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大量の魔物から、最低限回収すべき物をかき集め、街の偉い人に報告をした。
万が一のことがあるといけないからと、渋られはしたけれど、蜜さんがその役を担ってくれた。
蜜さんなら王族に遣えるメイドさんとして、既に街の中でも顔が知れ渡っている。
女神教から逃げ回っている父さんと母さんは、目立つようなことはなるべく避けたい。
その点ステラはむしろ魔物討伐の旅に出て、早速功績を積んだのだと賞賛されるので、願ったり叶ったりだろう。
それに蜜さん一人ではボクとステラの護衛には心もとない。
適材適所という言葉もあり、何より、ステラから命令されたので、走って門へと向かった。
衛兵さんたちがゾロゾロと森へと向かい、ボクたちが残した素材やお肉を切り分け、次々荷台に乗せていく。
それらは街の偉い人に献上された後、その名において、格安で住民に配られるそうだ。
お金、取るんだ。
まあ偉い人が徴収するのなら、収集をした衛兵さんたちを雇っている人だもんね。
衛兵さんの給料になるのなら、むしろ取るべきなのか。
普段にはない、余計な仕事をしているんだし。
既に死んでいる状態なので危機感を持っていない人の方が多いけれど、自分の身長の倍近くはあるこの山を見て、なんで平常心でいられるのだろう。
最後の力を振り絞り、とか、死んだふりをしていて、とか考えないのかな。
ボクはコレだけの距離が離れていて、父さんと母さんと言う、最強の布陣で構成されていても怖いというのに。
……ボクって結構、臆病だったのかな。
どう考えたって、こんな大きな街の近くまで、魔物が一気に大量に押し寄せて来るなんて、通常では有り得ないじゃない。
状況が普通じゃないなら、魔物の生命力だって、常識から逸脱しているかもしれないでしょ。
ボクが疑問を口にする前に、父さんが「部屋に戻ったらお話します」と言うから、指摘はしていない。
ここで話せないなにか理由があるのだろう。
だからボクは口を噤む。
けれど、この違和感に街の人は疑問を抱かないのだろうか。
田舎の村や寒村なら分かるよ。
魔物が苦手な植物を植えたり、罠を設置したり、なるべく魔物が近くに来ないようにする手段は幾つかあるけれど、その効果は、どれもそう高いとは言えない。
魔物が嫌いな臭いがするお香なんかは、結構効果が高いから、魔物の繁殖期が近くになると焚くけれど、買うと効果と相応したお値段になるし、作ると手間が掛かるし、あまり日常的には使えない貴重なものだ。
ボクたちが住んでいた村は、父さんが精霊術を使って作っていたからある程度の備蓄を常に置けたけどね。
その効果はボクたちが村を発ってから暫くの間、魔物に襲われずに済んだことからも、証明出来ると思う。
他にも忍び返しがついた塀を村の周囲に何重かにして設置していたし、堀もあった。
それでも、魔物の侵入は確実には防げない。
その証拠に、毎朝の日課で走り込みをした後、お土産を持って帰らない日は、殆どなかった。
……それを考えると、今はその日課をする人がいないのだから、村では魔物対策が大変になっているだろうな。
父さんは書いた手紙に、対応策なんかも書いてくれていたのかな。
片や人頭税以外にも、整備費に使われるその街独自の税金を徴収している、この街のように大きくて人口も多い都市になると、常に街を覆う精霊術によって作り出された防壁を展開していることが多い。
城郭や堅堀に術式を刻んだり、街の中心部や中枢に方陣が刻まれている道具があったりするのだけれど、それらに毎日霊力を注ぐことで、防壁が維持されている。
その防壁は自分たちにとって害のあるものだと、魔物たちは知っている。
魔物は理性こそ乏しいけれど、決して馬鹿じゃない。
学習をすることが出来る。
だから街に近付くような魔物は、滅多にいないのだ。
度胸試しなのか、群れからはぐれて自暴自棄になってしまったのか、たまに単体で乗り込もうとする魔物がいるそうだけど、余程のことがなければ、何重にも張られている防壁を突破することは叶わず、吹き飛ばされるか、対処を命令された衛兵さんなんかが始末する。
そんな理由があって、苦手な香辛料が植えてある程度の対策しかされていない街道にまでなら、魔物もそこそこ出てくるけれど、街の近くまで来ることは、ほぼない。
それを考えると、今回の異質さがよく分かるだろう。
少なくとも、この街の防壁は三重に張られている。
街の中心を覆うようにひとつ。
