えば血涙を流しながら別れる時に、同行していた小僧が、お嬢様の性別をふざけて男にしていたと、蜜は思い出した。


まさか『賢者』と『剣聖』がいながら、あの小僧、お嬢様を元に戻す前にくたばったのかと、即座に犯人を心の中で魔物に喰わせた。

しかしその『賢者』も『剣聖』も、同席していると思ったが、姿が見当たらない。


まさかあの無礼者たちは全滅したのかと、少々不憫に思いながらも、それならば主の命があるだけまだマシだと思わねばと、とりあえず一旦思考を落ち着かせることに成功した。



一度沈静化した跡取り問題が、主の性別が男性のまま国に戻ることで、また激化するかもしれない。


そうは思うが、また刺客をすべて闇に葬ればいいだけのこと。

なんの問題もない。


そう思いながら、まだ見慣れぬ変わり果てた姿の主の言葉に耳を傾ければ、主はとんでもないことを語りはじめた。



姫の従者と共に王宮へと足を踏み入れた男は、とんでもないことを言い出した。


光の精霊(ルーメン)様から直接言葉を賜ってきたと言われても、「冗談を言うな」「言うならもっとマシな嘘をつけ」と、大抵の者は言うだろう。


事実、突然現れた正体不明の、しかしどことなく国王に似ている若者に対し、不躾な言葉を投げかける者は多かった。


しかしそれが死んだと思われていた、王の寵愛を一身に受ける正室の愛娘が、大義のために性別を変えて戻ってきたと言うのだ。


姫付きの従者は冗談を言うタイプではない。

だからと言って、目の前男が姫だと言われても、言葉の意味までは理解出来ても、聞き入れ、納得出来る者はその場にいなかった。



しかし人間の力の範疇を超えた超常現象を起こしたのが、光の精霊(ルーメン)様だと言うなら話は別だ。

王家の者は皆、‘’ギンヌンガの裂け目‘’の恐ろしさを理解しており、それを封じてくれている精霊様のことを信じ、崇拝している。

特に光の精霊(ルーメン)様が関わる逸話は、多く残されている。


とりあえず耳を貸そうという運びになるのも、おかしくはない。


大なり小なり姫に思うところはあっても、皆光の精霊(ルーメン)様を信仰する心に嘘偽りはない。

成人の儀の折でしか、その一端に触れることすら出来ない信仰対象に、思いがけないところで間接的にだろうが接することが、どれほど名誉なことなのか、王家の者はよく知っている。



女神教が幅を利かせ、神託を賜われる神子の存在により、王家は長らく袖にされ続けてきた。

神子が行方不明になり、代わりに姫(?)が光の精霊(ルーメン)様の言葉を民衆に伝える者となるのなら、王家の威厳をこれを機に取り戻せるかもしれない。


そう心の中で算段する者がいる中、男となった身で姫と呼ぶのはいささか抵抗があるが、ステラ姫は民衆の前で光の精霊(ルーメン)様からの言葉を告げると宣言した。



急な召集に応じれるほど民は暇ではないと窘めるも、姫付きの侍女が既に準備は整えてあると言う。


余計なことをするなと腹の内で悪態を吐いたのは、一人や二人ではない。



身なりを整え、若い頃の王の生き写しのようだと褒め称える賛辞を無視した姫は、颯爽と御座所(おましどころ)に立ち、民衆から拍手で迎えられた。

ビクビクおどおどとしていた姫の面影は、どこにもない。


為政者として、また統治者としての立ち居振る舞いを身に付けた、絶対的な王者の風格をまとっていた。


右手を上げることで拍手を止めさせ、姫が口を開いた。



「今日という良き日を、同じ神を崇める皆と迎えられたこと、心から嬉しく思う。

 我等が信奉し敬愛する光の精霊(ルーメン)様より、亡くなった神子の代わりに言葉を賜った。

 それを今から伝える」


神子の死という衝撃的な事実を告げられ、騒然となった者たちの悲鳴に構うことなく、姫は言葉を続けた。



神子が光の精霊(ルーメン)様方精霊と敵対する‘’悪しきもの‘’との戦いにおいて散ったこと。


『勇者』である姫が仇を討ったこと。


再び神子のような犠牲者を出さないためにも、光の精霊(ルーメン)様は‘’ギンヌンガの裂け目‘’の封印を強めると決めたこと。


それにより光の精霊(ルーメン)様は顕現する頻度が減ること。


それに伴い、成人の儀の際の啓示――スキルの神託を無くすこと。


スキルのお告げ自体は無くなるが、光の精霊(ルーメン)様からの加護は、皆の信仰により変わることなく、未来永劫授けられるため、日々の祈りを欠かすことなく、自分を信じ、努力を怠らず、進むべき道を自らの手で切り開いて欲しいと願っていること。


