9.1
ご覧くださり、ありがとうございます。
主人公視点では書き表せない部分を蛇足として書きました。
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成人の儀が執り行われた日を含めた先一週間、大人たちは村の出入りをする者に対し、警戒を強める。
主な理由は、必ずと言っていいほどに毎年、子供が親の目を盗んで一人、もしくは子供同士で徒党を組んで外へ行き、怪我をするからだ。
「もう大人だから」と勇んで村の外に出て行ってしまうのなら、まだ危なくなったら戻って来るので良い。
中には親の期待通りのスキルではなかったからと、世を儚むような子供も、過去にはいた。
この場合は大抵生きては戻って来ず、村の周囲を警邏している『剣聖』によって、遺体が届けられる。
近年は『賢者』とその息子である透のおかげで、その被害は減った。
この村に関しては、スキルは確かに女神光の精霊様からの贈り物ではあるが、あくまでそれはひとつの指針に過ぎないのだという考えが、根付いてきている。
望んだスキルではなく泣き崩れるような親子もいるが、しばらくしたら現実を受け入れて、それぞれの道を歩んでいく。
才能はなくても努力をして親の跡を継ぐか、スキルによっては独立して村から出て、研鑽を積むか。
それは人によるが、村から出て行った子供たちが、たまの里帰りで身も心も成長して戻って来ると、村総出で喜び出迎えをする。
その晩は大抵、お祭り騒ぎとなる。
近所同士の心の距離が近いのもあるし、昔、成人の儀が王都で行われていた時代には、送り出した子供が一人も帰ってこなかった年があった。
その不幸な事故に隠された真実を知る、一部の者は殊更、成人の儀からしばらくの間はピリピリしている。
知らぬ者も、それに触発され警戒をする。
それでもどうやってかは知らないが、沢山の大人の目を掻い潜る子供が出る。
大人と子供では、目線の高さが違う。
そのせいなのか。
近年未然に防げていたから、気が緩んでいたとでも言うのか。
孫には口を酸っぱくして、散々将来村長を継ぐ者としての心得を説いてきたと思っていたのに。
なぜこのような愚行を……
そう頭を抱えるのは、現在の村長だ。
「貴陽、李王たちは見つかったか?」
「まだだ。
『賢者』にも緊急要請し、探して貰っている」
「それなら、『剣聖』にも……」
「未だにどんなことがあろうと、この家に寄り付こうとせんのだ。
ワシを許しちゃおらんのだろう。
なら、こちらが困っている時だけ頼み事をするのは、筋が通らん」
頑固ジジイめと、行方不明になっている子の親は、頭を掻きむしる。
自身とで、可愛がっている内孫がいなくなり、内心穏やかでいられないだろうに。
外孫は無事だから、なんて考えているのなら、一発ぶん殴ってやっている所だと鼻息荒くする。
しかしそうではないと、誰もが知っている。
その親は他の男性に窘められ、心を落ち着かせようと深呼吸をした。
ある一定の年齢の者しか知らないが、『剣聖』は村長の娘である。
「お母さんのような、村で一番の裁縫美人になるの」と無邪気に笑っていた幼い少女は、成人の儀を受けるために王都へと旅立った沢山の子供たちと共に、消息を絶った。
付き添いとして同行した村長の妻や、戦闘に特化したスキルを持つ、数人の大人もだ。
王都に問い合せたが、この村からの出席者はいないと一通のそっけない手紙が届いて、それで終わった。
王都への道中で、魔物の集団に襲われたのだろう。
そう結論づけられ、中身のない共同の墓が建てられた。
記憶も少しずつ薄れ始め、墓に供えられる花の数も減る頃に、風の噂で『賢者』『剣聖』『勇者』の英雄たちが、復活した『魔王』を打ち倒した話を耳にする。
魔物が最近活発化していたのは、そのせいか。
そして魔王が倒されたのなら、また女神の威光輝く平和な世界になっていくだろう。
悔やまれるのは、あと十年早ければ、妻や子が死ぬこともなかっただろうに。
ただ、あの後にスキルを授かるべく旅立った子供たちは皆、戻ってきてくれた。
それは喜ぶべきことだ。
あの年は、たまたま運が悪かったのだ。
なにも辛いのは、自分だけではない。
犠牲はあったものの、未来は明るい。
そう気持ちを切り替えた村長が、『剣聖』を十年以上振りに会う、死んだと伝えられていた我が子だと気付けなかったのは、致し方のないことだと、誰もが言う。
しかし十年以上経った今も、『剣聖』は仕方がないと受け入れ、許すことは出来ないのだろう。
滅多なことでは村に姿を現すことがない。