街の外壁を覆うようにひとつ。
このふたつは、緊急時以外はあまり強固にしていないみたい。
防壁の最低条件である、害意ある者を寄せ付けない仕様になっているみたい。
一番外側の防壁は、街の周囲何メートルくらいかな。
城郭から一〇〇メートルはあると思うけど。
街を囲むように半球形に展開されている防壁は、ある程度の強さの魔物以外を通さないようになっている。
単純に、防壁を張っている方陣そのものか、霊力を注ぐ人の力が弱いのだろう。
霊力を注げば注ぐだけ強い術が使えることも、方陣の出来栄えが良ければいいほど、効果が強く出るのは先程実験をしたばかりだ。
出来栄えって言うよりは、術式がどれだけ多く刻まれているか、が重要か。
普段出没する魔物程度なら余裕で対処出来るから、ずっとこの強度できているのだろう。
それは分かる。
霊力は万人に宿っているとは言え、自分の意思で扱える術師は多くない。
誰も彼もが、父さんのように豊潤な霊力を持ってはいないのだ。
常に万が一を考えて過剰防衛をして、術師を使い潰すわけにはいかない。
でもそのせいで、結果として魔雉の街までかなりの近い距離まで侵入を許してしまった。
母さんが斬ったあとで、瀕死状態だったからなのかな。
防壁は相手が有する霊力に反応するはずだし、生きてるか死んでるかは関係なかった気がする。
これだけ大量の魔物が襲ってくるのなら、何かしら予兆はなかったのかな。
他の街での目撃情報とか、どこかの山から火が吹いたとか。
状況的に、なかったのだろう。
つまり、あれ位に強い魔物がこの街を強襲したら、この街は滅びる可能性が限りなく高かった。
たまたまボクたちが外に出て、方陣の実験をしていたから対処出来た。
たまたまその場にいた父さんも母さんも、かなりの実力者だったから、誰一人犠牲者を出すことがなかった。
全部、ただの偶然によるものだ。
その運の良さにあぐらをかいて、防衛を疎かにしてはいけない。
この街の偉い人は、対策をとってくれるだろうか。
それに……安く美味しいお肉が食べられるのは、確かに嬉しいし活気づくのも分かるけど、誰も第二陣が来る可能性は考えないのかな。
少なくとも、父さんと母さんはそれを警戒して、少し離れた場所で待機しているんだと思うのだけど。
指摘をされないように、鎧は再び父さんが身に付けて、街を出た時と同じ格好になってはいる。
さっきの戦いを見れば、母さんが鎧を身につける必要がないのは明白だし、怪しまれる方が大事だと判断したのだろう。
一方的だったもんね。
比喩表現として、空を切り裂き大地を割る、という言葉はあるよ。
だけど、本当に森を上下で真っ二つにしちゃうんだもんね。
イタズラが見つかって母さんにゲンコツを貰った時、頭から二つに割けなくて、本当に良かった。
「ねえねえ」
「はい、何でしょう?」
「父さんが使ったのって、一般的な精霊術?」
「あぁ〜……
アレは大賢者様から教わったものなので、彼の御方が広めていれば外では普及していると思いますが、この大陸では他に使っているヒトは見たことがないですね」
「“俊敏“とか“剛力“とか書いてあった」
「透の眼は、精霊術による付与効果も見られるのですね」
「どんどん、薄くなっていく感じだった」
こくりとひとつ頷き、どんな風に見えていたかを伝えた。
ただただ無言で魔物の解体現場を遠目に見続けるのは、ヒマだったのだ。
会話に応じてくれたということは、話しても大丈夫な内容だったのだろう。
父さんの放った精霊術の光が母さんに当たると同時に、母さんの速さや力の項目の横に、文字と数字が書き足された。
数字が徐々に減っていくのではなく、効果の持続時間の制限に近付くと、付け足された文字が端から順に崩れるというか、薄くなっていくというか……
あ、座学の時に使った、硬いパンで消すみたいな感じ。
「それも是非検証をしたいですね」と、研究者めいたことを口にするあたり、父さんは『賢者』である前に、実験が好きな追求者なのだなと思う。
つまりボクは、研究対象なのか。
回復薬や魔物避けに使われる、花薄荷や唐辛子みたいに四六時中観察されるのは、ちょっと嫌かも。
回収する部位を全部街へと運び込む、衛兵さんたちとは入れ違いになる形で、精霊術師の人たちが街からワラワラと出てきた。
死肉をそのままにしておくと、それを狙う魔物がまたくる危険性があるから、地面に深い穴を開けてそこに放り込み、『聖女』が作り出した聖水を使って死骸を浄化させた後に、埋めるんだって。
ここまでの道すがら、そんなことしてたっけ?
