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『剣聖』と『賢者』の息子、正体不明のハズレスキル『整理士』で、歪んだ世界を平和に導く。  作者: 可燃物


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奇襲というものは、なんで夜に行われることが多いのだろうね。

そりゃ日中だったら即行通報されるような、見た感じからして怪しさ満点の人たちでも、夜なら黒装束を身に付けて、一歩裏路地に入れば闇に溶け込むことが出来る。

移動が楽になるし、後ろめたいことをするにはうってつけなんでしょ。

分かるよ、理屈は。


だけどさ、人が久しぶりのお布団でグッスリ眠っている間に「奇襲がありました」「返り討ちにしました」「奇襲してきた人の目的は王女様でした」「王女様がお詫びをしたいと会いたがっています」なんて寝起きで言われてもさ、頭は動かないよ。

二度寝したいとすら思えるほどにフカフカのお布団をもっと堪能したいなあ、なんて寝返りを打った時に言われてもさ、困るじゃない。


「……父さんと母さんにケガはない!?」


言葉を認識しようと動き出した脳ミソが、真っ先に気にかけたのはそのことだった。

二人だって久しぶりのお布団だもの。

寝入っている時間帯に襲われたら、対処は難しかったんじゃないのかな。


そんな心配をよそに、二人とも何もなかったかのように、あっけらかんとしていた。


そりゃそうか。

母さんに何かあったら、父さんが今頃血相を変えて襲ってきた人たちの本拠地を特定して、壊滅させているだろう。

もちろん、母さんの容態を安定させた後で。

例えるのも嫌だけど、万が一のことがあれば、父さんは国が相手でも滅ぼすと思う。

そんな事にならなくて良かった。

そもそも、母さんが大怪我するとか有り得ないけどね。


父さんが何か致命傷を負うっていうのも、想像出来ないな。

母さんが人質になったら、抵抗をスッパリ諦めるだろうけど、そもそも母さんが大人しく拘束される姿は、傷だらけの姿よりも想像出来ない。


……その奇襲者の人たち、無事かな。



それにしても、このお部屋を提供してくれたのが、まさかお姫様だったなんて。

要人がいるのかな、とは思ったよ。

お部屋に案内してくれたお姉さんのスキルを見たからね。


宿屋さんの従業員じゃないだろうなとは思ったけど、護衛を雇っているって話だったから、そっちの可能性もあるじゃない。


お姫様は宿に泊まる時は、何かあるといけないからって、その階全部のお部屋を確保するんだって。

お金持ちって凄いね。

無駄遣いばっかして。


だってそれ、母さんが値上がりして怒っていた、人頭税なんかの税金から捻出されているんでしょ。

国を治めるお仕事をする代わりに、王様たちって国民の税金で暮らすって聞いたもの。


安全確保したいだけなら、他にも方法があるだろうに。


宿屋さんとしては、お金がきちんと払われるなら、誰が借りようと、どんな借り方をしようと一緒なんだろうけどさ。

お部屋が空いてませんって断られた時、とっても困った。

そういう人が、もしかしたら他にもいたかもしれないなら、やっぱり人に迷惑をかけるようなことは、しちゃいけないと思うんだよね。



それにしても、たまたま提供してくれたお部屋で襲われるなんて、ボクたちって運がないね。

一部屋が広い分、他の階よりも部屋数は少ないけれど、五部屋はあるのに。


二割の確率か……

村で子供たち皆で遊ぶ時に出された、イタズラお菓子に混ざっているハズレを引くのは、大抵ボクだった。

五分の一の確率なら、全然有り得るね。

……つまり、ボクの不運のせいか。


「真っ先に私達の心配をして下さるなんて、透は優しいですね。

 危ない事は特にありませんでしたよ。

 (ツムギ)さんが頑張って下さいましたし」

「一番頑張ったのは、あの従者だけどね」


あのお姉さんも戦ったんだ。

へ〜、見てみたかったな。


『暗殺者』さんと言うくらいだ。

『剣士』や『武闘家』みたいなスキル持ちの人とは、全然違う戦い方をするんだろうな。


同時に『使用人』でもあるのだし、お掃除道具やお料理道具で戦ったりするのかな。

包丁は分かりやすく武器になるけれど、箒やまな板はどうやって使うんだろう。

俄然見てみたい。



「お呼ばれをしているから、きちんと髪を梳かして整えなきゃね」と言って櫛と整髪料を手に持った母さんが鏡面台の前に手招きする。

おお、オシャレするんだ。


昨日寝る前にお洋服を“浄化“しておいて良かったね。

……と思ったけど、念の為もう一回しておこうと言われたので、母さんに髪をいじられている間に全員分の服を“浄化“した。

少し霊力を消費した感覚があったから、相応に汚れていたみたい。

