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〜過去振り返り編〜


前世の話多めです。

興味ない方は読み飛ばし可です。

若干胸糞い悪い話になってます。

読み飛ばした方は「前世苦労したのね〜。」くらいに思っておいてください。

 それは5才の時。私は数週間高熱にうなされた。原因はよくある流行病。その年は特にひどく、体力のない子どもやお年寄りは亡くなることも珍しくなかった。

 そんな病に、溺愛されている領主の末娘がかかったのだ。家族はあらゆる手を使い治そうと躍起になった。東に良薬があると聞けば取り寄せて、西に腕のいい医者がいると聞けば破格の待遇で迎え入れた。

 どの薬が効いたのか、どの優秀な医者のおかげか解らないが、私の症状は数週間で改善された。父と母は泣いて喜んだらしい。



 当の私はというと、寝込んでいる間、ずっと夢を見ていた。


 前世の夢を…。







ーーーーーーーーーーー



 6畳一間のアパート。家族3人で住むには狭すぎる家。そんな家でも『俺のおかげ』と大きな顔をする父親。母や私に暴力を振るうことも珍しくなかった。そんなある日、母親は我慢できずに私を連れて父から離れた。母子家庭でより貧しくなったが父親(あいつ)がいないだけマシだった。 母親はたっぷりの愛情を注いでくれていたから。

 小学校に上るとイジメも受けた。バイキン扱いや悪口はまだ良い。我慢すれば良いだけだ。でも、靴を隠されたり教科書を捨てられるのはきつかった。また買わなければいけなかったから。


 イジメの一番嫌なところは『自分が価値のない人間だ』と思わされるところだろう。そう感じさせられて弱ってるところに毎日追い打ちをかけられたら自殺する人がいるのもわかる。

 でも、私は死ぬ訳にいかなかった。母親をひとりにしてしまうことになる。


 何をしても反応しない私に飽きたのか、年齢が上がるにつれて少なくなり、高校進学の頃には、イジメは無くなっていた。その後は苦学生ながら頑張って専門学校を卒業。さあ、これから親孝行だ。


 そう思った矢先、母が倒れた。

 白いベッドで寝ている母。体にはいくつかの管が繋がれていて、ピッピッと機械音がなる病室。


「ずっと無理をされていたのだと思います」


 それ以降の医者の声はどこか遠く、うまく聞こえなくなった。


 無理? 確かにしていただろう。ひとりで、生活費も稼いで子どもを育てていたんだ。

 だからこれからなんだ。これから、ゆっくり、休んで、今までの分も、ゆっくり、一緒に、旅行にでも行って…。


 視界が歪んだ。


 母は心臓の手術をした。その後は要介護になってリハビリ施設へ転院。杖を使えば歩けるくらいになってから家に戻ってきた。


 その頃には私も就職をしていた。IT関係でネットさえ繋がればどこでもできることから、家で母と過ごすことが増えた。

 穏やかな時間だったと思う。

 行ける場所やできることは少ないながら、親孝行もできていた。そんな話をする度に、母は『生まれて、ここまで大きくなって、さらに一緒にいてくれて。それだけで十分親孝行よ』と言っていた。


 そんな穏やかな暮らしが壊されたのは、ある冬の日。

 月に数回ある出社日。会社を出た途端冷たい風を感じる。前日から降っていた雪はまだちらほらと道を白くしていた。早く家に帰ってお風呂に入ろう。そんなことを考えながら家に急ぐ。

 マンションに着いてエレベーターを降りた所で違和感を感じた。家のドアが開いている。

 おかしい。私はしっかり鍵を閉めたし、母がそんなことをするとも思えない。


 部屋に入って母を呼ぶ。奥に見えたのは、うつ伏せになっている母の足。


 お母さん!?

 呼びながら駆け寄ると殴られたような顔の母。身体は既に冷たくなっていた。窓やドアが開け放たれていたことで、外の空気に晒されていたせいだろうか。救急車を呼ぶと程なくして警察も来た。部屋は荒らされ、棚からは、母親用に入れていた現金が消えていた。


 母は、そのまま還らぬ人となった。強盗が入って、母親の心臓がそのショックに耐えられなかったのではないか。というのが警察の見解だ。


なぜうちだったの?

なぜ鍵が開いていたの?