これだけ沢山の魔物になると危ないってことなのかな。
結局街に所属している術師さんたちが処理を終えるまで、新たな魔物の群れが襲ってくることはなかった。
お肉の焼ける匂いにつられて、小型の魔物が遠巻きに森からコチラの様子を窺っては来たけれど、人の多さに尻込みしたのか、回れ右をして森に帰る魔物が多かった。
その場から離れず、ヨダレを垂らしているような食いしん坊さんもいたけれど。
どれも妖兎に妖狐のような、見たことがある魔物ばかりだ。
この大陸には本来存在しない魔物たちは、一体どこからやって来たのだろう。
帰ってから話すと言ってくれた内容を語るためには、まず座学が必要だと言われて、また机と椅子のお世話になることになってしまった。
ボクのおしり、いよいよ椅子から離れられなくなっちゃう。
椅子にくっつかなくても、おしりの割れ目が接着してしまったりしないかな。
父さんが話し出した内容は、まず霊力に関してだ。
霊力が一切含有されていないものは、この世に存在しない。
正確に言えば、存在しなかった。
霊力とは力であると同時に、万物を象るための基盤のようなもので、骨や肉のような生物に限らず、金剛石や石墨のような無機物にも、この世に存在している時点で、そこには必ず霊力が宿っている。
どんな荒野でも焦土でも、見るも無惨に荒んだ景色にすら、霊力は、そして精霊様は存在している。
この世にある限り、例え僅かな量でも霊力が含まれていれば、この世に現存できるのだ。
逆に言えば、全く霊力のないものは存在することを許されず、朽ち果て、砂塵のように崩れさり、確かにそこに在った痕跡すら残せず、文字通り、跡形もなくなる。
この常識は一部の思想家の中でまだ根強く伝わっているが、事実として、そんな世界の根幹の定まりが崩れたのが、大精霊様が誕生した直後のことである。
そう、今は霊力が宿っていなくても、別の力を有するモノが、この世界には存在している。
それが精霊様と相対した存在だ。
世界を平和と幸福に満ちた世界にすべく、奮闘している精霊様とは違い、それらの存在は、世界を混沌と破滅に導こうとしている。
創造神様は自身の力を全て注ぎ、大精霊様を生み出したあと「良し」と言い残し、深い、深い眠りについた。
それは精霊様の名前を習った時に、ついでに歴史の授業もサラッとされた時に聞かされた。
さすがに数時間前に聞いたことだから覚えているよ。
だけどその話には続きがある。
自身がいなくなっても、世界の行く末を見守ってくれる大精霊様が、無事誕生されたことに安堵したが故の、一人言ではあったのだろう。
しかし世界を創り出すことが出来る、強大な力を持つ創造神様のお言葉だ。
「良し」とされたことで、その対極となる「悪し」とする概念が同時に生まれてしまった。
創造神様がいなくなり、不安定になった世界。
それらの「悪し」きモノたちが付け入る隙は、いくらでもあったのだろう。
魔物と称された、人間から忌み嫌われた存在は「悪し」きものへと変貌し、より一層力をつけた。
今までとは比べものにならない程の力を宿した魔物は、「悪し」きモノの名に相応しく、他の生物はおろか、精霊様や霊力までも喰らい、貪り尽くす悪鬼のような存在になる。
魔物にとっては、「悪し」きモノに作り変わった肉体に、真逆の特性を持つ霊力は毒にしかならない。
そのため、その毒を溜め込む器官が進化と共に作られた。
それが、魔石である。
