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黒い羊の真っ白な兄
「ヘンリエッタ」
左の三階の廊下の窓にハタキをかけている最中に、そう呼び掛けられた。あたしはリッタで、ヘンリエッタではない。別の誰かを呼んだか、独り言だろうと、手を止めずに掃除を続ける。
「ご婦人、リッタ、どの」
さすがにそこまで言われて無視は出来ない。
「なにか?」
掃除の手は止めぬまま、ちらりと一瞥をくれる。
「忙しいところすまない。少し、懺悔を聞いてはくれないだろうか」
「なんであたしが」
「妹の、ことで」
遠慮なくハタキをかけているが、埃は気にならないのだろうか。毎日掃除しているから、そんなにないけれど。
「ヘンリエッタと言う名前で、あなたと名前が、似ているから」
「聞いてもすぐ忘れますよ」
「それで良い。誰かに、話したかっただけなんだ」
そうして主人は柱に寄り掛かると、語り出した。
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