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当初の予定では、女神教ではない巡礼者向けの教会や、人の往来が多い大きめの街で暫く身を隠し、ほとぼりが冷める頃に別大陸に渡る予定だった。


女神教の一部の人間しか、父さんたちが経験した凶行を知らない。

その他の歴史ある、全ての精霊様を祀っている教会なんて、言わずもがなだ。

少々訳アリに見えても、敬虔な信徒であれば、更に言うなら献金さえシッカリとするのであれば尚のこと、数日の滞在程度は何も聞かずに許してくれる。


大きな街であればあるほど、他人との関係は希薄になる。

都会に憧れて田舎から出てきたはいいけれど、いつの間にか都会の荒波に耐え切れず、気付けば居なくなっていた、なんて話は結構多いそうだ。

物価が高いから余計にね。


なにより、木を隠すなら森の中と言うように、隠れて過ごすのであれば、人が多く集まる場所の方が、噂話として情報も、必要な物資も集まるし、なにかと便利だ。

その間に大賢者様と連絡を取り合い、向こうの都合に合わせて迎えに来てもらおうと思っていたのだ。


海を渡る方法が、この大陸にはない。

それを用意してもらうためにも、恩を少しでも返すためにも、お金を稼がなければいけないねぇ、なんて話していた。



ボクが伸び伸びと生活出来ないのは良くないから、女神教の手が届かない場所で生活をするのは、両親が揃って挙げた最低条件だ。


この大陸にいたままでは、いつまた襲ってくるか分からない。

二人が生きている間はいいけれど、なぜかボクも執着されているようだし、一人になった時に組織を相手取って対応するのは、かなり難しくなることが予想される。

戦闘系のスキルじゃないから、余計にね。



しかし神官様から告げられた先代『勇者』の訃報によって、父さんも母さんも、決心が揺らいでいるみたい。

封印していた『勇者』も、封印されていた『魔王』も、二人ともお友達だそうだし、当然のことだと思う。


ほんの数日しか離れていないのに、李王を含めた皆は、毒がぶり返して体調を崩してはいないだろうかと、とても心配だ。

それがもし死んだなんて言われたら、気が気じゃなくなる。

「嘘だ!」って全力で否定したい。

「でも、もしかしたら本当かも……?」って思ってしまう、自分に自己嫌悪して、嫌な思考の渦に飲み込まれてしまいそう。


神官様の話だけでは、本当に『勇者』が亡くなったのか、かなり疑わしいんだよね。

なにせボクたちが村から脱出した、直後のことなんだもの。

偶然にしては、出来すぎていない?


ボクは、女神教が父さんと母さんを炙り出すための罠だと思うんだよね。

お友達の死を知って、心から冷静で居られるほど、二人は薄情じゃないもの。


どちらかと言うと、特に母さんは情に厚すぎるくらい。

現に今、目に見えて狼狽えているのは母さんの方だし。



約二十年程前、教会と領主の権力争いが酷かった時代に、『魔王』のスキルを授かった子供がいた。

言葉から受ける印象によって、たびたび人を襲う魔物を統べる存在だろうと、もしかしたら古代三英雄が打ち倒した‘’魔王‘’の再来かもしれない。

そう騒ぎ立てた教会が領主と人類共通の敵を討つべく、『賢者(父さん)』・『剣聖(母さん)』・『聖女(神子様)』・『勇者』の四人を国力総出で鍛え上げた。


けれど『魔王』の幼なじみだった四人は、討伐のためではなく、本当に『魔王』は人類の敵になってしまったのかを確認するための旅へと出た。

『魔王』と対峙をした際、『聖女(神子様)』の裏切りにより『魔王』の固有能力が暴走した。

賢者(父さん)』・『剣聖(母さん)』・『勇者』がそれを止めようとして、殺すしかないのかって覚悟した時に、『勇者』が固有能力で自分諸共、『魔王』を封印したと聞いている。


