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転生した侯爵令嬢の奮闘〜前世の記憶を生かして研究開発したら溺愛されました〜  作者: みずのあんこ


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時間は夏休み前に戻ります。


 デビに傷害罪(壁ドン)をされた夜。 私は一生分くらい泣いた。 そのせいか、次の日は頭が痛くて起き上がれなかった。

 まさか水分不足?と思ったら、熱もあった。 精神的な抵抗力に弱すぎないか? 私。


 熱が下がったのは、さらに翌日。 その日は、念の為ベッドの上で過ごすようダリアに言われたので、大人しく言うことを聞いておいた。 でも話すことはできるので、父と兄に時間を作って欲しいことを伝える。



 そして次の日、執務室で父と兄の向かい側に座り、話を切り出した。


 まずは、事業の話。

前にデビにそれとなく伝えたが、相手にしてもらえなかった蒸留酒の話をする。


「もし、飲めるようなお酒にならなくても消毒用にすれば良いと思います。 最近、生産を上げたいと話していましたよね?」


 蒸留酒は、デンプンを糖化してお酒にする。穀物はデンプンの塊なのでお酒ができないことはないと思うが、飲めるかどうかは別の話。 この世界では初めて作るし。 少し慎重に、第二案を出しておく。 デンプン濃度を図る機械は、この時のために作っておいたので、それで穀物を測るよう伝えた。


 そして、出来ればデビの領地に負担がないようにして欲しいことをお願いする。 もし無理なら、私の小遣いから出すから、と。

 それには、流石にふたりとも驚いた顔をした。

今までは、別の領地と事業をする時は、少なくても3割は出してもらっていたのだ。 その事業が成功すれば、相手の領地も潤うから。


 でも、これは意地だ。

(デビ)は『領地が豊かなら』と言ったのだ。 本来はあり得ないが、一度も身を切る思いをしないまま豊かになっていただく。 これは良い悪いではない。

 本当に、ただの、私の意地だ。


 そして、そのお酒ができた暁には…婚約を解消して欲しい、と父にお願いをした。


 「…それで良いのか?」と父に聞かれて、私が頷くと、「…わかった」と返された。 その様子を見て、何か言いたそうにしていた兄も、口を噤んだ。


 その後は忙しかった。 事業を始めるには本当にすることが山積みだ。 婚約者(デビ)の領地でやることは父と兄に任せるが、それ以外の手配は大体私がやっていた。

 工場を作る職人の手配、工場の材料の手配、着工期間の予定、職人の宿舎やその手配、等等。

 さらに、蒸留酒を作る機械を一から作らなければいけない。


 蒸留酒の作り方は様々だが、穀物だったら、発酵させた液体を沸騰させて、その水蒸気を冷まし、もう一度液体にするのが主流…というか私はそれしか知らない。

 シンプルなやり方と言えばそうなのだが、この世界にはポット・スチルなんぞないので、作らねばならない。

 材料はもちろん、丈夫で熱にも強い鉄材。沸騰させるのも、どのように熱を通すか考えて。冷ますのは前世と同じように螺旋状の形にしよう。なんとなくデザイン案はできた。さて、それを形にできる職人は…?

 頭に浮かんだのは、港町にいる"気難しい人"だった。






「おじさん!」

「おぉ!嬢ちゃん!」


 思ったが早いか、次の日にはデザイン案を持って港町へ向かった。 道を整備したから、以前よりオケツの痛みもなく、時間も半分以下で着くようになったベルーファス領。

 その道の整備も、この"気難しい人"もとい腕の良い職人とその仲間達にやってもらった。 今ではすっかり顔馴染みだ。 最初にあった時より、人も増えて工房も大きくなった。


「今日はどんな無理難題を持ってきたんだ?」

「察しがいいですね、さすがですわ」

「最近は嬢ちゃんの顔を見れば、遊びに来たのか仕事を持ってきたのか分かるようになっちまった」


 そう言ってガハハハと笑う。 相変わらず笑い方も豪快だ。

 早速、蒸留酒の説明をしてデザイン案を見せる。


「できれば、この大きな容器の外側は熱を通しにくいものにして、その中には熱を発生させるものを設置。その上のものは熱を通しやすいものが良いのですが……できますか?」




 『ホワイティ家と事業をしたら、その領地が潤う』という噂はこのベルーファス領から始まった。 なぜなら他領地との最初の取引相手がここだったからである。

 道の整備がそれだ。 まだ小さかった私のオケツを傷つけたのは忘れない。


 さらに公爵様は私の言ったヅダ事業も成功させていたし、私達が作った自転車は大量生産(と言っても100台くらい)して、別荘の庭だけでなく、街中を走るレンタル自転車がひとつの事業になっている。 港町だし、景色最高だし、道路も整備されてたら観光客も集まるのは当たり前。 すっかり潤った領地を見て「嫁にこないか?」と前世で聞いたような言葉を公爵様に言われたけど、ロージーは嫌がると思うと答えたら、なんとも言えない顔をされた。