寝汗のせいかな。

それとも、ヨダレでも付いていたかな。


「はい、出来上がり。

 ほら、お父さんもコッチ」


父さんは見た目に無頓着だからか一度断りを入れるけど、ボクが「母さんにたくさん頭を撫でて貰えるよ」と耳打ちしたら、喜んで椅子に座った。


父さんは精霊様から力を借りやすくするために、髪の毛が結構長い。

髪は霊力が宿りやすいから、伸ばすと自然に総量が増えるんだって。


昨日は鎧の中に、その長い髪をまとめて入れていたから、結構絡まってしまっているみたい。

なにせお風呂に入った時も、ろくに梳かしていないだろうし。

そのまま放ったらかしにしていたら、そりゃ絡まっていく一方だよね。


母さんが癇癪を起こしながら、整髪料の代わりに植物油を塗り込んで悪戦苦闘した髪の毛は、暫く経ってツヤツヤのサラサラに変身した。

すっごく見違えたね。


しかも母さんはイタズラ心からか、髪の毛にかなり凝った編み込みを施した。

お花でも咲いているみたい。

フワリと花の匂いが香っているし、父さんは身体の線が細めだから、後ろから見たら美人な女性に間違えられそう。

性別まで超越する変化は、さすがにやり過ぎじゃないかな。


お礼と言って母さんの髪を丁寧に梳かす父さんの手つきは、さっきの母さん以上に優しく、繊細なガラス細工にでも触れるかのようだ。

その顔は、普段のデレッとした締りのないものではなく、心から愛しいものを見つめる時の、悲しくなるくらいに優しい眼差しだった。


こういうのんびりとした時間は久しぶりだから、とっても嬉しい。

奇襲は嫌だけど、こうした時間が過ごせるのなら、もう何日か許されるなら、このお部屋で過ごしたいな。



既にどのお部屋にお姫様がいるのか、二人は聞いていたみたい。

迷うことなく階段をひとつ降りて、廊下をちょっと歩いた先にある部屋の前に立った。

ちょうど、ボクたちが泊まったお部屋の下になる。


何かしら、合図でも決めていたのかな。

お行儀悪く父さんが扉を蹴りながら扉を軽く叩く。

ちょっと器用。


それと同時に風精霊様の術を使って、ボクたちの周囲に保護膜を張る。

コレ知ってる。

魔物との戦闘になると、必ずボクに施す防御系の術だ。

簡単な攻撃なら弾き返してくれるし、ソコソコの威力の攻撃でも、無効化してくれる優れものだ。


なんで今それを使うのだろう。

襲われる危険性が、こんな朝早くからあるのかな。


コレ、利便性が高いんだよね。

内緒話する時にも使えるし。

ボクも使えるようになりたいな。

お勉強すれば使えるようになるって話だし、この宿屋さんに暫く泊まるなら、父さん教えてくれるかな。



昨日お部屋まで案内してくれたお姉さんが、絵に描いたように綺麗なお辞儀で出迎えてくれる。

それに慣れた様子で会釈を返す父さんと母さんを見ると、緊張は少しほぐれた。


ボクたちはあくまでお客様。

失礼なことさえ言わなければ、大丈夫。

今は王族としてではなく、あくまで『勇者』としての立場で旅をしているから、畏まらなくてもいいってあらかじめ言われてるんだって。

失礼なことを知らないうちにやってしまって、問答無用で切り捨てられることはないそうだ。


「そんな悪政をする国は早々ないですよ」なんて父さんは笑うけど、気付いてないのかな。

“そうそうない“ってことは、ある程度はあるってことだよ。

父さんはボクや母さんに嘘をつかない分、言葉の端々が不穏になりがちだ。



跪く必要もないと言われ、気を付けの格好でお姫様が来るのを待つ。

「おもてをあげよ」って言葉、生で聞いてみたかったんだけどな。


さっきのお姉さんに付き添われてやって来たのが、お姫様だろう。

影武者ってことは、さすがにないと思う。


母さんが昨日見ていた絹糸よりも、細く艶やかに輝く緩く巻かれた金の髪に、白磁器のようにキメが細かく透き通るように整った白い肌。

瞳は澄みわたる空色で、指先は爪紅を塗られていた。

頭のてっぺんから爪先に至るまで、お人形さんのように整えられている。

お姫様と聞かれて想像するのは、正しく目の前のような女の子だろう。


どう見ても、剣を振るうようには見えない。

この子が『勇者』だと言われても、なんの冗談だ? と真顔で返答する自信がある。


日焼けをしていないくすみひとつない肌、重い剣を持つことも出来なさそうな華奢な腕。

体型を細く見せるための補助具で締め上げている腰は細すぎて、正直気持ち悪い。

だってあれ、絶対内臓変形しているよ。

身体に悪すぎる。


おすましさんで居るように言われているので気を付けの格好のまま、特に何をするでもないけれど、他に見るものがないのでお姫様をつい、凝視してしまう。

その視線に気付いたのか、ニコリと微笑まれてしまった。

慌てて視線を外せば、見蕩れていたと勘違いされてしまいそう。

