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転生した侯爵令嬢の奮闘〜前世の記憶を生かして研究開発したら溺愛されました〜  作者: みずのあんこ


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26/32

26〜ディビットside〜

UPが遅くなりました

ディビットサイドでございます

 ボランチーノ王国初代の王、アレクセイ・ボランチーノ。彼は国と共にある技術を発展させた。

後に王妃に迎えられた女性ソフラ。彼女のみが使えたその力は”ソフラの奇跡”と呼ばれ、アレクセイは生涯をかけてその不思議な力の研究をする。研究は早くに故人となったソフラ王妃の死後、さらには息子に王位継承をした後も続けられ、晩年に大成し、物への付属を可能にした。その技術は年々発展していく。


 ボランチーノ王国は”ソフラの奇跡”と共にあると言っていい。それはアレクセイ王の最後の言葉「ソフラ無くして王国なし」にも現れている。ソフラ王妃はなぜその技術を使えたのか、どこからきた技術なのか。それらは不明なまま、名前だけが王族の証として引き継がれてきた。


 建国から200年。”ソフラの奇跡”と同様のものを付与できるものは数人現れたが、いずれも夭逝であった。だが残した影響は大きく、今やその奇跡なくして国はままならない。国防の要から平民の生活まで、”ソフラの奇跡”を付与されていないものはほぼない。


 そんな王国に、第二王子が生まれた。その王子は正当なる王位継承権を持っているはずだが、生まれてすぐに王である父によって剥奪された。ひとり異質な髪色に母親の不貞が疑われたからだ。父親は輝く黄金を思わせる金髪。母親は暖かな赤みを帯びた金髪。王太子の第一王子も金髪で、第一王女も金髪。 第二王子だけが赤茶髪。 生まれた瞬間に動揺したのは配下も一緒で、王が疑うのも無理はなかった。


 だが、王の寵愛を一身に受けている王妃は間違いなく国の最高要人。 常に護衛もいれば侍女もいる。”影”も護衛兼見張りとしてついているのだから、王妃がひとりで行動するような時間は皆無に等しい。誰にもバレずに男と通じるなんて無理なのだ。宰相を務める王妃の実兄も説得した。王と宰相は同窓の仲。昔からの友人の意見はもっともで、王はそれ以降王妃を責めることはなかった。何より、王妃のことを愛していたのだ。だが、その目が第二王子(異質な子)に向くことはなかった。


 すでに優秀な王太子は健在。女王制度もしっかりある王国ゆえ、王太子に何かあった際には妹が代わりを務める。妹も負けず劣らず努力家だ。王も含めた誰もが国の未来に期待を寄せていた。

そんな中、生まれた第二王子。なんの期待もされず、言うなれば予備の予備。元より期待が薄い存在は生まれた瞬間に、王の興味を削がれた。それが、私ディビット・ソフラ・ボランチーノだった。



 "王からの興味が薄い王子"。そのせいか一部使用人からは、王族らしからぬ扱いをされることも多かった。

 ろくに世話もされないことが多く、廊下では聞こえるように悪口、陰口。家庭教師はわかりやすく手を抜いた。

 だから、自分の世話は自分でするしかなかったし、知識も本を読んで得た。


 それでも生きることはできた。

 食事提供は最低限だったが、母親は時々会いに来てくれていたから。



 そんな生活を続けていた時、読んでいた本の中に、他国のことが出てきた。『この国以外にも人が住んでいる場所がある』。それは当時の私にとっては想像をしたこともない事実だった。

 この国が全て。父である王のいるこの国が世界。そう思い、将来に何の意味も見出せていなかった私にとって、他国(別文化)という当たり前な事実は希望の光をもたらした。

 それ以降、近辺諸国を毎日のように調べた。文化や歴史、地理や宗教、童話などの物語まで。母にまとめた物を見られた時には、褒められたほどだ。”ソフラの奇跡”の呼び方が国によって違うのも、この時に知った。


 そんな日々が変わったのは7才になった夏。侍女のひとりが部屋に来て憂さ晴らしに私を罵倒し始めた。

 1年程前に仕事についた侍女は、一部使用人からの私への扱いを見て、自身の方が立場が上だとでも思ったようだ。

 そんな侍女は定期的に来て言いたいことを言って去っていくことをくり返した。私への罵倒が主だが、時折、仕事への不満などを出す時もある。最初は意味がわからず、助言に近い事を言ったりもしたが『あなたに何がわかる!?』と余計ヒートアップしたので、それ以来言うことはやめた。

