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『剣聖』と『賢者』の息子、正体不明のハズレスキル『整理士』で、歪んだ世界を平和に導く。  作者: 可燃物


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家の裏庭と違って、父さんが“修復“の術を刻んでいないことを失念していた。


ステラを休ませている間、ボクが気絶するまで行われた組打ちは、父さんから掛けられた治癒術によって続行させられることが確定した――かと思いきや、起きてきた母さんにしこたま怒られて、その日の鍛錬は終わりになった。

でこぼこに隆起した土に、幹の中頃でへし折られた落葉樹。

まあ、見るも無惨な姿である。


この叱り方もどうかと思うけど、「バレる前にさっさと片付けなさい!」と怒られて、父さんが急いで元に戻していた。


地面は地精霊様の力で直していたけれど、植物はどうするのだろうと見学していたら、治癒術をかけていた。

べきべきになった破断面から互いに繊維が伸びて行く様子は、なかなかに興味深かった。


傷口を塞いでもらう時、ジッと見つめることなんてなかったけど、ボクもあんな感じに治るのかな。

……今度機会があったら見てみよう。


わざと怪我をするのは、痛いから嫌だし。

たまたま怪我をした時にだね。

その時には穴が空くほど、じっくり見させてもらおう。


みるみるうちに直っていく景色は、なんだか不思議な光景に見える。

時間を戻すことが出来たら、こういう風になるのかな。



「信じられません……」


疲弊状態から復活したらしいステラが、何やら呟く。

邪魔にならない所がちょうどステラと蜜さんの近くだったから、言葉を拾ってしまっただけなのだ。


盗み聞きしようなんて、思っていない。

不可抗力なんです。

だから睨まないで。


蜜さんって、結構怖い。


「精霊術は本来、このように広域に使用する場合は数人の術者を必要とします。

 それを一人で、詠唱をすることなく行使するなんて……非常識にも程があります」


ステラの呟きの意味を、代わりに説明してくれるのは優しいね。

だけど言葉がなんだかトゲトゲしい。

それは褒めている……のかな?



父さんの精霊術は見慣れてしまっているから、コッチが特別だと言われてしまうと、一般的な精霊術師が使う精霊術って、どれだけみすぼらしいのだろう、と疑問に思う。

逆に見てみたい。


ただ、その説明を聞くと疑問が出てくる。

“修復“の術式が刻まれていた家の裏庭は、誰の霊力を消費していたんだろう。


母さんの剣技なんて、この比じゃないくらいに地面を割っていたのに。



ものの数分で地面はまっ平ら、芝生も再生して新緑の色がピカピカ光ってる。

木々も心なしか、最初よりも元気になった。


「コレで怒られることはないでしょう。

 昼食の後……どうしましょう。

 私たちの部屋に来ますか?

