63
『――それは、『整理士』としての願いごと?』
「えっと、『order』、ですよね?
ボクが与えられたスキルの正式名称って」
『――そう。
『賢者』と『剣聖』の息子という、絶対的な信頼と信用を向けられる立場を、生まれながらに持っている者。
人々の頂点に立ち、精霊の声を届けるのに相応しい高潔な魂を持ち、更に‘’神の魂の欠片‘’すら内に宿した秩序を定める者。
神の代行者を名乗ってもいいくらいに、稀有な存在。
それがアナタよ』
お掃除特化のスキルって思っていたのに、なんだか想像以上にとんでもない意味が込められていることを、今知ったよ。
神さまの代わりに色々なことをする権限を、与えられたようなスキルなんだ。
他の人のスキルをいじったり、ステータスを見たり、通常のスキルの範囲では出来ないようなことまで出来たのは、そのせいだったんだ。
『整理士』という言葉に引っ張られて、出来ることと出来ないだろうことと、勝手に判断していたけれど、もしかしたら、もっと自由に沢山のことが出来るスキルなのかもしれない。
親の立場や職業で、適正のある職業が変わるのだから、ボクも『賢者』と『剣聖』の子供であるからこそ、『order』という職業が最も適しているとされたんだ。
他にも前世が『勇者』と『魔王』っていうのとか、‘’神さまの欠片‘’を多く持っているとか、そういうのも関係しているんだね。
総合的に見た時に、人の範疇に収まりきらないんだ。
『order』って、聖職者って意味もあるんだよね。
つまり光の精霊様としては、ボクが精霊教なり女神教なりを治めるべきだと思っているのかな。
適性としてはそうなんだろうけれど……
人の上に立てるような立派な人物じゃないよ、ボクは。
アステルを見ていると思う。
帝王学って言うんだよね。
為政者になるための思考って、物心がついた頃から始めないと、根付くことはないと思う。
ボクはすぐ悩むし、長期的に物事を考えられない。
より実害が少なくなるように、なんて合理的な考え方も出来ない。
理想ばかり追い求めて、確率は低くても、全員が助かる手立てはないのかを考えて、それに縋ってしまう。
後々磐石な地位が約束されるからと、信頼を築くために目の前の些事を無視して大義に奔走することなんて出来ない。
そんな些細な問題すら、すくい上げなければと思うのがボクだもの。
「ボクが『order』だからお願いしているんじゃなくて、より沢山の人を幸せにする方法を考えた時に、スキルの授与は要らないんじゃないのかなって思ったのです」
『――アナタ、他人のコトばかり考えるのね。
そこのムスメもそうだけど、ヒトっていうのは、自分の都合をまず考えるモノよ。
……そんな顔する必要ないわ。
別に悪いコトじゃないもの。
自分を幸せに出来ないヒトが、他人を幸せにするコトは、とても難しいモノだから。
自分の幸せを優先するコトに、罪悪感なんて抱く必要はナイ。
ただ、大精霊がなんでも叶えてあげるって言ったのだもの。
自分の望みを言うべきだわ。
……それでもアナタは、同じコトを願うの?』
「え、はい。
勿論です」
『――……アナタ、自分本位な願いごとって、ナイの?』
なんか、悩ませてしまったみたい。
『即答かぁ』と言って光の精霊様は、おデコに手を当てて難しい顔をしてしまった。
せっかく綺麗なお顔をしているのに、眉間にシワを寄せたら勿体ないよ。
「無いということは無いですけど……
ボク一人が幸せになるより、皆で幸せになった方がいいじゃないですか。
皆が幸せだと、ボクも嬉しくなるし。
ボクが嬉しくなることで、幸せだと感じる人もいてくれますし」
『――例えば、慈悲の復活の対価をナシにしてって言われたら、出来るケド?』
「それもお願い出来るならヤッター! って喜びますけど、順位を付けるなら、皆で幸せになるのが一番ですよ」
『――……アナタ、スゴい育てられ方したわねぇ』
褒め言葉なのかなんなのか、どう判断していいか分からない、微妙な顔で言われた。
うん、これは確実に呆れられている。
なんでさ。
ボク一人が幸せになっても、笑顔になる人は少ないけど、沢山の人が幸せになったら、その横の繋がりの人数分、笑顔になる人が増えるのだから、そっちの方がよっぽどいいと思うんだけど。
違うのかな。
あ、沢山の人が幸せになっても、父さんと母さんが不幸になるようなお願いなら言わないよ。
それは大前提というか、至極当然のことすぎて、条件に付けそびれただけだ。
だけど父さんたちもスキルによって人生を振り回された人たちだし、反対はしないと思うんだよね。
スキルの付与そのものがなくなるって話でもないんだし。
それに光の精霊様たちの手足となることに関しては、もう大人の年齢なのだから、問題ないと思うんだよね。
だって村にも、スキルの関係で村から出る決めていた子がいたもの。
むしろ精霊様が直属の上司になるんでしょ。
大出世だって言って喜んでくれるんじゃないかな。
その子も、偉くなって仕送り頑張るんだって話をしていた……あ、そっか!
精霊様たちからは、お給金が出ない!