また皆のことを、その亭々皎々たる高御座(たかみくら)からいつでも見守っていること。



「皆が精霊様を忘れても、精霊様方は変わらず皆を愛している。

 それだけは必ず伝えるようにと、仰せつかった。

 ……わたくしの言葉だけでは、皆への説得力は低いだろう。

 わたくしが此度の成果として獲たのは、神子様の敵討ちを果たしたことと、御伽噺にある‘’ギンヌンガの裂け目‘’の封印を強固にする約束を光の精霊(ルーメン)様と交わしたことだけだ。

 神子様の身体は‘’悪しきもの‘’のせいで朽ち果て塵すら残らなかった。

 証明するものは何もない。

 また、封印が強くなることで得られる恩恵を実感できるのは、魔物の被害報告が減った後になるだろう。


 そのため光の精霊(ルーメン)様に願い出て、このような姿に変えてもらった」


人智を超えた超常現象を起こしたのは、他でもない精霊様であると、姫はのたまった。


確かに人の身には出来ないことでも、女神様である光の精霊(ルーメン)様ならば出来るだろう。

そう納得した民衆は、姫が直接光の精霊(ルーメン)様と邂逅したのだと納得し、事実を受け入れた。



魔物を殲滅することは出来ないが、封印によりその力は確実に衰え、脅威を感じる必要は無くなる。

より確実に、より早くその成果を得るためにも、精霊様への信仰心をより厚くしなければならない。


そのため、今は別れてしまっている精霊教と女神教、二つの信仰思想教会と王家が密に連携し、精霊様方の活動を後押ししたいと考えている。

他でもない光の精霊(ルーメン)様の愛し子である皆にも協力して貰いたい。


そう言って、平民に向かって頭を垂れた。


王家に連なる者として、第一王位継承者を持つ者として、あるまじき行為である。


しかし王家の者の憤慨をよそに、民衆はそのパフォーマンスに沸いた。


光の精霊(ルーメン)様万歳!」

「精霊様万歳!」

「ステラ様万歳!」


大気を揺るがすほどの熱狂は、姫が退席した後も続いた。



その後に続いた狼狽する国王との話し合いで真っ先に問われたのは、光の精霊(ルーメン)様からの言葉の詳細や、神子様の薨去の真偽ではなく、この先の王子として生きるのかの是非だった。


自分の預かり知らぬ所で婿の候補でも見繕っていたのかと呆れながら、光の精霊(ルーメン)様に乞えば性別はいくらでも元に戻せるとだけ、姫は答えた。



姫本人は、共に旅をし苦楽を共にした男子に、情以上のものが芽生えているが、自分の立場的にも、相手の立場的にも、生涯を共にすることは不可能だと諦めている。


もとより、王家に政略結婚以外の道は無い。

成人したばかりのタイミングで外に放り出されたため、王配候補を見繕うことを目的とした茶会は、一度も開催していない。


候補くらいは挙がっているかもしれないが、決まってはいないだろう。

ならば気楽に彼の人に会いに行ける、男の体のままの方が、何かと楽な気はしている。


一年この姿でいるのだ。

諸々の男性特有の事情も慣れた。



世継ぎのことを考えるのであれば、父と同じように、側室を迎える必要が出てくるのだろう。


ならばいっそのこと、どちらも娶り婿入りさせるのも悪くない、などと考えるのは、さすがに色々振り切りすぎな思考になってしまったのではないかと、周囲はため息を吐くことになる。



平和な世界を作るために、あの場に残った友人は、元気にしているだろうか。

ここまで送り届けてくれたあの心優しい夫婦は、無事に友人と合流出来ただろうか。


心配をする必要のないことではあるが、やはり自分がこれ以上関われないとなると、悪い妄想も含めて気掛かりは生じる。



しかし光の精霊(ルーメン)様と約束をしたことを果たすためにも、自分はここで自分にしか出来ないことをしなければならない。


先ずは国を本来あるべき姿――一個の国ではなく、単なる一地方の、田舎街なのだと認知させることから始めなければ。

自分たちは神の血を引いた末裔なのだ、と信じて疑わないタヌキ共をどうして説き伏せれば良いものか。


『勇者』なんて大層なスキルが生まれやすい家系がいけない。

過去の英雄様の血なんて、一滴たりとも入っていないのに。

どうしてそんな伝承が残っているのか。


約束した期日までにどうにかして、それこそ紛うことなく、英雄様の血を引いている大賢者様を迎え入れる準備をしなければ。



頭の痛い悩みに、ハゲる可能性が高い男の身体のままはやはり良くないかもと、姫は女に戻ることを早々に検討した。

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