霊力が宿っているので霊玉と呼ばれていた時期も昔はあったそうだけど、精霊様の力が強く宿る土地から出土する石や、聖水によって磨かれた石も霊玉と呼んでいたため、呼び方を変えたそうだ。
魔石には、霊玉とは違う作用もあるからとか、そんな理由らしい。
似てるけど、ちょっと特製が違うんだって。
「悪し」きモノたちが一気に力をつけたことにより、精霊術が一般的ではなかった当時の人々は一時期、絶滅寸前まで追いやられた。
地方の集落は村単位で全滅。
大きな都市も、堅牢な城郭が築けた上で、戦力となる者たちがいなければ、時間と共に瓦解していった。
人間は魔物と比べると、知恵も器用さもあったけれど、圧倒的に力が足りなかった。
数の暴力に蹂躙されては、一溜りもなかったに違いない。
その時にこの世界を救ってくださったのが“三英雄“と呼ばれる方々で、大精霊様たちと力を合わせて、「悪し」きモノたちの主戦力を、別の次元へと封じ込めた。
全ての「悪し」きモノたちを倒すのではなく、封印となると、問題の先送りにしかならないように思えるけれど、当時の人側の戦力的に、それ以上は難しかったようだ。
それだけ、人類の数は減少していた。
封印して今の生活に落ち着いているのなら、それは偉大な功績と言えるだろう。
少なくとも今は、人が絶滅するような雰囲気はないもの。
年に何回かお葬式はあるけれど、小さな村でも毎月赤ちゃんが生まれるからね。
魔物に襲われて、葬儀が行われることなく、人知れず亡くなる人も中にはいるけれど、基本的には増えていっている。
三英雄って言うくらいだから、三人しかいなかったんでしょ。
ここら辺によく出る妖兎や妖狐なんて目じゃないくらいに――それこそ、さっきの魔雉や、稀に見る大魔熊みたいな強くて大きい魔物が相手だったに違いない。
精霊様がついていたとは言え、たった三人で対処してくれたのだ。
平和な世の中にしてくれただけ、有難いと言うものだろう。
その英雄の行いを称えた呼び名が『勇者』とされている。
かつての英雄の生涯が、精霊と人類に仇なす者たちとの戦いで占められたように、『勇者』のスキルを与えられた者もまた、波乱万丈の人生を歩むこととなる。
本人が、それを望まなくても、そう世界に定められてしまっている。
そんな『勇者』が実力不足によって、志半ばで倒れたり、蹉跌を来たすようなことがあってはならない。
だから『勇者』の周囲には十分な力が身に付くまで、『勇者』を守り抜く力を持つ実力者が引き寄せられる。
そんな保護者に守られながら、常人から逸脱した成長速度により、短期間で唯一無二の絶対的な強者になる。
どの時代に生まれようと、どんな環境に置かれようと、その法則が歪むことは、天地がひっくり返りでもしない限り、覆ることがない。
珍しいスキルは、それだけ世界の強制力が働きやすい。
剣なんて持ったことがない田舎の村娘が『剣聖』のスキルを与えられ、史上最強の剣術使いになるのもそうだ。
母さんは趣味として針仕事を続けていたのもあり、別のスキルが後天的に芽生えた。
なので『剣聖』のスキルだけに縛られることがなくなったこともあり、村ではなかなか平和に過ごせていた。
けれど過去の『剣聖』は、その名にふさわしい生涯になるように、剣の道に囚われた生涯を送ることが多かったとされる。
“剣の道を志ざす者たちにとって、聖人と崇める程の高みに在る者“が『剣聖』だ。
そこから外れることは、許されない。
ある種の呪いとも言えるそれが「スキル」の強制力だ。