そうなると、自分の生活すらままならなくなるよね。
どうやって暮らしていけばいいかな。
住むところさえどうにかなれば、自活するだけの家事は出来る。
父さんと母さんに教わったからね。
それはなんの問題もない。
だけど、育ててもらった恩返しが出来ないのは、嫌だなぁ。
出張先で魔物を狩って、需要が高そうなところで売ってお金にするくらいしか、方法が思いつかない。
過ぎた力を求めたのはボクだから、相応の見返りを求められるのは納得している。
大切な父さんの命を救ってくれたのだもの。
当然である。
一生涯無賃金での労働を強いられても受け入れるけれど、親孝行出来ないのなら、そこの部分はお話し合いをしたいかな。
「対価とは、何の話でしょう?」
振り向けば、母さんに支えられながらコチラに向かってくる父さんの姿があった。
無事に目が覚めたんだ。
喜んで駆け寄ろうと思ったけど、なんだか、雰囲気が剣呑で怖い。
燼霊と戦っていた時よりも、鬼気迫る感じが漂っている。
その視線がボクに向けられているのだ。
正直起きた嬉しさよりも、恐怖による逃亡を企てたい気持ちの方が強い。
ひとまず目を覚ましたのだし、燼霊は光の精霊様が滅ぼしてくれた。
不安材料は今のところ、コチラに向かってくる父さん以外にないのだから、逃げても、問題ない気がする。
抜かりなく三人のバフが解除してあるのを確認し、クルリと方向転換しダッシュ! ……しようとしたら、父さんの指示によって動いたインベル様に確保された。
父さんが一回死んだから、精霊様との契約って切れたんじゃないの!?
『――ヌシが連名で喚び出したろう?
その時に再契約されておる』
だから用事が終わったのに、いつまで経っても消えなかったんだ!?
ぬかった。
父さんのステータス紙を見ておくべきだったか。
ズルズル引きずられて、父さんと母さんの前に連行された。
なんで父さんを救って、燼霊を弱体化させたり、母さんやアステルの怪我も治したりしたのに、怒られる雰囲気が漂っているんだろう。
ボク、なんか悪いことしたっけ?
「先ずはお礼を言います。
透、貴方のお陰で命を拾うことが出来ました。
有難うございます。
……しかし、親の責で子供にペナルティが課せられるのは、黙って見ていられません。
死ぬはずだった人間一人を救った、命の対価です。
報酬としてかなり重い要求をされるでしょう。
願う事を許されるのであれば、私が代わりに払います」
父さんが怒っていたのは、ボクが自分の命を軽んじたことに対してだった。
どうやら、かなり酷い対価を要求されると思っているらしい。
あとは、父親としての不甲斐なさもあったのかな。
そもそもボクを助けようとして、凶弾に撃たれたんだよ。
お礼を言うのはボクの方で、父さんは父親としての役目をシッカリと果たしたと思う。
精霊様はこの世の全ての幸せを願っている。
等価交換なんて、望んでいない。
命の酬いは命でもって贖わなければならない、なんてことは思わない。
人間の場合は人を殺したら、その罪を命で払うことになるけれど、精霊様の世界には、そんな常識はない。
だって命を奪ったところで、なんの意味もないし。
人が霊力を使い精霊様に助力を乞い、精霊様はその願いを聞き届け、人々の生活を豊かにする。
そして人々はその豊かさを求め、またお礼の意味を込めて祈り、その力が霊力となって精霊様の力になる。
そうやって世界は霊力を循環させている。
言葉は悪くなるけれど、その一連の流れを司る手駒、しかも精霊様の願いごとを直接聞くことが出来る便利な存在を、みすみす放棄するくらいなら、飼い殺す方が余程建設的じゃない。
『賢者』ともあろう父さんが、そんな簡単なことも分からないなんて。
人間の世界のしがらみの中で長年生きているのだから、仕方ないのかな。
まあ、代わりにボクの命を差し出せって悪魔的なことを言われても、渋々差し出すことには変わらないけどね。
せっかく生き返らせたのに、父さんをまた殺すようなこと、する訳ないじゃない。
神子様の魂も、あれだけ優しく送ってくれたのだ。
きっと安らかに逝かせてくれるだろう。
あ、ボクの中って二人分の魂が入っているんだよね。
だったらその片方を差し出すだけで、勘弁して貰えないかな。
「父さんがする必要ないよ。
ボクがボクの意思でやったことなんだから」
「子供のしたことの責任を、親が持つのは当然の事です」
「ボクはもう大人だよ!
子供扱いしないでよ」
「貴方は一生、私達の子供です。
年齢がどうとか、関係ないですよ」
「親孝行だと思って、ここは譲っておくれよ」
母さんまで言い合いに参戦してきた。
母さんが出張ってきたら、ボクが折れやすいことを分かって言っているでしょ。
なんて卑怯な。
さすが母さんだよ。
意外とあざとい。
そう言われても、譲れないけどね。
命を差し出すような真似はしなくていいけれど、だって精霊様の使者として動くことになるんだよ。
具体的に何をするかまではまだ聞いていないから分からないけどさ。
今回みたいに燼霊が相手になることもあるだろう。
危険を伴うだろうし、一人じゃないと出来ないことだったらどうするのさ。
父さんは、母さんと離れられるの?
無理でしょ。
嫌でしょ。
母さんだって死に別れるかと思った時、あれだけ泣いたのだ。
寂しいだろうし、そんな思いをさせるのは親孝行だなんて言わないもん。
絶っ対に譲りません。
『――トオル、アナタは対価が何か分かってるわよね?』
「何を命令されるかまでは分かりません」
『――そうね、まだ言ってないものね。
何にしようか考えていたのだけれど……アナタ、さっきオモシロイコト、考えてたわよね?』
なんか笑われるようなことなんて、考えたっけ?
首を傾げたら、そうじゃなくて、と否定から入り、ボクの過ぎた力を求めた対価が何かを、命じられた。




