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大きな街って、とっても硬そう。

門や囲いは全部石造り。

道も家も、ぜーんぶ石!

レンガって言うそうだけど、赤かったり薄茶だったり、とっても色が多くて目がチカチカする。

村の木で作られた家とは全然違う。


それに背が高い!

一番高い建物を見上げていたら、あまりの大きさに頭から後ろにひっくり返っちゃった。

支えてくれた見張りの人に、「危ないから気を付けてね」って注意された。


ごめんなさい。

助けてくれて、ありがとう。

全身銀色、ピカピカの鎧を身につけて、顔も兜で見えないけれど、見た目の厳つさに反して声はとっても優しかった。


門の所に立っていたもう一人が、父さんと母さんに向かって何やら話している。

大きな街では、出入りする人の素性や名前の聞き取りと審査が行われると、あらかじめ聞かされていた。

その手続きをしているのだろう。


ボクの名前はトオリで『清掃』のスキル持ち。

母さんはツムグで『針子』。

父さんはカノウで『剣士』の設定。

皆それぞれ名前を言い間違えしそうになった時に誤魔化しがきくように、元の名前と似たものにした。


せめて父さんと母さんのスキルは逆の方がいいんじゃないかと思ったけれど、それだと指名手配されている場合に、名前もスキルも似てる余所者がいるとなれば、怪しまれるのは必至だ。

だからと言って母さんの大剣は荷物として誤魔化しようがない。

一応そこそこ程度なら振るえるので、『剣聖』や『剣豪』、『騎士』よりも、授かる率が高くて珍しくもない、更に能力の劣る『剣士』を、父さんが名乗ることになった。


格好もそれっぽく見えるように、装備品を交換しているのだけど……普段の2人を見慣れていると、似合っていなくて違和感しかない。

正直、変。


だけど初めて見る人にはそうは見えないようで、なんの問題もなく街に入れた。

旅の道中で狩った魔物の素材を売るためにまず、問屋さんに行く。

荷物を減らせる上にお金まで手に入る、とっても素敵なお店である。



ここら辺では出没報告のない魔物の毛皮があると、ちょっと怪しまれた。

魔物の生息区域を覚えているような人、いるんだ。


その生息地からここまでの道中で、比較的大きな街がいくつかある。

なんでそこで売らなかったのか? と疑問に思うのは当然だよね。

結構重いし嵩張るし。


「ボクの‘’清浄‘’の練習に使っていたの」

「はは〜ん、ボウズは女神様からスキルを授かったばっかりか。

 魔物の毛皮を綺麗にするのは、大変だったろう」


いえ、‘’浄化‘’一発でその後虫が湧くこともなく、臭いも出ずにここまで来ました。

……なんて言えるはずもないので「がんばりました」とだけ答えておいた。

実際‘’浄化‘’をする時、霊力を込める加減が掴めなくて、霊力切れを起こして倒れたことが何度かあるので、嘘ではない。

必要な、誰も傷つけないような嘘くらい、父さんみたいにサラッと言えるようになれたら大人っぽくていいのにね。


「おや、買取価格が高いな」

「良かったですね、旦那様」


珍しい父さんのぶっきらぼうな喋り方と、丁寧な母さんの話し方。

聞いていると背中がムズムズしてくる。


片や父さんは、母さんの旦那様の言葉に、内心で狂喜乱舞していることだろう。

そういう呼び方をしているの、見たことないもん。

母さんの新しい一面を見つけるたびに、日記にしたためるような人だ。

今夜もきっと、母さんの観察日記をつけるんだろうね。


「新しい『勇者』が誕生した話しは聞いたかい?

 その勇者様の装備品を作るための材料がなくってね……

 身分が身分だろう?