容器(入れもん)はウチでなんとかなるだろう。 ただこの熱を発生させるものは…外側からじゃダメなんだろ?」

「出来れば…。 外からやると、容器も熱が通りやすいものにしなくてはいけないでしょう? そうすると作業する人が怪我をするかもしれないじゃないですか」


 熱を発生させるものを外側から、となると火を焚べたように作業場は暑くなってしまうし、なんだか熱が逃げてて効率が悪い気がしてしまう。 まぁ、気だけかもしれないが。 でも鍋で煮物を作るのとは訳が違うのだ。 長く使うためには、安全に、効率よく、しっかり作りたい。


「でも、他に案があるなら教えてください。あくまでこれは素人が描いたものですから」


 というか、前世で見たポット・スチルってこんなだったよな〜…という拙い記憶で描いたものだ。 この世界で同じ物が作れるかはわからない。 もっと違う形の方がこの世界にあっているならそちらの方が良いのだ。



「自分を素人扱いするか、嬢ちゃんは」


 ふはっと笑いながら言われた。 別に間違ってないでしょ? プロではないもん。


「…まぁ言いたいことはわかった。なら余計に……容器の内側から熱を発生させる装置か…」


 うんうん唸っている職人(おじさん)と共に私も頭を捻る。 なんかないのかなぁ…便利な道具…。


「…なら、学園のベラル教授に聞いてみたらいかがです?」


 隣で、私達の会話を聞いていたらしい弟子の人が、手を動かしながら言った。


「…ベラル教授…」


 確認するように私が名前を口にする。 おじさんは「よそ見しながらやってんじゃねぇ!怪我したらどうする!」と怒ってる。

 そのおじさんに謝りながら作業の手を止めて、「そぉっす。確か、お嬢さんは今通ってますよね? ベラル教授は「選ばれし技術」の宝石(いし)の専門っすから。なにか知恵を貸してくれるかもしれないっすよ?」と、私に笑顔で教えてくれた。


 ベラル教授…ねぇ…。


 私の横では「なんでそんなこと知ってんだ?」「うちの従兄弟も去年まで通ってたっす」と言う会話が続けられている。

 聞いた名前に、やはりそこに辿り着くのかぁ…と少し諦めの境地になった。 が、とりあえずその日は、自家製ポット・スチル容器の発注をして、久しぶりに会えた工房の人達と夕食を楽しんだのだった。







「お断りします」


 あぁ、やっぱり…。


 夏休み約1週間前。 手紙で事前に会う約束をお願いしたら『夕方なら』という実にシンプルな返事をいただき面会に至った。

 所狭しと物が置かれた部屋には、まるでそこだけ空間が違うかのような錯覚を起こす豪華な応接セット。その綺麗なソファーに座っているのは、違和感しかないボロボロの女性。 メガネの奥には澄んだブロンズアイ、その目の下には前世のコンシーラーでも消せるのか不安になるクマ。 動きやすさしか考えられてない服装は、上下色も合ってなければ系統もバラバラ。 例えるなら、下が穴の空いたジャージで上が汚れた大きめワイシャツという感じ。夕焼け色の癖っ毛もひとつにまとめられただけだ。


 ただ、手には指輪が、首にはネックレスが、それぞれつけられるだけついている。 研究対象の宝石(いし)だ。

 宝石(いし)は「選ばれし技術」の付与された他の素材より長持ちする分、保存期間が長い。 それゆえ、使用方法がわかる人間がいなくなって宝石(いし)だけ残っている場合が往々にしてあるのだ。 ベラル教授は、そんな宝石(いし)の使用目的を明らかにするのも仕事のひとつで、一番身につけやすいアクセサリーにして持っている。

 どのような時にどのような反応をするのがわかっていないものも多いため、身につけて日常的に研究をしているということだ。 夜も数時間おきに記録をとっているというんだから本当に頭が下がる。 あのクマにも納得だ。