聖女(神子様)』は領主と教帝が望んだ討伐には失敗しているのに、それを隠している。

討伐をしたから得た今の地位を揺るがす存在を消そうとしているのか、討伐を事実にしようと、実力のある人員を確保しようとしているのか。

理由こそ不明だけれど、別れて以降ずっと、『魔王』の封印場所や、旅の一部始終を知っている二人を追っている。


一緒の村で育って一緒に旅をした、幼なじみだもの。

聖女(神子様)』は父さんと母さんが釣れそうな餌を、よ〜く知っている。

ボクに関心を向けたのも、もしかしたら二人を誘い出す、道具にするためなのかもね。



『勇者』の訃報が告げられたなら、『魔王』は今、どうなっているのかな。

封印が解けて復活したのかな。

新たに誕生したことになっているのかな。

もしくは、『勇者』が力尽きると共に『魔王』も死んで、本当に新しく『魔王』のスキルが授けられた人が誕生したのかな。


神官様も、王都からの速達で知っただけなので、詳しいことは分からないそうだ。

手紙(シルフィード)みたいなものがあるのかな。

情報共有するべき何か重要な出来事があると、教会に一律でお知らせが届くんだって。



母さんは封印の場所に行って、自分の目で確認をしたい気持ちが、わりと大きいみたい。

亡くなったのなら、亡骸は無理だとしても、せめて髪のひと束だけでも故郷に返してあげたいと言う。


父さんはボクと同意見で、ほぼ間違いなくワナだから、行けば捕まって、また地獄のような軟禁生活に戻ることになると、声を大きくする。

今回は抜け出そうとしても、過去、取り逃がしているのだ。

一筋縄ではいかないし、逃亡する際、確実に足でまといになるボクがいる。

不確定要素が大き過ぎる中、危険度の高いことはさせられない。


そう言って、とても分かりやすくケンカをしだした。


お互い、誰かを想って考えていることなのにね。

なんで口論になっちゃうかな。


……二人とも、相手のことは気にかけるのに、自分を蔑ろにするからそうなるんだよ。

もっと単純に自分はこうしたいから付き合え! ってワガママを言ってもいいと思うんだけどな。

大人だからって、格好つける必要なんて、ないんだし。



そもそもボクは、今の状況が気に食わない。

慣れ親しんだ故郷から逃げることになったのは、家族三人で世界を巡る旅行気分でいるし、特に問題ないんだよ。

女神教に追いかけ回されるのも、鬼ごっこや隠れんぼの大規模版と思えば楽しめるし、それもまだいい。


何年も前から、女神教の勝手な言い分に反した行動を取ったからと、やりたいことを我慢し続けなければならない状況に、大事な両親を陥れているのは、理不尽が過ぎる。

神の愛と教えを弘める立場にありながら、なんと嘆かわしく度し難いことか!

何より、なんで被害者側がそんな窮屈な思いをしなければならないのか。

理解に苦しむのを通り越して、腹が立ってくる。


しかも友達の命までかかっているんだよ。

人の生死に関わるような重大なことに関して、冗談や嘘をついてはいけない。

誰も得をしない、笑いに変えることが出来ないような悪意を持った言葉を口にしてはいけない。


女神教が慈悲と愛を司る大地の精霊様の教えなんて知らねーよ! って言い返してくるのなら、ボクの腹立たしさを理解できなくても仕方ないさ。

だけど生命を司る光の精霊(ルーメン)様を崇めているのなら、そんな光の精霊(ルーメン)様を侮辱するような、命を蔑ろにする発言、するべきじゃないと思うんだよね。

経典の基本中の基本を、最高権力者が守らないでどうするのさ!


そんなんで光の精霊(ルーメン)様からの恩恵にあやかろうだなんて、虫が良すぎるよ、全く。



「父さんも母さんも、落ち着いて」


父さんが母さんの行きたい気持ちを否定する理由は分かる。

二人とも、話すと言いながらもボクに未だに過去何があったのか、その全貌を話せるだけの決心がつかない程に、本当に辛い思いをしてきただろうから。

そんな思いを、二度と母さんにさせたくないと思っているのだろう。

ボクだってそんなこと、二人にさせたくない。


ボクが足でまといになるから行けないってだけなら、ここの神官様にお願いして、ボクはここで待機をすればいいだけだ。

ここの神官様は優しいし、人が滅多に来ないというのだ。

身を潜めるにはうってつけだと思う。


そして昔よりも精霊術の扱いが上達した父さんが、隠蔽の術でも使って、二人でその封印場所に行けばいいだけの話だ。

ボクは寂しい思いをすることになるけれど、成功率は決して低くない。

母さんが弔われていない『勇者』の亡骸を見つけた時に、冷静に対処出来るなら、それで問題ない。


自分で言ったように、髪のひと房だけ回収して満足するなら、時間も手間も掛からないのだから。


封印がそのまま、今まで通り正しく機能していた場合も、下手に近付かず、誰も死んでいなかった事実だけを悦び、タチの悪い嘘への怒りを抑えて回れ右をして、大人しく帰って来るなら、罠に引っかかりようがない。

そうだった時は戻ってきたら、賄賂のお菓子がなかったとしても、女神教の卑劣さの愚痴くらい何日に渡ろうと聞く所存だ。

そして気を引き締めて、改めて三人で身を隠せばいい。


ボクですら思いつくことが、二人の頭に浮かばないのは、きっと冷静さが失われているからだろう。



それに罠かどうかを確認する手っ取り早い方法なら、封印の場所に行かなくてもあるじゃない。

本当に『勇者』のスキルを与えられるのは、この世に一人しかいないと言うのなら、 既に王都を出発したっていう、新しい『勇者』を探せばいいだけだ。

ボクも父さんも、視れば分かるんだし。


そしてその人に尋ねればいいんだよ。

先代『勇者』と『魔王』はどうなったのか。



そもそも、本当に『勇者』は一人しか存在しないのか、眉唾じゃない?

古代の英雄は三人いるし、『賢者』なんてさらにその上をいく『大賢者』様もいるくらいだし。

『勇者』が世界に一人しかいなかったとしても、今回現れた人は『大勇者』とか『勇者・改』みたいなスキルかもしれないじゃない。


そうなれば、新しい『勇者』に聞いても、父さんたちのお友達がどうなっているのか、分からないことになるのだけれど。

女神教が新『勇者』に本当のことを説明しているかなんて、分からないものね。



急がば回れとも言うし、罠だとしてもそうじゃなかったとしても、封印場所には女神教の手の者が確実にいる。

それは父さんと母さんを捕らえるためかもしれないし、一人旅立った新しい『勇者』を迎えるためかもしれない。

本当に封印が解けたなら、『魔王』をその場に留めておくため、って理由もあるかもね。


何にせよ、封印場所はここから何日も、下手をしたら何ヶ月もかかると言うのだ。

それなら、まだ近くにいる新しい『勇者』を、まずは探せばいいじゃない。

情報は多いに越したことはないのだから。



ボクの考えを説明したら、二人とも互いに謝罪をした後、感極まったように「大きくなって」と涙した。

そりゃだって、大人になりましたから!


新しい女神教曰く『勇者』様は、とても目立つ風貌をしているそうだ。

ならば探すのは容易だし、教会を通して噂話程度の情報なら、すぐに集まるだろう。


もともと大きめの街に行く予定だったのだ。

ここから近い街には立ち寄らず、その何日か先の、王都から封印場所に行く際には、かなりの高確率で立ち寄るだろう街に向かうことにした。

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