 お国も下手なもん着させるわけにはいかんって言ってな、補助金まで出してくれるっつうし、質のいい素材持ち込んでくれる奴らにゃ、いつもより多めに渡してんだ」

「はは、ここまで担いできた甲斐があるな」

「ねえねえ、勇者様ってなあにぃ?」

「お、ボウズは知らないか。

 凄く珍しい上、メチャクチャ強いスキルだって噂でな。

 二、三十年前に現れて以降、とんと聞かんかったんだが、今年成人されるこの国の王女様が授かってな。

 歴代の『勇者』の功績に則って、世界中の魔物を倒して回るんだってよ。

 ……ここだけの話、権力争いやらなんやらで、護衛を付けることも許されず、放り出されたって話だぜ」

「へ〜、そうなんだ〜

 おじさん、物知りだね!」


『勇者』の話を知っている人がいたら、ボクが子供らしく無邪気に質問して、時折ヨイショする相づちを打ちながら、出来る限り詳しい話を聞き出そう。

そう打ち合わせをしていたのだけれど……このオジサン、詳しすぎ。

初手からこれ以上の情報収集が要らないって位に沢山の話が聞けた。


新たな『勇者』の誕生が、教会ではなく国王の名において宣言されたこと。

それがこの国の王位継承権を持つ、正室の姫だということ。

当然、新成人のため齢は十歳であること。

それなのに、疎まれている立場であることも相まって、護衛もろくに付けられずに、魔物がばっこする街の外に放り出されていること。

国民には王女の一助となって欲しいと、お願いという名の命令と、幾ばくかのお金が配られたこと。

幼いながらも見目麗しい王女は、魔物以外の魔の手からも脅威に晒されていること。


その他にも色々、まあよく出てくるなって位に沢山の話が聞けた。

噂の域を出ない、姫が実は王子だとかいう話とかも含めてね。

病弱だったこともあり、男子だけど女児として育てられたりすることが、権力者だとあるらしいよ。

ホンマかいな。


情報の取捨選択は父さんに任せて、ボクはとにかく情報を引き出す役に徹した。

おかげて美味しいご飯が二食つくのに、なかなかにお手頃価格で泊まれる宿がどこなのかって話も聞けたよ。

子供が好きな夫婦がやっている宿だから、きっと歓迎されると言われた。


「裏庭で素振りをしても怒られないか?」なんてスッカリ剣士気分の父さんが問えば、「常識範疇内なら咎められんさ」と問屋の主人が返した。

店を出る時、またいい素材が手に入ったら、是非ここに卸してくれと声を掛けられた。

特に“洗浄“がしっかりされている毛皮は、処理が随分楽になるから防具屋に持ち込む前の手間が減って助かるそうだ。

この街に滞在する間で、もし仕事を紹介して欲しいようなら、一枚の“洗浄“につき幾らか支払うぞとも言われた。


自分でお金を稼げるのは、とても嬉しいことだけれど……

“洗浄“と“浄化“って、傍から見て違ったりするのかな。

嘘がバレたら大問題だし、ここは断るべきなのだろうか。

それとも、少しでも路銀を稼ぐべく、あとボクの社会勉強のためにもお願いをするべきだろうか。


「宿の飯が美味かったら、考えるよ」

「そん時ゃよろしくな」


グルグルと考えてしまったボクの代わりに、父さんが答えてくれる。

その言葉に、問屋の店主は笑顔で手を振って見送ってくれた。


どっちつかずの返答なのに、特に気分を害した様子はない。

そっか、はい、いいえ、以外の言葉が返事でもいいんだ。


しかも宿も紹介してくれた場所に泊まると確約していない。

長期滞在するか否か、問屋の店主には分からないのだ。


もしボクが額面通り訪ねて来たら、その時には約束通りこきを使えばいい程度の気持ちでいるのかもしれない。

客商売なのに、依頼を書面で残さないことに驚いだけれど、結構適当なんだね。



一件目の問屋を出たあと、手持ちの他の魔物素材を持って二件目、三件目と問屋をハシゴして、同じように情報収集をした。

噂話も混ざっていたし、複数から話を聞かなければ、何が真実なのかも分からない。

客層が被る問屋以外でも話を聞こうと、時間が許す限り足を延ばす。



食材を扱う市場に、紡績糸や布を扱う個人店、それどころか服を取り扱う店なんかもあった。

それぞれ母さんが目を輝かせながら見つめていたものだから、当然父さんはそれらの店、全てに向かった。


全部村にはないものだから、ボクも一緒に目を輝かせ、後ろに一緒について行く。


父さんは趣味と実益を兼ねてと言って、家の近くに畑を作っていたけれど、基本的に村は農業系のスキルを持った人が農作物を作り、紡績系のスキルを持った人が糸を紡いだり布を織ったりしていた。

