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大衆的に知れ渡っている精霊術が詠唱式とするのなら、父さんの使っている術式は、先端ということなのかな。
そう思ったけど、術式自体はかなり昔からあるもので、詠唱式が流行してからは一度、廃れた精霊術なんだって。
書くよりも、暗記してある言葉を口にする方が、早いし確実だ。
霊力さえ意識すれば、多少言葉を端折った所で、威力の増減はあるけれど、詠唱ならば確実に発動する。
しかしその都度書く場合は、文字を間違えたら発動しない。
もしくは思っていたものと違う結果が、もたらされることがある。
魔物と戦っている最中に、平常心で一言一句間違わずに長い文章を書くことが出来るのかと聞かれたら、まあ、難しいよね。
そのためどれだけ言葉を短縮できるのか、実験をした人も、過去にはいたそうだ。
散々な結果に終わったそうだけど。
人間は単なる言葉の羅列としか捉えていないけれど、元は精霊様にお願いをするための文言である。
特に親しくもない、関係性もない人に一方的に命令されると腹が立つのは、意志を持っているのだから精霊も同じだ。
その人は研究結果と引き換えに、生涯精霊様から力を借りることが出来なくなった。
へ〜、つまり、精霊様は個人を判別しているんだね。
「良い着眼点ですね。
霊力の質は、血縁関係で似るそうです。
特に親子、兄弟の性質が似ているようで、その研究者の親族は、暫く精霊術を使うのに苦労したそうですよ。
お願いをする時の文言を華々しくしたり、ひとつの術に込める霊力を増やせばある程度の威力の術なら発動させられることに気付いたお陰で、先程述べた法則を見付けたのだから、転んでもタダでは起きないと言うか、怪我の功名と言うか」
笑いながら言うけれど、その研究者さん一家は必死だったんだろうね。
当たり前に使えた精霊術が使えなくなったら、不便なんて言葉程度じゃ済まされないもの。
そんな不名誉な背景があるから、画期的な発見なのに、王族には伝わってこなかったのかな。
精霊術に最先端があるとしたら、直接精霊様と契約を交わして、心の中でやり取りをして、契約者の意のままに術を使うこと。
もしくは父さんの杖のように、あらかじめ術式を道具に刻み、霊力を込めるだけで周囲の精霊様が力を貸してくれて術が発動する仕様のどちらかになる。
前者は契約してくれるほどに慕ってくれる精霊様を、見つけられるかどうかが鍵になる。
かなり狭き門となるので、素養の他にも運と実力と、何より精霊様を個人で養える、膨大な霊力が必要になる。
なかなか一般化は難しい。
父さんでも未だに叶わないと言うのだから、どれだけ難しいのかが想像つくね。
術式を刻むのは、まず術式を覚えること。
間違いのないように一言一句、丁寧に書けるようになること。
それが最低条件だ。
紙にただ木炭で書いたものでも、使えなくはないけれど、霊力を溶かした墨液で書いたり、霊力が込められた紙に書くと、その威力が増す。
父さんが持っている杖についている宝石は、霊力の塊のようなものだから、紙に書くよりも随分強力な精霊術が使える。
霊力を込める量によって、術の強さを任意で変えられるんだって。
ちょっと細かい仕事を頼む時は、詠唱と想像力も必要になるとか。
精霊様は人の心がある程度読めるから、想像力を鍛えるのも、いい精霊術師になるための条件と言われた。
そのために、色んなものを見て、沢山の経験をすることが、想像力を養うための栄養になるから、大事なんだって。
固定概念に囚われては、想像力は育たない。
だからステラを注意したんだね。
術式に使う文字は、普通の文字とは違う。
ぐにゃぐにゃした、なんとも独特な踊っているように見える文字だ。
どこからどこまでがひとつの言葉なんだろう。
同じ形をしている文字が幾つか認識できるから、単語の羅列なのかな。
