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まだ、ふり返り編。
試行錯誤しながらも、自転車は一応完成した。
一応、だ。
とても自転車とは呼びたくない、バランスの悪い自転車が出来上がった。
ハンドルは右上がり、ペダルは左右非対称、サドルも座り心地悪そうな前屈み。乗ってみたら3mも進めない。
私は前世の知識があるとは言え、素人だ。もしかしたら足りないパーツがあったり、バランスを取る何かがあったりするのかもしれない。でもそれがあるのか、ないのか。またあったとしても、わからないのだ。
私は文字通り、頭を抱えた。
すると、なんてことないようにデビが言った。
「あとは『選ばれし技術』を使えば完成だね」
え?と思ったのは私だけで、他の3人は肯定顔。戸惑っている私をよそに、次の日には完璧な自転車が目の前にあった。バランスの良いハンドルにペダル。座り心地良さそうなサドル。動きも良くスイスイ進む。
『選ばれし技術』の技術力がヤバい。むしろ技術力と呼んで良いのかさえわからない。エグ過ぎんか? そりゃ依存するわ。
……使わずに作りたかったなぁ…。
そんな私のひとり言に、何を?と聞かれたので『選ばれし技術』を使わずに完成させたかったことを伝えると、その場にいる全員がキョトン顔になった。
ロージーには「ありえない」と言われ、
ヴィクトリアには「そんなことできますの?」と聞かれ、
ジェームスには「…もしできたら今までにない大発見だよ」とあきれられた。
そんなに?と聞くと、一様に「あたりまえだろ」と一蹴される。
そんなのわからないじゃないと否定するが、みんなは取り合わない。
そんな3人の顔にむくれていたら、私を見つめるデビには気付けなかった。
⭐︎
次の日、公爵家の出来事を聞いた母に、こんこんと『選ばれし技術』がなぜ必要なのか、という話をされた。しかし、聞けば聞くほど依存してるだけのようにしか感じない。
大事なのはわかる。例えて言うなら『水を使わずに料理しろ』と言われているようなものだろう。確かに作るものによっては難しいかもしれないし大変だ。
でも代用できないわけではないのではないか?水分量の多い野菜はあるし。無水で作ったカレーは美味しいんだぞ?
ネットを繋がずにパソコンでチャットしろ。とか言われたら、そりゃ無理だ…と思うけど。でも無水で料理しろ、だったらできそうではないか。私はまだまだ足掻きたい。
そもそも初手で作るには、自転車は荷が重かったのかもしれない。簡単そうで簡単じゃなかった。次はもっと身近な。もっと手軽に作れるものを作ってみよう。
自室で自分の書いたノートをペラペラめくりながら、そんなことをひとりで考えていると、侍女が手紙を持ってきた。
差出人はデビ。昨日会っていたのにどうしたんだろう。と思っていたら、ホワイティ家の別荘に来たいという内容だった。断る理由はないので承諾の返事をして、お客様が来ることを侍女に伝える。
次の日、デビは公爵家の馬車でやってきた。私と兄だけではなく、父と母もいる。デビ相手に仰々しすぎない?
デビが降りてきて父と母に声をかける。父は頷き、お茶が用意してある庭へ案内するよう私に言った。
季節の花が風にそよがれ、お茶を邪魔しない程度に香る。庭師の腕が素晴らしいな。そんな庭を褒めて、お茶で喉を潤した後、デビがこちらの様子を伺う感じで口を開いた。
「…昨日の、あの言葉の意味を…知りたくて…」
一口入れたお茶を喉に流して、昨日の言葉?と聞き返す。
「…『選ばれし技術』を使わずに作りたかった…って」
そう言いながら、デビに上目遣いをされる。
その顔に、ついトキめいてしまった。可愛いが過ぎる。
見目麗しい少年に上目遣いなんてされたらトキめいてしまうのは致し方ないよね?
軽い咳払いで、赤くなりそうな顔をごまかし、そうよ、と肯定する。実際前世には技術のみで動いていた自転車があったのだ。
すると、驚きと、興奮を隠しきれない顔で「どうやって?」と聞かれたので、私が知りうる限りの知識で前世の記憶の説明をした。
「…そうか。では蔦ではなくもっと丈夫なもので繋げて、全体的なバランスを取れば…」
ひとりごとのように呟くデビ。それに私は頷く。私が作りたかったものは、そういうものだ、と。
だが、今回は『選ばれし技術』に取られてしまった。とても悔しい。
デビは時が止まったように私を見つめる。翠眼が光を受けてキラキラしていた。
しばしの沈黙後。
「…もしかして、もっとアイディアがあったりする?」
ある、いっぱいある。貰った紙が全然足らなくて、追加を何度も頼んだら、頼みすぎて侍女が泣いたくらいある。
話せば話す程、デビが博識なのがわかった。私が行き詰まっていた再現物の、材料や作り方の提案をしてくれるくらいだ。
「この国では無理かもしれないが、隣国にあるものを使えばできるかもしれない」
外国にも明るい。素直に感心した。
お茶をポット3杯分飲み干したところで、メイドがお迎えが来た知らせを受ける。
「もうそんな時間か…。スカーレットすごく楽しかった。また来ても良い?」
憂いを帯びたような、残念そうな顔をするデビ。
んん!見目麗しいな、このやろー。内心そんなことを思いながら、もちろん、と返し、馬車まで送る。
馬車の前でこちらをふり返ったデビに「…えっと、スカーレットって家族からなんて呼ばれてるの?」と少し恥ずかしそうに聞かれた。
なぜそんな質問を?と頭にハテナが浮かびながらもカーリーと呼ばれていることを告げる。
すると、「…じゃあ、俺はロッティって呼んで良い?」と、伺いながらも、とろけるような笑顔で言われた。
瞬間的に顔が赤くなるのが分かる。しかもロッティって。そんな可愛いあだ名つける…?
戸惑いつつ了承すると「…ありがとう、ロッティ。また来るね」と、手にキスをされた。
その日の夜、私は熱を出した。私の部屋に訪れた母親は生暖かい笑顔。父親は複雑そうな顔。兄に至っては「あ〜…まぁ時間の問題だったんじゃない?」と熱の出た頭では処理できない言葉を残して行った。
「お嬢さまの頭から湯気が出るのかと思いました。それはもう、音をつけるならボフンっ!って感じで」
と、あの日うしろに控えていた侍女に言われたのは、熱も下がった3日後だった。
ここまで読んでいただき、ほんっと〜にありがとうございます(♡ᴗ͈ˬᴗ͈)⁾⁾⁾
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