 私達がそちらの部屋に伺いますか?」

「そう……ですね…………

 教材が多いようでしたら運ぶ手間があるでしょうし、そちらの部屋へ伺います。

 ですがもし差し支えがなければ、ギリギリまで横になっていたいので、部屋まで来て頂けると嬉しいです」

「分かりました。

 では、そちらへ伺いましょう」


喋れるようにはなったけど、まだ動くのが辛いみたい。

だるいのではなく、身体を動かそうとすると、痛みが走るのかな。


時折ピキっと顔が引きつっている。

既に筋肉痛になっていたりするのだろうか。

さすがにこの短時間ではならないか。

なるとしたら、肉離れかな。

もしそうなら悶絶する程の痛みだし、そこまでは酷くないのだろう。



ボクが鍛錬を始めた時って、どうだったかな。

なにせ、みっつやそこらで始めたし、細かくは覚えてないや。

痛いのなんて、しょっちゅうだったし。


初めての走り込みはさすがに覚えていないけどさ。

覚えていることも、朧けながらあるよ。


走り込みと言っても、母さんの一歩がボクの五歩とか六歩になるわけじゃない。

いや歩幅的には倍程度の差なんだよ。


歩幅はその程度の差だとしても、母さんの“ゆっくり歩く“が、小さいボクには全力疾走をしても追いつけないくらいに早かった。

ヨチヨチと重たい頭と尻を振って、置いてかれまいと頑張って、必死にその背を追いかけた覚えはある。


筋肉痛には……なった、のかなあ。

いつだったか、寝台の上でピクリとも動かないボクを、病気じゃないかと言って、母さんが滅茶苦茶狼狽えていたような気がする。


木剣ですら、持たせて貰えたのが随分と経ってからだったのは、しっかりと覚えている。

だからステラが鍛錬初日から木剣が与えられると聞いた時に、ちょっとモヤッとしてしまったんだよね。



「走った後、すぐに立ち止まっちゃったでしょ。

 多分そのせいで辛いんじゃないかな。

 筋肉の緊張を揉んだり撫でたりして解して、熱を持っている箇所は冷やして。

 走り込みって全身運動だから、様子を見て改善しないようだったら、肉離れを起こすといけないし、明日の鍛錬は休まなきゃいけないよ。

 えっと……休むのも、鍛錬のうち、ってやつ」

「お嬢様を揉ませろ、と?」

「そんなこと一言も言ってないよね!?」


途中から蜜さんの目力が怖くて、しどろもどろになってしまった。

なんで助言してるのに睨まれるのだろうと思えば、不謹慎な想像をされていたらしい。


その言葉の応酬を、父さんと母さんは遠目で微笑ましそうに見ている。

ボクの判断は、間違っていなかった、ってことかな。


この不完全燃焼気味にずっとボクの中に巣食っているモヤモヤした気持ちと向き合うためには、ステラともっと関わりを持つべきだと思ったんだ。


友達でもない、知り合いともまだ言えない、ボクとステラはまだ他人の関係性しかない。


なのに『勇者』というだけで、は両親から評価されているステラが、ボクは気に食わないのだと思う。

努力が大事だと言っておきながら、ろくに走ることも出来ないくせに、『勇者』だからと将来性を期待され、評価されている。


そしてその評価を出してる父さんにも、腹が立っている。

努力を続けている、そしてこれからも続けるだろうことは褒められたけどさ。

二人とも、『整理士』ってスキルを、授かって良かったと言ってくれはしたけど、スキル そのものを褒めてはくれなかった。


もちろん『整理士』がどんなスキルなのか、どんな潜在能力を秘めているのか分からないのだなら、褒めようがないのは理解しているよ。

なんだけど、『勇者』は褒めるわけじゃん。

ちょっと、モヤッと加減が増えるよね。



父さんと母さんが幼少期のボクを蔑ろにしているなんて、思っていない。

鍛練を始めた当時のボクは、今よりもうんと背が低くて、手のひらは小さく指も短かった。


木剣を持つことが、物理的に不可能だったのだ。

そりゃ、ある程度の年月が経たなければ、持たせられるはずがない。


対してステラは、当時のボクより大きい。

むしろ今のボクよりも、ほんの少しだけど身長が高い。


その分手だって大きいし、余裕で木剣を握ることが出来る。

鍛練を始めてもいないうちから、木剣を持つことが許されたのは、単に肉体の大きさが理由だと考えれば、それは仕方がない。

分かっている。

ある種の、諦めと受け入れが必要になることも。



それに父さんと母さんは、なるべく早く先代『勇者』と『魔王』の無事を確認しに行きたいだろう。


こんな教育に時間を割いている時間があったなら、ボクの身の安全が確保出来るなら、二人は封印場所を知っているのだ。

サッと行ってきたいに決まってる。


だけどボクがいるから、それが出来ない。


ボクを一緒に連れて行かなければならない現状で、二人が取れる最適解が、ステラをなるべく早く『勇者』らしく強く育てること。

