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正室との間に出来た待望の子供として、国王と王妃から最上級の祝福を得て生まれてきたステラは、側室達からは妖蛇蝎(アンギス)のように嫌われた。


特に王子を産んだ側室たちは、結婚してから何十年経っても子供を授からない王妃に、子供が出来るなんてコレっぽっちも思ってなかった。


本当に閨を共にしているのかとあざけ笑い、不生女(うまずめ)と言って陰で罵ってほくそ笑んで、我が子こそが次期国王だと心躍らせていた。


そこに産まれたんだもの。

空気が読めない女だな! って怒る側室たちの顔が、目に浮かぶ。



そんな王子を産んだ側室たちから、蔑むような目で見られ疎まれてきたのが、王女しか産めなかった側室たちだ。


王様の子供と言う点では、大差無いだろうに、男か女かだけで優劣を決めて、自分よりも劣っていると言って、虐めていたんだって。


身分の問題もあったみたいだね。

何の因果か、女児を授かった側室は、皆比較した時に身分の低い人たちばかりだったから。


あ、王妃様は除くけど。


同じ人間なのに、尊き血筋には青い血が流れていると、本気で信じていたみたいだね。

王家の分家に連なる者からしか王子が誕生しなかったものだから、特別な血が流れる腹からしか男児は産まれないんだと、散々吹聴して回っていたみたいだよ。

下品だね。


そんな反乱が起これば一夜にして崩れ去るような、飛んで吹いて無くなるようなペラッペラで無価値なものに縋って勝ちを見出すなんて、おバカなのかな? と思う。



まあ、そんな人たちに囲まれて育ったのにも関わらず、ステラの性根が曲がることなく育ったのは、虐められていた一部の側室と、その子供たちのお陰だそうだ。


特に長女母子は、見兼ねた正室が庇う機会が多かったこともあり、その恩返しとして、ステラの側仕えとしてよく仕えてくれたそうだ。


王女様なのに、王女の側仕えをするって、どうなのだろう。


その疑問に答える形で「異母姉とその母親は、王位継承権を放棄すると同時に、身分を下げましたので」と付け加えられた。


余程悪質なイジメを受けていて、拝受することもない継承権を持ち続ける位なら、王族から抜けた方がいいって判断したのかな。

それとも、そのままの身分ではステラの近くにいられなかったと思ったからなのかな。


話しぶりからして、後者の理由の方が強そう。

ステラの願望も入っているかもだけど。



親しい姉のように、忠実な家臣のように、いつもそばで見守り育てくれた異母姉が、森の向こうにある国へと嫁いだのだと言った時に、ピンときた。


つまり、あの魔物たちは異母姉が住んでいる所を襲わないように、『勇者』のスキルによってコチラへ引き寄せられたってことか。

父さんも「他の地域の魔物被害を減らすことが出来る」って言ってたもんね。


さすがに魔物だって生き物だもの。

突然なんもない所から湧いて出てきたり、降ってきたりはしない。


検証するためにも、その異母姉が嫁いだという隣国に行ってみたい気もするけれど……

せっかく危機を回避したのに、ステラが行ったら意味が無くなってしまいそうだし、ダメだよね。


それに先程、次に向かう街と、だいたいの進路は決定された。

その方向からズレてしまう街に行こうなんて、今更言えない。


旅は全員の足並みを揃えないといけないからね。

ワガママを言ってはいけないのだ。



“分析眼“に映るステラの能力値は、村の子供以下の数値のものが多い。


霊力が多めだったり、装備しているものの効果かな。

カッコ書きで毒耐性とか速さの補正が入っている以外は、ごくごく普通の女の子だ。


そして村ではそういう子たちは、危ないからと魔物対策がしてある近くの森ですら、大人を伴わないと出かける許可が出ない。

単純に危ないからだ。


男は後先考えない無謀さがあるから、そこら辺にある木の棒で立ち向かおうとしたり、木に登ってやり過ごしたり出来る。


それで倒せる魔物は少なからずいるし、倒せずとも立ち向かって来られたら、怯まない獲物に危機を感じて、逃げる魔物だっている。

男の子は、それでいいんだよ。



だけど、女の子はそうじゃない子の方が多い。


覚悟して森の中に入っても、どれだけ安全を確保されていたとしても、大抵の女の子は突然魔物が現れた時には、混乱して泣き叫んだり、腰が抜けて膝を折ったりしていた。


逃げなきゃ生き残れないのに。

それが分かっていても、行動できないのが“女の子“という生き物の、特性なんだと思う。


母さんみたいに毎日滅茶苦茶鍛えていて、魔物を相手にし慣れている女性ならまだしも、大抵のお母さんたちは、やはり旦那さんを含めた男性たちに守られていた。