 そんな研究者の鏡のような人が、子爵令嬢だと知った時は驚いた。 パーティに参加する時には完璧な令嬢に変身するらしい。 いつだかパーティーの情報を耳にした学生に、なぜいつも綺麗な格好をしないのか、と質問をされて『パーティーは親の見栄のために参加している。あの応接セットと一緒だ』と煌びやかすぎるテーブルとソファーに忌々しげに目線を移していた。 その言葉と雰囲気に色々な事情が垣間見えて、質問をした学生含め、その場にいた人間は一様に口をつぐんだ。 貴族は色々あって大変だ。



 そんな彼女と私との出会いは、実は入学前。兄の研究の担当が当時赴任したてのベラル教授だった。 学園では通常学生が研究をやることはないが、兄は「スペシャル」に所属していたのだ。 本当にあるのか、存在さえ都市伝説になっている「スペシャル」クラスに兄がなったことを知って私は興奮を覚えた。

 蓋を開けてみれば、王族所属の研究チームのひとつだという。 学園の中に作った理由は、素質がありそうな人物を早めに見つけるため。 秘匿している理由は『保護』。 王宮と違い、学園には護衛が少なく、学生のうちは狙われやすい。 さらに、平民や他国からの留学生もいて、研究も公にはできない。

 近年平和ではあるが、今後どうなるかはわからない。 各国、自国第一主義なのは当たり前だし、情報は武器なのだ。 ましてや『選ばれし技術』は本当の武器になり得る。 その武器が筒抜けでは、いざという時、国の存続にすら関わる。 だから、学園内にありながらも秘匿され、学生にすら公開されていないのだ。

 その「スペシャル」の、ふたりだけいる担当教授のひとりが彼女だった。





「…大体、それに協力して私になんの得が?」


 飛んでいた意識を彼女の言葉で戻す。

 …やっぱり、そう返ってくるか。 彼女ならそういうと思っていた。

 当時も、兄が『研究のため』と言ってもなかなか首を縦にふらなかった。 +aで何かしら自分が得をしないと動かないのだ。

 対価はその時々で違って『肩を揉め』と言うような簡単なものもあれば『隣国の山にある1年に一度咲くらしい花の蜜』のような無理難題まであった。 本人曰く、相手が必要と思ったものに比例した対価、らしいが、その判断基準は不明である。



「…なにが必要ですか?」


 私がそういうと、彼女はニヤっと笑って「1ヶ月後に城で定期報告会があるんだ。だから助手を頼む」と言った。

 私はため息ひとつこぼして「わかりました。では定期会までのお手伝いをさせていただきます」と頭の中でやることの整理を始める。

 すると彼女は「何を勘違いしている?定期会が終わるまでの助手だ」と続けた。 組み直した足の膝に両手を乗せて、にっこりと、良い笑顔で。

 私は整理していたはずの頭の中が真っ白になった。




 定期報告会。 その名の通り、王族に研究の報告をする半年に一回の定期会。

  研究の成果を書いたものを報告書にまとめて、当日質問をされれば答えられるようにしておく。

まとめる書類は、決まった書き方があり、少しでも違えば城の担当者によって戻される。 前世のお役所仕事と言う言葉を思い出す作業だ。

 さらに、王族の前で報告をするのは研究者の資格保有者と決まっている。よって研究者の資格も取らなくてはいけない。この資格が厄介だった。


 ちなみに兄が定期会に参加したのは3年の頃。 資格を取るだけで2ヶ月かかっていた。 その時も『こんな短期間で取らせるなんて!』と泣いていたのに。

 それを、報告書類をまとめて、申請もしつつ、資格も取れと…??? 意味不明すぎて、頭ぱっかーん。


 真っ白になっている私を知ってか知らずか、彼女は、自分の周りを首だけ動かして見渡し「まぁ…まずは部屋の掃除かな」と付け加えた。


 さらに部屋の掃除も追加…?