なぜ私がいない日だったの?

なぜ窓もドアも開いていたの?

なぜ?

なぜ?

なぜ?

なぜ?

なぜ?

なぜ?







 疑問と後悔が波のようにくり返される。




 気持ちも落ち着いてきた一周忌。お墓でひっそりとやって帰宅すると、マンションの前に50代ほどの男性が立っていた。

 マンション住民の関係者かな、そう思いながら軽く会釈をしてエントランスに入ろうとした時、その男性に名を呼ばれた。

 振り向くと少し驚いたような顔。上から下まで確認される目。喪服を着ていた私は居心地の悪さを感じる。どちらさまですか?と聞こうとした瞬間、思い出された記憶。



 …父親だ。歳をとっているが、昔、私を殴っていた、その顔だ。




「…あいつは……()()()()死んだのか…?」


 その瞬間に、激昂した。

母が倒れていたその日、父親の顔が出てこないわけではなかった。でも10年以上音沙汰がなく、私達がどこに住んでいるかも知らないはずだった。


 何度も感じた「なぜ」という疑問の数だけ怒りを覚え、声にならない声を発しながら父親に向かって拳を振り上げるのを止められなかった。





 途切れる記憶。





 次の瞬間には子どもを抱いていた。母といた時とは違う穏やかな時間。夫との関係も良好で、次の休みには家族で動物園に行こうと約束している。


 お父さんはいつ帰ってくる?と、テレビを見ていた上の子に聞かれて、もうすぐ帰ってくるだろうことを伝えたところで、呼び鈴が鳴った。待ち人がきたと喜ぶ子どもと共に玄関へ向かうと、夫と共に予定には無いはずの義母の姿があった。

 様子のおかしいふたりにどうしたのか聞くと、話があると言われた。子どもに聞かせる話ではないから、と義母は子どもと共に部屋の奥へ入る。私は夫と外に出た。


 ただならぬ雰囲気に恐る恐る聞くと

『…君の父親が今日、僕のところに来た』

と言われた。


 ヒュッと鳴る喉。声が出ない。


 母親を殺した父親は警察に捕まったものの直接の殺人罪にはならず、あくまで強盗扱い。刑期もだいぶ短くなった。私の中で父はもういない人。夫にも死んだと伝えていた。だが、その父親が刑期を終え戻って来た。


 父には、私と接触禁止仮処分命令が出ているから会うと面倒なことになる。だから夫のところに来た。と言ったらしいが。嫌がらせの為にわざとやったとしか思えない。

 だって、夫のことを知らせていない。それどころか連絡すらとっていない。どのように知ったのか。本当に人の嫌がることばかりしてくれる。


 怒りとショックで頭がクラクラしてきた。夫は話し続けていて『殺人者の娘』という言葉が聞こえてくる。

 ハッとして顔を上げると、悲しみと共に少しの嫌悪感を感じさせる夫の顔。

『…お互い、少し頭を冷やす時間が必要みたいだ』

と踵を返した。



っ!


 もつれながらも、待って…と吐息ほどの声を出しながら夫を追う。

 あと数歩で背中に手が届く、というところで耳をつんざくほどのブレーキ音と感じるハイライト。少し遅れての衝撃。


 衝撃が止んだ後に、名を呼ばれて重たい瞼を開けると、後悔とも戸惑いとも取れる夫の顔が見えた。




ーーーーーーーーーー




 これが見ていた夢、短期間で一生を過ごしたような感覚。目が覚めた時には受け止めきれずに号泣と共に嘔吐した。出てきたのは胃液だけで喉が痛くなる。

 熱は下がっていたものの、さらに1週間ベッドから出られなかった。転生してるのを受け入れるための1週間とも言える。


 そんな感じで、私は思い出したくもない前世を思い出したのだ。


読んでいただき、ありがとうございます(♡ᴗ͈ˬᴗ͈)⁾⁾⁾

少しでも面白い、また続きが気になるなぁ、と思って頂けましたら、ブックマークや下の★★★★★で応援していただけると、大変執筆の励みになります。

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― 新着の感想 ―
壮絶な過去ですね。 悲しい、悲しすぎる(´°̥̥̥̥̥̥̥̥ω°̥̥̥̥̥̥̥̥`)
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