女性は肉体の構造上、筋肉が付きにくいし、身長が伸びにくい。

その分、(ひろ)がどうしたって短くなる。


戦いに不向きな成長しかしないのだから、向いてる身体へと自然と成長する男性に守ってもらうのは、生物として正しい在り方なのだろう。


母さんが特殊なだけだ。



なのに、同じ女の子のステラは、親から突然家を追い出された。


剣を持ったこともない。

特別精霊術が使える訳でもない。

なんの力も持たないのに。


『勇者』のお役目とか言ったって、もう少し実力を付けてからとか、強力な護衛を付けるとか、幾らでもやりようはあっただろうに。

王様って、本当にステラのこと愛してるの? と言いたくなるくらいに酷い仕打ちだ。



これがスキルに呼び寄せられた、という現象なのだろうけれど、父さんと母さんがこの街にいたから良かったものを。


父さんと母さんが新たな『勇者』の誕生が事実か確かめもせずに、『魔王』の封印場所に向かっていたら、どうなっていたのだろう。


もう起きてしまったことだし、今から二人がステラから離れることはない。

雇用契約も交わしたしね。


でも、色々納得いかないことが多すぎるよ。


世界って、苦行や試練を課す目標数でも定めているのだろうか。

苦難が多い方が人間的に成長出来るとでも、本気で思っているのかな。


少なくともステラは、一人で乗り越えられるような強さがあるようには見えないんだけど。

『勇者』の補正が入るそうだし、肉体的なものは鍛えればいいよ。

だけどは、精神的な方面がね。


スキルとして書かれてしまうくらいに、義母姉を心の支えにしているような、弱い女の子だよ。


減法補正で、常に打たれ弱くなるようなスキルなんて、初めて見たよ。

大抵のスキルは、その効果として各値に数値が加算されていると言うのに。


スキルの在り方に、疑問が芽生えてしまう。



ボクは父さんたちに「スキルはあくまで指針」だと言われて育ってきたから、『勇者』が望んでもいないのに背負わされる、恩恵も、呪いも、同じくらい気に食わない。


スキルの授与って、得意分野を知ることが出来るとか、自分の適性が分かるとか、そういうものだと思っていた。

聞いたことがあるスキルはみんな、職業名ばかりだったからね。


まさか自分の数値化した能力値に、勝手に加算減算してくるなんて。



ボクの『整理士』は、苦手な所を補ってくれる、とてもボクに合ったスキルだったから嬉しいし、その能力があったから李王たちを救えたことが幸運だったと言える。


でもスキルがなくても、正直、どうにでもなるんだよね。



お掃除は知識があれば、幾らでもやりようがある。


今みたいに早く的確に、とは出来なくても、自分の納得のいく形におさめること位なら、前から出来ていた。


それでは足りないと父さんに言われていたから、どうにかしたいなと思っていたし、楽に掃除できる方法ないかな、と考えもしたけどさ。

なくても、ぶっちゃけ困らないんだよね。



李王たちの毒騒動は、そもそも神子様が父さんと母さんに執着してるから起きた、人災じゃない。


その執着理由も、『魔王』との戦いの真実を知っていて、自分の今の地位を脅かす可能性があるから、なんてくっだらないものだしさ。


その『魔王』も、スキルとして授けられたというか、押し付けられて封印されるに至ったんでしょ。

いい迷惑じゃん。


母さんみたいに自力で――いや、ボクのスキルできっかけこそ作ったけどさ――『裁縫上手』のスキルを取得したみたいに、ボクが毎日鍛錬を続けて『剣士』のスキルを獲得したみたいに、努力すれば、技術が身になることは、証明されているじゃない。



そんな博打みたいに不確定で、下手をすれば殺されるかもしれない『スキル』の授与って、本当に必要なのかな。


光の精霊(ルーメン)様から祝福を賜るのは、とても光栄なことだよ。


でもそれってさ、「成人おめでとう」って一言だけでも、十分なんじゃないかな。


成人の儀が終わって、家に帰って、「おめでとう」「無事育ってくれてありがとう」って、父さんと母さんに言われただけで、ボクは嬉しかったけどな。

もちろん、いつもより豪勢なごはんも嬉しかったけどさ。


一緒に喜んでくれる人がいる。

喜びを共有出来る人がいる。

それだけで十分なんだよ。


望んでいないスキルを授かったせいで、広場で抱き合って泣いていた親子みたいに、晴れの日に悲しい涙を流す人を生み出すのは、本当に、必要な儀式と言えるのかな。

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