そして物々交換をするのが当たり前。


こんな風に、不特定多数のために品物が並べられることは、行商に訪れた商人のおじさんが荷馬車に積んでくる少しの商品だけ。

風呂敷何枚かに並べられるそれらも、見たことが無いものばかりでワクワクした。

けれどなんと言うか、雑多な印象だったんだよね。


物珍しいし、たまにしか来ないからお祭りみたいに騒がしくはなるけれど、そしてその場の勢いで何かしら買う人はいたけれど、ボクが住んでいた村は大きな街からはだいぶ遠いし、途中でいくつも村落を経由する。

その間にめぼしい物は売れてしまうんだよね。


そしてそういう立ち寄った村で、商人さんが買い取った物も並べられるから、使い古されたもの何かも一緒に並ぶ。

何に使うのか分からないような古ぼけた商品、そのものには興味は無いけれど、誰が持っていたのか、どんな人が使っていたのか、なぜ手放したのか。

そんなことを夢想するのはちょっと、楽しかった。



それぞれの商品ごとに独立したお店を構えていると、目的がしっかりしていていいね。

目移りは……母さんの様子を見るに、結局するみたいだけれど。


食器の横に髪飾りが置かれているようなことがないから、実用品と嗜好品を交互に見て、頭が混乱する心配をしなくて済むのは大きい。

何が必要で、何が出来れば欲しくって、次から次へとあちこち見ていたら、最初に何が欲しかったのか忘れてしまうようなことがない。


どうやら買うか否か迷っている場合には、横に避けて保留することも出来るようだし。

母さんは結局、父さんの新緑のような瞳色と、ボクの稲穂(オリザ)色をした薄い茶色い瞳の色をした布と、それに合う糸を買おうとした。


そして父さんに窘められて、自分用の布も買っていた。

さすが父さん、窘める方向性が違う。

大抵の奥様は、旦那様に「余計なものは買うな」と不買の方向に持って行かれるのに。


母さんが買おうとしたのが一番安い生成色な上、自分用の糸を買おうとしなかったので、また一悶着はあったんだけどね。

不服そうにする父さんに、緑色の糸を指さし「旦那様の瞳の色を纏わせてください」と上目遣いで言ったら、イチコロだった。

すぐに問答は終わった。

父さん、チョロすぎ。


そして母さん、意外と女の使い方を分かっている。

頭がいいとは決して言えないし、剣術に能力を全振りしているような人だけど、結構あざといよね。

父さんに対して限定だから、なんの問題もないけど。

両親の仲がいいのは、とても良いことだと思いマス。



ちゃんとアチコチ興味深そうに見ていたら、店員さんが田舎から出てきた子供扱いしてくれたから、情報収集もバッチリしたよ。


布を買ったお店では、裁縫が出来ない人のために個別で注文も受けているみたい。

お洋服のお店は全部中古品だったから、新品が欲しい場合はここで制作依頼をするんだね。


そして『勇者』は、なにせお姫様だから。

新品以外に、と言うか、自分の身体に合ったもの以外は着たことがないらしく、冒険の途中で汚れるし破れることもあるから中古で十分だろうに、このお店で色々注文して行ったそうだ。


なるべく急ぎでとは言われてて、その分手間賃として上乗せで依頼料も払ってもらっているけれど、「あんな世間知らずな感じで大丈夫かね」と店主さんは心配そうだ。

個別注文だと、確かに銀貨も金貨も飛んでいくことが多いけれど、一着につき布の値段と糸の値段と、それから採寸・縫製・特急料金と合わせて金貨五枚を出そうとしたらしい。

それを上下で十枚だから……金貨五十枚!

実際は刺繍のような飾りをつけるわけでも、布の量が多いわけでもないので、全部合わせて金貨五枚だそうだけど、金銭感覚がないのは、確かに心配になるね。


ボクだって今勉強中だけどさ。

でも、魔物の素材をたんまり売って、売値にオマケをしてくれた状態で、やっと金貨がちょっとに銀貨が沢山貰えるような貨幣価値なんだよ。

毛皮ひとつとっても、魔物と戦うのは命懸けだし、素材を剥ぎ取るのは大変だし、“浄化“によるなめし工程まで済ませたかなり質がいい状態だったのにも関わらず、それなのだ。

お姫様がどれだけ法外な金額を支払おうとしたのかくらいは分かる。

店主さんも、驚いただろうね。

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