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男同士の内緒話は、絶対に外部に漏らしちゃいけない。

それは、相手の信頼を裏切る行為になるから。


「秘密だよ」って約束したのにそれを違えたら、信用も信頼も失墜するのは、男女の性別も年齢も関係ないけどね。


『整理士』の可能性について、自分一人で留めておけない恐怖を感じたボクは、「母さんにも言わないで」と言って、父さんにボクが把握している能力の全部を打ち明けた。


興味本位とはいえ、ズルをするように強いスキルを書き込んだのだ。

そういう姑息なマネを、母さんは好かない。


きっと、とっても怒られる。

身長が一〇センチとか伸びてしまうかもしれない。

タンコブで。



何より、悪用しようと思えば、どれだけでも悪いことに利用出来そうなこの能力の全容を知る人は、なるべく少ない方がいい。


それは口が固くて、危険を予測出来て、対応も出来るような人じゃなきゃいけない。

そんな人は、父さんしか思い浮かばない。


村にいたとしても、それは変わらない。

神官様は頼れる大人だったけれど、女神教とどれだけ関わっているのか分からない。

村長さんは、子供の悩みに大して、少々楽観的すぎる所があるからね。



今まで検証してきたことや、ボクの話した内容も含め、全て実験をした結果、消すことも、ものによっては出来るのだと分かった父さんは、口元を指で少しいじった。

父さんが悩む時のくせだ。


そして数秒の後、大賢者様に相談してもいいか、確認をしてきた。


もし母さんに言うとしても、その時にはボクに確認を取ってからにする。


だけど大賢者様には、報告と相談をさせて欲しい。

その内容は透の精査を通してからでいいから。


そう言われた。

それはつまり、ボクが一番信頼していて、尊敬している父さんですら、一人では抱えきれないことって意味だよね。


このモヤモヤを、父さんまで感じているのなら、それはとってもダメなことだ。

ボクのモヤモヤを肩代わりさせたくて、打ち明けたんじゃないもの。


「大賢者様は……父さんの、最も信頼出来る人、なの?」

「そうですね。

 頼りにさせて頂いています」

「分かった。

 何か分かったこととか……ううん。

 父さんがボクに言うべきだって思ったことがあったら、教えて」

「そんなに不安にならなくても、大丈夫ですよ。

 わたしと(ツムギ)さんの子供ですから。

 何をするべきで、何をしてはいけないか。

 その判断ができない子供に育てた覚えはありません。

 迷い悩んだ時に、相談出来ないような頼りない親になったつもりも、ありませんしね」

「うん、ありがとう」


ボクの頭を優しく撫でたあと、父さんは今検証した内容をまとめて、書いてあることに相違ないか確認した。

そしてそれを封蝋し、手紙(シルフィード)を召喚して大賢者様の元へと手紙を送った。



手紙(シルフィード)も、風精霊様の力を借りた精霊術みたいなものなんだよね。

だけど物質を運べるし、使う時も召喚って呼ぶ。


大賢者様から直接賜ったって言っていたから、やっぱり、なにかキッカケさえあれば、父さんも精霊を召喚したり、契約することが出来るんじゃないかな。



「父さん、ボク、もう一個試してみたいことがあるんだ」


母さんのスキルは偶発的にそうなってしまった上に、母さん自身、その結果によって得をしているので特にお咎めはなかった。


だけどあの時『一念通天』と『暗黒料理の作り手』を合体させていたら……

考えるだけで、身の毛がよだつ。


母さんの料理を食べたら死人が出てしまうようになっていたかもしれない。

今の被害者は父さんに限られているけれど、独り占めする人が召されてしまったら、止める人がいなくなる。


次の犠牲者は確実にボクだ。


そうならなくて良かったと、心底思う。



父さんの『賢者』『本の虫』『もやし』『料理上手』『愛妻家』『魔王の親友』のうち、合体させたり消したりして空欄をひとつ作ることが出来れば、父さんは精霊と契約を結べるかもしれない。