 この時も、いずれいなくなるだろうと放っておいた。が、その日はいつもと違っていた。

 私の机の新たに調べ始めた隣国のひとつの資料を見つけると『あなたにはこんなもの必要ない!』と取り上げてビリビリに破いた。

 いつもより確実に興奮している侍女に、意味がわからず呆気にとられる。どうやら恋人に振られたらしいが、そんなことこちらには関係のない話だ。

 周りが見えていない侍女は自身の声が大きくなっていることにも気付いていなかった。きっと、彼女にとって扉の外に母がいたのは想定外だったのだろう。


 その出来事から使用人や家庭教師の行いがあらわになり、沙汰が出された。まぁ当たり前だ、城使えとは思えぬレベルの低さだったのだから。

 ただ父の名前で出されたのだけは意外だった。母からは、気付かなかったことの謝罪と共に、当然のことだと説明された。

 彼らが仕えているのは第二王子()ではなく、王なのだ。どんな仕事であれ、王からの命令は絶対。

 それが第二王子(興味の薄い子)の世話だとしても。やらなければ不敬だ、と。


 なんとなく納得できないものもありながら、居心地が良くなったことにだけは感謝した。


 しばらくして、母方の祖母のところへ行くことになった。母も思うところがあったらしい。見送りに来た時、ゆっくりしておいでと言われた。

 着いた先は絵に描いたような田舎町。「ツゥばあちゃんと呼んでちょうだい」と言ったツゥイート・デール・サットンと名乗ったその人は、笑顔で迎えてくれた。

 祖母は、公爵家を息子夫婦に任せて、領地の片隅で隠居生活をしていた。

「あなたのお母さんも昔は赤茶色だったのよ。髪色が年齢によって変化するのは珍しくないのに」そう言って頭を撫でてくれた手は、ただただ温かかった。



 祖母と過ごした時間は穏やかで、いろんな経験をさせてもらった。

 祖母と行ったハイキング。丘の上から景色を見た時、風が気持ちよく、体いっぱいに空気を吸い込んだ。その時、始めてしっかりと深呼吸できた気がして、なぜか少し泣きたくなった。

 思えば、初めて子どもらしく、気を張ることがなく過ごせる時間だったんだと思う。


 私への家庭教師の行いを聞いた祖母には、今まで知識はどうやって得ていたのかと質問された。独学のみだと答えると、次の日から祖母自ら授業をしてくれるようにもなった。貴族として知らねばならぬことを知らない私に、優しいながらも厳しく、私の偏った知識を補ってくれた。

 祖母の執事スタンリー・セバスチャンには、剣術を習った。白髪や顔つきから歳を重ねてるのが見て取れるのに、その動きは現役そのもの。本当の年齢はいくつだ?と聞いたら、笑って「そのような言葉を賜るとは。自分もまだ捨てたものではないですな」と流された。



 祖母とはいろんな話をした。祖母は隣国出身で王弟の末娘。王族ではあったが王位継承権は末端で、自由気ままに育てられた。そんな祖母も年頃になって多くの婚約申し込みをされたが、本人(祖母)にその気はなく、曾祖父も好きにさせてくれていた。

 そんな祖母と祖父の出会いは学園。ボランチーノ王族の従者として一緒に留学していたのが祖父で、最初は犬猿の仲だったらしい。始まりは授業での意見の相違。それからは会えば言い争っていた。「あの頃は負けん気が強くてねぇ」と懐かしそうに微笑む祖母。


 それがどうして結婚へ?と質問をすると「あの人が国へ帰る時、もう君との()()()()()はこれまでだって言ったの。私それを聞いた瞬間、自分でもびっくりしたわ。あの人にとって、私との時間が楽しいものだったことよりも、自分が悲しんでいたことがよ。その場で泣いてしまってね。それで『あぁ、私この人が好きなんだ』と自覚したの。だからオロオロしているあの人に、その場でプロポーズしたわ」

 ふふふ、と笑う祖母は、幼い私から見てもとても愛らしかった。

 祖父が他界して数年。彼女の中には未だに祖父ひとりだけがいる。それが宝物のようにキラキラして見えて、自分もいつかそう思える人と出会いたいと思った。


 その祖母が祖国の隣国へ行くというので一緒についていくことになった。隠居したなら顔を見せに来いと兄弟から手紙が来たらしい。のらりくらりと流してきたが、孫も見せることができるし、良い機会かもしれないわ、と。


 『この国以外へ行ける!』幼い私の心は躍った。


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