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まだまだまだ、過去振り返り編。
この旅行で、私含めた子ども達はすっかり仲良くなった。
「今日は中庭に行きましょう!」
と、私はすぐに遊びに誘い。
「いいよ。おやつはスカーレットの好きなクッキーをお願いしようか」
と、デビは喜ぶ提案をいつもしてくれて。
「…あまり妹を甘やかしすぎないでくれ」
と、ジェームスはそれを諌めて。
そんなジェームスにヴィクトリアはクスクス笑いながら
「もう無理だと思いますよ」
と言い。
「この前見たがってた花も咲いたみたいだよ!」
と、ロージーは色々教えてくれた。
5人での時間はとても楽かった。
そんな中、ガゼボでお茶を飲んでいる時、私がぽろっと言った前世の記憶に興味を持たれた。
庭が広いから自転車があれば移動するときに楽だろうなぁ、と思っていたら口から出ていたみたいだ。
なにそれ?と聞かれたので、どういうものか説明をした。すると、あれよあれよという間に作ることになってしまった。
急に決まった前世の再現に戸惑いはあったが、腕ならしとしては良いかも、と思い直す。自転車の構造は、ペダルを交互に踏んで車輪を動かす? うん、今この世界にあるものでも十分作れそう。
そんな風に思って。
翌日から子ども達による自転車開発が始まった。と言っても、もちろん護衛騎士を始めとした大人たちに手伝ってもらいながらだが。
まずは材料集め。
車輪は馬車に使われているのですでにある。ペダルは木などでいけそう。ハンドルは車輪と連携さえさせてしまえば大丈夫。チェーンリングも小さな車輪を噛ませられるようにすればOKだろう。
問題はチェーン。鎖はある。が、城門に使われるとても大きなものとネックレスに使われる細いものしかなく、自転車に適した大きさのものがない。注文すればできるだろうが、子どもの思いつきにわざわざ特注にするのも気が引ける。
なにかで代用できないかと頭を捻る。丈夫で、細くて、長い、紐状のもの。加工もしやすければ、なお良い。
みんなでウンウン唸っていると、公爵様が来て声をかけてくれた。
自転車を作ろうとしていること、材料が思いつかず行き詰まっていることを伝える。
「なるほど、面白いことをしているね。それならヅダの蔦はどうかな?」
ヅダ。樹木。柔軟性もあり丈夫。べルーファスの市井ではよく使われていて、その蔦を使ってはどうか、という提案だった。
そんな樹木聞いたことがなかった。と私が言うと、ヅダ自体の数が少なく、採る時期も制限している為、この街で消費してしまうという。海水の中で育つ樹だから他では育たない、と。
港町はここ以外にもあるのに?と思ったら、自然と生えるのを持っているだけだったらしい。人の手で育てるということ自体がされてなかった。勿体無さ過ぎる。
そんなに使えるなら、研究して増やせばいいのでは? うまくいけば、加工したものを輸出することもできる。樹木自体を売ることもできる。研究の成功実績で取引をすることもできる。いくらでもやりようはあるのに。
私の話を聞くと公爵様は、目を見開き、なるほど…と言った後は思案するような顔になってしまった。
そんな公爵様は放っておくことにして。ヅダの蔦はいつでも手も入るの?とヴィクトリアとロージーに聞くと、売り物として普通にあるという。
「…じゃあ、街に買いに行っちゃう?」
私がそういうと、一瞬の間の後、みんな笑顔で頷いた。
⭐︎
数日後。 数人の護衛騎士と共に私達は街に出た。
べルーファス姉弟は、実はよく来ているらしい。嬉しそうに、街を案内してあげる、と言われたので、ありがたくお願いした。
旅行者も多く、それに伴い出店やイベントもあったりする。見て気になったものを購入していく。お土産にしたり、その場で食べたりした。
ヅダの加工品は確かにいろんなお店で売っていた。それぞれ特徴の違うものを置いてあって、日常的に根付いているのが見て取れる。人型や花型に削られているもの。スプーンやフォークやお皿になっているもの。ブレスレットのようなアクセサリーになっているものもあった。