そう思ったのだ。


ただでさえ多い父さんの霊力は、ボクのスキルによって整理されて、今までの倍……まではいかないにしても、常人では手が届かないような数値になっている。


『整理士』のスキルによって、ステータスに書かれた数字のうち、五以下の数字同士なら、掛け算を使って増やせるようになった。


村にいた時は三までだったけど、“浄化“を含めたスキルをたくさん使ううちに、練度が上がったのだと思う。

なんだかんだ、結構使う頻度が高いからね。


数字を整理しないと、空欄が無くなって成長が止まってしまうようだし、ステラや蜜さんの数字整理もさせて貰ったから。


ステラなんてさすが『勇者』と言うべきか、書かれる数字の一個一個が、とにかく大きい。

今まで見てきた人は一~二〇までの数字しか書かれていなかったのに、ステラは上げ幅が大きい。

最大五〇とかあった。


そういう大きな数字は、大元の数字に足すことすら難しい。

挙動が重くて、遅々として進まないんだよね。


なるべく小さい数字から始めて、大きい数字を後回しにしていたら、最後の方には時間をかければ加算出来るようになっていた。


そして気付いたら、五かける五までなら出来るようになったのだ。


それによって、なるべく大きな数字になるよう計算しながら数字を合体させた結果、父さんのステータスは、かなり強力なものになった。

筋力と体力は、母さんの方がまだ上だけどね。



どのスキルなら消せるのか。

どのスキル同士なら合体させられるのか。


父さんの意見を聞きながら慎重にステータス紙に触れる。


『本の虫』ならまだ納得もいくけれど、『もやし』って何だという意見はボクも父さんも共通だったので、『もやし』を消すことにした。


「あ」


……なのだけど、記載されている文字を消す動作に慣れていないせいで、『本の虫』と『もやし』を合体させてしまった。

どうしよう。


新たに現れたのは『禁書庫の番人』というスキル。

なんだか格好いい雰囲気はあるけれど、一体、どんなスキルなんだろう。


書庫と言うくらいだから、『本の虫』が基盤になっているスキルなのは確かだけど。

『もやし』って意味の分からないスキルが、なんかとんでもなく珍しいスキルだったのだろうか。



父さんに謝罪と共にそのことを伝えると、大賢者様へ送る手紙(シルフィード)を、取り急ぎ追加で召喚した。


届くまでにどれくらいの時間がかかるか分からないけれど、普段滅多なことでは送られてこない手紙(シルフィード)が、こんな立て続けに来たら、大賢者様はとっても驚くだろうね。

心臓に悪いキッカケを作ってしまって、ごめんなさい。



父さんは心当たりがあるスキルの名前になるけれど、その内容を言っていいのか、父さんには判断が出来ないから、大賢者様の指示を仰ぎたいんだって。


ルミエール大陸以外にも、海の向こうには世界が広がっているって事実よりも、もっともっと重大で現実味のない真実に抵触する言葉、なんだとか。

よく、分からない。


とりあえずボクには分からないことだけど、父さんは分かっているならいいんじゃないかな。

そういうことは沢山あるし。


スキルの持ち主である父さんが、『禁書庫の番人』なんてイヤだ! って言わないなら、そのままにしておけばいいんだよね。

少なくとも、意味不明なスキルは無くなったんだし。



予定とは違う形でだけど、これで父さんのスキルの欄がひとつ開いた。


精霊様は、霊力が沢山ある所に集まることが多い。

そういう場所の方が、呼び掛けに応えてくれるみたい。


母さんに断りを入れて、返事も聞かずに小走りで、森の奥へと姿を消した。


あまりの出来事に、一瞬呆けてしまったけれど、ボクも慌てて後を追う。


だって母さんから離れるのを嫌う、父さんが!

母さんの声なら一言一句、咳もクシャミも発する音全て聞き漏らしたくないと言う、父さんが!

あの、父さんが!


母さんの返答も聞かずに一方的に告げて、どっか行ってしまったんだよ!?

今までの人生の中で一、二を争う衝撃的な場面だった。



父さんは途中から走ったのだろうか。


幸い全く誰も立ち入ったことがない森のようで、何処に向かったのか、その痕跡が残っているから迷わずに進める。


けれど、遠くを見つめても、影も形も見えない。

そんな焦った所で、精霊は逃げないだろうに。


あ、でも、空欄が出来たあと、どれだけの時間で新しいスキルが書かれて、欄が埋まるのかは分からない。


母さんの場合、次の日には埋まっていたから、十時間以内ではあるだろう。

それが一分後なのか、十時間後なのか判断が出来ない。

時間の幅が広すぎるから、空欄が埋まってしまう前に、早々に契約を試してみたいってことなんだろうね。


今までどれだけ望んでも、手に入れられなかったものを、手中におさめられるかもそれないのだ。

気が逸ってしまっても、仕方が無いのかもしれない。


とは言え、精霊を召喚出来たとしても、召喚に成功しただけなのか、契約を結ぶことが出来たのかは分からない。


過去、召喚は出来ても、契約にまでは至らなかったって言っていたし。

一度目の召喚から随分経ったあと、二度目の召喚には応じてくれなかったから、それが分かったって言ってたし。


つまりその判断がすぐに出来るのって、スキルの名前が見れるボクにしか出来ないんじゃないのだろうか。


姿を見失うほどに先に行かれてしまったら、当然その間は判定が成されず、ヤキモキすることになるのに。



暫く父さんが通った道を、かき分けて歩く。

母さんが剣で払ってくれたみたいに、通りやすいように道は整えられていない。


とても進みにくく、母さんがどれだけいつも気を配ってくれていたのか、改めて認識した。



開けた場所に出ると、とても幻想的な光景が広がっていた。


霊力の密度が高い場所は、霊力が目に見えるようになると言う。

暗い森の中、明るく輝く神秘的な気配が、霊力なのか、精霊様なのか、ボクには分からない。


その無数の小さな光の中、佇む父さんの傍らには、宙に浮かぶとても綺麗なヒトが寄り添っていた。


「透」


ボクに気付いた父さんは、今まで見たことがないくらいに嬉しそうな……泣きそうなくらいに綻んだ顔で「ありがとうございます」と一言告げ……その場に、崩れ落ちた。

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