狭量で恨み深い奴だと卑下す者も中にはいるが、十年の空白期間に何があったのか、誰も知らないのだ。
軽薄に咎めることはできない。
駆け寄ってきた『剣聖』に「どなたでしたか?」と言った時の、あの愛娘の悲痛な顔を唯一見た村長は、仕方がないで済ませられるような軽いことではないと、一番よく知っている。
どれだけ傷付けてしまったのか。
一言詫びることすら、今日まで出来ていない。
村に戻ってきた『剣聖』は、「アタシのことは、今後一切、貴方の娘と思わないで頂きたい」そう言って家には帰らず、村の中心から大きく外れた場所にある廃屋を改装して、夫となった『賢者』と共に住み始めた。
その少し前、家から抜け出してきた『賢者』から、村を出て以降の話を少し聞くことが出来た。
しかし『賢者』でさえ王都に軟禁されてから何年間かは、『剣聖』たちと会うことは叶わなかったのだと告げた。
悪しき者と一方的に宣言された『魔王』は『勇者』と共に封じられたこと。
『聖女』は元の面影のなりを潜め、今では教会の頂点に君臨し現人神のように扱われていること。
自分たちが望んだことにより、成人の儀が各地に神子を送り込む形で執り行われるようになるが、決して『剣聖』と『賢者』がこの村にいると教会に悟られてはならないこと等、一気に語るには余りにも濃密すぎる話をされた。
二人とも、『魔王』を討ち取った後、再び王都に軟禁されそうになった所を逃げてきたのだと言う。
迷惑になるようなら出ていくと告げられたが、罪滅ぼしのためもあり、村長の権限で許可を出した。
十年前の事件を知らない者は反対するだろうとして、ごくごく一部の者にのみ、真実を打ち明け協力してもらう形となった。
二人が戻ってきた次の年には、確かに王都から使者が訪れたが、村やその周辺を三日三晩捜索して気が済んだのか、それ以降は特に誰も派遣されることはなかった。
だが、今年。
例年は成人の儀が終わった後は、すぐに次の村へと足を運んでいた『聖女』である神子が、家に顔を出した。
「『剣聖』と『賢者』はどちらにおいでですか?」と、口元だけ弧を描いた、能面のような顔をしていた。
ドッと冷や汗が背中を伝うのが分かった。
かつて娘たちと遊んでいた幼馴染とは、見た目は似ているが、全く別の存在に思えた。
「そのような英雄様が滞在するような、立派な村ではないでしょう。貴女様にとっては故郷でしょうし、輝いて見える部分もあるやもしれませぬが」
そう言って誤魔化し、あくまで『剣聖』も『賢者』は知らぬ存ぜぬを貫いた。
“亡くなった娘の昔馴染み”への姿勢を崩さずに対応を続けていたら、興味を失ったように踵を返して、村から出て行った。
上手くやれたとは思うが、もしかしたらどこかしらから、バレたのだろうか。
なんとも言えぬ、胸騒ぎがする。
翌朝、日課で『剣聖』が家から不在になる時間を見計らって、あの村外れの家を訪ねよう。
そう決めてた村長のもとに、夜明けを待たずともたらされたのは、村長の孫を含めた、幾人かの新成人の集団失踪だ。
いつ抜け出したのか、誰も知らないし、そんな予兆すらなかったと言う。
『聖女』によるものかと疑ってしまう我が身を恥ながら、捜索隊を編成し、森の中を探すように命じた。
『剣聖』には悪いが、相対することとなっても非常事態だと許してもらおう。
もしかしたら、把握出来ていないだけで、透もその失踪に巻き込まれているかもしれない。
どれだけ急いでも、『賢者』が施した隠蔽術は、手順を踏まなければ中へ立ち入ることはできない。
王都からの使者が『賢者』の住処を見付けられなかった程の術だ。
なかなかにその解除は難しい。
血縁関係にあるため、特殊な道具を持たずとも良い分、自分はまだマシなのだと言い聞かせながら、逸る心を落ち着かせ、封印の中へと足を踏み入れた。
そして『賢者』に事情を説明して、今。
「――子供たちの居場所が、分かりました。
ただ、生命力が非常に微弱になっています。
場所からして、湖で溺れたか、魔物にやられたか……いずれにせよ、早く向かわないと、手遅れになります」
「ならば男衆はワシらと共に子供たちの保護へ、女たちは湯を沸かし手ぬぐいや包帯の準備を!」
「あと、可能な限り薬草を集めておいてください。
反応的に、毒に倒れた可能性がある」
それが誰の子かは分からない。
だが誰の子供だとしても、子供は等しく村の宝。
そこに懸隔はない。
「急ぎましょう」
『賢者』らしく杖を握り先導する娘婿の頼もしさに、村の人々は祈るのを辞めて、自分たちに出来ることを探し、動き出した。