でも今欲しいのは未加工の蔦だ。失敗することも考えれば、できるだけ長いものが欲しい。なかなか見つからないので、加工品を扱っていたお店の人に聞いてみる。すると、未加工品は街の端にある工房にあるのでは、との助言をいただいた。早速行こうとすると、裏から出て来た女将さんに「あそこには気難しい人がいるから気をつけてね」と手を振られる。
そろそろ街外れ、というところで「ばかやろー!」と怒鳴る声がした。急な大声に肩がビクッとなる。どうやら声は目的地の工房からみたいだ。
背が高く、丸い屋根の木材の家。特徴的な大きめの窓と大きな両扉は開け放たれていた。その中から作業する音と怒鳴る声が聞こえている。
「そんなやり方したらダメだって言ったじゃねぇか!」
「すんませんっ!」
「横着するんじゃねぇ!テメェが作った後のこと考えやがれっ!」
「はぃい!」
ヴィクトリアが私達にだけ聞こえる声で
「…本当にここですの?」
と不安げな声で言った。
「でも、工房はここ以外にないみたいだよ?」
とジェームス。
護衛騎士に「先に様子を見てまいりますか?」と聞かれた。
が、それは失礼に当たると思った私は「大丈夫、このまま行こう」と歩き出した。
扉から覗くと、10人程が作業をしていた。鉄を打っている人。藁のようなものを叩いている人。何かを削っている人もいれば、トンカチで木材を加工している人もいる。中2階になっていて、上には材料等があるようだ。もう絵に描いたような『ザ・作業場』という感じ。
そのまま覗いていると「なんだい?あんたらは?」と、先程怒鳴っていた人が声をかけてきた。
なるほど、この人が『気難しい人』か。そんなことを考えながら簡単に自己紹介と挨拶をする。
見るからに貴族の坊ちゃんお嬢ちゃんな私達。片や職人気質な親方(と勝手に呼ぶ)。
親方は「貴族様が喜ぶようなものは、ここにはねぇよ」と、話も聞かずに終わらせようとしたので、昔取った杵柄。『職人はその技を褒めよ』を発動させた。
まずは鉄。焼き入れ、打ち、冷やす。をくり返しているのが見える。前世では鉄を強くするのに使われたポピュラーなやり方だが、実はこの世界では珍しい。私がやろうとしていたことのひとつが再現されていた。
次に藁。藁細工のために藁打ちがされていた。藁を打つことで柔らかくなり、細工がしやすくなる。隙間のできないしっかりしたものを作るには大事な工程だ。
それに親方は、怒鳴っている時『作った後のことを考えろ』と言っていた。あれは、この後関わる作り手のことや、お店で手に取った人が使うところまで想像しての言葉だろう。尊敬すべき職人だ。
前世のことは伏せつつ、子どもらしい表現でそう伝えると、数秒黙って「ガッハハハハハハハ!おんもしれぇ嬢ちゃんだ!」と、親方は大笑いした。
笑うと目尻にシワができて可愛い。私の杵柄は見事に成功したみたいだ。
工房に来た目的を伝えると「何だ、そんなことか。いくらでも持っていけ」、そう言いながら持てないくらい渡されそうになったので、必要な分以外は丁重にお断りした。
ヅダの蔦も手に入れて「嬢ちゃんならいつでも歓迎だ。何かあればまた来てくれ」との約束までもらったので、大満足の笑顔で振り替えると、みんなあっけに取られて、こちらを見ていた。
しまった。やりすぎた?
帰りの馬車の中で、どうして鉄や藁の加工の仕方を知っているのか聞かれた。前世での記憶だと言える訳もなく、本で読んだと言い張った。
「そういえば、ついこの間までやたら本を読んでいたね」
というジェームスの援護射撃(本人にそのつもりはないと思うが)もあって、何となく納得された。
とにかく材料は揃った。これで自転車作りができる。
ここまで読んでいただき、ほんっと〜にありがとうございます(♡ᴗ͈ˬᴗ͈)⁾⁾⁾
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