第三章 013 任務・序
「どうやって倒すんだあんなの……」
巨大すぎる生物ってのは、いつの時代も単純で脅威だ……。動力源云々、街の人の生活云々……そんなのを考えている場合じゃない程、倒すビジョンが浮かんでこない。
船長の炎でも、ザックの怪力でも、望みは薄いと思ってしまう。俺のゲーム機による収納も、フロップリズム相手には使えない。何で使えないんだよ……。一番必要だろ……。
そんな事を今言ってもしょうがないか……。今は、戻る事を考えたい。
では、どうすれば下に戻れる? そもそも、俺はどうやってココに来た?? そうだ。施設の入り口がココに繋がってて……あぁでも、天羽とかは来てないしなぁ……。
ともかく情報がありそうな所を片っ端から回ってみるしかない……。まずは、この薄気味悪い”理科室”からだ。実はこの部屋、想像のうん十倍広い。
「とはいえ、か……」
とはいえ、目ぼしい地図も脱出経路も見当たら無い。ホルマリン用の瓶ばかりだ。ココは倉庫か何かか? 他を当たる……とも考えたが、行動範囲は悪戯に増やしたくはない……。なにせ、ココにも警備用の生物が見廻っている可能性がある。いや、可能性じゃないな。ほぼ確実に居る。
そもそも、他の場所を探すと言っても、これだけ巨大な施設が、これだけの数在りやがると、目当ての物を見つけるなんて不可能だ。
「……それにしても気持ちわりぃな……」
ホルマリン漬けにされているのは蛙だらけ。なんでだか腹を裂かれて、内臓を抜かれているらしい。変に生々しい……。
……そういえば、ココは誰が管理してんだ? あの巨大な化け物が、こんな瓶詰をチマチマ管理してるとは思えない。警備用の生物の他に、俺くらいの大きさの研究員が居る筈だ。そのくらいの奴なら、俺でも倒せそうだ。倒せたからなんだという話だが、情報を吐かせることくらいは出来る。多分。
「あ。こっちにも通路……」
ある程度”理科室”内を見て回り、もう調べつくしたかと思っていると、別の入り口が顔を出す。そこに入って、また大量の蛙の死体を見て、歩き回って……もう調べつくしたかと思うと、まぁた別の入り口が……。気が滅入る。いい加減にしろ。大した収穫は無い。
しかし、もしかしたら次の部屋にこそ何かの情報があるかもしれない。となれば確認しなくては……。
「おぉい……また蛙じゃねぇか」
大分奥まで来た。その頃には、”警備生物”との遭遇を恐れていた気持ちもすっかり薄れてきて、だんだん警戒もしなくなり……あぁ、こういう事してて急に死ぬのか。フィクションの定番だ。一階、二階とで、そういう人を沢山見た。
「あ」
その時、ついに人影を見た。後ろ姿であっておまけに俺より一回り小さかった、が、それでも一瞬ゾクッとする。人…………だ。ソイツは重い足取りで部屋の奥へ消えて行った。
追いかけてみるか……?