 ……ぁ…これ考えちゃダメなやつだ…。そう結論づけた私は、余計なことは考えずに手を動かすことにした。




 その後の1ヶ月間は、予想通り、目の回る忙しさだった。


 ベラル教授は見やすく研究結果を書いてくれてはいたが、その量が多い。体につけている宝石(いし)以外にも、身につけていない宝石(いし)もあった。

 さらに宝石(いし)ひとつに3つも4つも付与が付いているものがあって、それらひとつひとつ、全て別紙で報告書に書かねばならない。そしてそれはひとつの宝石(いし)の結果ですよという報告書も必要で…。

 …うん。これ、一枚で良いやつだ……と正直思ったが、書かねばならぬ現状は変わらないので書くしかない。


 同時進行で研究者の試験の勉強。 これに関しては前世の音声学習が本当に欲しかった…。イヤフォン開発しようかな…。いや、その前に再生機の開発か…?


 さらに部屋の掃除。 数日で分かったのは、彼女は使ったものを、その辺に置いてしまう癖がある。 それなのに「あれはどこにやった!?」と毎日のように叫んでいるのだから呆れてしまう。 だから1日一回片付けもしなくてはいけなくて…。 うん、これは教授自ら片付けられる動線を考えなければいけないな…。




 やらなければいけないことがどんどん積み重なっていって気を抜くと思考停止に陥りそうだ。 でも停止してる時間なんてないから、タスク管理をしっかりやる。 やらなければいけないことを整理し、紙に書き出し可視化。 終わったものは消して、またタスクが出たら書き出す。



 ああぁぁぁぁあああっなんだこれ。 やることが多すぎてしんどい。

  連日、家に帰るのは夕食後。 婚約者(デビ)からも何度か手紙が来ていたが断りの返事しかできない。迎え?お茶? そんな時間は皆無だ。っていうか、そもそもこれなんのためにやってたっけ?



 朝は早く行って、すぐにベラル教授の部屋に向かい、研究結果と宝石(いし)を確認、それを提出書類にまとめて、合間に勉強、さらに掃除、ヘロヘロで家に帰って、お風呂に入って、自室で簡単に夕食をとり、明日やることと郵便物の確認をしながら気絶するように眠る。 気づけば朝で、また早くに行って…。


 そんなことを1週間続けていたら、家族に心配されて『仕事なら家でやれば良いでしょ!?』と言われてしまった。 まぁ、この世界の学生令嬢が連日遅くなってたら確かに心配になるよね…。


 家族から言われたことをベラル教授に伝えたら、家でできる作業は家でやって良い許可が出た。 その目は『お互い、実家は大変だな…』と言っているようだった。 私は私が家族に心配をかけたくないだけなので少し違う、が……何も言わずに笑って済ませた。 おかげで夕食後は、資格試験にのみ集中できる。



 そんな日々が2週間経った頃。

「そういえば、研究者ってペーパーテストだけなんですか?」と、ずっと気になっていたことを聞いてみた。

すると、当たり前のように「いや、実施もある」と作業の手を止めることなく、横顔のまま言われる。


 初耳だ。

「…え……それは…な、なにを出せばいいんですか?」


「今までの実績を出せば良いだけだ」

 なんだそれは。そりゃある人なら良い。が、私は実績などない状態では…?


「…その、実績がない場合は…どうすれば…?」

 今以上にやることが多くなりそうな予感に、体が拒否反応をし初めて、プルプルと勝手に震えてしまう。


「実績を作るしかないだろうな………ってなに?!どした!?」

 私の様子がおかしいことに気付いたベラル教授が、動揺している。 でもそれは心配というより意味がわからず、戸惑っている感じ。


「……私…何作れば良いですか…? か、簡単なものなら…最短1日で出来…るかな…?」


 そんなことを言った私を心底不思議そうな顔で「希代のホワイティ令嬢が何を言っている? 今まで作ったもののどれかを出せば良いだろう?」と呆れ顔で言われた。


 ……それで良いの? でも私は『選ばれし技術』をあまり使わないようなものを作ってますが?と思ったら、問題はないらしい。 要はこの国にどれだけ貢献できるかを測るテストだから、ともう作業に戻りながら付け加えられた。

 なるほど、国の利益になる人間かどうかってことか。

 ちなみに兄は、私が以前提案した馬車のスプリングを提出したらしい。 他にもホワイティ家は色々出しているのだから、何を出しても平気だろうと言われた。



「……新しく開発したものでも良いのですか?」

「…あぁ、もちろんいいが…」


 教授の顔は『間に合うのか?』と言いたけだ。それはそうだろう、今だってギリギリなのだ。でも私は一石二鳥のものを思いついた。



ここまで読んでいただき、本っ当にありがとうございます(♡ᴗ͈ˬᴗ͈)⁾⁾⁾

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