古代語や精霊語と呼ばれる言語形態で、今ボクたちが話している言葉とは、全然違うから、なかなか習得は難しそうだ。
かく言う父さんも、なかなか苦戦しているらしい。
精霊語で詠唱が出来るようになると、かなり精霊術の威力が上がるので、幾つか短い詠唱だけでも、覚えておいて損はないと言われた。
手札は多いに越したことはないってことだね。
基本的に現代語で詠唱するよりも、術式の方が威力が強いのは、精霊語を使っているからだと予測されている。
あらかじめ術式を書いた紙を用意しておいて、使う時に霊力を流すにしても、父さんが持つ杖のように術式を刻んだ霊玉を持ち歩くにしても、まずはその精霊語を学ばなければならない。
今日はそれぞれの精霊様を表す、言葉の書き取りをするそうだ。
形を覚え、綴りも完璧に出来るようになったら、次の段階に進むことになる。
「あの……光の精霊様以外にも、精霊様がいらっしゃるのは存じ上げております。
ですが、光の精霊様のご威光輝くわたくしたちの世界では、光の精霊様以外の精霊は、その……力が下だと教わりました。
光の精霊様以外の綴りを覚える必要はありありますか?」
「確かにルミエール大陸を守護して下さっている精霊様は、光の精霊様です。
その分、貸していただける力が強い傾向にあるのは、事実です。
しかし創造神様の力を賜った精霊様――光の精霊様、闇の精霊様、地の精霊様、水の精霊様、火の精霊様、風の精霊様の間に、上下関係はありません。
彼の御方達が統べる下位の精霊様には、振るえる力量によって、上下関係がありますがね。
それにもし、精霊様の間で力の差があったとしても、先程の裏庭で例えるなら、光の精霊様に地面に空いた穴を塞ぐことは出来ません。
地の精霊様にお願いをするべきでしょう。
ご自身が何をしたいか、何をして欲しいか。
それによって、呼び掛ける精霊様の名前は変わります。
よって、全員分の御名前を覚えるべきでしょう」
言ってそれぞれの精霊様を表す図形を書いた紙を渡される。
蚯蚓ののったくったような線が、それぞれの精霊様の名前が書いてある下に記載されていた。
それを見てお手本にし、ひたすら模写をするように言われた。
父さんは人にものを教えるのは、ボク以外だと初めてになる。
もし教え方がステラに合わないようなら、また先程のように疑問があれば素直に言って欲しいと微笑んだ。
もちろん、ボクも分からないことや真偽不確かな事柄があれば言うように、と言われた。
ついでのように言われて、また胸がモヤリ。
筆記用具を持ち慣れていないボクと、羽根ペンを持ち文字を描き慣れているステラ。
比べるとやはり、図形の正確性も速さも全然違う。
今まで鍛錬と言えば向かい合って打ち合いをするか、隣に立って模倣することばかりだった。
それがこうやって机を並べて、速さも丁寧さも個人に委ねられる今の状態は、なんと言うか……焦る。
父さんからは、急かされるような言葉は言われていない。
なのにステラと同じように、もしくはそれ以上の成果を出せるように取り組めないことへのもどかしさが、酷い。
これが父さんの言っていた「ステラと共に過ごす中で学ぶ感情」のひとつだろうか。
焦燥感、というのかな。
村では感じたことがなかった。
父さんと母さんの子供らしくあれ、と言われて来ても、正直周囲よりもちょっと何か秀でるものがあれば、十分だった。
ステラを相手にすると、それがなくなる。
運動に関しては、ステラは出来なくて当然だ。
だって走ったことがないと言うんだもの。
むしろ走るようなお行儀の悪いことをしてはいけない、と教育されてきたと言うのだ。
そんな中、三周だとして走り通したことは、賞賛に値する。
ボクは周りよりも少し秀でていた程度の位置で満足して、いつでも学べるような立場にあったのに、父さんにそれを望まずあぐらをかいていた。
小さな村の中で一番だからと言って、それが大陸全体に範囲を広げたら、もっともっと先の海の向こう側の人と比べたらどうなるのか、考えることすらしなかった。