微笑み返して目礼だけして、その後は大人の話し合いの最中は、ずっとあさっての方向を見つめるだけに留めた。


だけど、なんと言えばいいのか……この距離で自分の意見もハッキリと言えないのかな。

扇の向こうで従者のお姉さんに耳打ちをして、その内容をお姉さんがボクたちに言うんだもの。

無駄な時間が多いよね。


『勇者』として行動していると言うわりには、全然王族然とした態度や行動が抜けていない。

初めて見る王族にワクワクしていたけれど、考えてみれば同じ人間だもんね。

別段楽しむようなことはなかった。


確かにハッとするくらいキレイだけれど、ボクは人形を愛でる趣味はない。

理想の女性は母さんだし。


やはり今の時代は立てる男がいなくても、自尊心を失わず自力で生活出来る人でなければ。

媚びなければ生きていけないと考えている女性はまだまだ多いけど、本来なら夫婦は互いに支え合うべきだと思うんだよね。

父さんと母さんを見ていると、つくづく思う。


父さんは幸運だよね。

同じ時代に、母さんみたいな魅力的な女性がいるんだもの。


あ、今回の旅において、ボクの未来のお嫁さんを見つけるのを目的にしてもいいかもしれない。

ルミエール大陸そのものも広いし、おいおいこの大陸から出るのなら、文化や風習が違うだろうし、ボクの固定概念すらぶち壊し、「一緒にいるだけでいいから、君は何もしないで」と心から乞うような人が見つかるかもしれない。

そういう人に振り回されるようになると、父さんみたいに一途な愛の狩人になるのだろうなあ。

ちょっと旅が楽しみになってきたぞ。



噂はあくまで噂のようだ。

目の前のお姫様は間違いなく姫だし、『勇者』とスキルに書かれてある。

そうなると、父さんと母さんの友達の『勇者』は、本当に死んでしまったのだろうか。


目の前の『勇者』は基礎能力が村の子供たちよりも低すぎて、どうやって旅をするのかがとても不安だ。

『魔王』や魔物を倒すどころか、街から街への移動さえ覚束なさそう。


馬車ででも移動するのかな。

乗馬は結構筋肉がないと、姿勢の維持が難しいって聞いたことがあるし。


そもそも魔馬(カバルス)は調教が難しいし、自分より弱い相手に服従するのを酷く嫌う。

調教師が余程優秀なら話は違うけど、このお姫様相手だと舐めてかかりそう。


馬鹿にしているのではなく、率直な感想だ。

それくらい、強風で飛ばされてしまいそうな、なよなよしさを感じるんだもの。

守りたくなるような儚さではない。

転んでも誰かが助け起こしてくれるのを待っているような、そんな悲劇の物語の登場人物のような、あざとい弱さだ。



なんか、既視感があるんだよな……ああ、一時の李王と一緒だ。

自分の意見を言うことを最初から諦めているんだ。


周りが全部決めて用意するから、自分の意思も主張も全部、無かったことにしちゃっているんだ。

李王も今でこそ活発なイタズラ小僧だけど、昔は村長を継ぐことが嫌だけど決まっているからって言って、随分とお腹の中に溜め込む子供だったんだよね。


それで血を吐いて、父さんが村長さんやお父さんたちに説教してからは、少しずつ今みたいになっていったけど。

精神的な負担が、身体に悪さをすることはよくあるんだって。

それから逃れるための防衛本能で、感情を自分の中の箱の中に閉じ込めて、無感情になる人は一定数いるそうだ。


お姫様の場合は、国王になることが決まっているんだっけ。

中途半端に決まらないから、他の国王になりたい人から命を狙われているんだっけ。


そんな国王っていい立場なのかな。

なりたい人がなればいいのに。


あ、でも、お金使い荒い人がなったら大変だよね。

なりたい人が挙手して、どういう国にしたいかとか、どんなことが出来ますとか、主張と約束をして、国民に選んで貰えばいいんじゃないのかな。


多数決って数の暴力だなんて言うけれど、ジャンケンよりも公平だと思うんだよね。

だって、ジャンケンだと動体視力がいい人が勝っちゃうし。



このお姫様が王様になっても、自分の主義主張を貫き通す父さんみたいな心の強さも、自分が信じたもののためなら頑としてやり抜く母さんみたいな、ある種の愚直さも感じない。

見た目通りお人形さんみたいに王座に座って、周囲の人間の意見に振り回されるだけになりそう。


船頭多くして船山に上るだっけ。

それで国が滅んだらどうするのだろう。


あ、そもそもここ、国じゃないんだっけ。

別の大陸に国王様は別にいるのに、勝手に王を名乗っているって父さんが言っていたね。

本当は領主様だったかな。


じゃあ、別に滅んでもいいんだ。


……この大陸を出ていくボクには関係ないけど、村の皆が悲しむようなことには、ならないで欲しいね。

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