戦える人数が増えれば、その分道中出くわす魔物の対処が楽になる。


急ぎ足になったとしても、『勇者』のスキルがあれば、短期間でかなりの強者にできる自信があるから、この依頼を受けたのだろう。


ボクとは違い、戦闘系のスキルだもの。

父さんと母さんだって、教えがいがある。



……こんな、ぐちゃぐちゃした気持ちの悪い感情が、ボクの中にあるなんて、知りたくなかった。

父さんはボクの中に生まれた感情が何なのか、知っている様子だったけど、それを否定しなかった。

そんな感情は持っちゃいけないとは言わなかった。


むしろ、今まで芽生えたことがない感情を持つことを、良しとしていたと思う。

人間的に成長するためには、通らなければならない試練なのだろう。


それならボクはこの感情と――ステラと向き合い、乗り越えなければならないんだ。



「どうしても辛いようなら、回復薬を飲むことをオススメするよ」と言ったら、ステラは一瞬、本当にすごく短い気のせいかな? と思う程に短い時間、表情が固くなった。

いつもは無表情って感じなんだけど、今は強ばった感じ。


「回復薬を飲めば、この不調は治るでしょうか……」

「全部が全部治るとは言いきれないけど、楽にはなると思うよ」

「そう、ですか……」


そんな暗い影を落とすようなことがあっただろうか。

お金にはまだまだ余裕があるだろうし、用意することは全然出来るよね。


「一般的にみて、回復薬の青臭さが得意な方は稀でしょう。

 特にお嬢様は日々、洗練された料理人が腕を奮ったお食事を召し上がっております。

 お口に合わないのは、致し方ありません」

「父さんが作ったやつは、そこまでマズくないと思うんだけど……」


しょっちゅう怪我をする母さんの苦痛を、少しでも和らげようとした、父さんの努力と叡智の結晶だ。

飲む量が少しでも済むように効果を底上げした上で、味もかなり改良したと言っていた。


味に関しては、昔美味しくしすぎてしまって、ボクがこっそり飲んでしまったことがあったそうで、今は舌にピリッとくる刺激を残して、不味くはない程度に戻したと言っていた。

お薬は、適量以上を飲むと身体に悪いんだってさ。


ボクだって大きくなったんだし、自重くらいもうできる。

美味しい味に戻してくれてもいいのにね。



父さんを手招きして回復薬の相談をしたら、必要な材料の手持ちが心もとないからと、回復薬の提供を拒否された。

まさか、断ると思っていなかった。


命に関わるような状態ではないし、万が一のことを考えたら、父さんの判断は正しいのか。


主人の体調を気遣った蜜さんが、必要な材料を揃えることと、然るべき金銭を要求してくれて構わないと言って交渉して、作り置かれた“不味くはない回復薬“で良ければ、と提供することになった。

父さんが折れた。

……母さんに貢げるものが増えるから、かな。


部屋から持ってきた回復薬を、治癒力が変わらない程度に味がマシになるように、幾つかの材料と共に、火にかけた壺の中に放り込んで作り直していた。

いつも思うけど、あのツボってどこから出してきているんだろう。


お掃除した時にも、家を出る時にも、荷物の中には入っていなかったよね。


精霊術で冷やして、毒味役としてまず父さんがガラス棒に付着した薬を手の甲にとってひと舐め。

少し考え込んで、胸元から手帳を取り出しなにやら書き込んでいた。

母さん向けの回復薬のレシピが、また改良されるのかな。


次に蜜さんが毒味をして、口を押さえた。

何か問題でもあったのかと思えば、思いのほか美味しくてビックリしただけだそうだ。

紛らわしい態度を取らないで頂きたい。


これなら確実に飲めると太鼓判を押された回復薬を、恐る恐る口に運びひと舐めしたステラも、蜜さんと同じように目を見開いた。

「コレなら飲めます!」と言って嬉しそうに杯を煽った。


そんなに美味しいのかと、ツボの側面に付いていたのを指ですくって舐めた。

だけど正直、そこまで美味しくはないよね。

一般流通している回復やって、どれだけ酷い味をしているんだろう。


蜜さんが回復薬の作り方を父さんから聞き出そうとして、粘着していた。

断固拒否され、ならば購入をと食い下がるが、完成品を渡したら、材料を解析されるから嫌だと言って、コレも却下していた。


この品質ならば、作業手順の開示だけでひと財産築けると、魅力的なことを言われても、「儲けるために作ったんじゃありません」と拒否の姿勢を貫いていた。


母さんのために作っているんだもんね。

希少な素材が使われていることもあるそうだし、その素材が乱獲されてしまって、母さんの分が確保出来なくなったら困るもんね。

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