選ぶったつもりはなかったけれど、驕ってはいたんだろうな。
ステラは、学ぶ意欲が凄い。
ボク以上にどん欲だ。
集中力がずっと続いている。
ボクの視線なんて気にも止めず、ひたすら紙を黒くしていく。
父さんと母さんの息子らしくいるためには、あれよりも更に努力しなければならないのか……
諦めたり、放棄するつもりはない。
だけど、ちょっと、尻込みしそう。
考えるだけで何もしない人よりも、何かしら始めた人が偉くって、ただ始めた人よりも継続した人が偉いんだっけ。
ステラは、続けることが出来る人だと思う。
あの鉛筆を持つ美しい所作も、スっと伸びた背筋も、一朝一夕で身に付けられるものではない。
力量が及ばない可能性があるのなら、せめてステラよりも下になる項目を、ひとつでも減らさなければ。
深呼吸をして、姿勢を正して、お手本を見つめた。
文字には見えない目の前の模様は、よくよく見てみると、法則性のようなものが見つけられた。
水の精霊様の表記が一番分かりやすい。
同じ模様が頭とお尻についている。
光の精霊様と風の精霊様も、“ン“の発音部分に当たる部分なのかな。
同じ模様が書かれている。
「おや、よく気付きましたね。
精霊様の言語は二六種類の文字の組み合わせで出来ています。
日常で使用する単語は、凡そ二〇〇〇から三〇〇〇程あるでしょうか。
普段使用している我々の言語形態とはかなり異なることもあり、なかなか全てを覚えるのは難しいです。
しかしひとつひとつ、独立した文字の組み合わせでこの模様が成り立っているのだと気付けたのなら、あとは耳で聞いて音を覚えれば、自ずと書けるようになります。
文法を覚えずとも、単語さえ覚えれば、精霊様とのやり取りも自然と出来るようになります。
詠唱と同じです。
相手の名前、何をして欲しいかの動詞、そしてお願いの言葉。
このみっつさえ言えるようになれば、精霊語での詠唱になります」
名前はここに書いてある六柱の精霊様。
お願いの言葉は「〜してください」という意味で共通している。
つまり、動詞――火をおこす、光で照らす、みたいな言葉を精霊語の単語で覚えるってことか。
術式に書き込むのも、詠唱の言葉になるそうだ。
音と模様の両方を関連付けて覚えれば、無駄なく習得出来そうだ。
父さんにお願いしてその別の紙に二六文字もお手本に書いて貰った。
ひらがなを覚えた時の、五十音表に適応した文字があるな。
あ・い・う・え・おの五文字と、ここに書かれた二六文字のうちの五文字。
最初に書かれている文字と、”あ“が適応している。
二文字目が“い“かと思いきや、全然違ったのでやはり覚えるのは大変そうだ。
喉が開放された状態でしか出せない音――あ・い・う・え・おを母音と言って、それぞれに該当するのがa・i・u・e・oの文字になる。
試しに発音してみるように言われて実際に声に出してみる。
確かに口を開かないと、こもって別の言葉に聞こえてしまった。
意識したことがなかったけど、言葉って口の――あと、舌の動きで音を分けているんだ。
へ〜、面白い。
母音以外の文字が子音と呼ばれるもので、子音と母音の組み合わせで、発音したい言葉の音が表現されるそうだ。
水の精霊様だったら、母音、子音+母音、母音の音の組み合わせ――a、q+u、aとなる。
aの音で殆ど出来ているね。
とっても覚えやすくていいと思う。
火の精霊様のgのように、g+uでグと表記しないこともあるから、そこは法則性を覚えられないようなら、もう単語を丸暗記していくしかないと言われた。
一応、法則自体はあるんだ。
とは言っても、今書かれている精霊様の名前だけでは、その規則性なんて見えるはずがない。
名前を間違うのは失礼に値するし、精霊様のお名前くらいは音で覚えるのではなく、文字の綴りもシッカリと間違えないように覚えよう。