あの小ささなら、襲い掛かられても張っ倒せる。流石に安直か……? しかしけれど、やっと何かの手掛かりにはなりそうだし……。
「よし……」
意を決して、そして息を殺して、俺は前進する。部屋の奥には扉があり、そこは僅かにだが解放されていた。不用心だ。好都合だ。扉を開ける音で気取られる可能性があった。
僅かに開いた隙間に、ゆっくり身体を滑りこませ、音を立てない様にさらに進む。
そこは、ようやく先程までの様な場所ではなくなった。蛙はもう漬け込まれていない。今度は、”人間”だった。
「うわぁ……」
巨大なカプセルが縦向きに置かれ、ズラリと並ぶ。中は液体で満ち、大なり小なりの人間がその中で、薄っすら目を開けながら大人しくしている。なんて古典的な”研究所”のイメージだ。かえって安心すらしてくる。
さて、とはいえ警戒は怠れない。さっきの人は何処に行った?? もしかしたら、扉の裏に隠れているか? ハッと振り返る。大丈夫。居ない。
では天井か? そこにも居ない。俺はひとまず安堵した。さぁ、ここでも脱出の手掛かりを探さなくては……。
「何か目が合う気がすんだよなぁ……」
そんな事をグチグチ言っていると、偉く厳重に施錠されたロッカーを見つけた。これまで以上に徹底された管理体制……何かあるな。さてさて、俺相手に施錠は無意味なのだ。ホイホイとロッカーの扉をゲーム機に収納して、中身を物色する。
中は全て紙の資料。これだけ未来的な環境で何で紙なんだ。しかしやはり、俺にとっては都合が良かった。
「えぇっと、どれどれ……なんか殆どポエムじゃん……」
ここの管理者の趣味だろうか。男の身体に関して、それはそれは緻密に記載された資料と、その素晴らしさを綴ったポエムが交互に散見される。こんなのが見たくて忍び込んだ訳じゃない。
しかしまだまだロッカーはある。それはつまり、まだまだ望みがある、という事。次のロッカーを見て行こう。
「お。次はマトモそう……だ、けど……小難しい……」
真面目なデータは目が滑る。まだポエムの方が読み応えがあったな。
「……えっと……ん? あぁ…………いやそうだよな」
ふと疑問に思った事がある。このデータは、何故日本語で記載されているのか。
「ココ、異世界じゃねぇの……?」
今はどうでも良い気がするが……そういえば、エレベーターだとか”スネアドラム”だとか、ケンタウロスだとか……今になって思えばココに来るまで、親近感が湧くもんが沢山あったな……。そんな事を思い出す。
……まぁ日本語であるのは都合が良い。ハコブネに乗って以来、知らない”異世界文字”でも何故だが読めるが、やっぱり日本語は段違いに読みやすいな。それは間違いない。この膨大な資料量も、瞬く間に目を通せる。
「はぁ……はぁ……おぉ、”人体錬成の手順”……? これマジ?」
見慣れない元素がつらつらと書かれているが、どうやらこの流れに従えば、人間が作れてしまうらしい……。描かれているのは男性の裸体だが、同手順で女性もいけるのか? ……俺はクソだな。
……”幸せな大都市計画!”……やけに気持ち悪い資料を見つけた。この資料は子供だましの様な絵で飾られ、なにやらスピリチュアル的な文言が書かれている。あらゆる資料の中でとりわけ汚い字だ。まるでこれだけ子供が書いたみたいで……。
”お金いらず、病気あらず、性統一の幸せな都市計画”。”一万人の人間が暮らす争いの無い街”。
何かこえぇよ……。でも、こういう”イカれた文章”って、何か馬鹿にしながらも見ちまうんだよなぁ。
「……あ」
そう言う事か。ハッとした。俺は手元の”イカれた幸せ計画書”と”人体錬成手順資料”を見比べる。
「……三階に住んでた奴等、全部”人工生物”か……」
やけに彼らから感情を感じなかった。しかし、そうとなれば説明が付くな……。流石にそういう作品を多く見て来ただけあって、俺の理解は早かった。天羽や船長がこの資料を見ても、きっと納得しないだろうな……。
「……じゃあ、アリババも?」
いや、アイツは照れたり焦ったり、明らかな感情があった……あいつは普通の人間か……?
何だか、身体がゾクゾクとする。目頭が途端に熱くなって……俺は慌てている。慌てて資料を読み漁った。
「……あった。”アリババの設計図”だ」
気付けば息が上がっている。アリババだけ、資料を分けられている。なんで特別扱いされてんだ。どうやらココの研究者は、三階の住民よりもアリババに精力を注いでいたらしい。無数の失敗の末、ようやく成功したらしい……。感情のある人間は、彼のみだそうだ……。
「……アリババは知ってんのかな……いや、知らぬが仏か……」
知ってるか否か。どちらにせよ話題には出さない方が良いか。俺は変な気を回す。俺とそっくりなアイツに、今更遠慮もいらんだろう、とも思ったが、むしろ変に同情してしまうものだ。
今はただ内緒にしておこう。それがお互いの為だ。




